増井真也 日記 blog

越谷市のIさんの家では、土壁のセルフビルドを行った

2024/10/18

越谷市のIさんの家では、土壁のセルフビルドを行った。総工費が1000万円ほどで家全体の7割ほどをリノベーションするこということで、木摺や土壁の塗りつけ作業はものつくり大学の学生たちの協力を得て、そしてもちろんお施主さんも最大限加わってのセルフビルドを採用した。伝統構法でも素人仕事が向いている内容もあるし、左官技能者の高度な技能がなければ不可能なこともある。この木摺下地の中塗り土仕上げは、素人仕事としては少々難易度の高い仕事であったが、とても良くできたのではないかと思う。

今日は埼玉県蕨市にて設計中のSさんの古民家改修工事の構造について、構造家の山辺豊彦さんと担当の鈴木さんと一緒に現場の確認を行った

2024/10/17

今日は埼玉県蕨市にて設計中のSさんの古民家改修工事の構造について、構造家の山辺豊彦さんと担当の鈴木さんと一緒に現場の確認を行った。築約100年ほどの古民家に増築をされているという典型的な住宅を、増築部分の一部を解体・減築して最も古い部分を再生するという計画である。既存の構造の状況をチェックするために、天井の一部に穴をあけ小屋裏を除いたり、床下を除いたりの確認を二時間ほど行い終了した。写真は床の間の様子である。部屋の壁は土壁の上に黒漆喰磨き、とこの中は土壁の上に紅葉絵のある砂壁仕上げとなっていた。この部分は解体してはいけないなあと、保存する方向での計画とすることにした。それにしても、こだわりの左官仕事である。これだけの仕上げを職人にさせることができたということは、よほど目利きの施主だったのだろうと思う。

「漆喰磨き1合炊き竈」

2024/10/13

今日は名古屋の勇建工業さんにて、かまど作りの二日目。昨日の中塗土に漆喰を塗って磨いて仕上げる。こちらは仕上がった「漆喰磨き1合炊き竈」。1合のお米を固形燃料で美味しく炊くことができる。この写真は左官の加村さんの作品で、僕が作ったものは只今乾燥中である。ここまで上手に作れるはずもないけれど、練習に何個か作ってみようと思う。

竈のワークショップ

2024/10/12

2連休。今日は名古屋にある勇建工業の加村さんのもとに、竈のワークショップを行いに来た。

瓦に竈の大きさを示す四角を描く。
線の中に白セメント、珪砂6号、メトローズ少々、ハイフレックスを混ぜた下地材を薄く塗る。
その上に追っかけで土を塗る。
日干しレンガを土で接着しながら四角の線に内側に積む。(ここで数日乾燥させる)
ガイドをあてがって、出っ張っている部分を剣山で削り取る。
その上に土を中塗りする。(初めは薄く塗って、型板の形に合うように徐々に土をつけていく。)
しばらく乾燥させて、硬い鏝で綺麗に押さえる。(火窓の整え、表面の押さえ、面取りなど)

今日の作業はここまでである。このかまどは1号炊きの鉄鍋を使って、固形燃料でご飯を美味しく炊けるものだ。明日は二日め、漆喰の仕上げを習得する。いずれますいいのワークショップでも取り入れるので楽しみにしていてほしい。

この木の色が数年後には綺麗なグレーに変化する。こういう変化を経年美化というが、それが楽しみな素材である。

2024/10/05

今日は埼玉県さいたま市にて進行中のOさんの家の現場へ。この現場では電気配線や断熱材の施工などが進行中で、造作工事の完成に向けて何人もが作業をしている。写真は杉の化粧材を貼った様子。柾目の通った節のない綺麗な材料で施工をすることができた。全体的にはモルタル下地の上にジョリパット仕上げを採用していて、味わいのある左官仕上げになるのだが、玄関周りだけは杉板を採用している。この木の色が数年後には綺麗なグレーに変化する。こういう変化を経年美化というが、それが楽しみな素材である。

日本の家は明るすぎる。僕の家のリビングは、間接照明が中心であんまり天井についているダウンライトをつけることはない。

2024/10/03

茶室の壁に土壁を塗った話を数日前に書いた。その茶室の炉に炭を入れ、茶を点ててみた。もちろん炉開きの時期はまだ先であるが、試しに使ってみたいの気持ちはなかなか抑えることはできない。水指は萩、茶碗は黒楽、棗は黒漆の無地、花入には信楽を設えた。花は秋明菊に美男葛。余計なものを排除してみて土の空間を味わってみた。この部屋には一応照明がついているけれどそれを消してみるとわずかな自然光に照らされる方が美しいことがわかる。道具たちだけではなく、茶室の聚楽壁の表情もわずかな揺れ動くような明かりの方が、一つ一つの藁の様子がわかるような撫でものの優しい風合いが伝わってくる。

日本の家は明るすぎる。僕の家のリビングは、間接照明が中心であんまり天井についているダウンライトをつけることはない。夕食の時は蝋燭の光と、二つある間接照明の灯りを使うのだけれど、それに目が慣れてしまうと明るすぎる光は目が疲れてしまうようになる。バーの明かりが蛍光灯だったら嫌なのはみんな一緒だろう。でもなぜか家のリビングだとみんなめいいっぱい明るくしてしまう。北欧の家は総じて暗い。キャンドルとストーブの灯り、そしてわずかな間接照明が心地よい。

灯りの文化が日本にはないのか。そんなことはない。茶室にはそれがある。茶室に蛍光灯をつける人はいない、いないはずである、多分いないだろう・・・(一部の公民館などではそういう酷い事例を見ることもあるけど。)みなさんも思い切ってリビングにある蛍光灯を取り外してみてほしい。代わりに間接照明を二つくらい買ってみよう。それだけでもきっと灯りの魅力に気がつくと思う。

土間キッチンのあるこのスペースが玄関を兼ねている

2024/10/02

狭小住宅の設計では、いわゆる玄関スペースが無駄となる。昔の農家の家では、外部との出入り口のある土間の部分に炊事場があってそこで煮炊きを行った。いわゆる玄関土間スペースというものではなくって、半外部的な広間で水と火が使えるようになっていた。写真の住宅では、土間キッチンのあるこのスペースが玄関を兼ねている。家の目の前には畑スペースがあって、そこで採れた野菜をキッチンでそのまま料理することができるようになっている。目の前に見えるキッチンカウンターの天板のタイルはお施主さん自身がDIYで貼りつけたものだ。タイル貼りはセルフビルドの中でも簡単でお勧めだ。土間にはフレキシブルボードを敷いている。実はこの床の下には床暖房が入っているので、冬でも暖かく過ごすことができるよう工夫されている。

埼玉県の川口市にてリノベーションを行った古民家が「民家の再生と創造」という雑誌に掲載された

2024/09/28

先日、埼玉県の川口市にてリノベーションを行った古民家が「民家の再生と創造」という雑誌に掲載された。古民家再生をやってみたいと思って24年間の活動を行ってきたが、初めての古民家である。築年数は150年ほど、大きな蛇のような梁が印象的な住宅だ。都市部に残る古民家は地域の中に、昔が懐かしくなるような風景を生み出す資産である。こういうものの積み重ねで風土と呼ばれるようなものが定着し、地域愛のようなものも生まれのだろう。今の時代はモダン建築が沖縄でも北海道でもそして東京でも作られており、その結果等価な風景が日本中に、というより世界中に広がっていくわけだが、古民家の意匠は全く違う特異性があって、それが地域の定義づけにもなるのが面白い。沖縄の赤い屋根、東北の民家、高山の合掌、・・・失われていく風景の維持に少しは役に立つことができたと思う。

一部の富裕層のためだけに活動するのであれば関係ないが、そんな建築家には僕はあんまりなりたくない。今を一生懸命に生きる人々の暮らしを豊かにする設計についてほぼ9坪ハウスであるSさんの家を通して考えていきたいと思う。

2024/09/25

9坪ハウスという暮らし方がある。古くは戦後の物資が不足した時代に、建築家の増沢恂が若干28歳の時に建てた自邸である「最小限住宅」に由来する住宅の設計事例で、3間*3間の中にいかに生活のための設を施すかの工夫である。この最小限住宅は

・無理をせず、無駄を出さず、余計なことをしない
・簡単に手に入る安い材料をそのまま使う
・製品の寸法を尊重し、無駄を出さない
・少ない材料でつくる

というようなことを大切にして計画されたそうだが、今のような物価が上がっている時代にもそのまま当てはまる設計上の工夫であると思う。時代は色々と変化するわけだが、どんな時代の中でも人々は豊かな暮らしを手に入れてきた。そしてそういう工夫を時代に合わせて柔軟に行うことこそ建築家が住宅に関わる意味であるとも思う。一部の富裕層のためだけに活動するのであれば関係ないが、そんな建築家には僕はあんまりなりたくない。今を一生懸命に生きる人々の暮らしを豊かにする設計についてほぼ9坪ハウスであるSさんの家を通して考えていきたいと思う。

今日は左官の小沼さんと一緒にテラゾーの磨き作業を行った。

2024/09/18

今日は左官の小沼さんと一緒にテラゾーの磨き作業を行った。これは、自宅の床にペレットストーブを置くためのテラゾーを施工するという計画なのだけれど、なぜか僕が磨きをすることになってしまった。もちろん小沼さんの技術指導付きなわけだが、先日購入した磨きの機械を使えば素人も僕でも綺麗に仕上げることができた。以下がその様子である。もちろん種石の施工は小沼さんによるものである。緑色のガラスが蛇紋のように綺麗に輝いている。

京聚楽土なげすさ仕上げ

2024/09/17

今日は左官の小沼さんによる茶室の土壁塗り作業に立ち会った。今回の仕上げは京聚楽土なげすさ仕上げである。この技法は千利休が作ったとされている京都の待庵に用いられているもので、稲藁のはかまの部分を水につけて柔らかくしたものを土壁を塗ったところにコテで撫で付けていくというもの。出来上がると土壁からうっすらとすさが浮き上がるのが楽しみな仕上げである。今回用いた土は左官の上田さんから小沼さんがいただいたというとても古い土だ。その土に珪砂と藁を混ぜて、何年も寝かせた腐食土を入れて塗りつけている。古い土と腐食土の効果でサビが早く出ることを期待しているのだけれど、これは何年か待ってみないことにはわからない。写真は古い聚楽土と稲藁のはかま、そして引きずり仕上げのコテである。左官のコテは仕上げ方によってその形が色々とあってとても面白い。いずれ話をしたいと思う。

今日は裏千家の淡交会青年部の行事で群馬県の桐生市に訪れた

2024/09/15

今日は裏千家の淡交会青年部の行事で群馬県の桐生市に訪れた。近いようで、なかなか実際に行く機会のない街である。僕は今回初めて訪問した。桐生の本町は、徳川家康公が江戸に入城した天正18年(1590)ののち、代官大久保長安の手代大野八右衛門 によって「桐生新町」として新たに町立てされたそうである。約400年前、養蚕と絹織物の拠点として徳川家康公の命で作られたというが、養蚕業自体が衰退している現在は、人口減少が始まっている地方都市に特有の問題を抱えているようだ。

会場に使われた美喜仁桐生文化会館は坂倉建築研究所の設計とのことだが、よくもまあこの時代にこんな建築が建ったなあと思うような奇抜な建築であった。竣工は1997年、バブルが終わった直後でまだ予算がつきやすかったのだろう。今ではなかなか考えられない建築であるが、日本にもまたこんな建築ができる時代が来るのだろうか。建築はその国の国力を表す。最近の日本の経済状態では難しいかもしれないが、ドバイなど信じられないようなビルが建っている訳なので、日本だって経済が再興すればまたとんでもない建築が生み出されるのだと思う。

話は変わるが、この建物はオスロにあるオペラ座である。屋根の上を市民に開放するというアイデアが面白く、この国の活発な経済を象徴する湾岸エリア再開発の大規模建築である。この建築、奇抜ではあるが、でもなんとなく無理なく街に根付いているようにも見えるところが良い。この辺のバランスが文化度であり、知性なのだろう。再び日本経済が再興する時が来ても、是非こうした理性ある建築を生み出したいものだと思う。

 

 

ライカのBLT360

2024/09/06

今日は3Dスキャナーについての説明を受けた。この商品はライカのBLT360と言って、短時間で建物のスキャンを行うことができる。他にも色々とあるようだが、住宅レベルだとこの商品がおすすめとのことだ。従来のリフォーム現場では、二人で現地測量に行って、平面図や立面図、展開図を起こして、そこからリフォームの打ち合わせに入るのだが、3Dスキャンを利用すると測量の作業を一人で行い、そのデータに基づいて図面作成をすることができるようになる。さらに進むと、その点群データを利用しながらBIMの図面を書いて3次元設計をすることも可能となるわけで、これはなかなかの便利な代物だ。今回ご説明いただいた住友林業アーキテクノさんはこの作業をアウトソーシングでやってくれる、つまりスキャンから既存図作成までを依頼できるということだから、僕たちは建築家としての作業からスタートできるようになるわけでとても良いサービスだと思う。これもまた北欧研修で得た知見による対策である。やはり学びは大切なのだ。

豪雨対策のためのリフォーム

2024/09/02

今日は以前からリフォームのご依頼をいただいているHさんの家の調査へ。最近発生している豪雨の際に屋上のドレン排水がうまく機能せずに、家中が水浸しになるという事故が発生してしまったことに対する修繕工事の依頼である。屋上のドレン排水というのは、どうしてもゴミや葉っぱなどによって詰まってしまったりの事故が発生する可能性がある。ある一定の水量までは溢れることはないのだが、その屋根の構造によってはある水量が溜まってしまうと水が内部に侵入することになってしまう。Hさんの家では、緩勾配の板金屋根の上に水平なウッドデッキを構成するという珍しい屋上がある。(僕が設計したのではなくって、すでに亡くなられた建築家による作品である)板金屋根だから、繋ぎ目があるわけで、そこに水位が達したところから漏水事故が始まるわけだ。

ドレン排水の事故リスクを減らすには日頃のメンテナンスと、ドレンの個数を増やすことが有効だ。今後も予想される豪雨への対策をしっかりと計画して、これからも長く快適に住むことができる家にしてあげたいと思う。

放っておくと無くなってしまいそうな大切なもの

2024/08/29

今日は日本建築学会の全国大会に参加した。この全国大会というのは、建築の様々な分野に関してグループ分けをされ、そのセクションごとに発表者が5分間の発表を行うというもの。それぞれのセクションには交代で研究者が司会を行い、一つのセクションに十人くらいの発表がある。発表の後には質問が行われる、まあそんな流れだ。僕が発表したのは、社会システムの中のエコマテリアルである。今回のテーマは「貝灰の生産維持に関する研究」ということで、以前調査させていただいた大分県の有明湾で生産活動を継続している田島貝灰製造所さんについての発表を行なった。下の写真は赤貝である。有明湾で獲れる赤貝はとても有名だったが、環境の変化で最近はめっきり獲れなくなっってしまった。最近は代替え材料として蠣殻を利用しているそうだが、これもまた貝灰、多少の差こそあれ科学的には同じものだ。昔は全国各地で生産されていたものだが、最近は日本でここだけになってしまった。もしも生産をやめてしまうと、日本から貝灰がなくなってしまうのである。

