泥団子を左官の世界で広めたのは、榎本慎吉という左官の名人である。テレビで見た時にもっと上手くできると研究を始めたらしい。土を団子状に丸め、表面を磨くと驚くほどに光る。写真に映るのは僕が磨いたものである。作り方を僕に教えてくれたのは、名古屋の加村さんだ。加村さん曰く、瓶で磨くとよく光るということで、チョーヤの梅酒の瓶を集めた。泥団子はその土の色になるのが面白い。土は岩石が粉々に砕け、有植物や生物と混じり合ってできるわけだが、それゆえに産地によって様々な色を見せてくれる。
土を磨くといえば、大津磨きがある。泥に石灰を混ぜてコテで磨くと光る。写真は先日完成した、東京都新宿区のNさんの家で沖縄の赤土を磨いた様子である。茶室のような和室の入り口、赤い色が生える。左官の奥深さは、この土の奥深さにあると言っても過言ではないのである。今は何でも合理主義の時代だから、色をつけるといえば簡単にペンキで塗れば良いとなる。確かにペンキで塗れば赤くなるが、そこに職人の存在する余地はない。日本はものつくりに魂をかける職人によって支えられてきた国である。どんな世界でも物を作る人々にはある種の「めりはり」と呼べるようなものがあって、だからこそたとえば桂離宮に見られるような職人の技が脈々と現代まで引き継がれてきた。今の世に生きる職人にも「めりはり」はある。少なくとも職人と呼べるような人の胸の中には確実にあるのだ。僕たち設計者はそれを発揮することのできる舞台を用意すれば良い。そうすると思いもよらない結果を出してくれる。この赤い磨きの入り口は、そんなものだと思うのである。