増井真也 日記 blog

放っておくと無くなってしまいそうな大切なもの

2024/08/29

今日は日本建築学会の全国大会に参加した。この全国大会というのは、建築の様々な分野に関してグループ分けをされ、そのセクションごとに発表者が5分間の発表を行うというもの。それぞれのセクションには交代で研究者が司会を行い、一つのセクションに十人くらいの発表がある。発表の後には質問が行われる、まあそんな流れだ。僕が発表したのは、社会システムの中のエコマテリアルである。今回のテーマは「貝灰の生産維持に関する研究」ということで、以前調査させていただいた大分県の有明湾で生産活動を継続している田島貝灰製造所さんについての発表を行なった。下の写真は赤貝である。有明湾で獲れる赤貝はとても有名だったが、環境の変化で最近はめっきり獲れなくなっってしまった。最近は代替え材料として蠣殻を利用しているそうだが、これもまた貝灰、多少の差こそあれ科学的には同じものだ。昔は全国各地で生産されていたものだが、最近は日本でここだけになってしまった。もしも生産をやめてしまうと、日本から貝灰がなくなってしまうのである。

この家は、Fさんが一人で暮らすために建てられた14坪の小さな平屋だ

2024/08/26

東京都杉並区にて進行中だったFさんの家が完成した。この家は、Fさんが一人で暮らすために建てられた14坪の小さな平屋だ。元々はご実家にお母様と二人で住んでいたのだけれど、お母様がなくなって、当時の庭に小さな家を建てることにした。ご実家にはお兄様家族が移り住んだ。当時の庭には写真左に映る梅の木があったが、それは新しい家のキッチンの窓からいつも眺めることができるように計画されている。内装は漆喰を採用した。勾配天井で開放的にしたことも平屋ならではの工夫である。

女性のための小さな平屋を僕はいくつか作ってきた。そしてそこにはいつも必ず同じものがあるような気がする。それは実際のものではなくって、でもとても大きな大切なものだ。そこにある大切なもの、それはご両親に対する思いである。実際にものがあるとすれば、それは遺影だったりするのだが、とにかく生まれ育った家や環境、そして何よりもご両親に対しての深い想いがあるからこそその土地に家を建て、住まい続けるのであろう。担当してくれた田中も女性、なんとなく気持ちが通じるところもあったであろう。この小さな家と梅の木、なんともお似合いの様子だと思う。

家族と過ごすことができる時間というのは永遠ではないのだ。今というこの瞬間を大切にしたい、なぜか北欧でそんな当たり前のことに気が付かされた。

2024/08/25

昼過ぎより、裏千家の埼玉県支部暑気払いに参加。浦和駅近くの銀座アスターにて二時間ほど過ごす。

終了後、埼玉県さいたま市岩槻にて古民家の再生を検討しているYさんの家の現場確認。すでにご両親がお亡くなりになって、空き家となってしまっている古い家である。周辺には所有する田畑もあるが、どれももう使う人がいない。せめて母屋だけでも健全な形で残したいという兄弟三人からのご依頼であった。所見だけではなんとも言えないので、平面図の作成および見積もりを行うことをご説明して終了した。

北欧を旅してなんとなくの心境の変化がある。それは家での過ごし方だ。これまで外で過ごすことが多かったが、家で過ごす時間を豊かにすることを僕自身も積極的に実践してみようと思う。元々料理は好きだ。日曜日ということで久しぶりに買い物に行って夜ご飯を作ってみた。家族と過ごすことができる時間というのは永遠ではないのだ。今というこの瞬間を大切にしたい、なぜか北欧でそんな当たり前のことに気が付かされた。

午前中は埼玉県さいたま市にて進行中のOさんの家の現場へ

2024/08/22

午前中は埼玉県さいたま市にて進行中のOさんの家の現場へ。お盆休み前に上棟したばかりの現場では大工さんたちが外壁下地や筋交の取り付けなどの工事をしている。約40坪ほどの現場で大工さんは3人、まあ作業は順調に進んでいくだろう。在来木造の現場では、構造に関係する筋交や金物の取り付けが終わると全棟第3社機関による検査を受けている。もちろん社員による検査も行うが、ダブルチェックによってさらに確実にするためである。柱の径は120mm,いわゆる4寸角である。土台と柱、筋交には檜を使用し、梁には杉材を使用している。間柱や窓台などの部材が取りつき始めるとだいぶ建物の形が見えてくる。これが終わるといよいよサッシの取り付けだ。お盆休みの台風直撃は何とか避けられたようだから、今のところ運が良い。早く雨仕舞いまで進めたいところである。