この家は、Fさんが一人で暮らすために建てられた14坪の小さな平屋だ

2024/08/26

東京都杉並区にて進行中だったFさんの家が完成した。この家は、Fさんが一人で暮らすために建てられた14坪の小さな平屋だ。元々はご実家にお母様と二人で住んでいたのだけれど、お母様がなくなって、当時の庭に小さな家を建てることにした。ご実家にはお兄様家族が移り住んだ。当時の庭には写真左に映る梅の木があったが、それは新しい家のキッチンの窓からいつも眺めることができるように計画されている。内装は漆喰を採用した。勾配天井で開放的にしたことも平屋ならではの工夫である。

女性のための小さな平屋を僕はいくつか作ってきた。そしてそこにはいつも必ず同じものがあるような気がする。それは実際のものではなくって、でもとても大きな大切なものだ。そこにある大切なもの、それはご両親に対する思いである。実際にものがあるとすれば、それは遺影だったりするのだが、とにかく生まれ育った家や環境、そして何よりもご両親に対しての深い想いがあるからこそその土地に家を建て、住まい続けるのであろう。担当してくれた田中も女性、なんとなく気持ちが通じるところもあったであろう。この小さな家と梅の木、なんともお似合いの様子だと思う。

家族と過ごすことができる時間というのは永遠ではないのだ。今というこの瞬間を大切にしたい、なぜか北欧でそんな当たり前のことに気が付かされた。

2024/08/25

昼過ぎより、裏千家の埼玉県支部暑気払いに参加。浦和駅近くの銀座アスターにて二時間ほど過ごす。

終了後、埼玉県さいたま市岩槻にて古民家の再生を検討しているYさんの家の現場確認。すでにご両親がお亡くなりになって、空き家となってしまっている古い家である。周辺には所有する田畑もあるが、どれももう使う人がいない。せめて母屋だけでも健全な形で残したいという兄弟三人からのご依頼であった。所見だけではなんとも言えないので、平面図の作成および見積もりを行うことをご説明して終了した。

北欧を旅してなんとなくの心境の変化がある。それは家での過ごし方だ。これまで外で過ごすことが多かったが、家で過ごす時間を豊かにすることを僕自身も積極的に実践してみようと思う。元々料理は好きだ。日曜日ということで久しぶりに買い物に行って夜ご飯を作ってみた。家族と過ごすことができる時間というのは永遠ではないのだ。今というこの瞬間を大切にしたい、なぜか北欧でそんな当たり前のことに気が付かされた。

午前中は埼玉県さいたま市にて進行中のOさんの家の現場へ

2024/08/22

午前中は埼玉県さいたま市にて進行中のOさんの家の現場へ。お盆休み前に上棟したばかりの現場では大工さんたちが外壁下地や筋交の取り付けなどの工事をしている。約40坪ほどの現場で大工さんは3人、まあ作業は順調に進んでいくだろう。在来木造の現場では、構造に関係する筋交や金物の取り付けが終わると全棟第3社機関による検査を受けている。もちろん社員による検査も行うが、ダブルチェックによってさらに確実にするためである。柱の径は120mm,いわゆる4寸角である。土台と柱、筋交には檜を使用し、梁には杉材を使用している。間柱や窓台などの部材が取りつき始めるとだいぶ建物の形が見えてくる。これが終わるといよいよサッシの取り付けだ。お盆休みの台風直撃は何とか避けられたようだから、今のところ運が良い。早く雨仕舞いまで進めたいところである。

北欧建築紀行10

2024/08/19

今日はストックホルムで1日を過ごした。まず初めに足を運んだのが、ガムラスタンだ。ここには国家議事堂や王宮、教会などの古い建物が建ち並んでいる。観光に訪れたらまずいくことを勧められた場所だから、日本でいう浅草のような場所なのだろう。あたりには小さなアンティークショップやカフェ、レストランなどがたくさんある。午前中歩き通して見ていたが、流石に人混みに疲れ始めたので、少々休む。こういう都会歩きは元々あまり好きではないので最終日だけでたくさんだと思っていたが、やはり半日で満足してしまった。ストックホルムの唯一の目的地だったアスプルンドの図書館は改装工事中であるから諦めた。明日は帰国、夕方は海沿いの公園をジョギングして体調を整えた。

オスロとストックホルムは同じようで違う。ストックホルムがあるスウェーデンは工業国で、オスロがあるノルウェーの方は資源国家である。デザインはフィンランドとデンマークのものが多いようだ。北欧に来るまでよくわからなかったが、割と明確な差があって、それぞれがぞれぞれの立場で成り立っているようである。人口が少ない小さな国だから、英語と現地の言葉が混在していて面白い。ゴーセンバーグと言ったりヨーデポリと言ったり、同じ地名でも会話の中で異なる言葉が飛び交う。なぜ?と聞くと、小さな国だから色々なところで働かなければならないので、英語を自然に使用してしまうのだという。地主さんのトーマスがスェーデン語のヨーデポリと言い、大手の副社長だったJuniのお爺さんが英語でゴーセンバーグと言うのも頷ける。もしかしたらこう言うのも日本の未来の姿なのかもしれないなと思う。

今回の旅では、日本の企業と北欧でどのように幸福度が異なるのかを考えた。北欧が何もしないで幸福なのではなく、幸福度を高めるために非常に合理的な状態に変化する努力をしているから幸福なのだと言うことがわかった。設計のBIMは15年前から取り入れているという。工務店を営むトーマスも、土日働くなんてありえないと言っていた。工務店ではBIMこそ取り入れていないものの、3Dのプレカット図を構造材加工業者から受け取りそれに基づいて工場組み立てを予め行った壁パネルを組み立てるので、1日で外壁下地施工まで進んでしまうというプレファブ化を取り入れている。

電気自動車の普及率も非常に高い。充電する場所は至る所にある。特にノルウェーはスェーデンよりも多く感じた。キャッシュレス化については、現金利用を断る店が多く現金だけでは生活できないほどだ。というよりこの国に来るのに現金はいらないと思う。

バカンスに関しては、公務員など多い会社では9週間、短い会社でも7週間ほどあるという。これを夏と冬とその他に分けて取得するようだが、だいたい夏は4週間ほどお休みするようである。労働者の時間単位の管理も進んでおり、設計業務などは30分単位で作業内容を申告しているそうだ。5時に作業を終えるために、無駄なことは一切やらない。学生のバイトもインターンシップもしっかり賃金が発生するそうだからうかつに雇えないので、今は三人だけ頑張っていると言っていた。それでも仕事が少ない時には、僕の義理の弟の山田くんは知り合いの事務所の手伝いに出されるそうで、経営の厳しさも同時に感じた。北欧で学んだ様々なことを、ますいいの経営にバランスよく取り入れていきたいと思う。以上で旅の報告を締めくくる。

北欧建築紀行9

2024/08/17

翌朝、工務店のトーマスさんが迎えにきてくれた。冬はマイナス20度になる厳冬の環境の中で快適に過ごすために温熱環境に関しては格別の取組がある。基礎工事が終わったら、ベタ基礎の上に家中に行き渡るように床暖房の配管をする。この時に給水や給湯管も敷設する。それらの敷設が終わったら、全てをコンクリートで埋めてしまう。立ち上がりの基礎というものはないから、この床暖房のすぐ上に床が貼られることになる。これまでどのアパートに泊まっても建物全体が暖かかったわけがわかった。全館床暖房が夏でも機能しているのだ。そのベタ基礎の上に2×7であらかじめ作られている壁を建てていく。7インチだから壁厚は結構厚い。これも日本の付加断熱のように高い断熱性能を出すための厚さであろう。あらかじめ外壁まで貼ってあるものを自前の工場の中で作っているのだが、構造材だけはプレカットを使用しているそうだ。少し変わっているのは、建物の真ん中に電気給湯器を置くことである。日本でいうエコキュートのような給湯器を家の真ん中に置き、この一台で床暖房もシャワーもキッチンの給湯も行っている。ここで沸かしたお湯が家中を行き渡り、そしてシャワーやキッチンから排出する。日本でもエコキュートを床暖房やお風呂のお湯に利用する事例があるが、それほど普及はしていない。まあ、東京周辺では冬よりも暑すぎる夏をどうするかの方が大きな問題であるから、それも当然であるが、冬の間の快適性はこちらの方が断然良いように思えた。

家の価格は430㎡で16000000KR、つまりは坪185万円である。この価格にはキッチンや暖房システムも含まれている。少々高いが、この事例では先ほどのエコキュートではなく、地熱を利用する熱交換システムが含まれている。すべてのものの値段が日本の1.5倍程度だからまあこんなものだろう。大工さんは四人いるそうだ。設計は大きな家は外注で、小さな家は自分で設計するという。家づくりの仕組みは日本と似ている。CADソフトにBIMは使用していない。これもまたますいいと同じである。お土産に日本の左官屋さんが作ってくれた竈門をプレゼントしたのだが、とても喜んでくれた。こちらでも暖炉などを手作りで作る習慣は残っていて、その表面には漆喰のような素材が塗られている。僕が設計した茶室が掲載されている本にもとても興味を持ってくれたようだ。何か仕事でも交流ができれば良いと思う。

会社見学を終えて、トーマスのヨットに乗ってのセーリングを行った。スウェーデンのフィヨルドはまるで湖のように波がない。多少の風が吹いても日本の海とは全く違う。バーバーにはとても多くのヨットやボートが係留されている。しかもこちらでは日本のように高額の費用は必要ないそうだ。海ではちょうどディンキーのセーリング大会が開かれていた。たくさんの小さなヨットの間を縫うようにトーマスのヨットが出航し、一時間ほどかけて小さな島に着岸した。島に上陸し、散策、バーベキューを楽しんで穏やかなひと時を過ごした。ハーバーに戻ったのは夜の10時ほどであろうか。日本では考えられない時間であるが、あたりは少し暗くなったかなというくらい、さすがは北欧の夏だ。

北欧建築紀行8

2024/08/16

今日は電車に乗って約三時間の旅である。途中でバスに乗りついで一時間、半島の西側野町ヨーデポリから反対側にあるニュシェーピングの町まで移動した。ストックホルムから車で一時間ほどのところにある小さな町である。ここは僕の娘が1年間ステイさせていただいた町だ。この町で農業を営みながら、土地の一部を開発して分譲している工務店さんの家とその親戚の家に1年間ステイさせていただいた。この日はすでに遅かったのでのんびりと過ごす。

北欧建築紀行7

2024/08/15

翌朝はバスに乗ってJUNIの家があるKullavikへ。バス停でJUNIのお母さんと待ち合わせをして、車で30分ほど南にあるトレッキングコースに向かった。ここには日本でいう古民家園のようなところがあって、スウェーデンのとても古いスタイルのまま営業している農園がある。人々は手作業でバターを作ったり、牧草を運んだり、この古き良きスタイルを楽しみながら働いている。いわゆる観光農園のようなものだけれど、古民家の見学にはちょうど良い施設である。古民家は石の上に柱を建て、柱と柱の間は太いログのような材木を積み重ねている。以前見た三内丸山遺跡の縄文建築とも似ている。どこの地域であったとしても、同じような気象条件であれば、人が最初に思いつく形というのはそんなに変わらないのかもしれない。屋根の上に草かもしくは石は吹かれているものが多いようだが、一つは土が乗せられていて本当に草が生えているものもあった。こちらではとてもよく見る構法である。野山はちょうど紫色の花が綺麗に咲き誇っている時期で、辺り一面がまるで絨毯のように染められている。岩が露出している独特の風景は日本にはあまり見ないものだ。湿地帯だが気温が15度程度で、空気はとても乾いているので快適である。今日のコースは6キロほどの短いコース、一度だけ休憩をはさんで終了した。

Juniの家に着くと、近所の海にあるサウナに。こちらではサウナと海がセットで作られていることが多いようだ。サウナに入り、海に飛び込む。あまり日本ではできない体験である。

夜はJuniの家でパーティーを開いてくれた。お父さんは元々シェフをしていたというから料理の腕は本物である。サーモン、ポーク、カリフラワー、どれもとても美味しくいただくことができた。

 

北欧建築紀行6

2024/08/14

朝食を済ませると、電車に乗ってヨーデポリの街まで移動し、JUNIのお祖父さんが所有するアパートへ。荷物を解いて街に出ると、昼食と街歩きをしながらゆっくりと過ごした。途中、ヨーデポリの世界的な建築家、イェルト・ウィンゴードの事務所を案内してもらう。スタッフが100人務める大手事務所である。事務所の進行中のプロジェクトだけでなく、食堂や、シャワールーム、マッサージ室などの福利厚生施設も見学させていただいた。これは見習うべきところがたくさんある。ますいいでも取り入れていきたいと思う。

北欧建築紀行5

2024/08/13

今日はオスロからバスに乗ってスウェーデンのヨーデポリへ約3時間かけて移動した。ここは我が家に1年間ホームステイしていたJUNIちゃんの街である。ターミナルに着くと、JUNIとお母さん、そしてお祖父さんが迎えにきてくれている。そこから車で40分ほど走った所にある海沿いにあるお爺さんの家が今日のステイ先だ。家は海の目の前にある。知人の建築家に設計したもらった素晴らしい家だ。オーストラリアのグレン・マーカットのような環境住宅であるが、これは酷暑の日本でも参考にしなければいけない。家の前の海には桟橋があり、そこには小さなボートが係留されている。ランチを済ませて約一時間ほどのクルージングを楽しむと、この国のフィヨルドの地形がよく理解できる。ヨーデポリのフィヨルドはノルウェーのそれと比べてなだらかだが、氷河の影響が比較的弱かったことや、その後の河川の活動や地殻隆起などが影響しているためだそうだ。フィヨルドの地形が緩やかだから、周囲の環境とも調和した景観が形成されている。海はとても穏やかで、水面は鏡のようだ。古びた桟橋がとても絵になる。夜はザリガニパーティーである。海で獲れたものだから全く臭みが無く食べやすい。ワインにザリガニ、これがスェーデンのスタイルだそうだ。

北欧建築紀行4

2024/08/12

朝は目の前に走るトラムの音で目が覚める。オスロには縦横無尽にトラムが走っている。町中に乗り捨ての自転車やスクーターがあって、アプリで自由に使用できる。支払いは100%クレジットカードか電子マネー、現金は街中で見かけることはない。ホテルの前の乗り場からトラムに乗って、しばらく行くと図書館についた。ここの図書館はヨーロッパでも最も成功した事例と言える。6階建てのデパートのようなビル全体が図書館として機能するのだが、至る所に読書を楽しむことができるスペースが用意され、飲食エリアではお弁当を楽しむこともできる。建物の中心には大きな吹き抜けがあり、その周りを囲むようにエスカレーターで上がり降りする。最上階には巨大な階段状のスペースがあり、その段差を利用して設けられたスペースで、いかにも学生という若者たちが思い思いにパソコンを開いて勉強している。そして園から眺めるオスロフィヨルドの景色は最高だ。そういえば川口市にも駅前図書館があったことを思い出した。ここがヨーロッパ一の図書館だとしたら、川口の図書館も意外と悪くないなあと、もう10年前に亡くなった岡村幸四郎市長を思い出した。彼もきっとどこかで素晴らしい図書館を見たのだろう。

続いて隣にあるオペラ座に向かう。この建物は屋上まで上がることができるスロープがあって、観光客が自由に建物の上を歩くことができるようになっている。オペラという高尚な趣味を楽しむ場を、すべての人に解放したことに意味があるという。

