増井真也 日記 blog

津田寛治様邸に関する手記④

2022/11/30

津田寛治様邸に関する手記④
「あとアトリエの本棚もそうでしたね。素材をただ切り取ってざっくりしたもの、きれいに仕上げないで欲しいって言ったら、厚い合板の積層小口を表しにして、切り出したそのままみたいで、それがすごくかっこよかったんです。僕は最近いつもそこで過ごしていますね」

「素人の僕がいろいろと意見を通したのだから、実際には多少の後悔はあります。でも本当に嫌ならあとから直せばいいんだし(笑)。僕は意見を言って、よくその後に「もし嫌になったら後から直りますよね」と、いつも言っていたんですよ。この窓あとから大きくできますかみたいに。そしたら田村さんが嫌な顔をするんですね」

「そういえば、階段の真ん中に段板を支える鉄骨の柱があって、「俺は白だ」と思ったけれど、田村さんは絶対黒だと言いました。僕は正直全く黒くする意味が分からなかったので、せめてグレーにしませんかって言ったんです。結局妻と相談して黒にしたんですが、あれは黒が良かったと思っています。とてもいい感じになっているんですね」

そういえば、津田さんの家の完成間近の時に、リビングの丸柱に棕櫚縄を巻いて存在を和らげようとしたことがあった。完成した姿を見て喜んでもらおうと思い、津田さんには黙って縄を巻いておいたのだけれど、引っ越しして数日でその縄はほどかれてしまっていたことを思い出した。どうやらその縄の表現は、引っ越しを手伝ってくれた若手の俳優にしか受けなかったそうで、しかも縄が好きな幾分変わった性癖を持っている方だったというから、仕方がない。縄を巻くときは縄を持って柱の周りを何十周も歩きながら締めていくのだけれど、その数日後に奥様と二人で柱の周りを何十周も歩きながらその縄をほどいていたというから、思い出すと思わず吹き出してしまう。

通常は家づくりにおける映画監督とは僕たち設計者のことである。でも津田さんにとって自分自身が監督をやっている感覚のほうが合っていたのだろう。最後にもう一度家づくりをするとしたらどんな家を造りたいか聞いてみた。「基本的にあの家は気に入っているので、もう一度建てたいとは思わないですね。

今の家は、たまにはっと思う時があるんです。仕事が終わって帰ってきたとき、外から見て丸い窓があって、そこから明かりが漏れていて、そんな姿を見ていると温かいなと思います」「僕は建築雑誌に載るような家は好きじゃないんです。かっこいいかもしれないけれど、住んでみたら大変だろって思う家は嫌いです。たまに人の家にお邪魔したりしたときに、デザイン的にはそんなに肩ひじ張って頑張っていないけれど、なんかいいなと思う家があるんですね」「奥さんが家事をやりやすくなっていて、家族が自然に使えている感覚が滲み出しているような住宅が僕は好きで、今の僕の家もそういう風になっていると思います。だから、建て替えようと思うことはないですね」

津田寛治様邸に関する手記③

2022/11/29

津田寛治様邸に関する手記③
「実は昔は水道工事のアルバイトをしていたこともあるんです。小さい現場だと、親方が途中でほかの現場に行ってしまって、庭の裏の土間コンクリート工事を任されたりするんです。そういう時にコンクリートの金鏝仕上げをやったりするのは病み付きになります。コンクリートとか土壁、粘土、あと鉄がさびた様子などは取りつかれると病みつきになるんです。そういうことに取りつかれて仕事にしている方は本当に幸せだなと思います」

津田さんは家づくりの最中もとても熱心に自分の希望を担当者の田村に伝えて、まるで自分が設計者のように参加していた。

「映画を作ることと、家づくりはとても似ていると思います。僕は映画監督もしています。本業は俳優だから、異業種監督と呼ばれるんですが、この異業種監督の場合は本当に家づくりに似ていると思います。つまり映画監督は、家づくりの場面のお客さんみたいなものなんですね。専業の映画監督ではないから、撮影などに関する技術は何も知らないけれど、いろんな映画とか本を読んだりして、すごく知識はあります。そしてこんな映像を造りたいという強い思いはあるんです」

「家を建てている間は、自分の家というよりも一つの作品作りに参加している感じでした。この家の特徴は先ずは大きなウッドデッキ、そして斜線制限の関係で屋根がとんがっているところですね」「基本的に家づくりは妻にお任せと思っていたんですが、あるとき「往々にして旦那は意見を言わないけれど、それがだめな家をつくてしまう原因である」と何かの本に書いてあったのを読んだんです。それで口出しをするようにしました」