北欧建築紀行10

2024/08/19

今日はストックホルムで1日を過ごした。まず初めに足を運んだのが、ガムラスタンだ。ここには国家議事堂や王宮、教会などの古い建物が建ち並んでいる。観光に訪れたらまずいくことを勧められた場所だから、日本でいう浅草のような場所なのだろう。あたりには小さなアンティークショップやカフェ、レストランなどがたくさんある。午前中歩き通して見ていたが、流石に人混みに疲れ始めたので、少々休む。こういう都会歩きは元々あまり好きではないので最終日だけでたくさんだと思っていたが、やはり半日で満足してしまった。ストックホルムの唯一の目的地だったアスプルンドの図書館は改装工事中であるから諦めた。明日は帰国、夕方は海沿いの公園をジョギングして体調を整えた。

オスロとストックホルムは同じようで違う。ストックホルムがあるスウェーデンは工業国で、オスロがあるノルウェーの方は資源国家である。デザインはフィンランドとデンマークのものが多いようだ。北欧に来るまでよくわからなかったが、割と明確な差があって、それぞれがぞれぞれの立場で成り立っているようである。人口が少ない小さな国だから、英語と現地の言葉が混在していて面白い。ゴーセンバーグと言ったりヨーデポリと言ったり、同じ地名でも会話の中で異なる言葉が飛び交う。なぜ?と聞くと、小さな国だから色々なところで働かなければならないので、英語を自然に使用してしまうのだという。地主さんのトーマスがスェーデン語のヨーデポリと言い、大手の副社長だったJuniのお爺さんが英語でゴーセンバーグと言うのも頷ける。もしかしたらこう言うのも日本の未来の姿なのかもしれないなと思う。

今回の旅では、日本の企業と北欧でどのように幸福度が異なるのかを考えた。北欧が何もしないで幸福なのではなく、幸福度を高めるために非常に合理的な状態に変化する努力をしているから幸福なのだと言うことがわかった。設計のBIMは15年前から取り入れているという。工務店を営むトーマスも、土日働くなんてありえないと言っていた。工務店ではBIMこそ取り入れていないものの、3Dのプレカット図を構造材加工業者から受け取りそれに基づいて工場組み立てを予め行った壁パネルを組み立てるので、1日で外壁下地施工まで進んでしまうというプレファブ化を取り入れている。

電気自動車の普及率も非常に高い。充電する場所は至る所にある。特にノルウェーはスェーデンよりも多く感じた。キャッシュレス化については、現金利用を断る店が多く現金だけでは生活できないほどだ。というよりこの国に来るのに現金はいらないと思う。

バカンスに関しては、公務員など多い会社では9週間、短い会社でも7週間ほどあるという。これを夏と冬とその他に分けて取得するようだが、だいたい夏は4週間ほどお休みするようである。労働者の時間単位の管理も進んでおり、設計業務などは30分単位で作業内容を申告しているそうだ。5時に作業を終えるために、無駄なことは一切やらない。学生のバイトもインターンシップもしっかり賃金が発生するそうだからうかつに雇えないので、今は三人だけ頑張っていると言っていた。それでも仕事が少ない時には、僕の義理の弟の山田くんは知り合いの事務所の手伝いに出されるそうで、経営の厳しさも同時に感じた。北欧で学んだ様々なことを、ますいいの経営にバランスよく取り入れていきたいと思う。以上で旅の報告を締めくくる。