このエリアには最近ムンク美術館が作られた。海岸に沿ってサウナ船が浮かんでいて、そこではおそらく地元の人々がサウナを楽しんでいる。仮設の浮き橋が作られ、その向こうにはいかにも高級なマンションが建ち並ぶ。この浮き橋を木造の橋に新設する計画を山田君は現在担当しているらしい。街中ではほとんを目にすることがない建設現場、そして開発のエネルギーを感じる場所だ。

オスロの街はAkerselve川の東側と西側で雰囲気が変わる。ニューヨークのマンハッタンとブルックリンのような雰囲気だろうか。川の東側は移民が多く住んでいたり、安い家賃に惹かれて若者やアーティストが集まっていたり、建築学校があったり、そして山田君が働いている設計事務もあったりする。東京で言えば銀座や青山、赤坂、麻布などに対する、三元茶屋や中目黒などの存在だ。12時、山田君の働くオフィスを訪れた。オスロでは設計から現場管理までBIMを早くから導入している。ヨーロッパの中でも早い方で15年くらい経つというから驚きだ。使用ソフトはアーキキャドである。

ヒアリングによると、この国のBIM(Building Information Modeling)は、設計サイド・現場サイドの両方で使用されていた。

1.統合設計の推進

協働設計: BIMは複数の設計者が同時に作業できるプラットフォームを提供し、建築、構造、設備の各専門領域が統合された設計を進めている。これにより、設計の初期段階から全体の整合性が確保され、設計ミスや情報の齟齬を減少させている。

リアルタイムの変更反映: 設計変更がリアルタイムでBIMモデルに反映されるため、設計者は即座に変更の影響を確認し、迅速に対応できる。

2.設計検証とシミュレーション

エネルギー効率と環境分析: BIMを使用して、建物のエネルギー効率や環境負荷のシミュレーションを行うことで、設計段階での環境性能の最適化が可能。

構造および耐震性のシミュレーション: 構造設計の段階でBIMモデルを使って構造解析や耐震性シミュレーションを実施し、設計の妥当性を確認できる。

3.視覚化とプレゼンテーション

3Dモデリングとレンダリング: BIMは3Dモデルを活用し、クライアントやプロジェクト関係者に視覚的にわかりやすい形で設計を提示できる。これにより、設計意図の理解が深まり、意思決定がスムーズになる。

4.コスト管理と見積り

数量拾いとコスト算出の自動化: BIMを用いることで、設計図面から自動的に数量を拾い出し、コスト見積りを行うことが可能。これにより、設計段階でコストの過不足をチェックし、予算内での設計を進めることができる。

5.品質管理とコンストラクタビリティの評価

設計の干渉チェック: 建築や設備の各要素が互いに干渉しないか、BIMモデル上で自動的にチェックできる。これにより、現場での手戻りを防ぐことが可能。

施工性の確認: BIMモデルを使って施工段階での作業性や建設可能性を事前に評価することで、設計の実現性を高めることができる。

6.データの管理と情報の共有

設計情報の一元管理: BIMはすべての設計情報を一元的に管理できるため、プロジェクト全体での情報共有がスムーズになる。また、BIMモデルはプロジェクトのライフサイクル全体にわたって利用可能で、運用・維持管理にも役立つ。

関係者とのコラボレーション: BIMクラウドプラットフォームを利用して、設計者、施工者、施主間でリアルタイムに情報を共有し、コミュニケーションを円滑にできる。現に山田君の事務所では最近はほとんど現場に行かないで現場管理をしているそうである。

以上がBIMに関する現状である。これは日本でも取り入れなければならない。アーキキャドを使用した設計ということで、ますいいでも取り入れる可能性を感じた。

次はリノベーションの現場における3Dスキャンの利用法だ。大型物件ではすべて外注で3Dスキャンによる図面を作成してから作業に入るという。昔は自分たちでスケールを用いて採寸していたが今は絶対にやらないそうだ。労働時間を分単位で計測されるような職場で、クリエイティブな仕事をしている様子を見ると、僕たちにもまだまだできることがあるという気になってきた。

最近のプロジェクトについてヒアリングをしていると、設計事務所を経営するStyan氏が打ち合わせから戻ってきた。少し時間があるというので一緒に食事をしにレストランに向かう。建物は250年前に建てられた古民家をリノベーションしたものである。何が食べたいかと聞かれたので、お任せすると生の牛ひき肉が出てきた。見たことのない様相に驚くも、これはとても美味である。小さなグラスに1杯だけビールを飲みながら、49歳のStyan氏と会社の経営などについて話し合う。ちょうどますいいと同じような規模の仕事が多い三人だけの小規模事務所ということで、しかも工務店経営に興味があるらしいから、自然と話しが合う。次は日本での再会を楽しみにしよう。

北欧建築紀行3

2024/08/11

翌朝、小屋を出て車で1時間ほどのところにある登山口へ向かう。今日は往復六時間ほどの軽い山歩きだ。山といってもほぼ高低差はなく、景色を楽しみながらのハイキングといった感じだ。日本だとアルプスにあるお花畑といった風景だが、それが永遠に続いている。日本では見たことのない自然を楽しむことができた。

この国には意外な格差があるようだ。特に純粋なノルウェー人と移民との間にはなかなか埋めることができなそうな差を感じる。小人口の移民国家。移民をうまく取り入れながら国家を成り立たせているのだから、本質的な差はあって当然だろう。でもノルウェー人も移民の側も幸福度はとても高く、国民は幸せを感じている。僕が最初に乗ったタクシーのドライバーはソマリアから来た移民だった。結婚して子供が四人、たくさん稼がなくてはいけないと言いながらもその顔は充実していた。この充実感は一体なんでなんだろう。日本にはありそうでない充実感である。思いつくことを並べてみよう。

政治家は総じて若い。制度は時代に合わせてコロコロと変わる。例えば、ペットボトルや牛乳のプラスチックの口は外れないようになっているのだが、これは法律でプラスチックゴミが拡散しないように決められたということである。アルバイトやインターンシップにも労働基準法が厳しく適用され、日本のように無給のインターンシップは無いそうだ。

贅沢品はとても高い課税がされる。アルコール度数が4.5%以上のお酒は政府直営の店でしか買えない。泥酔のような行為は厳しく取り締まられる。教育や医療が無料の高福祉国家、でもそこには様々な制約があり、それは若い政治家によって合理的に作られている。日本では簡単に見捨てられそうな学生のインターンシップにもきちんとした保護を与え、お金持ちのスウェーデン人からはお酒を買うたびに高い関税を取り、それを福祉で移民を含めた全員に平等に還元する。この感覚が高い納得感を生み出し、それが幸福度につながるのだ。この感覚は会社経営に似ている。国家もこんなふうに経営できるのかという驚きと、それに比べた日本の劣悪な状況に対する嫌悪感が浮かんでくる。やはりなんとかしなければいけないのだ。

北欧建築紀行2

2024/08/10

朝9時にアパートまで迎えにきてもらい、山田君が運転するTOYOTA RAV4でリレハンメルに向かった。この街は冬季オリンピックが開催された街で、日本人もここでメダルを撮っている。冬はカントリースキーのメッカで、それを目当てにした人が集まってくる。街に入ると多くの観光客で賑わっているが、皆ノルウェー語を話しているようだから外国人ではない。この街はオスロから車で一時間30分ほど、つまりは軽井沢のような場所なのである。

街には高級別荘が立ち並んでおり、丘の上の方に行くとこぢんまりとした山荘が建ち並んでいるエリアがある。誰かが所有し、使わないときは貸し出しているそうだ。あらかじめ妻の妹のマサちゃんが予約してくれていたので、今日はこの中の一軒に泊まることになった。

それにしても絶景である。素晴らしい景色の高原を羊がゆっくり歩いている。姿は見えなくともあゆみに合わせて首につけたベルがなっているのだ。その音が近づいてくるとやがて姿が見える。羊たちはこちらを気にするでもなく、草を食べ続けている。小さなログハウスは玄関を開けるとすぐに15畳ほどのLDKとなり、真ん中に水回り、反対側には寝室が3部屋というシンプルな作りだ。LDKの中心には薪ストーブがある。ここは夏でもとても涼しい。今日の気温は朝が4度、昼間でも10度ほどしかない。早速ストーブに火を入れると部屋の中が温まってくる。薪は使いきれないくらいにストックされている。窓は全てペアガラス、ログハウスでも断熱材はしっかり施工されている。途中で見た工事現場の解説を山田君にお願いしたら、こちらの木造の壁厚さは250mmが標準だそうだ。そこに50mmの配線スペースを取り、外側の200mmにセルロースなどの断熱材を入れるらしい。

夕方になると近所のスーパーで貸し出しをして、夕食を作る。山田君は僕がますいいを作って2年目に採用した初めてのスタッフである。歳は僕より2歳若い48歳。ますいいには6年間勤めてくれて、しかも住まいはますいいの庭にセルフビルドで作ったコンテナハウス、そこに6年間すみ続けたから、普通のスタッフとは違う感覚が湧き起こってきて自然と会話も弾み始めた。ワインやジャガイモのウィスキー(AKEVITT)などを楽しみながら和やかなひと時を過ごしていると、なんだか人生は面白いなあと思う。独立したばかりの頃、あんまり余裕がなくって見えなかった山田君の人柄が見えてくる。そしてマサちゃんは本当に良いパートナーを見つけたなあと思えてくる。そもそも山田君はマサちゃんから紹介してもらったのだ。山田君がますいいを去って18年目の再会であるが、これからはこういう機会を大切にしていきたいと思う。

北欧建築紀行1

2024/08/08

つい先日までスウェーデンからの交換留学生を1年間我が家で預かっていた。まるで家族のように過ごしていた日々も終わり、逆にスウェーデンに留学に行っていた僕の次女も戻ってきて通常の暮らしに戻ったのだが、今度は僕と妻を含めた数人でノルウェーとスウェーデンを訪問することになった。初めの目的地はオスロである。ここには僕の会社で6年間ほど勤めて、妻の妹と結婚した山田くんが設計事務所をしながら住んでいる。わずか500万人の暮らすとても豊かな国における設計事務所のあり方とはどんな様相なのか、そのまま日本に移植することは到底できないとは思うが、それでも日本で働くスタッフたちが少しでも良いと感じるものを掴んで帰りたいと思う。

そもそもこの国は、500万人でどのように経済が成立しているのだろうか。ノルウェーは石油と天然ガスの豊富な資源を活用し、国全体に富をもたらしてきた。この収益は、教育、医療、社会福祉などの公共サービスに投資され、国民の生活水準を高めている。社会福祉制度は、失業、病気、老齢などに対するセーフティネットが非常に充実している。また、政府に対する国民の信頼が高く、政治の透明性や腐敗の少なさが特徴でもある。さらに無償の教育制度が整っており、全ての子供たちが質の高い教育を受けることができる。そしてノルウェーは自然が豊かで、美しい景観に囲まれている。このことも幸福感には大きな影響を与えている。
主な外貨の獲得は以下の方法による。

1.石油と天然ガスの輸出

2.漁業と水産業

3.海運業

4.金属と鉱物の輸出

5.観光業

6.ソブリンウェルスファンド(政府年金基金)

現地について1日目、今日は時差の疲れもあるのでスーパーで買い物をしてホテルでゆっくり過ごしたのだが、こんな短い時間でもITを利用した無駄のない効率的な動きについては目を見張るものがあった。まずは空港前のタクシーの手配、これは初めて利用する僕でも困らないくらいにわかりやすい機械があって、そこで予約をすると車によって異なる料金表が出てきて、選択すると数分後にその車が来るという仕組みである。スーパーのセルフレジの普及も日本より進んでいるようだ。ホテルのチェックインも完全無人である。

この国の住宅産業は国の基幹産業となっている。オスロで家を建てると1億円を軽く超えるという。地方土地でも数千万円はするようで、それを国民の50%弱が所有しているというから日本に似ている。木造住宅が中心で、地域密着型の工務店がそれを供給しているのも同じ、さらに環境配慮型の住宅が中心であることも同じである。まあそもそも日本が真似をしているのだから当然なのだ。

屋根裏空間の面白さは、小屋組にある。

2024/07/23

屋根裏空間の面白さは、小屋組にある。この建物では登り梁を構造用合板で固めて剛性を持たせた屋根による小屋裏空間に、写真のような魅力的な部屋を作った。奥は寝室として利用され、手前の方はワークスペースになっている。急勾配の屋根ならではの空間の質、なんとなく懐かしさを感じるまるで昔のアニメのワンシーンのような世界である。

今日は昨年行った古民家再生工事の外壁の土佐漆喰のひび割れ補修を行った。

2024/07/17

今日は昨年行った古民家再生工事の外壁の土佐漆喰のひび割れ補修を行った。漆喰などの素材はどうしてもひび割れるものだが、補修することも意外なほどに簡単である。ただ少しコツが必要で、普通の素材を塗り込むというよりは、微粒子状になったものを刷り込むような作業が必要だ。土佐漆喰の場合は、水でねった土佐漆喰のあまと呼ばれるペースト状のものを刷り込むようにしてひび割れの中に入れ込み、すぐに固く絞ったスポンジで拭き取れば出来上がりとなる。簡単だけれど、コツがわかるまでは、すぐに固まってしまう土佐漆喰のスピード感についていけなくて戸惑う作業だ。一時間ほどの作業を経て終了。クライアントのYさんにはお茶までご馳走になってしまった。感謝である。

 

とても良い家ができたのでご紹介する

2024/07/13

今日は東京都でつくった螺旋階段の家の撮影に立ち会った。

1階にはアトリエ、2階にはLDK、ロフトには茶室が設られている。車が入ることができない狭小地での工事ということで、鉄骨の階段を切断して再接合するなどのとても苦労した住宅である。仕上げは漆喰をセルフビルドで仕上げている。高い勾配天井と空を望む開口部のおかげで、内部はとても伸びやかな空間が実現できていて、心地よく過ごすことができる。とても良い家ができたのでご紹介する。

長い建築人生で久しぶりに感動するものを見させていただいた

2024/07/12

今日は地域主義工務店の会の建築見学に参加した。この建物は東京都某所にある音楽室である。浮き屋根の荷重を受けるための束が開口部に沿って並んでいるのかと思ったら、実は屋根荷重は全てこの細い斜材を伝わって柱に直接かかっているとのことであった。この斜材、実は先端が細くなり鉄製の受け材に包み込まれるようになっている。角は微妙に削り込まれ、繊細なフォルムを作り出している。
驚くことに、この形態を提案したのは設計者ではなく担当した大工であるという。その提案を受け入れた意匠と構造の設計者が編み出した鉄の無垢材からの削り出し接合金物、長い建築人生で久しぶりに感動するものを見させていただいた。

左官技術研究 テラゾーその2

2024/07/10

左官技術研究 テラゾーその2

今回のテラゾーはもう少し現代的なデザインの表現をイメージした。使用骨材は以下の通り。

ニアガラブルー5mm
ニアガラブルー1mm
セメント(上記3種各1:1:1)
大理石(蛇紋石)ハンマーにて破砕(鏝押さえ後にばら撒き、叩き込み)

今回は大理石を購入し、ハンマーで叩き割ってばら撒いているのでとても綺麗な緑色が出ている。とはいっても大理石が石灰岩の変成した岩石であるのに対し、蛇紋岩は、かんらん岩、閃緑岩、斑レイ岩などの深成岩が変成した岩石で、大理石とは組織が根本的に異なる。この石は台湾蛇紋と言って、建築建材の世界では大理石の一種とされている。
日本にも関東蛇紋という製品があった。これを生産していてた秩父の鉱山はすでに営業を停止しているのだが、その背景には緑色の綺麗な石が取れなくなってきたという事情があるようだ。
基本骨材のニアガラブルーはブルーグレーの綺麗な表現ができるのでおすすめだ。用途としては、玄関土間や薪ストーブの下部の耐火床などに合いそうである。

