増井真也 日記 blog

僕が建築を学にあたり最も苦労をしながらその著書を通読した方が亡くなった

2022/12/30

今日は滋賀県の妻の実家に移動してきた。朝というか夜中というか、1時40分に自宅を出発してかれこれ5時間30分で東近江市の実家に到着である。渋滞に巻き込まれることもなく順調な移動ができて何よりであった。朝の新聞を見ていると磯崎新氏が亡くなったとの報道があった。僕の恩師の石山修武先生が福岡のオリンピック誘致に参加していたときにその先陣を切っていた方、僕が建築を学にあたり最も苦労をしながらその著書を通読した方、そして間違いなく日本のポストモダンを牽引した方であった。磯崎氏の建築は、群馬県立近代美術館や水戸芸術館、京都音楽ホールに筑波センタービルなどあげればキリがないほどである。また建築に対する深い洞察とその瞬間を篠山紀信の写真で切り取った建築談義シリーズは今でもたまに読む愛読書だ。

建築という分野は、この日本が世界に誇ることができるとても珍しい経済芸術分野である。天心がその講義の中で「徒に古人に模倣すれば、必ず亡ぶ。これは歴史の証するところである。系統を守って進み、従来のものを研究して、一歩を進めることを勉むべきである。西洋画は宜しく参考するが良い。然し乍ら、自ら主となり、彼を客として進歩することを要する」と言っているが、こういう姿勢はこれまでもこれからも同じように求められることだと思う。そして磯崎氏の建築もまたこの類であると思うのである。晩年を沖縄で家族と過ごしていたという話は聞いていた。安易に老いた姿を表す人ではないと思っていた通りに、現役で活動していた時代の凛々しい写真とともに死亡の記事を目にすることになった。まさに最後の最後まで計算し尽くされた行動だと思う。現代に生きる武士の如き生き様に快い敬意を表したいと思う。

 

茶室紹介〜松琴亭

2022/12/29

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
桂離宮は京都の西を流れている桂川のほとり、430アールほどの敷地に八条宮の別荘として作られた。庭が出来上がったのが八条宮智仁親王の時、次の智忠親王の時に建物が増えて庭も再度整備された。古書院から池を挟んでちょうど反対側くらいのところに、松琴亭がある。茅葺き入母屋造の主屋に杮葺きの茶室が接続し、背面に水屋、勝手が付属する。襖に貼られている白と藍色の加賀奉書の市松模様が特徴的だ。二の間東に二枚襖の口で接する茶室は三畳台目、桂離宮内における唯一の草庵風茶室である。写真は大目切り炉と中柱である。手前座の背景には中庭に向けて窓がたくさん配置されているが、きっとお手前さんには後光がさして見えるんだろう。

 

埼玉県さいたま市にて和室に炉を切りたいというSさんと打ち合わせ

2022/12/27

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)今日は埼玉県さいたま市にて和室に炉を切りたいというSさんと打ち合わせ。築5年ほどのまだ新しい家の和室である。木造在来工法で床下のスペースもそこそこありそうだからなんの問題もなく炉を切ることができそうだと思っていたら、畳の厚みが15ミリしかないことに気がついた。炉壇の上にのせる炉縁という茶道具の高さは通常の畳の厚さである60ミリで作られているので、これだと炉の部分だけを45ミリ落とし込んで、15ミリの畳に合わせなければならないことになる。まあなんとかなることはなるのだけれど、なんとなく違和感が生じてしまう。新建材と伝統とのミスマッチ・・・こんなところにも現れるのだなあ。

「余計なものはつくらない、大切なものは壊さない建築家」

2022/12/22

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)

埼玉県川口市のほぼ中心に位置するグリンセンターという公園内で、シャトー赤柴という築50年の建築のリノベーション設計を行なっている。宮殿のようなイメージを彷彿とさせるなんとも言えないデザインの建築で明仁上皇陛下が皇太子だった時代に、川口市で開催される国体をご覧いただくために建てられた建築である。依頼結婚式場やレストランとして利用されていたけれど、ある一時期からはほとんど利用されなくなってしまっていたようだ。当然取り壊しの声も上がったけれど、何でもかんでも壊して再建築の時代ではない。川口市の理解ある人の手により保存再生の道を選ぶことになったわけである。「余計なものはつくらない、大切なものは壊さない建築家」として活動する僕としては、本当によかったと思っている。(ちなみにこの建物以外は全て取り壊し、再建築となってしまった。)

公園はメインアプローチの場所が変わり、この建物のアプローチの方向も変わるということで、メインアプローチの正面に向けて人を導き込むような装置を増築する予定だ。写真はその模型である。だいぶイメージも固まってきた。来年夏の実施アップに向けて頑張っていきたい。