北欧建築紀行9

2024/08/17

翌朝、工務店のトーマスさんが迎えにきてくれた。冬はマイナス20度になる厳冬の環境の中で快適に過ごすために温熱環境に関しては格別の取組がある。基礎工事が終わったら、ベタ基礎の上に家中に行き渡るように床暖房の配管をする。この時に給水や給湯管も敷設する。それらの敷設が終わったら、全てをコンクリートで埋めてしまう。立ち上がりの基礎というものはないから、この床暖房のすぐ上に床が貼られることになる。これまでどのアパートに泊まっても建物全体が暖かかったわけがわかった。全館床暖房が夏でも機能しているのだ。そのベタ基礎の上に2×7であらかじめ作られている壁を建てていく。7インチだから壁厚は結構厚い。これも日本の付加断熱のように高い断熱性能を出すための厚さであろう。あらかじめ外壁まで貼ってあるものを自前の工場の中で作っているのだが、構造材だけはプレカットを使用しているそうだ。少し変わっているのは、建物の真ん中に電気給湯器を置くことである。日本でいうエコキュートのような給湯器を家の真ん中に置き、この一台で床暖房もシャワーもキッチンの給湯も行っている。ここで沸かしたお湯が家中を行き渡り、そしてシャワーやキッチンから排出する。日本でもエコキュートを床暖房やお風呂のお湯に利用する事例があるが、それほど普及はしていない。まあ、東京周辺では冬よりも暑すぎる夏をどうするかの方が大きな問題であるから、それも当然であるが、冬の間の快適性はこちらの方が断然良いように思えた。

家の価格は430㎡で16000000KR、つまりは坪185万円である。この価格にはキッチンや暖房システムも含まれている。少々高いが、この事例では先ほどのエコキュートではなく、地熱を利用する熱交換システムが含まれている。すべてのものの値段が日本の1.5倍程度だからまあこんなものだろう。大工さんは四人いるそうだ。設計は大きな家は外注で、小さな家は自分で設計するという。家づくりの仕組みは日本と似ている。CADソフトにBIMは使用していない。これもまたますいいと同じである。お土産に日本の左官屋さんが作ってくれた竈門をプレゼントしたのだが、とても喜んでくれた。こちらでも暖炉などを手作りで作る習慣は残っていて、その表面には漆喰のような素材が塗られている。僕が設計した茶室が掲載されている本にもとても興味を持ってくれたようだ。何か仕事でも交流ができれば良いと思う。

会社見学を終えて、トーマスのヨットに乗ってのセーリングを行った。スウェーデンのフィヨルドはまるで湖のように波がない。多少の風が吹いても日本の海とは全く違う。バーバーにはとても多くのヨットやボートが係留されている。しかもこちらでは日本のように高額の費用は必要ないそうだ。海ではちょうどディンキーのセーリング大会が開かれていた。たくさんの小さなヨットの間を縫うようにトーマスのヨットが出航し、一時間ほどかけて小さな島に着岸した。島に上陸し、散策、バーベキューを楽しんで穏やかなひと時を過ごした。ハーバーに戻ったのは夜の10時ほどであろうか。日本では考えられない時間であるが、あたりは少し暗くなったかなというくらい、さすがは北欧の夏だ。

北欧建築紀行8

2024/08/16

今日は電車に乗って約三時間の旅である。途中でバスに乗りついで一時間、半島の西側野町ヨーデポリから反対側にあるニュシェーピングの町まで移動した。ストックホルムから車で一時間ほどのところにある小さな町である。ここは僕の娘が1年間ステイさせていただいた町だ。この町で農業を営みながら、土地の一部を開発して分譲している工務店さんの家とその親戚の家に1年間ステイさせていただいた。この日はすでに遅かったのでのんびりと過ごす。

北欧建築紀行7

2024/08/15

翌朝はバスに乗ってJUNIの家があるKullavikへ。バス停でJUNIのお母さんと待ち合わせをして、車で30分ほど南にあるトレッキングコースに向かった。ここには日本でいう古民家園のようなところがあって、スウェーデンのとても古いスタイルのまま営業している農園がある。人々は手作業でバターを作ったり、牧草を運んだり、この古き良きスタイルを楽しみながら働いている。いわゆる観光農園のようなものだけれど、古民家の見学にはちょうど良い施設である。古民家は石の上に柱を建て、柱と柱の間は太いログのような材木を積み重ねている。以前見た三内丸山遺跡の縄文建築とも似ている。どこの地域であったとしても、同じような気象条件であれば、人が最初に思いつく形というのはそんなに変わらないのかもしれない。屋根の上に草かもしくは石は吹かれているものが多いようだが、一つは土が乗せられていて本当に草が生えているものもあった。こちらではとてもよく見る構法である。野山はちょうど紫色の花が綺麗に咲き誇っている時期で、辺り一面がまるで絨毯のように染められている。岩が露出している独特の風景は日本にはあまり見ないものだ。湿地帯だが気温が15度程度で、空気はとても乾いているので快適である。今日のコースは6キロほどの短いコース、一度だけ休憩をはさんで終了した。