埼玉県蕨市にて古民家再生を検討中のクライアント打ち合わせ

2024/07/08

午前中は川口茶道会会議に参加。埼玉県の川口市を中心に活動する茶道の先生が流派を問わず集まって、文化の継承のために頑張っているとても良い会である。とはいえ他の団体同様にだいぶ高齢化が進んでいて、僕が最年少とまでは言わないけれど下から2番目、50歳を目前にして駆けずり回っているような状態である。今日の会議の会場は「ステーキやるじゃん」なる川口の名店だ。高齢化だけれどハンバーグ、だから元気なのだ。なんとなく「青春とは人生のある期間ではなく心の持ち方を云う」、というサミュエル・ウルマンの言葉を思い出した。人生100年の時代である。ここにいる先生方は皆青春真っ盛りなのだ。僕も負けずに頑張ろうと思う。

午後、川口中央図書館にてチルチンびとの寄贈。最近の図書館は図書の購入予算が削られているらしく、とても喜んでいただいた。僕は図書館という場所が好きだ。お金をかけずにあらゆるジャンルの本を読むことができ、しかも涼しくて、居心地が良い。いろんな人がいて、それぞれのいろんな時間が流れている。なんともゆったりとした時間が流れている場所なのだ。

夕方、埼玉県蕨市にて古民家再生を検討中のクライアント打ち合わせ。お盆前には植木屋さんが入るので、その後からプランの打ち合わせを始めようと思う。

ミクロの文化は個人によって作り維持することが可能であるということを裏千家の活動を通して知った

2024/07/07

今日は裏千家の淡交会青年部という会で出会った仲間と共に七夕の茶事を行なった。12時席入りということで、9時過ぎには席主と水屋のメンバーがますいいリビングカンパニーのモデルハウスに集まった。席主、料理担当、半東とともに前回の茶事で指名されたメンバーである。高価な道具組を競うようなものではなく、手作りの茶事を楽しむ、そんな嗜好で続けている会である。

11時40分ごろ、お客様到着。12時席入。前回はかまどのご飯の水の量を間違えてしまい硬いご飯を柔らかくすることに苦労した。今回は席主が使い慣れたガスコンロで使う現代かまどを持ち込んだが、席主が忙しくてまたもや失敗、結局前と同じように硬いご飯を柔らかくする作業である。中高時代の山岳部で培ったこの技術、今こうして役に立っている。風炉の茶事は久しぶりである。故にところどころ間違いながらの進行となったが、これは次回への反省だ。

僕の地元は京都でも鎌倉でもない、川口市である。歴史や伝統文化が色濃く残る地方とは異なり、東京のベッドタウンとして高層マンションが建ち並ぶ近代都市だ。どこも同じ大型店舗に、チェーン店、なんとも悲しい限りだが、こういう街を作ったのは他でもない私たちなのだ。確実に経済原理によって作られていく街の大きな流れを変えることは困難である。しかし、ミクロの文化は個人によって作り維持することが可能であるということを裏千家の活動を通して知った。僕の活動など本当に小さなものだけれど、これからも継続していきたいと思う。

今日はテラゾー仕上げという左官技術のワークショップを行った

2024/07/05

今日はテラゾー仕上げという左官技術のワークショップを行った。ご協力いただいたのは濱井さんという左官職人さん、ものつくり大学の非常勤講師の先生である。ますいいではモデルハウスのキッチンにもこの技法を取り入れているが、混ぜる種石の色などにより様々なバリエーションが出せるだけでなく、小さな面積ならセルフビルドも可能な技法ということで楽しみである。30cm四方のタイルにすれば、好きな文様のタイルを玄関土間などに貼ることも可能だし、もう少し大きな直方体を作れば椅子の座面などにすることもできるから、その利用方法も無限大だ。昔の小学校などにあった手洗い場の仕上げ、というとなんとなく思い出す方も多いだろう。

テラゾーは、イタリア語で「テラス」を意味し、18世紀にイタリアで初めて使用された技法である。以下にその特徴を示す。

素材
大理石やガラス、石英、花崗岩などの小片(骨材)を使用
骨材はセメントに混ぜて使用

見た目
カラフルでモザイクのような見た目が特徴。
骨材の色やサイズを調整することで、様々なデザインが可能。

耐久性
非常に丈夫で、長持ちする素材

メンテナンス
日常の掃除は簡単で、水と中性洗剤で拭くだけで十分。
定期的な再研磨やシーリングを行うことで、長く美しい状態を保てる。

環境への配慮
リサイクル素材を使用することができるため、環境に優しい。

こちらが研ぎ出した後の見本の様子である。今回は関東蛇紋という石が入っているが、この文様だとちょっと昭和な感じがするので、次はもう少し現代的なデザインにしてみようと思う。

土壁の美はランダム、アバウト、ノープロブレムな出来事の中にある

2024/07/04

土壁の仕上げは千利休が草庵を作ったところから始まる。利休以前の土壁は、縄文時代の竪穴式住居の土間、荒壁、泥小屋、版築、土塀、竈門・・・それらは土地に住むものの用としてただ存在していた。利休は初めて土壁の中に美を見出した。それは内面化された美として侘び寂びの世界の鑑賞の対象ともなった。

土壁の美はランダム、アバウト、ノープロブレムな出来事の中にあることを小林澄夫さんから聞いた。
ランダムとは土壁を形成する自然素材にはバラツキがあること。
アバウトとは土壁は水仕事で風によって固まるものゆえ、その素材も過程も自然のあり雪でできるものであるから大雑把でおおらかであること。
ノープロブレムとは土地壁が下地、中塗り、仕上げとゆっくりとしたプロセスを経ていくため、その過程で自由に変化しうること。土壁は職人にも自然にも開かれているのだ。

リフォームの現場で木ずり土壁中塗り仕上げを採用した。土は左官職人さんの指導を受けながら、スタッフの久保くんとクライアント、そして学生の手によって塗られた。木ずりの上に調湿作用が豊富な約12ミリの土が塗られているから、とても心地よい空間が出来上がっている。土は淡路島の半田、砂は名古屋の城陽砂を採用した。あとは藁しか混ざっていない。この部屋は寝室である。本来最も環境を良くしたい部屋を土壁にすることができて本当に良かったと思う。

小沼さんに作ってもらった大切な左官の塗り見本を一列に並べたり、本棚に向かって仕事をすることができるようになったりと、なかなかの居心地である

2024/07/01

今日は事務所1階の普段僕がいるスペースの改修工事をした。全部で8坪ほどのスペースを半分に区切る腰壁を撤去し、壁に棚板を設置した。棚板は、日光の田村材木店さんから杉の厚板を送ってもらったものである。全体を広く使うことができるように、4mのトチの木のテーブルの向きを長手方向に変え、16人のスタッフ全員が一堂に座って会議をすることができるようになった。工事の内容は大したことはないけれど、小沼さんに作ってもらった大切な左官の塗り見本を一列に並べたり、本棚に向かって仕事をすることができるようになったりと、なかなかの居心地である。さてさて次はなにをしようかな。

住宅設計は面白い

2024/06/26

住宅設計とはなんだろう。建築というのはその土地に建つものだから、まずは敷地の状況を確認する訳だけれど、僕のように埼玉県や東京都の仕事が多いと周りにはなんらかの建物が建っていたりするわけで、やっぱり自分が設計した建物が建った後にその町の雰囲気が良くなるような住宅を作りたいというのが一番ではないかと思う。そしてやっぱり住宅設計を考える時には、そこに住まう人のことを一番に考える。そこに住まう家族が幸せに暮らすことができるような家は一体どんなものだろうかの思考がとても大切であると思う。

大学1年生の時の設計課題に「お母さんのための家」というものがあった。一番大切な存在の象徴としてお母さんを人物を課題にしたのだが、自分のお母さんだったら趣味や家での過ごし方などを最もよく理解しているから、施主にとっての良い家とはを考えるにはとても良い課題だと思う。そしてそれを最初の設計課題でやるということもまたとても大切であると思う。

実務においてはある日、目の前にとあるご家族が現れる。そこには必ず奥様がいる。独身の方の場合でも、同じように女性のクライアントがいる。男性だけの独身の家は滅多に建てない。僕の人生の中でも1軒だけだ。でも女性の一人暮らしの家はすごく多い。だから目の前にいる女性がどんなふうにこの家を使ってくれて楽しんでくれるかがいつもテーマになる。民泊をしながら一人暮らしを楽しみたいという人もいるし、家族4人でゆったりと暮らす家で自分の工房を持って制作や販売をしたい人もいる。ご両親が亡くなった後に自分を取り戻すために家を作りたいという人もいた。家づくりは色々な理由で行われるのだ。その色々な理由に寄り添って考える時間が最もやりがいのある、そして楽しいひとときである。、という理由はこれであろう。建築になんらかの力があるとしても、その力がわかりにくくなってしまった現代社会において、住宅だけは変わらずにその力を持ち続けている。それは住宅が個人にとってはもとも深い関係のある建築だからだと思う。だからこそ住宅はやめられないのだ。

(さんかくの家ドローイング:この住宅は離婚をしてしまったお母さんと娘さんのための住宅である。ギリギリの予算しかない中で、こだわりの薪ストーブを配置して、まるで包まれるような空間を実現した。お嬢さんは成人し、結婚。そしてお母さんは再婚してこの家を出て行った。新しい住まい手もますいいで探して、そのご家族には新しい命が誕生した。そして次はさんかくの家の娘さんから住宅の設計を依頼されている。家づくりとはこんなふうに誰かに寄り添うことなのだと思う。先日久しぶりにさんかくの家の最初の住まい手と飲みに行った。きっと一生こんなふうにたまに飲みにいく、そんなお付き合いになるんだろうと思う。)

今日は出展していた窓計画の講評会ということで、早稲田大学名誉教授の石山修武先生、東京大学の加藤耕一先生、早稲大学の中谷礼仁先生が批評をしてくれた

2024/06/23

早朝、滋賀県立美術館に向かう。今日は出展していた窓計画の講評会ということで、早稲田大学名誉教授の石山修武先生、東京大学の加藤耕一先生、早稲大学の中谷礼仁先生が批評をしてくれた。

この窓計画展は石山先生によって集められた建築家、工務店、彫刻家による展示である。山本理顕さんのような巨匠から、上海で都市計画家として活躍している趙城埼さん、東北大学の藤野さんや、明治大学の門脇さん、石山先生のお弟子さんの渡邉さんや佐藤さん、坂本龍馬記念館の高橋さん、・・・・・なんとも豪華な顔ぶれの中で工務店代表として選ばれたのが僕たちであった。作品の制作には名古屋の左官の加村義信さんが協力してくれた。最後には優秀賞の表彰までいただくことができた。大変良い経験をさせていただいた石山先生には心より感謝である。この経験を活かして、今後は今まで以上に建築の創作活動に邁進していきたい。

銘木屋さんにはそういったものが一切無い。代わりにあるのが床柱や細い丸太、とてつもなく厚くてでかい板、うねうねと曲がった丸太、黒柿が製材されている乾燥中の板・・・建築を設計している人でも和室や茶室などを作ったことがいない人だと、どんなふうに使って良いかわからないようなものばかりが立ち並んでいる

2024/06/20

今日は東京都新宿区にて建築中のNさんの家のお施主さんと一緒に、川越にある川越名木センターさんにお買い物。この銘木センターさんは僕が和室を作る時に必ず訪問する材木屋さんで、小江戸川越の数寄屋を支える大切なお店である。

銘木屋さんというのは材木屋さんの中でもかなり特殊な形態だ。普通は柱や間柱、床板や棚板、合板をはじめとする新建材などを扱うのが材木屋さんの商業形態なのだが、銘木屋さんにはそういったものが一切無い。代わりにあるのが床柱や細い丸太、とてつもなく厚くてでかい板、うねうねと曲がった丸太、黒柿が製材されている乾燥中の板・・・建築を設計している人でも和室や茶室などを作ったことがいない人だと、どんなふうに使って良いかわからないようなものばかりが立ち並んでいる。でも僕のように茶室を作っているものからするとここは宝の山である。木を見ていると、この材料でこんなふうに使いたいなあの様子が頭に浮かんでくるわけで、あとはお財布と相談しながらの検討をする訳である。今日はお目当ての赤松がなかったので仲間の名木屋さんを探してもらうことにした。さてさてどんなものが出てくるか楽しみである。

(写真:僕の自宅の茶室床の間・床柱は赤松・床框は檜の錆丸太)

こんなふうに建築を好きになってくれた若者たちが、ずーっと建築を好きで働き続けることができるような会社を運営し続けることができたら、どんなに素晴らしいことだろうと思う。

2024/06/19

今日は大阪芸術大学から4年生が就職活動兼会社見学に来てくれた。とてもセンスのあるポートフォリオの作品たちを見ていると、建築学科を心から楽しんできた様子が伝わってくる。こんなふうに建築を好きになってくれた若者たちが、ずーっと建築を好きで働き続けることができるような会社を運営し続けることができたら、どんなに素晴らしいことだろうと思う。

始めた時は自分が好きなことをして生きていくことができる場であったますいいリビングカンパニーである。今では20名弱のメンバーが共に働いている。するとここはすでに自分のための器ではなく、社員が好きな家づくりを行いながら幸せな人生を過ごすことができる場、つまりは公器であると思うのである。

最後にますいいに就職したいという思いを聞いて、なんだか胸が熱くなった。若者が夢を抱いて全力投球できるような職場であり続けるよう頑張ろうと思う。

窓計画展に展示している作品について

2024/06/16

窓計画展に展示している作品について

日本の四季
土佐漆喰に硝煙を混ぜて着色した壁に、同じく土佐漆喰を用いて稲穂と蛙、そして蜻蛉を描いた作品。窓の中には入れ子状に大津磨きの赤い箱があり、その内部空間には貝殻を焼いて作った製作途中の貝灰が展示されている。

キッチンで料理、当たり前の光景だけれどちゃんと使ってくれているんだなあの感である

2024/06/15

午前中、埼玉県川口市の小さな土地の購入を検討しているSさんご夫妻打ち合わせ。この土地は以前ますいいで住宅を建てた敷地のすぐ裏にある。敷地の下見に行った時に、その家を見ていたらお施主さんがキッチンで料理をしていた。建てた家での暮らしを垣間見れたような気がして、なんとなく嬉しい気持ちになった。キッチンで料理、当たり前の光景だけれどちゃんと使ってくれているんだなあの感である。

敷地は古い家が建っている正方形に近い土地である。ここに18坪くらいの小さな家を作る予定だ。少し前に9坪ハウスというものを作った。これは最小限住宅という名作を現代版にアレンジしたものである。小さいけれど豊かな暮らしをデザインしたいと思う。

高い断熱性能と機密性能を実現し、第1種換気を取り入れることで高機能な住宅を計画した

2024/06/08

11時、埼玉県さいたま市にて設計中のOさんの家の地鎮祭を執り行った。幸いお天気も良く、とても良い地鎮祭をできた。この現場にはアクセサリー工房を兼ね備える住宅が建つ予定だ。長い敷地に合わせて、中庭を配置してその向こう側にリビングを作った。高い断熱性能と機密性能を実現し、第1種換気を取り入れることで高機能な住宅を計画した。現在確認申請中、いよいよ来月からは工事に移る予定である。

