増井真也 日記 blog

このままのプランよりももっと良い答えがあるのではないかの思いが出てくると、一度踏みとどまってプランを考えてみたくなるものである。

2025/08/29

夕方、埼玉県川口市にて設計中のOさんの家の打ち合わせ。先日のOさんの家の打ち合わせでは、基本設計を終えて実施設計に移行する段階であるものの、少々プランを見直したいということでご意見を伺った。諸々の感想を伺いながら話をしていると、なんだか僕までプランを変えてみたくなってきた。このままのプランよりももっと良い答えがあるのではないかの思いが出てくると、一度踏みとどまってプランを考えてみたくなるものである。ということで、今日は再構築したプランをご覧いただくこととした。

プランは小さな庭に作った畑スペースから、そのまま土間につながる玄関を通って、ダイニングキッチンにつながり、細長いプランの奥の方に玄関を配置したものとなった。階段は折り返し階段で、途中まではオープンとした。玄関からは10m向こうにある壁まで見通せるようにして、向こう側の壁には開口部を設けている。2階には小さな3つの個室として分けることができる大きな寝室を設けた。上下合わせて24坪ほどの床面積をふんだんに使うことで、伸びやかな広がりを感じるプランとなった。

埼玉県川口市にて進行中のMさんの家のリフォームで使う、本漆喰の混煉作業を行なった。

2025/08/26

今日は、埼玉県川口市にて進行中のMさんの家のリフォームで使う、本漆喰の混煉作業を行なった。この作業は、おばあちゃんの家のリフォームを行うに当たって、お孫さんたちがおばあちゃんの部屋の漆喰をセルフビルドで塗ってあげようの一環である。普段は既調合漆喰を使ったセルフビルドをお勧めしているのだが、今回は気持ちを込めたセルフビルドということで、本漆喰を採用した。本漆喰というのは、つのまたという海藻を煮出して作る焚き糊と麻スサを混ぜたところに、消石灰を珪砂をから練りしたもの混煉して作る。全て天然の素材だけ、余計なものは一切入っていない。海藻を煮出す時間は約2時間、それを漉して使用する。これだけの時間をかけて材料を作る、まるで料理だ。

実際の工事の現場では、こういう手間のかけ方をできないから既調合漆喰が生まれた。生産性向上の必至の世界では、それが当たり前のことである。でも、セルフビルドでは生産性は関係がない。セルフビルドは「思い」である。自分の家を自分で作るという行為は、さまざまなものが経済合理性で定められてしまっている現代社会に残された唯一の自由な世界であると思う。それは人間の尊厳と言っても良いであろう。4人のお孫さんたちとお母さん、そしてお父さんの6人が、自分たちの手で練った漆喰が出来上がった。明日がいよいよ実際の壁に塗る作業である。楽しんでやっていただきたい。

遠山記念館で行われた日本左官会議の見学会に参加した

2025/08/24

午前中は、遠山記念館で行われた日本左官会議の見学会に参加した。今日の講師は左官の名人、久住章さんだ。僕は初めてお目にかかったのだけれど、やっぱりものづくりに没頭する人特有のオーラがある。左官について話をし出すと、もう止まらない、周りのことなんか関係ないのである。話の引き出しは無限にあるようだ。一つ一つが面白い。写真の玄関土間は研ぎだしの仕事である。黒い部分はまるで石を張ったようだけれど、どこかで6角形に作った研ぎだしタイルのようなものを、貼り付けて、目地を埋めたのだろうということである。その証拠に目地の幅が全て微妙に違う。もしもここで研ぎ出して目地の模様をつけたのならば、目地幅が違うわけはないというのだ。踏み石のような部材も研ぎ出しである。白セメントに赤い色をつけて、白い種石を入れて研ぎだしたのだろうとのこと。あまりのレベルの高さにただただ驚くばかりである。