「思い出に残っているのは、外壁に丸い窓を配置したことと、玄関のトイレのところに同じ大きさの丸い窓を開けたことですね。担当者の田村君に丸い窓を開けてって言ったら、始めは小さい窓の絵が描かれてきました。そうじゃないと思ったので、大きな窓をつけってって言ったら、どーんとつけてくれた」「これも映画監督と似ていると思う。映画監督がああしてこうしてと言って、現場のスタッフが一生懸命頑張ってくれて、思った通りの画が撮れた時と同じなんです」

津田寛治様邸に関する手記②

2022/11/28

津田寛治様邸に関する手記②
「はじめての打ち合わせで、妻がこれまで依頼しようと考えていた他の設計事務所が書いた図面を見せて「これでお願いします」というようなことを言ってしまったときに、さすがに失礼だろって思ったのですが、増井さんが「わかりました」と言ったんですね。あの時の増井さんを見て、クライアントの要望を寛容に受け入れるところと、それでも自分を崩さないところを持っているなあと、つまりとても自然体だなと思いました」

「施主の思いを実現するという設計手法は、ともすると設計という行為に対してモチベーションが感じられなくなる場合もあると思います。でもそこをうまくバランスをとって、それを楽しんでくれる のがすごくよかったんです」

津田寛治さんは僕の印象では、芸能人と呼ばれる人が持つであろうとイメージされる派手さと か、傲慢さとかとは無縁の人である。むしろ普通の人よりも自然体かもしれない。乗っている車 は、ぼろぼろのワゴン車にニコちゃんマークのペイントを施しているような車だし、服装だって センスの良い普通の大学生のようなもの。とにかく見栄を張るような行為とは無縁の人だ。僕は当時、津田さんのことを知らなかった。もともとあまり芸能界に詳しいほうではない。だから僕も自然体でいられたのだろう。知っていたらもっと緊張していたと思う。

素朴な人だからであろうか。この工事では素材そのものを表現することを求められた。塗装等 で仕上げることは最小限にして、なるべく素材のままの表情を大切にしたいというのである。 例えば外壁では、本来は吹付下地として施工するモルタルを、そのままで仕上げてほしいという要望があった。普通では割れてしまうモルタル下地をどうしたら割れないようにできるか の苦悩の末に、ファイバーネットを敷きこんだりモルタルそのものに繊維を混ぜ込んだりの工 夫を施したりもした。この仕上げの取り組みは僕にとっても実験的な試みだった。ひびだらけになってしまうかもしれないとの不安を持ちながらの工事であった。今回、7年がたって現場に行ってみて、壁が割れていないことには正直驚いたが、何よりもそのモルタル仕上げの風合いが経年変化と共に さらに良い雰囲気になっていたことがうれしかった。そんな津田さんにとっての住宅とは、ど のようなものだったのかを聞いてみた。

俳優って特殊な仕事のように思われるけど、実は普通の仕事と変わらないんです。一部のス ターは違うかもしれないけれど、僕たちのような役者は現場に行って、衣装に着替えて、せりふをしゃべって、お疲れ様でしたと、まるで大工さんみたいに働いています。日本中のいろん な現場に行って、その現場の仕事をします。だから僕が家を建てる時も俳優だからと言って特別なことを考えていたのではなく、普通のお父さんと同じように、ただただそこで育つ子供の ことを考えていました」 「僕の中では子供たちがたくさん集まる児童館みたいな家にしたいと思っていたんです。決してファッショナブルなものではなく、どちらかというと暖かいもの」 「僕にとって家というものは、その場だけの完成作品ではありません。住んで、何十年もたっ て完成するものです。できた時はすごくきれいだけれど、 20 年たっていろいろなところが汚れ てきたらみすぼらしくなるものではなく、時間がたって使い込んだ時に魅力があるようなもの が良いと思います」

「この家ももう7年がたっていますが、先日も通りすがりの人が、この家を建てた人を紹介し てほしいと言ってきましたが、こういうのはうれしいですね」

「僕は特にこの家のモルタル仕上げの外壁面が大好きです。吹付とかしていないただのモルタ ル仕上げですがこのラフな感じがすごく良いと思います」

「ラフさって要求することがすごく難しいと思います。映画のカメラワークでもそうなのです が、映画監督がカメラマンさんにわざと揺らしてくれと言うと、すごくわざとらしくなってし まうんです。でもカメラマンが一生懸命とっていて、でもちょっとカメラが揺れてしまった時 はとてもかっこよく仕上がります」