Juniの家に着くと、近所の海にあるサウナに。こちらではサウナと海がセットで作られていることが多いようだ。サウナに入り、海に飛び込む。あまり日本ではできない体験である。

夜はJuniの家でパーティーを開いてくれた。お父さんは元々シェフをしていたというから料理の腕は本物である。サーモン、ポーク、カリフラワー、どれもとても美味しくいただくことができた。

 

北欧建築紀行6

2024/08/14

朝食を済ませると、電車に乗ってヨーデポリの街まで移動し、JUNIのお祖父さんが所有するアパートへ。荷物を解いて街に出ると、昼食と街歩きをしながらゆっくりと過ごした。途中、ヨーデポリの世界的な建築家、イェルト・ウィンゴードの事務所を案内してもらう。スタッフが100人務める大手事務所である。事務所の進行中のプロジェクトだけでなく、食堂や、シャワールーム、マッサージ室などの福利厚生施設も見学させていただいた。これは見習うべきところがたくさんある。ますいいでも取り入れていきたいと思う。

北欧建築紀行5

2024/08/13

今日はオスロからバスに乗ってスウェーデンのヨーデポリへ約3時間かけて移動した。ここは我が家に1年間ホームステイしていたJUNIちゃんの街である。ターミナルに着くと、JUNIとお母さん、そしてお祖父さんが迎えにきてくれている。そこから車で40分ほど走った所にある海沿いにあるお爺さんの家が今日のステイ先だ。家は海の目の前にある。知人の建築家に設計したもらった素晴らしい家だ。オーストラリアのグレン・マーカットのような環境住宅であるが、これは酷暑の日本でも参考にしなければいけない。家の前の海には桟橋があり、そこには小さなボートが係留されている。ランチを済ませて約一時間ほどのクルージングを楽しむと、この国のフィヨルドの地形がよく理解できる。ヨーデポリのフィヨルドはノルウェーのそれと比べてなだらかだが、氷河の影響が比較的弱かったことや、その後の河川の活動や地殻隆起などが影響しているためだそうだ。フィヨルドの地形が緩やかだから、周囲の環境とも調和した景観が形成されている。海はとても穏やかで、水面は鏡のようだ。古びた桟橋がとても絵になる。夜はザリガニパーティーである。海で獲れたものだから全く臭みが無く食べやすい。ワインにザリガニ、これがスェーデンのスタイルだそうだ。

北欧建築紀行4

2024/08/12

朝は目の前に走るトラムの音で目が覚める。オスロには縦横無尽にトラムが走っている。町中に乗り捨ての自転車やスクーターがあって、アプリで自由に使用できる。支払いは100%クレジットカードか電子マネー、現金は街中で見かけることはない。ホテルの前の乗り場からトラムに乗って、しばらく行くと図書館についた。ここの図書館はヨーロッパでも最も成功した事例と言える。6階建てのデパートのようなビル全体が図書館として機能するのだが、至る所に読書を楽しむことができるスペースが用意され、飲食エリアではお弁当を楽しむこともできる。建物の中心には大きな吹き抜けがあり、その周りを囲むようにエスカレーターで上がり降りする。最上階には巨大な階段状のスペースがあり、その段差を利用して設けられたスペースで、いかにも学生という若者たちが思い思いにパソコンを開いて勉強している。そして園から眺めるオスロフィヨルドの景色は最高だ。そういえば川口市にも駅前図書館があったことを思い出した。ここがヨーロッパ一の図書館だとしたら、川口の図書館も意外と悪くないなあと、もう10年前に亡くなった岡村幸四郎市長を思い出した。彼もきっとどこかで素晴らしい図書館を見たのだろう。