今日は朝から川口市の錫杖寺さんにて行われた茶会に参加した

2024/06/01

今日は朝から川口市の錫杖寺さんにて行われた茶会に参加した。滋賀県の信楽という街から、杉本貞光さんという陶芸家が来て開いた茶会である。僕は主にお点前の係、1日で4回ほどのお点前をした。杉本さんは今年で89歳になるそうだ。信楽というとたぬきの置物が有名だけど、あれは天皇陛下がいらっしゃるのに合わせて作った記念品らしい。僕の家でも妻が隣町の、蒲生町の出身ということもあり、2匹のたぬきが玄関の前に居座っている。信楽という街は、瀬戸・常滑・越前・信楽・丹波・備前の6つの窯で作られる六古窯の一つで、町中に陶器屋さんが立ち並ぶけれど、近年はなんとなく元気がないようだ。僕も一年に一度は足を運ぶが、なんとなく人手が少ないなあという気がしている。杉本さんはそんな中で、多彩な技能で全国各地の焼き物を焼いている。もちろん土はご当地の土を取り寄せるそうだ。信楽の一つの時代を作るパワフルな作家さんである。ご一緒できて本当に光栄であった。

水や砂・藁すさを良い塩梅で混ぜ合わせ塗りつけると、求める風合いを出す左官仕上げとなる

2024/05/28

土壁を作る場合、竹小舞下地を使用している伝統建築物は別として、一般木造住宅の場合、下地には杉の細材を釘打ちした木ずり下地を使用する。最初の層には半田という漆喰まじりの中塗土か漆喰を塗り、さらに中塗り土を薄く塗り重ねていく。場合によっては、中塗土に麻紐を釘に結びつけた尺とんぼや井草を伏せこんで補強する。これで仕上げとすることもできるが、上塗りを施す場合は仕上げ用の細かい藁を混ぜた上塗り土を塗って、ふわっと軽やかに仕上げる。

木ずりというのは飛鳥時代から続く下地の一つである。杉や檜の細材(厚さ15mm、幅30mm)を9mm間隔で釘打ちし、この上に約30mmほどの土や漆喰を塗って壁を仕上げる。土壁の土は、下塗土、中塗土、上塗土の三種類がある。下塗土はその土地で取りやすい粘土混じりの土で、関東では荒木田が有名だ。中塗土は下塗りと同じ土か、地場の粘土を使用する。上塗土は聚楽土や稲荷山土のような良質の土を篩に通し、最も細かい粒子にして使用する。どの土も水・適切な大きさにほぐした藁すさ・砂を混ぜて醗酵させて使う。

土壁は自然界に存在するものだけで塗られている。左官職人の高い技能によって、水や砂・藁すさを良い塩梅で混ぜ合わせ塗りつけると、求める風合いを出す左官仕上げとなる。カタログで選ぶ工業製品にはない、職人の手による仕上げの無限の広がりがあることこそ、土壁の魅力といえるだろう。

今日は古民家の構造補強についての考察を行った

2024/05/22

今日は古民家の構造補強についての考察を行った。築100年程度の古民家の場合は、その構造体が大きく歪んでいたり、基礎がなかったり、シロアリの被害を受けていたり、などの諸問題を抱えている場合がほとんどである。元旦に起きた能登半島地震においてもこうした古い住宅が数多く倒壊してしまった。そしてその中には多額の予算をかけて耐震補強がなされていたものも含まれていたようである。補強をしたのに倒壊、これは大変な問題だ。

僕が昨年おこなった古民家再生の現場では、山辺先生の構造計算を受けながらの補強工事を行なった。補強の基本的な考え方は現行の筋交工法により固めるというものである。開口部をなるべくそのまま残すことができる限界耐力計算という手法もあるが、今回の能登半島地震の結果を見るとやはり筋交を使用する方が強固な構造を実現できることが予想されるので、お寺などその要望に強い意味がある場合でなければ採用するべきではないだろう。古民家の小屋組はまるで3階建てのように高いこともあるので、そのような場合の補強には写真にあるように小屋組の補強も重要である。こうすることで屋根にかかる地震力を基礎まで伝達することができるからだ。古民家らしさを残しながらも有効な補強を行うことで、能登半島地震の時のように壊れることがない、強固な構造体を実現することこそこれからの古民家再生に強く求められることだと思う。そのためには意匠設計者も構造に対する理解を深めることが大切なのである。

今日は大宮氷川神社での献茶式、茶席のお手伝いをするはずだったがそれも叶わず

2024/05/19

なんだか風ぎみである。数日前の古民家宿泊の後くらいから症状が現れてきたが、その前に母が同じような風を引いていたのでそれをもらってしまったのかもしれない。いつもは鼻風邪を引くタイプなのだが、今回は喉が痛くなって咳が出て、、、まだ一度もかかったことのないコロナかなあとも思ったものの検査結果はコロナでもなく、つまりはただの風邪である。それにしてもこんなふうに風を引いたのは久しぶりだ。

今日は大宮氷川神社での献茶式、茶席のお手伝いをするはずだったがそれも叶わず。朝一番で顔を出して早々に引き上げることにした。体を思って動かない日々、これはこれで悪くない。家の模様替えでもしようかな・・・、結局動き出してしまう。

 

今日は愛知県新城市にある古民家にお邪魔した。

2024/05/16

今日は愛知県新城市にある古民家にお邪魔した。ここは名古屋の左官型工務店である勇建工業の加村さんが親しくしている民泊になる予定の古民家で、この度はチルチンビトの撮影があるということで見学させていただくことになったわけである。行きの電車ではお迎えの関係で新城駅ではなく本宿駅に降り立った。どちらにしても初めての駅だ。駅前に高校生の女の子が一人段差に座りながら本を読んでいる。他には親子連れが切符を買っている。普段利用している川口駅には無数の人がいるけれど、こういうふうに人が少ない駅を利用するのはなんだか久しぶりだ。しばらくすると加村さんが来るまで迎えに来てくれた。約一時間のドライブで現地に着いた。

古民家のすぐ横には割と大きな川が流れている。見渡す限りここしか家がないようだ。名古屋にマンションを持っているとはいえ、猪や鹿が暮らす谷間によく移り住んだものだ。湿度がとても高い場所なので、家のメンテナンスは大変そうだけれど建築関係のご夫婦が丁寧に手を加えながら住み継いでいる。ちょっと勇気がいるけれど、なかなか理想的な田舎暮らしである。

夜は奥様の手料理をいただきながら日本酒。しばし団欒を楽しむ。12時ごろ2階に上がって布団を敷くと、川のせせらぎを聞きながら横になる。なんだかキャンプに来ているようだ。

朝目を覚ますと、目の前の窓一面に新緑のカーテンが広がっている。これがいちばんの驚きだった。

ますいいのモデルハウスの洗面所と浴室には檜がふんだんに使用されている。

2024/05/13

ますいいのモデルハウスの洗面所と浴室には檜がふんだんに使用されている。この浴室は腰から下の部分だけがユニットバスというハーフユニットを使用しているので、仕上げの選択は在来浴室ほどではないにしても比較的自由度が高い。天井に見えるのは檜の羽目板である。洗面室から浴室までひとつながりの天井とすることでのびやかな空間を実現している。壁にはタイルを貼っている。洗面台は人造大理石で作ったシンク一体型のものを大工さんが作った造作家具の上に載せている。建具などは栗の無垢材を使用して建具屋さんに作ってもらった。その対面には杉のパネル材で作った収納棚がある。洗面室の壁は漆喰塗りなので、調湿作用があって良い。水回りはお掃除のしやすさなどの利便性とデザイン性の両立が大切であるが、この事例はとてもよくできていると思う。

倒れた杉の切り株には自分の名前と書いておく。倒れた木の枝を持ち帰り、2年ほどかけて苗を育て、いずれこの切り株の周りに植樹をすれば森の再生の完成だ。

2024/05/09

栃木県の鹿沼市にある高見林業さんと日光市にある田村材木店さんとの協力体制で、自分の家の木を伐採して自分の家を作る機会を作っている。全ての木を自分できるわけにもいかないので、あらかじめほとんどの木は伐採してもらうわけだが、家の化粧梁や大黒柱に使う木を一本だけ自分自身で伐採する。もちろん安全のために木こりさんたちが総出で手伝ってくれる。樹齢100年を超える木にワイヤーをかけ、チェーンソーで鋸目を入れるとやがて耐えることができなくなった木がゆっくりと傾き始め、ドーンという大きな音を立てて地面に倒れる。その様子は圧巻で、思わず涙が出てくるようだ。

倒れた杉の切り株には自分の名前と書いておく。倒れた木の枝を持ち帰り、2年ほどかけて苗を育て、いずれこの切り株の周りに植樹をすれば森の再生の完成だ。まるで家の故郷と感じることができるような山ができるのである。まるで商品のように売られている住宅だってこういう木一本一本が組み立てられてできているわけだけれど、僕たちの世界は、そういう当たり前のことが分かりにくくなってしまっている。この世界が持続するためには何をすればよいかを考えるためには、見えにくいものを見ようとすることが必要だと思う。

竹をこんなふうに自由に使う発想はなかなかできない

2024/05/08

昨日から京都に来ている。今回は裏千家の今日庵というお家元の暮らす茶室にて茶事に参加させていただくという機会に恵まれ、参加させていただいているのだが、これはなかなかない本当に貴重な機会である。今日庵というのは裏千家を代表する茶室のことを言うのだが、僕たちの間では今日庵や又隠を含む裏千家茶道の建造物群のことを指すことが多い。つまりは家元である。

その昔千利休が切腹を命じられ、京都にあった千家の屋敷などはその全てを没収された。その後に利休の子、少庵が上洛を許された後、本法寺前屋敷にて活動を再開した。その後息子の元伯宗旦が家の再興に務め、その三男の江岑宗左に不審庵を譲り、その屋敷の北側を自身の隠居屋敷と定めるのだが、その時に建てた隠居屋敷が二畳の今日庵や四畳半の又隠であった。「隠居の2畳敷、但、1畳半を、残りは板畳也、中柱有之、但ヌキハ無之候」と言う詳細からも、これが今日庵であることがわかる。

今日はその今日庵を含むほぼ全ての茶室群を案内していただき、その後お茶事と言う流れであったが、実はこの建築群は平成の大改修を終えたばかりである。改修工事の前からみたことはなかったけれど、このように新しくなった姿を見ることができたことは何よりであった。2畳の狭い空間を構成する部材は非常に線が細い。各所に竹が使われているのにも感心した。竹をこんなふうに自由に使う発想はなかなかできないのだ。こんな茶室を作ってみたいなあの感であった。

(写真:裏千家今日庵の茶室建築・淡交社より)

 

今日は福島県にある赤面山に登った

2024/05/05

今日は福島県にある赤面山に登った。この山は那須高原にある茶臼岳から続く三本槍野崎にある山で、茶臼岳にはたくさんの人が登っているけれど、すぐ隣なのに人がいない穴場だ。スキー場が廃業した跡地を登っていくと、リフトの降車場が廃墟のように現れる。廃業してだいぶ経つらしいが、すぐにでも動き出しそうな様子だ。山の中に残る建造物の解体工事には多額の費用を要するわけで、倒産したスキー場が壊せるはずもなくそのままになっているのだろう。先日上野の国立博物館でみた縄文の石器や鉄器などは数千年も前のものが出土し、展示されている。そう考えるとこのスキー場の廃墟も、きっと今から何百年も後になって人類最盛期の遺跡として鑑賞されるのかなどと変なことを考えながら通り過ぎた。

僕が彫刻家と組むのは、まだ見ぬ「あったら良いな」を生み出すためである。

2024/05/02

今日は東京都八王子市にある彫刻家、青野正さんのアトリエにお邪魔した。6月11日から24日まで、滋賀県立美術館にて「窓計画」という共同展示に参加するのだが、今回はその作品についての打ち合わせである。青野さんとは、鉄でできている移動式の茶室の床の間を製作している。床柱は鉄の小さな板に縄文的な文様を書き込んだものを積み上げて作っている。軸をかける枝のようなものも鉄製だ。

彫刻家と建築のコラボレーションは面白い。コンな床柱を作ろうと思ってみても、通常の貨幣価値の世界では作ることは困難である。一人工いくら✖️日数の世界では、アートは成り立たない。そして建築はアートの世界と資本主義の世界の両方に存在している。この展覧会の仕掛け人は石山修武先生である。青野さんも石山先生に紹介された。小さな断片を積み上げた結果出来上がる建築的なもの、そこに明確な用途を貼り付けた。置床である。茶会をやるときに必ず必要で、決まったデザインのものしか存在せず、なんか面白いものないかなあの「置床」である。もちろんバラバラにして運ぶことができるようにした。茶碗の如きすでに作者がたくさんいる世界を汚そうとは思わないが、あったら良いなを作るのは誰の邪魔もしないので良い。僕が彫刻家と組むのは、まだ見ぬ「あったら良いな」を生み出すためである。あと1ヶ月、時間がないのでこれからは急ピッチで作り上げて行く予定だ。完成したらまたご報告しよう。

玄関のドアノブは僕が彫刻刀で彫り上げ、ベンガラを塗って仕上げた。

2024/04/29

今日は20年ほど前に東京都板橋区で造ったさんかくの家のクライアントであるTさんのお嬢様が、結婚、出産を経て家族と暮らす家づくりの相談にきてくれた。親子2代にわたる家づくり、なんとも嬉しいご相談である。

さんかくの家は小さな三角形の土地に建つ直角三角形の住宅である。Tさん親子が二人で暮らすための小さな家だけれど、とてつもないこだわりを持って造り上げた。都内の狭小住宅だけれど薪ストーブがある。予算も厳しい中で本当に薪ストーブなどを入れるのかと何度も聞き返しながらも、これを無くしたら家を建てる意味がない・・・というTさんの熱意に押されて設置することにした。階段などは鋳物屋さんを営んでいた僕の父に格安で手作りで造ってもらった。玄関のドアノブは僕が彫刻刀で彫り上げ、ベンガラを塗って仕上げた。三角形の先端には三角形のモルタルのお風呂を造り上げた。出来上がってからも何度かスタッフをお招きいただいてのパーティーを開いた。たくさんの思い出が詰まった家づくりである。Tさんが出ていってしまった後はR不動産を通して新しい住まい手が受け継いでくれた。そしてそのためのリフォームもますいいで行った。そこにはまた小さな命が生まれ、スクスクと育ち始めている。一軒の家を巡る物語が僕の脳内でぐるぐる巡る。さてさて、どんな家を造ろうか、とても楽しみなお仕事だ。

写真は東川口にある「千ひろば」というスタジオである

2024/04/20

午後、東京都世田谷区、三限茶屋駅のご近所で3階建ての住宅を検討しているOさんご夫妻と打ち合わせを行った。敷地は20坪ちょっとの狭小地である。木造3階建て、将来は1階でお菓子作りの工房を営むご予定ということで、それに適した住宅を検討されているとのことである。

ますいいではこれまでもカフェや絵画教室、ダンススタジオ、美容室、バレエ教室、レストラン・・・、実にさまざまな用途を併用した住宅を造ってきた。ただ単に住宅を作る場合と違って、プライバシーや来客の導き方、そこで行われることがやりやすい建築の形を見つけ出すことなどなど、気をつけなければいけないことは格段に増える。多くの場合は柱の少ない大空間を望まれるので構造家との協働も大切だ。写真は東川口にある千ひろばというスタジオである。ここでは主催者の島根さんを中心にアートセラピーなどの活動をされているが、隣に建つ古民家と素敵な庭があって、とても魅力的な空間となっている。住まいとコミュニティーが共存する建築の形はとても面白いと思うのでこれからも色々と作り続けたい。