「壁も一緒で、すごくきれいにして欲しくはないんだけれど、わざとムラムラをつけられると わざとらしすぎて嫌なんですよね。増井さんは僕がそんなことを行った時に「ようは吹付の仕 上げの下地程度にすればいいんでしょ」と言ってきましたね。結果とても好きは風合いに仕上 がりました」

「左官屋さんも大工さんも、左官の魅力とか木の魅力に取りつかれているんですね。そういう 人を見ると本当に幸せだと思う。大好きな仕事をして夢中になっていられるのは見ていて気持 ちが良いですね」

津田寛治様邸に関する手記①

2022/11/27

建てた家を巡るというインタビュー記事を書いたことがある。取材はもちろん自分で行った。今日はその中でもある俳優さんについての手記をご紹介する。

津田寛治様邸に関する手記①
建築家をやっているといろいろな人と出会う。年齢も職種もそれぞれで、打ち合わせをして いると、いろいろなお話が聞けてとても楽しいし、ためにもなる。 時には有名人もやってくる。13年ほど前に俳優、津田寛治さんのご自宅を建てた。映画やテ レビドラマなどで活躍されている方でご存知の方も多いだろう。津田さんとの出会いは、奥様 がさんかくの家が掲載されている雑誌「住まいの設計」をご覧になった時に、モルタルで作っ たキッチンやお風呂の写真を見て気に入ってくれて、ご連絡してくれたところから始まった。 (さんかくの家では名前の通り三角形の建築形状を採用しているのだが、その形状に合わせ て、左官屋さんがモルタルで作ったキッチンやお風呂を配置している。)

津田さんは当時、すでに土地を購入して、不動産屋さんに紹介してもらった設計士さんに図面 を書いてもらうところまで進んでいる状態だったのであるが、その設計士さんに塗り壁で仕上 げをして欲しいと依頼したところ、「この土地では地盤が悪いから塗り壁の仕上げは無理で す。クロスを貼らなければ仕上がりません」と言われて、決別してしまった時に、たまたま新 宿パークタワーにあるリビングデザインセンターオゾンのライブラリーで雑誌を見つけて、ま すいいに来ていただいたというわけである。

津田さんは当時のますいいとの出会い、印象をこのように話してくれた。 「僕の家づくりには、設計を押し付けるような建築家は絶対に入れたくないと思っていまし た。そういう建築家って他人の住む住宅を自分の作品としてとらえているじゃないですか。で もそれは傲慢なことでしかないと思うんです」 「住宅は決して建築家の作品ではないと思います。住宅はあくまでそこで暮らす人のものなん ですね。だからこそ、住む人の希望とか使いやすさとかをないがしろにして作品性を高めるこ とに偏りすぎてしまうことは傲慢だと思います」 「建築家がもしクライアントの希望を聞いていて、でもやっぱり後々後悔するよって思って も、お客さんがそう望むのであれば思うようにやらせてあげればよいと思います。それで、ど うしても嫌になったらやり直せばいいと思います」 「僕たちは、デザインを押し付ける建築家ではなく、工務店なんだけれどセンスのわかるとこ ろを探していたんですね。その考えにぴったり合う会社を見つけたのが、たまたま、ますいい リビングカンパニーさんだったんですね」

今回の茶会にあたりオリジナルの棚を創作した

2022/11/26

今日は僕がブロック長を務めている、茶道裏千家淡交会の関東第2ブロック青年部40周年を記念する茶会と式典を開催した。裏千家というのは千利休から始まる茶道の流派の一つである。三千家と呼ばれるくらいだから、他にももう二つの流派があって、それぞれ表千家と武者小路千家という。元々は一人の茶人から派生したわけだが、3代目の宗旦の後にそれぞれの流派に分かれた。淡交会というのは昭和15年にそれまで全国に既存していた裏千家茶道の様々な団体をまとめて宗家の直轄団体として結成され、昭和28年に文部省より社団法人の認可を受けたそうである。この名前は荘子の「君子之交淡若水」に由来する。僕は縁あってこの団体の長を務めているのだけれど、それも今年で終わりである。後輩に道を譲るに当たり、40年の歩みを振り返り、未来へとつなげるためにこの会を開催しようと心に決めた。

