皆様良いお年をお迎えください。そしてまた来年もよろしくお願いいたします。
今年は元旦の大地震からスタートした。僕はものつくり大学の修士学生として大学院に通うという、これまでに経験したことのない挑戦をした年であった。なぜこんなことをし始めたのだろうかという質問をされることが多いが、事は割と単純明快な理由で起こり始めた。裏千家の茶道を始めて15年が経った。その間茶室を作る機会にも恵まれた。元々、日本の文化が好きである。ゆえに日本の建築も好きである。会社を初めて今年で24年が経ったが、10年目くらいから和室を作らせていただく機会をいただくことが多くなった。工務店機能を兼ね備えた設計事務所として開業したが、10年くらい経たないとまともな和室はできないと思われていたのだろうし、実際にそうだったと思う。
4年ほど前にチルチンびとの登録工務店になった。程なく、とても有名な左官型工務店の社長の加村さんに出会うことができた。奈良の居酒屋で飲みながら話をした時に、ボードに薄塗りの壁と、ラスボードに厚塗りの壁と、木摺に土壁を下地として塗りつけてその上に漆喰を仕上げる壁の話を聞いた。話を聞いただけではその差を認識することはできない。でも左官にはとても興味があったので、その3つの構法を実際にますいいのモデルハウスで試してみることにした。出来上がった壁はやっぱり全然違うもので、壁の厚さというものは目で見て感じることはできないけれど、でも感覚的に全然違うものだということを改めて認識した。特に本漆喰の部屋で感じる静謐感というのは特別である。壁を舐める光はどことなく揺らいでいるが、それは左官の塗り厚がどうしたって均等にはならないということから発生する、2時的な魅力なのだろうと思う。正しいかどうかわからぬが、人の手の跡が醸し出す魅力というのはこういうことをいうのかもしれない。
銀座に一草という左官の名人の小沼さんが内装をやった店がある。そこに加村さんと小沼さんと一緒に行った時に、「もう少し左官の研究をしてみれば」と背中を押され大学院への進学を決めた。その時点では、左官の技能がどうしたらもっと社会で認知される形で評価されるのか、そしてその評価が左官技能者の暮らしをもっと豊かにできないかということに焦点を当てた研究をしようと考えていた。以来、さまざまな先生方や最小元の方々にご指導されながら今に至っている。まだまだ左官研究者としては新参者の部類である。分かればわかるほど面白い、左官とはそんなものだ。
西伊豆に松崎町という町がある。ここは入江長八という左官の名人、特に鏝絵の技量が評価を受けている左官の神様の誕生した街である。そしてこの町にはたくさんの鏝絵がある。この写真は、明治時代の商家である中瀬邸の蔵の扉の内側に描かれている竜だ。人々の暮らしを豊かにするのは、このように作り手の魂がこもった作品である。今こういうものがどんどん失われていこうとしているけれど、それでも作りたいという魂を持つ職人はまだまだ存在するのだ。魂を持つ作り手、そんな人たちとその作品を世に出していきたいというのが僕の研究の一番のテーマなのである。
今年も今日で仕事納め。新年は7日より営業を開始する。休みを多くするために連休を長くとったことで、6日ではなく7日からのスタートとした。皆様良いお年をお迎えください。そしてまた来年もよろしくお願いいたします。