こちらは茶室の写真である。壁に何やら白い紋様が入っているが、こういう様子はよく目にすることだろう。これは竹小舞を編んで荒壁をつけた後に、貫とか筋交の部分だけは漆喰で貫伏という作業を行う。荒壁の土はよく発酵させて塗るのだけれど、発酵した土は塗った後にアクが出て変色することがある。でも貫伏で漆喰を塗ったところはアクが出ないからそこだけ模様のようになる。この現場の貫伏の後はやたら広いのだが、それはわざわざ貫伏の幅を広くしているのではないかというのである。通常の抜きの幅は3寸ほどである。そうすると細いラインのようになってしまうが、ここまで広いとまるで2色の塗り分け仕上げのようである。これが初めからの狙いだとしたら、まさに図面には現れない、土と漆喰による彩色仕上げなのである。

ここ、遠山記念館にはこれまでも何度も来たことがある。茶会もやったことがあるけれど、ここ迄左官に注目して見学したことはなかった。すでに補修塗りからも40年近い年月が経っているということで、だいぶ色褪せてしまっている部分もある。なんでも今後は改修工事に入る予定とのこと、現代の名人たちによって再び華やかな壁が現れるのを楽しみに待ちたい。

夕方、北千住にてミュージカル座・ひめゆり鑑賞。新人スタッフの太田くんの知人が、出演するということで、4人で観劇させていただいた。ハマナカトオルという演出家が主催するミュージカルということで、初めて足を運んだのだが、これまでみたことがあるものとはちょっと異なる演出を楽しむことができた。なんでもこのひめゆりはこれまで何度も演じられてきたそうで、社会派の題材を、若い出演者たちが懸命に演じる姿は、観客の心を打つものであった。簡素な舞台装置は劇団四季などとは全く異なるが、逆に演者の表情ひとつひとつにまで目が行くことで、引き込まれたような気がした。また機会を作って観に行くこととしよう。

埼玉県春日部市に造ったIさんの家は、とても眺めの良い住宅である

2025/08/18

埼玉県春日部市に造ったIさんの家は、とても長め眺めの良い住宅である。隣地は2m弱の擁壁の下にある見渡す限りの畑となっているので、視界を遮るものはない。この地にはもともと奥様のご実家があったのだが、空き家になったことをきっかけに建て替えを行うこととなった。生まれ育った家の雰囲気、その場所に結びついた記憶を大切にしながらの造りあげた住宅をご紹介しよう。下はリビングの様子である。リビングは吹き抜けを設け、その吹き抜けに大きな窓を設ている。吹き抜けは2階にある個室と繋がっていて、障子を開けると話をしたりのコミュニケーションの場にもなる。床板は杉の無垢フロアリングで厚みは30mm程の厚板を使用している。このフロアリングは、僕が栃木県のとある製材所に通いこみ、市場や材木店を通さずに直接仕入れさせていただいているものだ。こうすることで、このような節のない綺麗な材料を安価で使用することができるように工夫している。良い家づくりは、良い設計と良いしょくにん、そして良い素材がなければ行うことはできないわけで、素材集めは設計と同じ価値を持つ行為なのだ。もちろんお金を出せばどんな綺麗な素材も買うことはできるのだけれど、コストお押さえながら良い素材を集めることこそ今の家づくりに求められることだと思うのである。

下の写真は寝室である。寝室からも畑の景色を望むことができる。天井には梁を現しとして、木の家らしい素朴はイメージの仕上げとなった。壁には漆喰を塗っている。ビニルクロスにはない、清楚な仕上げとすることができたと思う。

木と土の建築を作ってみようと思う。

2025/08/12

写真は三内丸山遺跡の人が集まる建築として利用されていた縄文建築である。こんなダイナミックな建築は現代ではなかなか建たないけれど、普通のログハウスのように丸太を組んだり、こだわり大工さんの太鼓ばりを手刻みしたりの事例だってだいぶ減っている。人の手が入ることがそのまま価格に直結する時代においては、なかなか採用しにくいのである。