今回の茶会にあたりオリジナルの棚を創作した。名は「彩の国」と青年部の彩に因んで「彩棚」と名付けよう。茶道は一服の茶を点て飲むことにつきるのだけれど、その嗜好を考え、設ているときが何よりもの楽しみなのだ。

木ずり下地の左官工事

2022/11/25

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
モデルハウスの工事が進んでいる。この現場では和室の壁などに木ずり下地の左官工事を行う予定だ。木ずり下地というのは写真のように柱に木を打ち付けて、そこに土壁を塗りつける工法である。木と木の間に土が入り込み下地と一体となった上に仕上げの漆喰を塗るのだが、石膏ボードに薄塗りの漆喰を仕上げたものと比べるととても重厚感のある仕上げとなる。ここでいう重厚感とは、例えば音が壁に吸収されていくことだったり、例えば厚みのある漆喰壁ならではの調湿作用だったりということなのだが、やはり言葉ではわかりにくいもの。だからこそ「漆喰の塗り厚さがその空間にどのような質の変化をもたらすか」について体感していただくことができる場所となることを楽しみにしている。

建物の設計に当たっては、温熱環境シュミレーションソフトを利用した。

2022/11/24

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
埼玉県川口市にてますいいリビングカンパニーのモデルハウスを建築中だ。この建物はパッシブLCCMの手法を取り入れている。LCCMというのは建物を建てる時から解体するまでの二酸化炭素排出量を上回る発電を行うことで、二酸化炭素排出量をマイナスにするというものだ。LCCM住宅はすでに多くのハウスメーカーで作られているがほとんどの住宅は窓が小さく、まるで魔法瓶の如き様相となっている。

さてさて、魔法瓶の中で暮らしたいと思う人はいるであろうか。人は誰も窓の外に緑が見えて、季節の良い時には心地よいそよ風が吹き込んで欲しいと思うものだ。いくら省エネと言っても流石に魔法瓶はつらい。そこでパッシブ設計とLCCMの融合を図ったというわけである。建物の設計に当たっては、温熱環境シュミレーションソフトを利用した。ホームズ君という一風変わった名前のソフトだが、室内を通り抜ける風の量や、窓から入り込む季節ごとの日射量まで算出してくれる。これらの数値は例えばパーゴラをつけたりひさしの長さを調節したりの設計上の工夫を施すことで変化し、最適解を探すことができるようになっている。ますいいではこの手法を全ての住宅設計に取り入れることにしているので是非ご相談いただきたい。

 

東京都杉並区にて進行中のYさんの家の引き渡し式を行った

2022/11/22

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は東京都杉並区にて進行中のYさんの家の引き渡し式を行った。この計画はリビングデザインセンターオゾンさんのご紹介である。オゾンというのは東京ガスの関連会社が運営している家づくり全般に関する情報提供を行う場所で、西新宿の都庁から少し先、パークタワーというビルの中に入っている。

もともとある住宅に小さな倉庫とワークスペースを増築するという計画、普通ならば簡単に終わるところがとても苦労して造り上げることとなってしまった。なぜ苦労したのか、一つ目の理由は完了検査済を受けていない住宅のために既存不適格の調査をこなっての増築となったことである。既存不適格調書というのは建築士による建物調査によって書くのだけれど、僕が一人で見たところで本当に完全な調査をできるわけでもなく、そこで民間の確認申請審査期間に依頼することとした。調査の結果、例えば勝手口のサッシの交換を指摘されたり、隣地協会に立つブロック塀の改造を指摘されたり・・・、本当に色々と是正をしながらも増築が認めていただけたのは本当に嬉しかった。
二つ目の理由は、既存のバルコニーの手すりをカットし、大きな掃き出しサッシを取り外し、そこに増築した建物を挿入するというなんとも雨仕舞いの難しい工事であるという点である。これをクリアーできたのは、担当スタッフの高野君と塩野谷大工のおかげである。小さいけれどとても良い仕事ができたと思っている。ちなみに下の写真の黒い部分が増築部です。

 