坂戸訪問診療所の高野副理事長とお会いした

2022/12/19

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は坂戸訪問診療所の高野副理事長とお会いした。この診療所は在宅医療を専門とする病院で、いわゆる普通の外来の診療はしていない。患者さんは在宅で末期癌の最後の時期を過ごす方や、施設に入所する高齢者などだ。登録している医師が患者さんを訪問し、診療を行うのでとても手間隙がかかる方式なのだが、通院をすることができなかったり、末期で病院にいることができなくなってしまった患者さんにとっては「最後の砦」となるとても大切な病院なのである。

病院での出来事に46歳の末期卵巣がん患者さんのお話を聞いた。ご主人は地域消防士、お嬢さんが大学生で、息子さんが高校生、どこにでもある普通の家庭である。そこに余命半年の状態でお母さんが病院から退院してきた。初めの半年はお母さんが家事を行なっていたけれど、容態が急激に悪化し、その全てに家族が対応することができない状態になってしまったという。家族が不在の時に診療所の職員が8時間も付き添ってあげるというようなことも起きる状態となってしまい、再入院を勧めるも患者さんはそれを拒否。家族と患者さんのすれ違いまで生じてしまい、結局入院したのは朦朧とした意識の中での決定だったそうだ。(家族はこれ以上の介護は無理と言い、本人は一度追い出された病院には戻りたくないといっていたそうだ)妻として母としてこれ以上家族に負担をかけることを避けたのかもしれない。

お話を伺っていると本当に重く重要な最後の砦の診療所であると感じた。今後ますます高齢者が増え、それを支える若者の数は減っていく。マンパワーも経済的にもこれまで以上に厳しい状況になるだろう。看取りという言葉を数多く聞いたが、人の死を陰に追いやってしまった現代社会を生きる僕たち世代が、最もどうして良いかわからない行為であるような気がする。在宅医療との向き合い方という問題は、今後のこの国の医療を考えるともう少し身近に置いておかなければいけない事象であるような気がするのである。

埼玉県川口市にて建設中のパッシブLCCM実験住宅の木ずり下地

2022/12/14

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
現在埼玉県川口市にて建設中のパッシブLCCM実験住宅では、漆喰仕上げに3種類の仕上げを採用している。その一つが写真にある木ずり下地だ。細い木材を水平に固定し、そこに土壁の下塗りを厚み8ミリほど塗りつける。その上にさらに半田を塗り付け、漆喰仕上げを塗ると、全部で15ミリほどの厚さを持つ左官壁が出来上がるわけだ。通常の石膏ボードに対する施工の場合は厚さは2ミリほどしかないので、その差は歴然となるだろう。

ちなみにこの板は茶室の床の間のたれ壁である。このたれ壁にも薄い左官を仕上げるために杉板の下地に穴をたくさん開けて食いつきを良くしているのである。

今日は雑誌「チルチンびと」が企画する家づくり対談に参加

2022/12/13

今日は雑誌「チルチンびと」が企画する家づくり対談に参加した。場所は東京都の神楽坂を登りきったあたりにある風土社事務所である。この界隈は昔ながらの風情が残っており、歩いているだけでも楽しい路地がたくさんあるが、チルチンびとを発行する風土社さんらしい立地である。集まったのは4社。千葉さん、五香さん、渡邉さんと私だ。主なテーマは断熱性能や自然素材についてである。昨今の家づくりでは高断熱と高気密が求められることが多いが、気密を実現しようとするとどうしてもビニールで包まれた家となってしまう方向に進んでしまう。いくら暖かくてもビニールの中で生きたいか?という問題は大きい。そこでそれぞれこだわった家づくりを行っている4人が、それぞれ独自の工夫についてのお話をするという展開となるわけである。

ますいいでは現在実験住宅となるモデル住宅の建設を進めている。この住宅はパッシブLCCMとして、高性能な断熱性を実現しているだけでなく、部材間のコーキングや気密テープの施工により高気密も実現している。ビニルを使用するよりも少々手間はかかるが、より自然に近い形での高性能住宅となる予定である。完成後は室温データ、部材表面温度などの測定も行う予定なので楽しみにしておいてほしい。

漆という素材にちょっと興味を持ってみたいと思う。

2022/12/10

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
先日基礎アルテックさんを訪問したときに漆の鷲というものを初めてみた。和紙に丁寧に漆を塗り乾燥させるとできるのだが、火や水にも強い特殊な和紙というだけでなく、様々な表情を持つとても風情のある仕上げとなる。茶道の世界にも漆製品はたくさんあるが、一体どれほど昔から漆というものは使用されているのだろうか?