続いて隣にあるオペラ座に向かう。この建物は屋上まで上がることができるスロープがあって、観光客が自由に建物の上を歩くことができるようになっている。オペラという高尚な趣味を楽しむ場を、すべての人に解放したことに意味があるという。

このエリアには最近ムンク美術館が作られた。海岸に沿ってサウナ船が浮かんでいて、そこではおそらく地元の人々がサウナを楽しんでいる。仮設の浮き橋が作られ、その向こうにはいかにも高級なマンションが建ち並ぶ。この浮き橋を木造の橋に新設する計画を山田君は現在担当しているらしい。街中ではほとんを目にすることがない建設現場、そして開発のエネルギーを感じる場所だ。

オスロの街はAkerselve川の東側と西側で雰囲気が変わる。ニューヨークのマンハッタンとブルックリンのような雰囲気だろうか。川の東側は移民が多く住んでいたり、安い家賃に惹かれて若者やアーティストが集まっていたり、建築学校があったり、そして山田君が働いている設計事務もあったりする。東京で言えば銀座や青山、赤坂、麻布などに対する、三元茶屋や中目黒などの存在だ。12時、山田君の働くオフィスを訪れた。オスロでは設計から現場管理までBIMを早くから導入している。ヨーロッパの中でも早い方で15年くらい経つというから驚きだ。使用ソフトはアーキキャドである。

ヒアリングによると、この国のBIM(Building Information Modeling)は、設計サイド・現場サイドの両方で使用されていた。

1.統合設計の推進

協働設計: BIMは複数の設計者が同時に作業できるプラットフォームを提供し、建築、構造、設備の各専門領域が統合された設計を進めている。これにより、設計の初期段階から全体の整合性が確保され、設計ミスや情報の齟齬を減少させている。

リアルタイムの変更反映: 設計変更がリアルタイムでBIMモデルに反映されるため、設計者は即座に変更の影響を確認し、迅速に対応できる。

2.設計検証とシミュレーション

エネルギー効率と環境分析: BIMを使用して、建物のエネルギー効率や環境負荷のシミュレーションを行うことで、設計段階での環境性能の最適化が可能。

構造および耐震性のシミュレーション: 構造設計の段階でBIMモデルを使って構造解析や耐震性シミュレーションを実施し、設計の妥当性を確認できる。

3.視覚化とプレゼンテーション

3Dモデリングとレンダリング: BIMは3Dモデルを活用し、クライアントやプロジェクト関係者に視覚的にわかりやすい形で設計を提示できる。これにより、設計意図の理解が深まり、意思決定がスムーズになる。

4.コスト管理と見積り

数量拾いとコスト算出の自動化: BIMを用いることで、設計図面から自動的に数量を拾い出し、コスト見積りを行うことが可能。これにより、設計段階でコストの過不足をチェックし、予算内での設計を進めることができる。

5.品質管理とコンストラクタビリティの評価

設計の干渉チェック: 建築や設備の各要素が互いに干渉しないか、BIMモデル上で自動的にチェックできる。これにより、現場での手戻りを防ぐことが可能。

施工性の確認: BIMモデルを使って施工段階での作業性や建設可能性を事前に評価することで、設計の実現性を高めることができる。

6.データの管理と情報の共有

設計情報の一元管理: BIMはすべての設計情報を一元的に管理できるため、プロジェクト全体での情報共有がスムーズになる。また、BIMモデルはプロジェクトのライフサイクル全体にわたって利用可能で、運用・維持管理にも役立つ。

関係者とのコラボレーション: BIMクラウドプラットフォームを利用して、設計者、施工者、施主間でリアルタイムに情報を共有し、コミュニケーションを円滑にできる。現に山田君の事務所では最近はほとんど現場に行かないで現場管理をしているそうである。

以上がBIMに関する現状である。これは日本でも取り入れなければならない。アーキキャドを使用した設計ということで、ますいいでも取り入れる可能性を感じた。

次はリノベーションの現場における3Dスキャンの利用法だ。大型物件ではすべて外注で3Dスキャンによる図面を作成してから作業に入るという。昔は自分たちでスケールを用いて採寸していたが今は絶対にやらないそうだ。労働時間を分単位で計測されるような職場で、クリエイティブな仕事をしている様子を見ると、僕たちにもまだまだできることがあるという気になってきた。

