朝は目の前に走るトラムの音で目が覚める。オスロには縦横無尽にトラムが走っている。町中に乗り捨ての自転車やスクーターがあって、アプリで自由に使用できる。支払いは100%クレジットカードか電子マネー、現金は街中で見かけることはない。ホテルの前の乗り場からトラムに乗って、しばらく行くと図書館についた。ここの図書館はヨーロッパでも最も成功した事例と言える。6階建てのデパートのようなビル全体が図書館として機能するのだが、至る所に読書を楽しむことができるスペースが用意され、飲食エリアではお弁当を楽しむこともできる。建物の中心には大きな吹き抜けがあり、その周りを囲むようにエスカレーターで上がり降りする。最上階には巨大な階段状のスペースがあり、その段差を利用して設けられたスペースで、いかにも学生という若者たちが思い思いにパソコンを開いて勉強している。そして園から眺めるオスロフィヨルドの景色は最高だ。そういえば川口市にも駅前図書館があったことを思い出した。ここがヨーロッパ一の図書館だとしたら、川口の図書館も意外と悪くないなあと、もう10年前に亡くなった岡村幸四郎市長を思い出した。彼もきっとどこかで素晴らしい図書館を見たのだろう。
続いて隣にあるオペラ座に向かう。この建物は屋上まで上がることができるスロープがあって、観光客が自由に建物の上を歩くことができるようになっている。オペラという高尚な趣味を楽しむ場を、すべての人に解放したことに意味があるという。
このエリアには最近ムンク美術館が作られた。海岸に沿ってサウナ船が浮かんでいて、そこではおそらく地元の人々がサウナを楽しんでいる。仮設の浮き橋が作られ、その向こうにはいかにも高級なマンションが建ち並ぶ。この浮き橋を木造の橋に新設する計画を山田君は現在担当しているらしい。街中ではほとんを目にすることがない建設現場、そして開発のエネルギーを感じる場所だ。
オスロの街はAkerselve川の東側と西側で雰囲気が変わる。ニューヨークのマンハッタンとブルックリンのような雰囲気だろうか。川の東側は移民が多く住んでいたり、安い家賃に惹かれて若者やアーティストが集まっていたり、建築学校があったり、そして山田君が働いている設計事務もあったりする。東京で言えば銀座や青山、赤坂、麻布などに対する、三元茶屋や中目黒などの存在だ。12時、山田君の働くオフィスを訪れた。オスロでは設計から現場管理までBIMを早くから導入している。ヨーロッパの中でも早い方で15年くらい経つというから驚きだ。使用ソフトはアーキキャドである。
ヒアリングによると、この国のBIM(Building Information Modeling)は、設計サイド・現場サイドの両方で使用されていた。
1.統合設計の推進
協働設計: BIMは複数の設計者が同時に作業できるプラットフォームを提供し、建築、構造、設備の各専門領域が統合された設計を進めている。これにより、設計の初期段階から全体の整合性が確保され、設計ミスや情報の齟齬を減少させている。
リアルタイムの変更反映: 設計変更がリアルタイムでBIMモデルに反映されるため、設計者は即座に変更の影響を確認し、迅速に対応できる。
2.設計検証とシミュレーション
エネルギー効率と環境分析: BIMを使用して、建物のエネルギー効率や環境負荷のシミュレーションを行うことで、設計段階での環境性能の最適化が可能。
構造および耐震性のシミュレーション: 構造設計の段階でBIMモデルを使って構造解析や耐震性シミュレーションを実施し、設計の妥当性を確認できる。
3.視覚化とプレゼンテーション
3Dモデリングとレンダリング: BIMは3Dモデルを活用し、クライアントやプロジェクト関係者に視覚的にわかりやすい形で設計を提示できる。これにより、設計意図の理解が深まり、意思決定がスムーズになる。
4.コスト管理と見積り
数量拾いとコスト算出の自動化: BIMを用いることで、設計図面から自動的に数量を拾い出し、コスト見積りを行うことが可能。これにより、設計段階でコストの過不足をチェックし、予算内での設計を進めることができる。
5.品質管理とコンストラクタビリティの評価
設計の干渉チェック: 建築や設備の各要素が互いに干渉しないか、BIMモデル上で自動的にチェックできる。これにより、現場での手戻りを防ぐことが可能。
施工性の確認: BIMモデルを使って施工段階での作業性や建設可能性を事前に評価することで、設計の実現性を高めることができる。
6.データの管理と情報の共有
設計情報の一元管理: BIMはすべての設計情報を一元的に管理できるため、プロジェクト全体での情報共有がスムーズになる。また、BIMモデルはプロジェクトのライフサイクル全体にわたって利用可能で、運用・維持管理にも役立つ。
関係者とのコラボレーション: BIMクラウドプラットフォームを利用して、設計者、施工者、施主間でリアルタイムに情報を共有し、コミュニケーションを円滑にできる。現に山田君の事務所では最近はほとんど現場に行かないで現場管理をしているそうである。
以上がBIMに関する現状である。これは日本でも取り入れなければならない。アーキキャドを使用した設計ということで、ますいいでも取り入れる可能性を感じた。
次はリノベーションの現場における3Dスキャンの利用法だ。大型物件ではすべて外注で3Dスキャンによる図面を作成してから作業に入るという。昔は自分たちでスケールを用いて採寸していたが今は絶対にやらないそうだ。労働時間を分単位で計測されるような職場で、クリエイティブな仕事をしている様子を見ると、僕たちにもまだまだできることがあるという気になってきた。
最近のプロジェクトについてヒアリングをしていると、設計事務所を経営するStyan氏が打ち合わせから戻ってきた。少し時間があるというので一緒に食事をしにレストランに向かう。建物は250年前に建てられた古民家をリノベーションしたものである。何が食べたいかと聞かれたので、お任せすると生の牛ひき肉が出てきた。見たことのない様相に驚くも、これはとても美味である。小さなグラスに1杯だけビールを飲みながら、49歳のStyan氏と会社の経営などについて話し合う。ちょうどますいいと同じような規模の仕事が多い三人だけの小規模事務所ということで、しかも工務店経営に興味があるらしいから、自然と話しが合う。次は日本での再会を楽しみにしよう。