今日は川崎大師にて開催されるご供茶なる会に参加した

2024/04/14

今日は川崎大師にて開催されるご供茶なる会に参加した。こんな言葉自体を聞いたことがない方が多いと思うが、つまりは仏様に濃茶と薄茶をお供えするという行事である。そしてそれに合わせて茶席を設け、参加した客は本殿で行われるご供茶を見るだけでなく、さまざまな団体によって用意された3席の茶席にも回ることができるというしつらえだから約半日がかりでの茶道イベントというわけだ。

僕はこういうイベントが好きである。この手のイベントには多くの客が来るが、それにも増してこのイベントのおかげで日本文化の支え手である多くの作家が作品を売ることができる。これが重要だ。日本という国にはアートやデザインが価値を持つ文化が希薄である。ゆえに芸術家と呼ばれる人々は生活することもままならない現実がある。「貨幣的な価値が全てと捉え、心の価値を失った民族は滅びる。」と言ったイギリスの哲学者トゥインビーの言葉の通りに、この国は大切なものを失っているような気がするが、そんなことを言っても世の中が変わるわけではない。明治時代に輸入された西洋芸術の市場が形成されないことは仕方がないとしても、江戸時代から続く大衆文化が消え去ることはとても寂しい事だ。しかし茶道の世界では茶会が開催されるたびに、そのテーマに合わせた掛け軸が売れ、茶碗が売れ、棗が売れる。つまりはそれを作った作家に暮らしの糧が与えられるのだ。このままにしておくと消えてしまうそうな儚いものを守りたい、この国の芸術文化もその一つであると思う。

この協働事業は高見林業さんが丹精込めて育てた木を伐り、田村材木店で製材して、ますいいリビングカンパニーの家づくりに使うという取り組みである。

2024/04/13

今日は埼玉県さいたま市にて進行中のOさんの家の木を伐りに、栃木県鹿沼郡にある鷹見林業さんを訪問した。家の木を伐りに山に行く、そんな取り組みができたらいいなあと23年前にますいいリビングカンパニーを作った時から考えていた。中学、高校と山岳部に所属していたから山には親しみは感じていたけれど、伐採の現場というとまた話は別である。登山道を歩いていても伐採を見ることはほとんどない。山の仕事というものを肌で実感する機会というのは都会人にはなかなか得ることはできないのだ。だからこそ家づくりに使う木がどこでどんなふうに育てられているのかに興味があった。育てた木を自分で伐って家を造る、とても素晴らしい取り組みである。

家づくりに従事して早24年目である。24年目にして栃木県鹿沼市上粕尾にある高見林業さん、そして栃木県日光市にある田村材木店さんとの協働の機会を得た。高見林業さんは粕尾の谷にある江戸時代中期から10代にわたって続く林業家である。この粕尾の谷には現在140世帯ほどの方が住んでいるが、その多くが林業などの山に関係する仕事についているそうだ。今の時期は桜が綺麗に咲いていて、思川にはヤマメを釣る釣り人の姿がちらほら見える。6月になると鮎釣りの人がどっと増えてくるそうだ。この会社は齋藤さん親子で経営されている。二人とも東京農大を出た林業のエリートだ。まるでくまモンのようなどっしりとした元柔道家のお二人に育てられた木はとても良質の杉や檜である。田村材木店さんは日光で100年続く製材所を持つ材木屋さんである。こちらは日光東照宮に程近い場所にある。この協働事業は高見林業さんが丹精込めて育てた木を伐り、田村材木店で製材して、ますいいリビングカンパニーの家づくりに使うという取り組みである。

この取り組みでは施主は山に行って家の梁や柱に使用する代表的な木を自ら伐採する。自分の家の木を自分で伐るのである。お清めをして、ワイヤーを張って、チェーンソーで伐るのだが当然自分だけでできるはずはないので木こりさんたちに手伝ってもらう。はじめに倒す側に切り込みを入れて、次に反対側から鋸目を入れていくのだが、ある程度深く入ったところで木が耐えられなくなって倒れだす。周りに立っている木々の枝にあたりながら倒れだすと、空から折れた枝が降り注いでくる。この時は何度見ても感動する瞬間だ。樹齢100年を超える木が倒れると、その小口には水が滲み出してくる。手を当ててみると、本当に濡れている。春は木が水を吸う時期なのだ。

高見林業の木はSGEC認証材である。定められた7つの基準を満たす事業者が認証を受けて生産する木である。そして認証材をしっかりと非認証材から分別して製材出荷するという認証を田村材木店さんも受けている。つまりこの取り組み下ではSGEC認証材だけが現場に入ってくることになるので、家の骨組みとなる柱や梁の全ての産地が明確になるわけだ。高見林業さんから田村材木店に運ばれた木々にはSGECのタグがついている。これはまるでカニの足についているタグのようだが、産地と伐採の履歴を証明するものである。

SGECの7つの基準を以下に示す。この基準は、モントリオール・プロセスを基本に、日本の森林の自然的・社会的立地に即して、持続可能な森林経営を実現するための国際性を持った基準で、森林管理に関する環境、社会及び経済の分野を網羅した基準である。
基準1 認証対象森林の明示及びその管理方針の確定
森林を適正に管理するためには、森林を所有する権利や利用する権利が明確にされ、更に、森林の管理状態が帳簿類で整理されていなければならない。また、森林管理に当たっては、その方針と計画が確定され、更に、その方針と計画について定期的な見直しが行われ、常に森林の管理レベルの向上が図られるよう努めなければならない。

基準2 生物多様性の保全
森林を管理する上で、「森林の豊かさ」を保つことは大切で、「森林の豊かさ」の指標となる多様な生物群が共存できる森林生態系が保全されなければならない。森林の中に生息する生物種は、動植物から微生物に至るまでお互いに関係し合って生息しており、生物種に応じた森林の取り扱いが行われなければならない。また、貴重な種が生息する場合には特別な配慮を行わなければならない。

基準3 土壌及び水資源の保全と維持
森林がもたらす恵みの中で、水資源の供給と土砂の流出防止は重要である。特に、森林は水源を守り、清浄な飲み水をつくり、海をも豊かにする。このような森林の恵みが保持されるように、伐採や林地開発など森林の利用に当たっては十分に注意が払われなければならない。

基準4 森林生態系の生産力及び健全性の維持
森林から得られる多様な機能や資源が長期的に安定して享受されるためには、伐採、更新、保育、間伐などが注意深く行われなければならない。また、病害虫や山火事などの森林災害に対しては、対策が常備されていなければならない。

基準5 持続的森林経営のための法的、制度的枠組
森林管理の実行に当たっては、森林生態系の保護・保全や森林に関連する権利、健康、労働・安全・衛生及び等森林管理に係る国内法はもとより、国際条約等を遵守されなければならない。また、地域社会や先住民族(アイヌ民族)の伝統的、文化的、慣習的な権利等は尊重されなければならない。

基準6 社会・経済的便益の維持・増進及び地球温暖化防止への寄与
森林が緑の循環資源としての役割を果たし、産出される認証林産物が、様々な用途に有効に活用され、地域雇用の拡大や地域経済の振興に資するように努めなければならない。また、森林がレクレーション等市民に自然に触れ合う機会・場所を提供するとともに、入山者に対する環境教育、安全などの指導及び対策が整備されるよう努めなければならない。更に、森林の管理・整備・利用が、地球温暖化防止に寄与する二酸化炭素の吸収・固定源として貢献できるよう努めなければならない。

基準7 モニタリングと情報公開
森林の状況は絶えず変化しており、また、森林管理計画の実行の状況についてその影響を評価するために、モニタリングを定期的に実施し、その結果について、公表されそれぞれの地域の情報として共有されるとともに、森林の管理方針・計画の実行及び改定に反映させなければならない。

今日は剣道場の専門業者さんを訪問した。

2024/04/01

今日から新年度が始まった。世の中がなんともソワソワし出す時期である。新入生、新入社員、皆人生の門出を迎えて歩き出す時だ。ますいいにも二人の新人が参加してくれた。ますいいリビングカンパニーは住宅の設計を楽しみながら生きていくことができる数少ない会社である。学校を卒業して住宅の設計が好きでそれを仕事にしょうとしても、独立して設計事務所を営む以外に方法はない。アトリエは勉強する場ではあるが、そこで生計を成り立たせることはできない。ハウスメーカーでは設計などできるはずはない。ますいいリビングカンパニーは設計を学ぶことができ、それを自分自身で主体的に管理して作り上げることができ、しかも目の前にいる施主さんに喜んでもらうことができる、本当に恵まれた場であると思う。二人も一人前の設計者となれるよう精一杯頑張ってほしいと思う。

今日は剣道場の専門業者さんを訪問した。なんともニッチな世界であるが、剣道の先生のこだわりの床を作り上げる情熱に感服であった。柔らかすぎず、硬すぎずの微妙な感触を特殊なゴムを用いで生み出すのだ。これはなかなか真似できるものではないな。

今日は石山修武先生の傘寿のお祝いが鳩山会館にて開催された。

2024/03/30

今日は石山修武先生の傘寿のお祝いが鳩山会館にて開催された。会場には伊豆松崎町の方々や、石山研究室OBの方々など総勢100名程度が参加していた。石山先生を知らない方もいるかもしれないのでご説明すると、ますいいリビングカンパニーの生みの親である。工務店機能を兼ね備える設計事務所というのは石山先生から生まれた形態だ。住宅建築においては、建築家が独りよがりの美術作品を作るのではなく、一人ひとりの施主に寄り添って施主による工事参加や設計への参加を受け入れながら、一緒に家づくりを楽しむような建築家であるべきである、というのが石山先生の考えだ。そしてそれを社会の中で初めて実践したのがますいいリビングカンパニーというわけなのだ。当時のますいい本社の建設を担当していただいた土谷さんは、大成建設の設計部である。23年ほど前の懐かしい面々と再開できたとても心地よい時間であった。

終了後の建築イベントとして建築家の佐藤研吾氏を招いてのミニ講座と、ますいいのスタッフ全員とのディスカッションを行った。

2024/03/29

今日は1年に一度の経営計画発表会を開催した。2024年度はますいいリビングカンパニーがスタートして30年の節目となる。僕が2000年から住宅部門を立ち上げてちょうど24年目、これまた節目となる年なのである。24年というのは長かったようで、でもあっという間でもあった。石山修武先生との協働で立ち上げた工務店機能を兼ね備える設計事務所としてのモデルは、アレクサンダーの言うアーキテクトビルダーに通じる新しい住宅建築と建築家との関わり方である。50歳からの10年間は、さらに深いものづくりを進めていける体制づくりに取り組んでいきたいと考えている。

終了後の建築イベントとして建築家の佐藤研吾氏を招いてのミニ講座と、ますいいのスタッフ全員とのディスカッションを行った。2時間30分があっという間に過ぎてしまうとても楽しい時間であった。

そして身近なところから土壁などの伝統的構法の実践をしてみようと試みている。

2024/03/28

現存する遺構から判断して、左官構法の起点は法隆寺金堂の壁画の下塗りである。飛鳥時代から続く長い歴史と伝統を持つ左官であるが、左官工事量は工事の絶対量、相対量のいずれも減少している。建築工事全体に対する左官工事業の完成工事高が占める割合は、近年は概ね1%前後で推移している。業種別の就業者数に関しても令和3年で27634人と全体に対しての構成比で0.6%、前年度比では-23.5%と大幅に減少した。

左官はこのまま滅んでもよいのか。いやそうではない。

住宅の壁仕上げとして左官仕上げの持つ美しさ、自然材料を原料とすること、壁の持つ調湿作用等のメリットは非常に魅力的である。現在では多くの左官仕上げが健康志向の住宅に採用されており、その総量も増加している。しかしその多くは、水と混練するだけで手軽に材料が出来上がる既調合漆喰等の新建材を採用する傾向が強く、伝統的左官仕上げを採用することは稀である。その理由としては、伝統的左官工事は手間と技術を要するため、他の仕上げ材料や技術と比較してコストが高くなりがちであるということである。特に、熟練した職人による手作業が必要な工法では人件費が大きな割合を占めることが挙げられる。また伝統的な技術は、乾燥や硬化に時間を要することが多く、建設プロジェクトのスケジュールに影響を与えることが多いことも理由の一つだ。さらに現代社会は熟練した左官職人の数が減少しており、このため適切な技術を持つ職人を見つけることが困難になっていることも理由となっている。

そこで僕は4月から左官に関する研究をするためにものつくり大学の大学院生になることを決めた。今後の研究を通して左官の盛り上がりに貢献したいと思っている。写真は弊社のトイレに塗った土壁の様子である。素材は淡路島の土に藁を混ぜたのみ。とても素朴で良い風合いに仕上がった。

今日は石山修武先生率いる「窓計画」の打ち合わせのために、早稲田大学の松村秀一先生の研究室がある喜久井町キャンパスにお邪魔した

2024/03/25

今日は石山修武先生率いる「窓計画」の打ち合わせのために、早稲田大学の松村秀一先生の研究室がある喜久井町キャンパスにお邪魔した。松村先生とは石山先生のご縁で東京大学時代の研究室にお邪魔したり、建築士事務所協会の全国大会で米子に出向く際に同じ飛行機で同じホテルというご縁だったり、はたまた住まいのリフォームコンクールの授賞式で審査員として賞をいただいたりと何かと最近お会いしているのだが、今日は「窓計画」の出展打ち合わせである。「窓計画」というのは、石山先生により呼び掛けられて集まった建築家と彫刻家と工務店による展示であり、各々がこれからの未来を見据えた計画を発表するものだ。ますいいリビングカンパニーは工務店機能を兼ね備える建築家集団としての22年にわたる取り組みと、これからの未来を展示する。

工務店機能を兼ね備える建築家の意味とは何か。これはますいいを定義することでもある。ではその対立軸にあるものはといえば、設計のみを行う設計事務所と建設会社による協働方式、はたまたハウスメーカーやパワービルダーのように同じ形式を作り続ける大量生産方式である。大量生産方式はすでに終焉の時代を迎えつつあるので省くとして、建築家による設計との違いをいくつか述べる。
まず大きな違いは、工務店機能を兼ね備える建築設計事務所であるますいいの場合は、10年保証ができるしっかりとした建築しか作らないということである。設計者のエゴで雨漏りをするような危険な納まりを採用したりはしないことがとても重要だと思う。また社員大工による施工を行なっていることで、設計と施工が阿吽の呼吸でもの作りに向かうことができることも大きな特徴である。これは他の職人さんたちも同じことで、たとえば左官屋さんや屋根屋さん、建具屋さんのような手に職の方々と設計者が阿吽の呼吸でものつくりを行うことができるというのは、とても理想的な状況だと言える。他にも山から購入した木を設計者が目で見て設計に取り入れたり、それをそのまま施工に使用できたりの材料との距離が近いことも挙げられる。そして最後にはやっぱりものつくりの現場を知っている設計者による設計の方が良い設計ができるということであろう。(もちろん設計事務所でも現場を熟知している設計者もいる。)これからの未来ではこんなこともできたら良いなの理想を提示したいと考えている。住宅に関わる理想的な環境を創造するための取り組みをさらに深く追求する良い機会としたい。