最近のプロジェクトについてヒアリングをしていると、設計事務所を経営するStyan氏が打ち合わせから戻ってきた。少し時間があるというので一緒に食事をしにレストランに向かう。建物は250年前に建てられた古民家をリノベーションしたものである。何が食べたいかと聞かれたので、お任せすると生の牛ひき肉が出てきた。見たことのない様相に驚くも、これはとても美味である。小さなグラスに1杯だけビールを飲みながら、49歳のStyan氏と会社の経営などについて話し合う。ちょうどますいいと同じような規模の仕事が多い三人だけの小規模事務所ということで、しかも工務店経営に興味があるらしいから、自然と話しが合う。次は日本での再会を楽しみにしよう。

北欧建築紀行3

2024/08/11

翌朝、小屋を出て車で1時間ほどのところにある登山口へ向かう。今日は往復六時間ほどの軽い山歩きだ。山といってもほぼ高低差はなく、景色を楽しみながらのハイキングといった感じだ。日本だとアルプスにあるお花畑といった風景だが、それが永遠に続いている。日本では見たことのない自然を楽しむことができた。

この国には意外な格差があるようだ。特に純粋なノルウェー人と移民との間にはなかなか埋めることができなそうな差を感じる。小人口の移民国家。移民をうまく取り入れながら国家を成り立たせているのだから、本質的な差はあって当然だろう。でもノルウェー人も移民の側も幸福度はとても高く、国民は幸せを感じている。僕が最初に乗ったタクシーのドライバーはソマリアから来た移民だった。結婚して子供が四人、たくさん稼がなくてはいけないと言いながらもその顔は充実していた。この充実感は一体なんでなんだろう。日本にはありそうでない充実感である。思いつくことを並べてみよう。

政治家は総じて若い。制度は時代に合わせてコロコロと変わる。例えば、ペットボトルや牛乳のプラスチックの口は外れないようになっているのだが、これは法律でプラスチックゴミが拡散しないように決められたということである。アルバイトやインターンシップにも労働基準法が厳しく適用され、日本のように無給のインターンシップは無いそうだ。

贅沢品はとても高い課税がされる。アルコール度数が4.5%以上のお酒は政府直営の店でしか買えない。泥酔のような行為は厳しく取り締まられる。教育や医療が無料の高福祉国家、でもそこには様々な制約があり、それは若い政治家によって合理的に作られている。日本では簡単に見捨てられそうな学生のインターンシップにもきちんとした保護を与え、お金持ちのスウェーデン人からはお酒を買うたびに高い関税を取り、それを福祉で移民を含めた全員に平等に還元する。この感覚が高い納得感を生み出し、それが幸福度につながるのだ。この感覚は会社経営に似ている。国家もこんなふうに経営できるのかという驚きと、それに比べた日本の劣悪な状況に対する嫌悪感が浮かんでくる。やはりなんとかしなければいけないのだ。

北欧建築紀行2

2024/08/10

朝9時にアパートまで迎えにきてもらい、山田君が運転するTOYOTA RAV4でリレハンメルに向かった。この街は冬季オリンピックが開催された街で、日本人もここでメダルを撮っている。冬はカントリースキーのメッカで、それを目当てにした人が集まってくる。街に入ると多くの観光客で賑わっているが、皆ノルウェー語を話しているようだから外国人ではない。この街はオスロから車で一時間30分ほど、つまりは軽井沢のような場所なのである。

街には高級別荘が立ち並んでおり、丘の上の方に行くとこぢんまりとした山荘が建ち並んでいるエリアがある。誰かが所有し、使わないときは貸し出しているそうだ。あらかじめ妻の妹のマサちゃんが予約してくれていたので、今日はこの中の一軒に泊まることになった。

