カフェに造る予定の壁についてのスタディー
2019/02/15
スタッフの渡辺、吉村と一緒に東川口のカフェに造る予定の壁についてのスタディー。このカフェは住宅の一部屋を改装して作った小さなお店で、今回はその外部エントランスの部分に新しい壁を増設しようという計画である。下の記事は以前カフェのインタビューをしたときに書いたもの。前に造ったときも友人によるセルフビルドなどの物語があった。今回はどんなストーリーが生まれるのだろうか。とても楽しみである。
東川口の駅から少し歩くとある小さなカフェ。月に一回程度の営業で、ブログや人伝てに集まったお客さんに健康的な料理とお店の名前にもなっている「ドクダミ」のお茶を提供している。女性限定で平日に営業するため、このカフェは、母親が子供を学校や幼稚園に見送ったあとくつろぐための空間になっている。この現場は、普通のハウスメーカーの住宅の一階の一部を、まるで築40年ほどの住宅を改修したかのようなカフェに造り変えるというものであった。初めて現場に行ったときには、ゴージャスな既製品がちりばめられた現状と、古い住宅のようなカフェというご希望の間のあまりのギャップに驚いたのだが、家を建ててからそのような空間を作りたいと考えたというのだから仕方がない。まだ新しい住宅の内装を壊すことには若干の抵抗を感じはしたものの、既存のリビングをほぼスケルトン状態にしての工事となった。
仕事の進め方はいつもクライアントとの打ち合わせとは違い、平面図や展開図などを使って案を練っていくのではなく、パースを各部屋4面ずつ描き、そこでこちらのデザインとクライアントの要望をすり合わせていくというもので進めて行った。
クライアントのUさんはいわゆる専業主婦でカフェをやりたいという夢をずっと持っており、周囲の友人たちに背中を推されて、思い切ってやってみたということだった。そのため、自分のこういうカフェをやりたいという理想をしっかりともっており、内装の至るところにそのこだわりが見て取れる。例えば、古民家をイメージして作られたイナゴ張りの天井、今でもUさんは生活をしている中で、ふと上を見上げた時に可愛い空間になってよかったなぁと思うそうだ。メインの開口である木製の窓は当初掃き出し窓になっていたが、コスト面を考え引き違いの腰窓になった。けれども欄間や中桟の入れ方や高さなどを何度も何度もパース上で検討していきできたその窓はUさんのこだわりを実現しており、特に冬の季節にその窓から見える雪はUさんのイメージである古民家風カフェを象徴する風景になっているようだ。
こういう住宅街の一角にひっそりとカフェをやるには、周囲の人々とのつながりが必要不可欠と感じた。天井や窓や建具それにキッチンの収納部はクライアントのセルフ塗装によって仕上がっており、セルフ工事の時には、Uさんの友人が手伝いに来てくれた。ますいいを知っていただいたキッカケも友人から紹介されたからとのこと。営業している今でも、友人の作家さんの作品を店の傍らに置いたり、営業日になると友人が料理や配膳の手伝いをしてくれたりとUさんの周りには彼女がカフェをやることに対して応援をし、支えてくれる人々がたくさんいることUさんは教えてくれた。
営利目的ではないこのカフェはUさんの自己の表現の場、そんな表現が正しいのかもしれない。僕はこれまでたくさんの建築を作ってきたが、自己というものとしっかりと向き合おうとする種族には、やっぱりそれなりの空間が必要であり、その空間は決して一人でつくり上げられるものではなく、その考えを理解してくれて、背中を押してくれる存在があるのだと改めて気づかされた。