こんなところに2世代にわたる建築家の意匠が残されているのである。

2024/03/23

今日はホテルオークラにある山里という茶室を訪問した。実はこの茶室の運営をしているのが僕の師匠なのである。この茶室は谷口吉生先生による設計で、数年前の建て替えの時に綺麗になったのだけれど、建て替え前の部材を洗って利用しているので新築とは思えないような経年変化をした部材が点在している。天井に特徴があるが、これらの部材も古いものを生かしているそうだ。父、谷口吉郎氏と親子2代にわたる設計をしたことで有名なホテルオークラだが、こんなところに2世代にわたる建築家の意匠が残されているのである。

能登半島地震が起きて以降、関東地方でも地震が増えてきているように思う。これからは古い住宅の耐震診断が増えると思うが、なるべく安全な建物を増やしていきたいと思う。

2024/03/22

現行の耐震基準は、1981年に改正された建築基準法がベースとなっている。81年より前を「旧耐震基準」、81年以降を「新耐震基準」と呼んでいる。さらに2000年に「基礎」「柱梁や筋交の接合部」「壁のバランス」に関する告示が示された。これは「2000年基準」と呼ばれていて最も強固に建てられている可能性が高い住宅となる。いわゆる耐震診断補助金などは旧耐震基準で建てられた建物に適用されることが多いのだが、熊本地震では新耐震基準や2000年基準の建物も倒壊してしまった。具体的な数値としては、新耐震基準が73棟、2000年基準は7棟倒壊、崩壊している。

被害が大きくなってしまった建物にどのような理由があるのか。その一つに、壁位置の上下不揃いが挙げられる。倒壊した耐震等級2で建てられた建物では、耐力壁の直下率が極端に低かったそうである。通常の耐震診断をした場合はこの直下率に関しては調べることができるのでなるべく直下率を高めるように耐震補強の計画を立てることも大切となるだろう。

壁の配置に偏るがある場合も要注意である。建物の剛心と重心の位置が離れている場合はその位置が近づくように補強壁を増やしてあげると良い。

1981年以降2000年基準以前の建物では金物の使用方法が明確に規制されていなかったために、異なる金物がついていたり、向きが違っていたりの間違いも多い。筋交金物の場合は断熱材をどかしたりすれば見れることが多いのでなるべく確認して是正することで適正な強度がえらっるようになるだろう。

そのほかにも筋交に断面欠損があったり、はたまた極端に急・もしくは緩やかな筋交だったりする場合もある。大きな節があればそこから筋交が壊れてしまう可能性もある。こういうことに気がつけた場合はその節の部分に補強のための添木をするなどの対応だけでぐーんと強度が向上する。予算が少ないから1階だけを補強する場合もあるが、これもできれば上下共に補強した方が良い。どうしてもできない場合は1、2階ともに0.8にするなどあまり強度の差をつけないようにすることも大切だ。

能登半島地震が起きて以降、関東地方でも地震が増えてきているように思う。これからは古い住宅の耐震診断が増えると思うが、なるべく安全な建物を増やしていきたいと思う。

2世代にわたる住宅のご依頼、22年もやっているとこういうことが起きるのだなあとなんとも感慨深いひとときであった。

2024/03/20

午前中、埼玉県さいたま市にて計画中のOさんの家の打ち合わせ。今日は減額案のご提案を行った。

午後、モデルハウス見学のご説明。このモデルハウスを作ってから多くの方々にお話をさせていただいている。特徴としては、
・国産材の檜と杉の構造材
・ベニヤ板を一枚も使用していない健康住宅であること
・LCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)の認定を取得しているエコロジカルな住宅であること
・左官の技術にこだわって、木ずり土壁やラスボードの上の本漆喰仕上げなどの伝統的な工法を採用していること
・街並みの印象をちょっと良くするような普通のデザインであること
である。リビングには薪ストーブが設置されていて、この時期はとても良い。大きなガラス面から見える炎を眺めていると、あっという間に時間が過ぎてしまう。まるで焚き火の炎を眺めているような感覚になる。家の魅力というのは何か一つの要素があれば良いというものではなく、こういうものたちのバランスと全体的な調和によって生み出される。このモデルハウスはその調和がとてもバランスよくとれているのだ。

夕方、三角の家の施主の田中さんと会食をした。僕が20年前に作った住宅の施主さんである。三角形の敷地に建つ三角形の住宅、当時のローコスト住宅最盛期に設計したとても思い出深い作品だ。妻も一緒に3人で楽しい時間を過ごさせていただいたが、なんと当時4年生だった可愛いお嬢さんがご結婚されてお母さんになり、今度はそのご家族のための住宅を相談して頂けるとのサプライズであった。2世代にわたる住宅のご依頼、22年もやっているとこういうことが起きるのだなあとなんとも感慨深いひとときであった。

住宅作家を目指す夢を持ち続けていれば、必ず一人前になれる時が来る。設計の力、生産に関する見識、素材を学ぶこと、資格、・・・このいくつかの条件を自分を信じて身につけること、そしてまた夏休みにおいでね

2024/03/15

今日は関西学院大学の2年生インターンシップ最終日、今回は二人の大学生が1週間の体験をしてくれた。今回のテーマは、とある住宅設計の温熱環境シュミレーションと1/30の模型作成である。3回目と2回目の参加ということもあって、だいぶ慣れてきているようで作業もだいぶスムーズに進んでいる。

将来の仕事として住宅設計をやりたいという学生はたくさんいる。でも工学部建築学科は必ずしもそれに対して前向きは教育をする人たちばかりで構成されているわけではない。これは仕方がないことである。そもそも大学で建築を扱い始めた理由は、木造建築しかなかったこの国において西欧のコンクリートや鉄骨の技術を学び高度な都市型建築物を作る人材を育てることを目的としているからである。

しかし時代は変わり、逆にこの国の風土にあった建築を作る技術者が不足し、高度な建築を扱うゼネコンがあまり気味である。風土に合った住宅に暮らしたいと願う人々に対してそれを供給するには、設計と素材、そして職人が欠かせない。それをマネジメントする総合的な技能を身につけるには、設計の教育、生産の教育、そしてそれらをまとめ上げる人間力の教育が必要となる。

住宅設計を行う場は少ない。ハウスメーカーや分譲会社は論外である。アトリエは一人の作家性を学ぶことはできるが、そこで働き続ける環境ではない。ますいいはそれができる唯一の場であると考えている。建築家として設計を行い、施工のマネジメントを行うことで住宅をやり続ける自由を手に入れられるのである。

今朝、二人には「住宅作家を目指す夢を持ち続けていれば、必ず一人前になれる時が来る。設計の力、生産に関する見識、素材を学ぶこと、資格、・・・このいくつかの条件を自分を信じて身につけること、そしてまた夏休みにおいでね。」の言葉をかけさせていただいた。また再開しよう。

Iさんが毎日論文を書いている1階のリビングの机の周りと寝室のベッドの周りを、上部構造が崩壊しても潰れることのないように補強するという計画を検討している

2024/03/05

今日は近所に暮らすIさんの家にて耐震シェルターの打ち合わせを行った。Iさんは僕の日記にも度々登場する千葉大学の名誉教授である。とても古い木造住宅に暮らしているが、昨年は洪水発生時の避難施設に使用できる避難観測所なる建物を建設した。(この計画では担当した古市渉平さんと佐藤研吾さんのおかげでAND賞という構造計画の賞をいただくことができた)
今回はIさんが毎日論文を書いている1階のリビングの机の周りと寝室のベッドの周りを、上部構造が崩壊しても潰れることのないように補強するという計画を検討している。いわゆる耐震シェルターである。建物全てを耐震補強することと比べればだいぶ安価で行うことができるであろう。今後の展開を楽しみにしてほしい。

今日は第1回古民家の会・耐震補強研究会を開催した

2024/02/28

今日は第1回古民家の会・耐震補強研究会を開催した。能登半島での地震を受けて、耐震診断や補強工事を行なったたくさんの古民家が倒壊した。特に観光目的の伝統建築群に倒壊が多くみられたようだが、まずはその状況を文化庁の調査業務などをされている早稲田大学建築学科の後輩でもある森本英裕さんに説明していただいた。七尾市を中心とした現場調査の様子をさまざまな写真を用いて解説していただいたが、能登半島の地震の揺れや地盤の動きは並大抵のものではないことがわかった。

次に、山辺豊彦さんによる古民家耐震補強の事例についての解説をした。山部先生は言わずと知れた木構造の大家である。とても強固なモデルを作るタイプの構造家なので僕価値にとっては安心して構造解析を依頼できる。ますいいで古民家再生を行う時は必ず山辺先生の構造解析を行うことにしているのだが、能登半島の耐震補強事例は山辺先生の補強方法に比べると小屋組に対する補強と水平剛性に対する補強が不足しているように思えた。実際の詳しいことは調査をしてみないとわからないが、文化財系の設計者による最低限の補強方法の基準の見直しなどの動きが起きてくるような気がした。

このような地震があるたびに基準の見直しや規制の強化が行われる。これからの動向にも注意していきたいと思うが、古民家の魅力を活かすような再生工事を今後も続けていくために継続して勉強会を開催したい。

(川口の家 古民家再生事例)

今日は留学生のユニちゃんを連れてのスキー旅行で湯沢温泉に出かけた

2024/02/23

今日は留学生のユニちゃんを連れてのスキー旅行で湯沢温泉に出かけた。車で2時間半ほどの近場のはずが、3連休の大渋滞で一向に進まない。というわけで今日はスキーを諦めて、赤城にある桑風庵なるお蕎麦屋さんで食事ということにした。3人で1升のそばを頼むも、美味しいのでペロリと食べれてしまった。こちらのそばはつなぎに布海苔を入れているようで、とてもコシがあるのが特徴的だ。こんなふうに出発が遅くなって、スキーを諦めるなどというのはこれまで考えられなかったけれど、僕も今年で50になる年ということで少しは落ち着いてきたという事なのだろう。

木を切る瞬間に多くの人が思わず流す涙、それに意味がないはずはない

2024/02/19

先日栃木県の鹿沼市上粕尾というところにある高見林業さんにスタッフ全員で訪問した。日光南部のこの山域ではとても良質の杉や檜を採ることができる。今回の訪問では高見林業さんに育てられた杉や檜を使って家づくりを行うための見学と山の木の伐採体験を行った。下の写真はその時の様子である。

数十年という歳月をかけて育ってきた木の命をいただく前にお神酒を供えて手を合わせる、なんとも言えない瞬間である。この山の木を使用した家づくりでは、自分の家の木がどこの山で誰に育てられたのかが明白となる。だからなんだと言えばそれまでだが、木を切る瞬間に多くの人が思わず流す涙、それに意味がないはずはない。僕たちは自然と共に生きている、そして家は自然からいただく木によって作られる、そんな当たり前のことに気がつくことこそが大きな意味だと思うのだ。今後は随時伐採の体験を受け付ける予定だ。ご興味のある方は是非お声かけいただきたい。

(工事着工2ヶ月前くらいで伐採をすればその木を家の柱などに利用することもできる。)

午前中、埼玉県さいたま市にて新築住宅を設計中のUさんの家打ち合わせ。

2024/02/17

午前中、埼玉県さいたま市にて新築住宅を設計中のUさんの家打ち合わせ。土地を購入しいよいよ設計作業に入ろうという段階である。Uさんが購入した土地は道路に面して土地の一部があり、さらに3mほど低い場所に家が立つスペースがあるという変則的な土地である。すでに解体されてしまっているが、元々は道路に面した部分を駐車場に利用し、階段を降りた低い部分に家が建っていた。よう壁の高さが3mほどだから崖条例の対象となるわけだが、一部の擁壁を作り替えれば低い部分に再び建築が可能そうだということで今回購入に踏み切ったというわけである。

このような変則的な土地に計画する場合、まずはよう壁などの土木工作物の問題を解決しなければならない。これらの工作物は予想外に費用がかかる場合があるので要注意だ。今回は設計事務所に勤めるUさん自身が、底盤のない杭基礎型のよう壁を施工する業者さんを探してきてくれた。よう壁工事で底盤がない・・・これはすごい発明である。早速次回打ち合わせで顔合わせをすることにした。

庭に溶け込む茶室のような小屋を作る

2024/02/09

今日は埼玉県さいたま市で造った庭の中の小さな小屋の引き渡し式を行った。この計画は元々カーポートを利用して作られた古い小屋を改修して、庭に溶け込む茶室のような小屋を作るというもの。アートを営むクライアントが想いのままに過ごすことができる外のような中のような居場所を作ることができた。夕暮れ時、今日は施主のYさんの計らいでワインとチーズと美味しいパンで引き渡しパーティーを開催していただいた。なんとも至福の一時であった。

今日はものつくり大学建築学科三原研究室にて、僕が日本建築学会に出す予定の梗概の指導を受けたり、逆に大学4年生の卒業論文指導を行ったり

2024/02/06

今日はものつくり大学建築学科三原研究室にて、僕が日本建築学会に出す予定の梗概の指導を受けたり、逆に大学4年生の卒業論文指導を行ったり、なんとも楽しい時間を過ごした。教えられたり教えたり、教育とは持ちつ持たれつである。でもこうして様々な経験や知識を今知りたいと思っている人に教えることは、自分も誰かにしていただいてきたことの恩返しであって、つまりは恩送りのようなものなのだ。4年生の中には卒業して左官職人になるものもいた。どんな職人に育っていくかとても楽しみである。

日本には技能系の大学は少ない。そもそも生産技能を学ぶ場として大学という名前が必要なのか。可愛い我が子には大学くらい行かせてやりたいと言って、どこでもいいから大学へというのが今の日本の家庭の現実である。本来であれば、職人になるにあたって相応しい技能訓練を受ける学校があって卒業するとこれまた社会の中でとても意義のある資格制度があって、そこにいくことが社会の中でとても認められている状態が適正なのであろうが日本にそれはない。でも生産技能者は絶対に必要で、だったらそれを教える大学を作っちゃえとうことでものつくり大学があるのだと思う。逆転の発想、大学でものをつくる技能者を育ててしまおうというとことである。これは実際にものつくりをする人が少なくなっていく時代にとても貴重な仕組みだと思う。もの作りは楽しいんだよ、ということをたくさんの人たちに教えてあげたいと思う。

日本の風景を作ってきた大切な要素がまた一つ消えてしまうのである

2024/02/05

今日は日本左官業組合連合会の鈴木さんを訪問した。通称「日左連」は左官業者さんの集まりで、主にゼネコンの現場に入るような業者さんの集まりである。今日お会いした鈴木さんは、左官屋さんでありながら一級建築士で、この組合の技術顧問を務めているそうで、過去には博士論文まで書かれている70歳くらいの職人博士である。職人さんで博士、これはなかなか珍しい存在である。今回は僕が研究している貝灰を使用した左官工法についてのお話を伺うためにお時間をいただいた。

貝灰は貝殻から作られた消石灰である。ちなみに普通の消石灰は石灰岩から作られる。でも昔は貝殻や珊瑚を焼いて作る方が一般的だった。山を砕き、トラックで工場に運ぶなどということができなかった時代、暮らしの中で発生する貝殻や海に潜ればそこにあった珊瑚の方がより身近なものだったのだ。ちなみに今でも貝灰を焼いている人がいる。福岡県の有明湾にある干潟で田島さんはサルボウ貝を焼いている。サルボウガイは、赤貝を小ぶりにした殻長(かくちょう)4センチほどの貝である。有明海で大量に採れていたサルボウガイの漁獲量は九州農林水産統計年報によると、1990年に1万5千tあった漁獲量が、21年には28tと2桁に激減した。親貝があまり残っておらず、22年は漁を自粛した。21年の急減は19年、20年の豪雨の影響が大きい。陸からの雨水で有明海は塩分濃度が低下し、浸透圧の関係で二枚貝の体内に水が入り込み、死んでしまう現象が起きたのである。