無理をせず、無駄を出さず、余計なことをしない

2022/11/19

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
小さな家には魅力なんとも言えない魅力がある。かつて最小限住宅を作った増沢恂がその設計にあたって以下のようなことを配慮したという。
・無理をせず、無駄を出さず、余計なことをしない
・簡単に手に入る安い材料をそのまま使う
・製品の寸法を尊重し、無駄を出さない
・少ない材料でつくる
・難しい技巧、手の込んだ仕事を避ける
・大壁、フラット天井、トラス構造。素地の美しさを評価
・ローコストだが格調高く気品がある
・生活に対する柔らかな目差しが感じられる
・科学的、工学的設計法。構造設計者と協働、採光率、断熱・結露計算もした
1952年という戦後の混乱期に作られた住宅だが、昨今のウッドショックの如き状況を見ているともう一度再考するべきことのような気がするのである。

下の写真は数年前に作った9坪ハウスだ。この建物も上記のようなコンセプトを持つ。3間✖️3間の平面の中にどのような設えを納めることができるのかの検討はなかなか楽しいものである。南側の大きな海溝には障子を嵌め込み、日照調整とプライバシーの確保を可能にした。小さなカウンターの裏側にはキッチンがあり、それと並ぶように洗面所と浴室がある。玄関は階段の下のスペースを利用し、特に専用のスペースはない。吹き抜けを入れても延床面積が18坪、まさに最小限の住宅の形と言える。

妻の実家の古い家がこんなにも丁寧に作られていた価値ある住宅だということにDIYで参加して初めて気が付かされた。これからも大切に住み続けていきたいと思います。

2022/11/17

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は埼玉県伊奈町にて進行中のTさんの家の引き渡し式に参加した。この計画はお母さんが一人で暮らしているご実家に、Tさんご家族が移住するというものである。Tさんとは元々10年以上も前に新築住宅の土地探しのご相談で知り合っていたのだけれど、このようにリフォーム工事を依頼される形での再会となった。
住宅は奥様のご実家である。玄関などはそのまま利用し、和室だった部分を小世帯のLDKとした。解体に当たっては全てを壊してしまうのではなく、和室の欄間など部分的に再利用した。天井を剥がしてみるとなんとも魅力的な梁が現れたので勾配天井とし梁を表しにしたのだが、このように臨機応変に作りながらデザインできるのもリフォームの楽しいところである。床は信州の唐松フロアリングとした。壁の白はクライアント自らが頑張ってセルフビルドで塗り上げた漆喰である。自分の家は自分でつくるをまさにやり遂げたわけだけれど、きっとこれからも楽しみは続いていくのだろう。引き渡し式の際に、「妻の実家の古い家がこんなにも丁寧に作られていた価値ある住宅だということにDIYで参加して初めて気が付かされた。これからも大切に住み続けていきたいと思います。」という言葉を聞いたが、こういうことは本当に大切なことだと思う。ぜひ長く使い続けて欲しいと思うのである。

リフォームを行う場合、必ず2階の天井裏・1階の天井裏・1階の床下を点検して金物と筋違の有無を確認する

2022/11/15

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
埼玉県さいたま市にてリフォームをご検討中のMさん打ち合わせ。今日は現地ではなく、現在お住まいになっている岩槻駅の近所にあるマンションでの打ち合わせとなった。打ち合わせにお客様の家にお邪魔することは結構多いけれど、実際の暮らしを拝見するとその方の嗜好が現れているので設計にとても参考になる。Mさんの清らかそうなお人柄がなんとなく感じられるお宅であった。

今回の計画では、古い木造住宅の1階床を剥がして断熱工事を行い、窓には2重サッシを取り付ける。2階の天井も剥がし屋根断熱を施すことで断熱性能を向上させる。解放性のあるプランにするために間仕切り壁を撤去しながら、耐震補強も行う予定だ。このくらいの時代の建物は筋違が入っていても金物で固定されていないことが多い。僕はリフォームを行う場合、必ず2階の天井裏・1階の天井裏・1階の床下を点検して金物と筋違の有無を確認するのだが、予想通り金物は少ない建物であった。プラン提案の際には点検結果に配慮した提案を行うようにしている。今回もできる限り金物の補強を行う予定だ。実は有料の耐震診断の時の調査と同じことをしているわけだけれど、これをしないと責任のあるリフォーム提案とはいかないわけだから、いわゆる町医者が聴診器やレントゲンで検査をするかの如く大切に行ない続けていきたいと思っている。