土だって同じである。割れる、剥がれる、流れる、自然のものだからこそカチカチには固まらない。だからあまり使われることもない。現代人はカチカチ、ツルピカでなければなかなか採用しないのである。なかなか作れないからだろうか、こういう建築に対する憧れはどうにも留まらない感情としていつも胸の中にある。

土をセメントのように使うと、コンクリートにはない温かさがある。三和土などはその良い例であろう。ニガリを用いる本格的なものから、セメントと混ぜて作る簡易的なものまである。縄文ではないけれど、昔の木組みは古材を購入することで再現できる。

今、本社の隣に小さな倉庫・多目的室を計画している。木と土の建築を作ってみようと思う。

3畳の茶室

2025/08/11

3畳の茶室を作った。とても小さいけれど、思いの詰まった茶室である。リビングのすぐ横に配置されており、くぐりを通って部屋に入る。床柱にはこぶし、床框には檜のサビ丸太を採用した。天井には木曽アルテックさんで作っていただいた網代、葦簀を使い軽やかな仕上げとしている。天井の段差を止める壁止めは、杉の細丸太を使った。

狭い部屋では、あまり重苦しい天井はない方が良い。壁は木摺下地を用いた土壁仕上げである。木摺下地は木摺へのめり込みも入れると約30mmもの厚さを塗ることができるので、とても重厚感のある壁仕上げとなる。厚塗りだからって何が違うの?の疑問を感じる方はぜひますいいのモデルハウスにお越しいただきたい。写真ではわからない違いを誰でも感じることだろう。左官は小沼充さんだ。小沼さんの土壁はふわっと塗り上げることが特徴で、藁のスサがうっすらと見えている柔らかい仕上げである。小さな部屋で、固い砂壁のような仕上げをすると天井の話と同じように、余計に狭く感じてしまうのだ。

建築学科や技能学校といった縦割りの教育では育たない感性の豊かな人材を育て、良い家づくりに繋げることができれば良いと思うのである。

2025/08/09

今日は、静岡県の松崎町にてA3ワークショップの打ち合わせをおこなった。同行していただいたのは、東京大学の権藤先生と大学院の学生4人である。お盆休み中ということでいつもより少々混雑しているが、それでも観光地とは異なり街はとても静かだ。15時、松崎町長やいつもお世話になっている伊豆の長八美術館の設立に深く関わった森さん、そして松崎蔵つくり隊の事務局を務める山本さんといったメンバーと共に前向きなお話を行うことができた。

この街は、養蚕や生糸の生産でとても栄えていた。また伊豆半島を迂回するための風街港としても利用されていたそうで、西風による火災を防ぐためのなまこ壁が一般の民家にも普及したことで、なまこ壁が街の風物詩になったそうだ。今回、なまこ壁通りを構成する二つの蔵を石山修武先生のご縁でますいいで所有し、その修復活動を通して伝統的左官技能の伝承を行うとともに、建築家、職人(左官)、芸術家の三者交わる活動によるデザインワークショップ(A3ワークショップ)を通して、ますいいスタッフだけでなく、関わる学生や若手職人さん達までも巻き込んだ成長に繋げようという試みを行なっている。建築学科や技能学校といった縦割りの教育では育たない感性の豊かな人材を育て、良い家づくりに繋げることができれば良いと思うのである。

今日は神奈川県にある富士川建材さんにて、スタッフを連れてのモルタル勉強会を行った。

2025/08/05

今日は神奈川県にある富士川建材さんにて、スタッフを連れてのモルタル勉強会を行った。ますいいは外壁に左官のモルタルの仕上げを採用している。このモルタル外壁というのは、能登半島沖地震以降とても見直されており、ラス網モルタルが持つ耐震力が住宅の倒壊を防いだというような研究結果も発表されている。一方でサイディングのハズレや落下などの事例も指摘されているので、地震への強さがモルタル人気の再興につながる予感もしているのである。それにしても原田社長以下、社員の皆様の熱心な講義を受けることができた。このような研修を住宅の品質の向上に繋げていくことはとても大切なことだと考えている。今月の勉強会のメインテーマに採用しようと思う。

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