北海道の函館で発掘された漆が塗られた糸で編んだ装飾品や櫛状の髪飾り、腕輪などは年代測定の結果約9000年前のものだということが発見された。これは現在のところ世界で最も古い漆とみなされているそうである。このエリアから津軽海峡を挟んだ地域のあたりは9000年前から縄文末期の2000年前ごろまでの集落後が多数発見されていることから、縄文時代には漆製品が多く使用されていたことが予想される。縄文時代にには各地で栽培されていた漆の木であるが、今では漆かきを生業とする人の数も減りだいぶ減ってしまったようである。現在日本で使われている漆はその98%が中国を中心とした外国産で、国産の漆を復活させようとしている人が僅かに活動しているだけになってしまったようだ。

漆の木というのは10年から15年ほどで漆を採取できる状態となる。漆の幹に傷をつけ、滲み出てくる樹液をヘラで掻き取るのだが、一本の木から採取できる量はわずか200gほどだそうだ。ネットで検索すると100gの国産生漆が1万円以上で売られているが、この年数を考えると安すぎるくらいのような気もする。

物の値段の決まり方、つまり資本主義の失敗はこういうところに起きるような気がする。漆製品がプラスチック製品に変わり便利さだけが重要視されたときに国産漆の値が下がる、つまり需要と供給の原理だけに任せた結果なのだろうが、それが正しいとは限らないということだろう。こういうことは他にもたくさんあると思う。失敗に気がついてもそれを再生させることは結構難しいものもある。だからと言ってそのときに不要と思われるものに税金で補助をして生きながらえさせることが必ずしもうまくいくわけでもない。木曽アルテックのさんの漆製品は漆製品の可能性を感じるものばかりだ。当然、木曽漆器の産地だからこその発想だと思うが、素材を利用した他の製品への活用の可能性をデザインすることは、一見不要となってしまった製品の需給バランスを再構築してくれる可能性があると思うのである。漆という素材にちょっと興味を持ってみたいと思う。

キッチンなどの設備器具はコストに応じて適材適所の設計と選択を行うことが大切だ

2022/12/07

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
午後より埼玉県川口市にて設計中のYさんの家のキッチン打ち合わせのために、東京都小金井市にあるヤジマさんを訪問した。ヤジマさんは元々ステンレスのメーカーさんだったそうだが、今では多くの建築家が依頼する特注キッチンメーカーである。ますいいでもよく利用しているのだが、ステンレス天板の見付けの厚みを15mmほどの薄い表現にしたりのデザイン的お気遣いがとても嬉しいだけでなく、機能面でも長年の経験に基づいて積み上げたノウハウを生かしてくれるとても信頼のできる会社である。興味のある方はぜひ訪問してみてください。

さて、せっかくなので大工造作のキッチンにについて少々書く。ヤジマさんのようなメーカーはどうしても高いお買い物になってしまう。ローコストでこだわりのキッチンを作ろうとすれば、・・・その場合、大工造作がお薦めだ。大工造作のキッチンは基本的に箱を作るところから始まる。設計ではガスコンロを納められ、引き出しや扉を取り付けることができる箱のデザインを行うのだがこれには結構な経験がいる。箱ができたらその上にステンレスの天板を載せる。天板はステンレス加工屋さんに製作を依頼するのだが、ここでもコンロの穴や水洗金具の設置位置などを詳細に設計しなければいけない。天板を乗せたら、コンロや水栓を取り付け、扉や引き出しをつけたら完成となる。箱のデザイン時には最後のコンロとガス管の接続や給水給湯配管の結びができるような配慮も重要だ。こうしてできたキッチンもまたこだわりの作品だ。

キッチンメーカーと大工造作、もちろんキッチンメーカーの方が膨大な経験とノウハウを持っている分安心ができる。でもコストは少ないけれど安易な既製品にはしたくないという場合もある。キッチンなどの設備器具はコストに応じて適材適所の設計と選択を行うことが大切だと思うのである。

 

天井裏から現れるうねうねとしたダイナミックな梁は古民家再生のいちばんの魅力だ

2022/12/06

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
午前中、埼玉県川口市にて現在進行中の古民家再生工事の現場管理のためにスタッフの上原君と一緒に現場に向かう。今日は構造の山辺先生にお越しいただき、耐震補強方法についての検討などを行った。現場は古民家再生の第一段階、解体の工程である。天井や床、全ての土壁などを落としていくとその構造体があらわになっていく。天井裏から現れるうねうねとしたダイナミックな梁は古民家再生のいちばんの魅力だ。まさに心が躍る瞬間である。

 

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