住宅の医者=住医

2022/11/14

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は改修工事中のツーバイフォー住宅の構造をチェックしていただくために、「山辺の構造」という木造建築構造のバイブルの著者、山辺先生をお招きしての現場調査を行った。ツーバイフォー住宅の構造を触るリフォームというのはなかなか難しいのでやりたがる人は少ないわけだが、住宅の医者=住医をイメージする僕としては、やっぱり断るわけにはいかない。とはいえいい加減な工事はしたくないので山辺先生にセカンドオピニオンのアドバイスを求めた次第である。結果は概ね良好、僕がある程度予想していた通りの補強方法をご指示いただくことができた。これで一安心、自信を持って工事を進めることができる。これらかの時代はリフォームが主流になっていくことが予想されるわけだけれど、間仕切り壁をとってほしいというような構造を弱める工事を、その可否の検討もなしに適当に進めてしまうような業者が多いのも事実である。新築住宅や確認申請が必要な大規模修繕ではない場合、それをチェックする人もいないわけで、このような状況が放置されて危ない建築が増えることがとても危惧される状況である。だからこそしっかりと進めていきたいと思う。

もっと自由に家を作ろう

2022/11/11

「自由に家造りしたい」、「豊かな家を造りたい」という人に有益な情報はなかなか手 に入らない。土地を探すにしても、決められた住宅会社で建てなければいけない「建築条件付 き」の物件がほとんどで、そうした縛りのない敷地は、長い時間をかけて探さなければいけな いのが現状だ。また、家造りについて建築家に相談しようにも、そういう人がどこにいるのか よくわからない。メディアに取り上げられることの少ない「工務店」という存在に至っては、 もっとよくわからない状況である。それならば少しでも自分でできることをしたい、セルフビルドやDIYをやってみたいと 思っても、材料はいったいどこで買えばよいのだろうか。正しいやり方はいったい誰が教えて くれるのだろう。ホームセンターで材料を購入することもできるけれども、個人で使う程度の量では割高だ。建材によっては驚くほど高い値段になってしまうこともある。

もしも、自分の家を自分で作るとしたら…。  まず必要なのは、地盤の調査と改良、その次に家の基礎をつくる工事、そして骨組みとなる プレカット木材の購入、その他の材木の購入。それらの木材を施工する大工工事、もちろんサ ッシや木製建具、ガラスも必要だし、内外の壁や屋根を施工するための左官、内装、屋根、板 金、タイルの工事、電気・ガス・水道工事などの設備工事、そして建物の周りの外構工事など も発生する。これらの工事を自由に組み立てながら、自分らしい家を作ることができたら、どんなに楽 しいことだろう。それは、自分のイメージを現実に置き換える行為であり、子どものころに 興じたプラモデルを実物大でつくるようなわくわくする気持ちを味わえるはずだ。

一昔前なら、自分の町にいるそれらの職の担い手たちに直接話をしながら、家を作る ことは可能だったけれど、いまではそういう人たちがどこにいるのかもわからなくなってしま った。実際、僕だって2000年に独立した時には、知り合いの建設会社に紹介してもらった職 人さん以外に頼める人はいなかった。腕のよい大工がいるとうわさに聞いて、秩父まで行って みてもあっさり断られ、タウンページに掲載されている大工さんに会いに行ったら笑われた。結局、材木屋さんに紹介してもらった大工さんだけが、僕からの仕事を請け負ってくれた。工事代金の不払いなどが多い世知辛い世の中であるが故、見ず知らずの人からの依頼を快く受 けてくれる人などそうそういるはずもなく、だからこそ見ず知らずの人からの受注をするため の宣伝・広報などもするはずがないのである。

要するに、自由な家づくりをしようにも情報が全くない。表面的なところまでインターネッ トで調べられても、奥深く調べようとするとすぐに壁にぶつかってしまうのだ。僕はこれまで約21年間、このような困難な状況にもめげずに建売住宅でもハウスメーカー の住宅でも満足できない自分自身の家づくりを行いたいと強く願う人々と向き合ってきた。 小さな土地の中で許されるあれやこれやの工夫を施し、ただでさえ高い建築コストを少しでも 安くするにはどうしたらよいか。考え得るあらゆる方策を重ねて、時には一緒に作業をしなが ら、200軒以上の家づくりにかかわってきた。そしてこれからもそれは続いていくはずだ。