それにしても絶景である。素晴らしい景色の高原を羊がゆっくり歩いている。姿は見えなくともあゆみに合わせて首につけたベルがなっているのだ。その音が近づいてくるとやがて姿が見える。羊たちはこちらを気にするでもなく、草を食べ続けている。小さなログハウスは玄関を開けるとすぐに15畳ほどのLDKとなり、真ん中に水回り、反対側には寝室が3部屋というシンプルな作りだ。LDKの中心には薪ストーブがある。ここは夏でもとても涼しい。今日の気温は朝が4度、昼間でも10度ほどしかない。早速ストーブに火を入れると部屋の中が温まってくる。薪は使いきれないくらいにストックされている。窓は全てペアガラス、ログハウスでも断熱材はしっかり施工されている。途中で見た工事現場の解説を山田君にお願いしたら、こちらの木造の壁厚さは250mmが標準だそうだ。そこに50mmの配線スペースを取り、外側の200mmにセルロースなどの断熱材を入れるらしい。

夕方になると近所のスーパーで貸し出しをして、夕食を作る。山田君は僕がますいいを作って2年目に採用した初めてのスタッフである。歳は僕より2歳若い48歳。ますいいには6年間勤めてくれて、しかも住まいはますいいの庭にセルフビルドで作ったコンテナハウス、そこに6年間すみ続けたから、普通のスタッフとは違う感覚が湧き起こってきて自然と会話も弾み始めた。ワインやジャガイモのウィスキー(AKEVITT)などを楽しみながら和やかなひと時を過ごしていると、なんだか人生は面白いなあと思う。独立したばかりの頃、あんまり余裕がなくって見えなかった山田君の人柄が見えてくる。そしてマサちゃんは本当に良いパートナーを見つけたなあと思えてくる。そもそも山田君はマサちゃんから紹介してもらったのだ。山田君がますいいを去って18年目の再会であるが、これからはこういう機会を大切にしていきたいと思う。

北欧建築紀行1

2024/08/08

つい先日までスウェーデンからの交換留学生を1年間我が家で預かっていた。まるで家族のように過ごしていた日々も終わり、逆にスウェーデンに留学に行っていた僕の次女も戻ってきて通常の暮らしに戻ったのだが、今度は僕と妻を含めた数人でノルウェーとスウェーデンを訪問することになった。初めの目的地はオスロである。ここには僕の会社で6年間ほど勤めて、妻の妹と結婚した山田くんが設計事務所をしながら住んでいる。わずか500万人の暮らすとても豊かな国における設計事務所のあり方とはどんな様相なのか、そのまま日本に移植することは到底できないとは思うが、それでも日本で働くスタッフたちが少しでも良いと感じるものを掴んで帰りたいと思う。

そもそもこの国は、500万人でどのように経済が成立しているのだろうか。ノルウェーは石油と天然ガスの豊富な資源を活用し、国全体に富をもたらしてきた。この収益は、教育、医療、社会福祉などの公共サービスに投資され、国民の生活水準を高めている。社会福祉制度は、失業、病気、老齢などに対するセーフティネットが非常に充実している。また、政府に対する国民の信頼が高く、政治の透明性や腐敗の少なさが特徴でもある。さらに無償の教育制度が整っており、全ての子供たちが質の高い教育を受けることができる。そしてノルウェーは自然が豊かで、美しい景観に囲まれている。このことも幸福感には大きな影響を与えている。
主な外貨の獲得は以下の方法による。

1.石油と天然ガスの輸出

2.漁業と水産業

3.海運業

4.金属と鉱物の輸出

5.観光業

6.ソブリンウェルスファンド(政府年金基金)

現地について1日目、今日は時差の疲れもあるのでスーパーで買い物をしてホテルでゆっくり過ごしたのだが、こんな短い時間でもITを利用した無駄のない効率的な動きについては目を見張るものがあった。まずは空港前のタクシーの手配、これは初めて利用する僕でも困らないくらいにわかりやすい機械があって、そこで予約をすると車によって異なる料金表が出てきて、選択すると数分後にその車が来るという仕組みである。スーパーのセルフレジの普及も日本より進んでいるようだ。ホテルのチェックインも完全無人である。

この国の住宅産業は国の基幹産業となっている。オスロで家を建てると1億円を軽く超えるという。地方土地でも数千万円はするようで、それを国民の50%弱が所有しているというから日本に似ている。木造住宅が中心で、地域密着型の工務店がそれを供給しているのも同じ、さらに環境配慮型の住宅が中心であることも同じである。まあそもそも日本が真似をしているのだから当然なのだ。

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