住宅産業はこれから確実に衰退していく。人口も減少する。建築の寿命が延びて、住まい手 のいないまま、取り壊されることもなく、空き家は増えていく一方だ。そんな状況が進行するうち、大資本がこの住宅産業を担う時代も終わってしまうかもしれな い。余った土地に道路を敷設し、分譲して販売すれば利益が出る、という時代も確実に終わる。ハウスメーカーが軒を連ねる展示場が減少し、建て売りもこれまでの様には売り出されること がなくなっていく。つまり、家づくりを取り巻く環境は、ますます変化し、これまでの「常識」が通じず、わか りにくくなることが予想される。

でも自由な家を造ろうという人々は決していなくはならないと思う。だからこそ、住宅業界 は再構築される必要がある。昔の棟梁のように、建築の知識を深く所有し、建て主の要望に 合わせてそれを引き出し、建て主と一緒に建築を創り上げる、そういうことのできる「建築家」「工務店」が、新しい家づくりの体制を作っていくことが必要なのだ。日本の家づくりがもっと自由になることにもっともっと貢献していきたいと思う。

長野県の塩尻市にある木曽アルテックさん

2022/11/08

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)

今日は早朝から川口を経ち長野県の塩尻市にある木曽アルテックさんにお邪魔した。この会社は漆を塗った和紙や鍛造の取手などを作っている。漆和紙と聞いてもなかなかピントくる方はいないかもしれないけれど、初めてみたがこれがまたとても良い。職人さんが一枚一枚の和紙に丁寧に漆を塗っている姿を写真に撮ったのでご紹介しよう。

僕はローコストを得意とする建築家である

2022/11/04

僕はローコストを得意とする建築家である。「いくらでもお金を使ってよい」という言葉を かけてくれる建て主など出会ったことはない。でも、もしそういう機会があったとしても僕は 多分それほど楽しむことはできないと思う。お金がないのにこんな理想の物を作りたいという夢を語られているときに感じる、あの何と も言えない感覚が好きだ。どうしようかと頭を悩ませているときにアイデアが浮かぶ瞬間の喜 びや、建て主まで巻き込んでセルフビルドを多用しながら建築を実現していく過程が何とも言 えなく好きなのだ。

今の社会は「あるものをいくつ作ったからいくら支払います」、「あることを一日やってもら ったからいくら支払います」のわかりやすい金銭感覚が薄れてきているように思う。これはハ ウスメーカーの家づくりにも言えることだけれど、要するに価格の構成がベールの向こう側に 隠されていてわからないのである。たとえばハウスメーカーの家づくりの物自体にかかるお金ってどれくらいの割合なのだろう か。工場生産される鉄骨の骨組み、それに取り付けられる部材の数々を合わせても、僕たちが 想像もできないくらいに、総額に対して低い割合しか占めていないと思う。なぜならば、住宅展示場に実際に建築を建て、その建築を数年間で取り壊し、そこには営業 担当の社員が常駐し、テレビでは有名な芸能人を使ったCMが流れている。そのどれもが僕 の会社ではやってみようと考えたことがないほどにコストがかかることであって、その値段 も一棟一棟に割り振られてきちんと価格に転嫁されているのである。

この感覚は家づくりに限らず、普段の生活でもいつも感じることだ。ありとあらゆる商品は、 そのイメージを創り上げるパッケージで飾り立てられ、その結果生み出されたイメージによっ て価格を決定されている。そのものの持つ本質的な価値など二の次となり、消費者の側もいつ の間にか表面的なイメージを追い求めて消費行動に駆り立てられるようになってしまった。「ブランド戦略」と言ってしまえばそれまでなのだろうが、本質的な事よりも、見た目のよ いパッケージを創り上げることが重要視される時代、そして消費者の側もそこにご門を感じて いるのだけれど、どこに本質があるのか明確には判定できない状態になっているような気がするのである。

「自分の家は自分で作る」ということを実践するには、現実の細かいこと、つまりどういう 部材がいくらで手に入って、それをどのように取り付ければ住宅の一部となるか、ということ をきちんと理解する必要がある。そこには先のようなあいまいなイメージの状態はない。あくまで現実の物の組み合わせの世 界だ。僕たち建築家はそういう現実の物の情報をきちんとコントロールすることができなけ ればいけない。そうでなければ、みなさんの自分自身の家づくりに役立つことはできないの だと思っている。下の写真は埼玉県伊奈町にて作った住宅である。壁の漆喰はセルフビルドで塗り、ワンボックス型の大きな吹き抜け空間とした。とても自由な家づくりの事例である。

増井真也 日記アーカイブ