貝灰は、純白ではなく薄い灰色で、粒度にばらつきがあるのが特徴である。これらと通常の消石灰を混ぜて使用することでテクスチャーが発生する。こうして天然素材でありながら、味わいのある壁として利用されている。またもともと屋根漆喰や外壁漆喰に用いられていたため、伝統建築物の補修工事の際の復元工事等にも利用されている。現在この貝灰を作っているのは田島さんただ一人になってしまった。無くなっても仕方がない・・・と諦めて仕舞えば無くなるし、それで困る人もいないだろう。でも、それでいいのか。日本の風景を作ってきた大切な要素がまた一つ消えてしまうのである。いいはずがない。(写真は大量の貝と田島さん・左、そして左官の原田さん・右である。)

左官は滅びゆく産業だ、という声も聞く。でも左官で仕上げられた壁は本当に魅力的でなんとも言えない風情がある。ビニルクロスの壁なんて仕上げじゃないと思うくらいに、左官のしっとりとした艶のある仕上げは美しい。そしてこういう仕上げを求めるお施主様は結構いる。だから左官は滅びないほうが良い。その価値をしっかりと伝えることで求められる機会は増え、そして活躍の場も増えることは間違いないのである。

午後、リビングデザインセンターオゾンさんよりご紹介いただいた板橋区のマンションリフォームの現地調査に。15時を過ぎた頃からだんだん雪が強くなり始めてきた。東京に久しぶりの冬がやってきた。寒いのは苦手だけれど、冬はやっぱり恋しいものだ。冬があるから春が来る、冬がなかったらなんかおかしいのだ。

学童保育ジャンプの15周年記念式典に参加

2024/02/04

昨日から日光に来ている。今朝は6月に茶会を開催する日光田母沢御用邸を下見した。

ここは、日光出身で明治時代の銀行家・小林年保の別邸に、当時、赤坂離宮などに使われていた旧紀州徳川家江戸中屋敷の一部(現在の三階建て部 分)を移築し、その他の建物は新築される形で、明治32年(1899)に大正天皇(当時 皇太子)のご静養地として造営されました。その後、小規模な増改築を経て、大正天皇のご即位後、大正7年(1918)から大規模な増改築が行われ、大正10年(1921)に現在の姿となりました。(HPより)

という施設である。ボロボロになっていたものを国の重要文化財として再利用できるまで整備したという。きっと思いある方の手によって整備されたのだろう。10時ごろ日光を出て、川口へ。

夕方15年ほど前に設立を手助けした学童保育ジャンプの15周年記念式典に参加。当時社会起業家としてスタートした事業も今や23施設、多くの子供たちを幸せにする団体に育った。ほとんどの社会問題はビジネスで解決できる、というボーダレスジャパンの田口社長の言葉をよく覚えているが、学童などはまさに国が民間ビジネスに頼って整備している分野であろう。当時何もなかった若者が、人生をかけて取り組んだ結果、ここまでのNPO団体に育て上げたこと、なんとも嬉しい限りであった。

開口部は内と外を繋ぐ大切な要素だ。だからこそ丁寧に設計をしなければならない。

2024/02/03

今日は埼玉県さいたま市にて設計中のOさんの家の打ち合わせ。細長い敷地に建つ中庭のある家の計画をしている。僕の自宅も結構細長い土地で、同じように中庭がある。2世帯で暮らしているので僕の世帯のリビングからは北側の窓になるのだけれど、それでもこの中庭に対して開放的な作りとした。

下の写真は1階にあるギャラリーから中庭を望む様子である。実際にはそれほど広いスペースではないが、完全に外部に開いている中庭があるだけで、もしもこの窓がない場合と比較するととても伸びやかな様子を生み出すことができる。このような開放感を生み出す際に大切なことは窓の設計である。もしもこの窓がただの引き違い窓だったら・・・、また様相は変わってしまうだろう。開口部は内と外を繋ぐ大切な要素だ。だからこそ丁寧に設計をしなければならない。

ますいいで働いてくれる予定のダウン症のSちゃん、先日は一生懸命尺トンボづくりを練習してくれた

2024/01/29

ますいいで働いてくれる予定のダウン症のSちゃん、先日は一生懸命尺トンボづくりを練習してくれた。そのSちゃんから動画が届き、とても上手に紐を釘に結びつけることができた様子が伝わってきた。なんとも嬉しいお知らせである。小さな手で何度も何度も練習したのだろう。こんなふうに作ってくれたものが左官の土壁に埋め込まれ、その壁の補強をすることができたら、これほど心が温まることはないだろう。とても嬉しい写真なのでここに紹介したい。

日本美を大切にした設計の素晴らしさにしばし目を奪われた

2024/01/28

今日は埼玉県川口市で僕が所属している裏千家茶道の新年会、ホテルオークラの「さざんか」という鉄板焼きレストランでの会食に参加した。なんとも豪勢な響きだが、僕の先生はこのホテルにある茶室で催される茶会の責任者をされている関係で、毎年恒例の行事となっているのである。

今から4年ほど前に谷口吉生先生の設計によりオープンしたこのホテルに初めて足を踏み入れたが、いわゆる日本美を大切にした設計の素晴らしさにしばし目を奪われた。写真に映るのは梅をモチーフにしたテーブルと椅子、左の窓上部にあるのは二等辺三角形の組み合わせによって作られた四方連続紋様で、釘を一本も使わずに組まれた麻の葉紋の格子である。42階のレストランからはアメリカ大使公邸が見下ろせる絶景である。なんとも贅沢なひとときであった。

ダウン症のSちゃんが幸福感を感じることができるような状態、つまり誰かのために働くことができる状態を作りたいと願い、今日の作業練習会を開催した

2024/01/27

午前中埼玉県川口市の鳩ヶ谷里にあるモデルハウスにSちゃんが来てくれた。Sちゃんはダウン症の女の子で、僕の長女の親友の妹さんである。今はまだ高校2年生だけれどもうすぐ就職の時期となる。色々と話を聞きだしているけれど就職をしても貰える給料は月に6500円程度、あまりに低すぎる現実になんとかならないものかの相談を受けた。B型就労支援施設というのは最低賃金を下回るお給料で、つまりは時給数百円での労働となってしまうことから、どうしても低賃金化してしまう。A型就労支援施設は最低賃金を払ってくれるけれど、なかなか入ることはできない。

日本には約950万人の障がいを持った人々が暮らしている。そしてそのうちわずか50万人程度しか就職できていないのが現実だ。人が幸せと感じる条件というのは、誰かに必要とされたり喜んでもらったりという自己肯定感が最も重要だというが、働くことができないということはその喜びを感じることができないということである。障がいを持ちたくて生まれてきた人はいないし、障がいのある子どもを産みたくて産む親もいない。でも誰にでもその可能性はあって、僕の長女の親友の家庭にはたまたま一つの個性として障がいのある子が生まれてきたのだ。

ある日、長女を通してSちゃんの雇用について相談をされた(というより僕が社員を大切にする経営をしていることを知った長女が相談してみればと言ったらしい)。僕にとってこれはとても大切な出会いだと思う。ダウン症のSちゃんが幸福感を感じることができるような状態、つまり誰かのために働くことができる状態を作りたいと願い、今日の作業練習会を開催した。今日は尺トンボという左官材料を作る練習をした。ステンレスの細い釘に麻の紐を巻いて作る、土壁などに利用する材料である。今では作る人も減り、なかなか手に入らない、でもこだわりの左官屋さんにとっては必要なアイテムだ。さてさて、うまく作ることができるようになってくれるか。一歩ずつ進んでいければ良いと思う。

階段を掛け替える場合には、建物全体の敷地関係規定や構造規定などなど全てが審査対象となるのだから大変である

2024/01/26

2025年より確認申請に関する法律が改正される。これまでの2階建て以下かつ延べ床面積500平米以下の4号建築は建築確認・審査の際に審査省略制度があったのだけれど、それが2階建以上または延べ床面積200平米超の木造建築物は新2号建築物に該当しすべての地域で建築確認・検査が必要となる。これはリフォームについても適用されるので、これまでは確認申請を行わずにできたリフォームができなくなることが考えられるのである。

リフォーム工事については、新2号建築物における大規模の修繕と大規模の模様替の場合に確認申請が義務付けられる事になる。大規模というのは=主要構造部(柱・梁・床・壁・屋根・階段)の過半の部分に行う工事をいうのだが、つまりは階段の架け替えとか、壁の大部分をスケルトンにして作り直すなどの場合には、確認申請を行わなければならないということになったわけだ。もちろんすべてのリフォームが入るわけではない。例えば床の張り替えや重ね張りなどは入らないし、屋根の吹き替えも大丈夫である。でも階段の架け替えは入ってしまうので注意が必要だ。階段を掛け替える場合には、建物全体の敷地関係規定や構造規定などなど全てが審査対象となるのだから大変である。ということは今後のリフォームでは階段をいじることはほぼなくなるかもしれない。

現在のところここまでの情報しかない。これは確認申請審査機関に聞いても同じことである。実際には運用されてから、あまりにも運用が厳しすぎたり難しいということになれば、更なる改定が行われるのだろうがそれまでは規則通りに運用されるのであろう。古い建物が適正な形にリフォームされるようにという狙いはわかるが逆に簡単にまだ使える建築を壊す方向に行くような気もする。果たしてどうなることやらというところであろう。

「私たちのエコロジー・地球という惑星を生きるために」を鑑賞した

2024/01/15

今日は森美術館で開催されている「私たちのエコロジー・地球という惑星を生きるために」を鑑賞した。決してジャーナリズム的な視点ではなく、アートを通して環境破壊に対するメッセージを送り続けてきたアーティストの作品が展示されているものである。写真はニナ・カネルの作品で、5トンものホタテの貝殻を敷き詰めた上を鑑賞者が歩くというものだ。ちょうど左官の中でも貝灰の研究をしている僕にはとても親近感を覚える作品であった。人類は古来より貝殻を焼いて石灰を作ってきた。それは漆喰として利用されたり、農業の消毒に利用されたりもした。毎年大量に廃棄される帆立貝の貝殻はすでに様々なリサイクル利用をされているが、こんなところで大量の帆立貝に出会うとは思っていなかったのでご紹介したい。

今日は埼玉県越谷市にて中古住宅を購入し、リフォームを検討中のIさんご夫妻打ち合わせ

2024/01/09

今日は埼玉県越谷市にて中古住宅を購入し、リフォームを検討中のIさんご夫妻打ち合わせ。IさんはますいいリビングカンパニーのYouTubeを制作していただいているのだが、こうしてご自身の住宅までご依頼いただけるというのはなんとも嬉しい限りである。始めたばかりで手探り状態ではあるのだが、トークチャンネルでは一緒に登場していただいたりもした。こういうことは楽しみながら続けていくのが一番であるから、これから和気藹々と作り続けていきたいものである。

今回購入を検討している住宅は平成の半ばごろ、約30年ほどの築年数の木造2階建てだ。この時代の住宅は一様に断熱性能が低く、耐震性に関しては新耐震基準を満たしているのでそれなりに信用ができるという状況だ。基礎は布基礎とベタ基礎が混在している時代、今回は布基礎を採用していた。この時代の金物はついていたりついていなかったりのちょっと信用できない状況が多い。2000年基準などと言われたりもするけれど、90年代後半から2000年台初頭の住宅は金物を大工さんたちがあれこれ悩みながら取り付けていた時代なので、ついていなかったり、なんでこんな金物がついてるの?と思わせるような間違いがあったりもする。中古住宅の購入に当たっては、まずこの辺の状況を調べておいた方が良い。僕の場合は僕自身が天井裏を見て、床下にもぐる。天井裏からは筋交の頭が見えるし金物の状況も見える。床下には基礎の表面が見えるし、たまには土台が腐っていたりもするので、湿度が高くはないかとか周辺環境にも注意を払うようにしている。世の中ではいい加減な耐震診断が横行しているけれど、やっぱり体を使って調べないと何もわからないのである。

今日は概算のお見積もりと工事計画をご説明させていただいた。いよいよ正式購入に移るが、その前にローンの審査である。良い結果が出ることを祈る。

 

今日から仕事始め。本年もよろしくお願い申し上げます。

2024/01/08

今日から仕事始め。本年もよろしくお願い申し上げます。

夕方より川口茶道会新年会に参加。この会は川口市での茶道の普及のためにいろいろな流派の先生が集まって活動している会で、僕の先生が会長を勤めている。2023年もいろいろな行事を行ったのだが、子供たちを相手に初めての茶道体験をやった時など一席30名ほどでとても楽しいひと時を過ごさせていただいた。人に教えるということは自分もしっかりと習得しなければならないし、特に子供たちはじっと見つめてくるので緊張する。正しいことを教えるために自分も稽古を行う、つまり自分にとってもためになることなのである。
会の初めには多くの政治家さんが挨拶をされていた。これもまた彼らの仕事である。地域での諸活動に予算をつけてくれるなどの協力をしてくれる代わりに票を求めることが、政治家でい続けるためには必要なのだから仕方がない。分かっているけれど総勢6名の挨拶をただ聞いている時間はやはり退屈である。

仕事始めにあたって、今年は皆色々と考えさせられたことだろう。今年のスタートは地震と飛行機事故、こういう正月を迎えたのは生まれて初めてのことである。何かとんでもないことが起きるのではないかの悪い予感すらしてしまうスタートである。多くの方が亡くなった。無事でいることができるだけで、本当に感謝すべきことである。「無事是貴人」の禅語を茶席の中でよく目にするが、こういうことがあると改めてその意味を認識する。

僕たちの作る家は地震から身を守るシェルターにもなるし、人の命を奪う凶器にもなる。実際に北陸の被災地でも被害を受けていない建築もある。被害を受けていたのは主に古い瓦屋根の住宅であった。昨年行った古民家の工事では耐震性を高めるための補強を行ったが、こういうことをしておけば助かった命もあるのだろう。耐震診断や補強工事の重要性は知っていたつもりだが、やはり更なる普及を急ぐ必要があることを強く感じた。

(下の写真は構造補強の様子。基礎のないところには基礎を作り、耐力壁を筋交や合板で構成した。屋根が受ける地震力を地面まで伝えるために、天井レベルに24ミリ合板の水平剛性を構築し、筋交をへて伝達するようにした)

新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

2024/01/01

新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

引き続き湯沢のスキー場である。16時ごろゲレンデを後にして指定のバスで宿に向かっていると、能登半島の地震のニュースに気がついた。震度5強、大きめの地震だなあくらいに思っていると宿に到着し、トランクからスキー板などをおろしていたら突然地面が揺れだした。長い横揺れである。傾斜地の温泉宿なので地面も斜面も建物もうねるように揺れている。先ほどの地震は余震だったのかの感が頭をよぎり、自然に東日本大震災を思い出した。これだけの揺れだと震源地は相当の被害だろうと思い、部屋に帰ってテレビをつけると津波警報まで出ている。テレビではNHK のアナウンサーが絶叫していた。予想高さは5m、やはり相当な規模である。

今夜はもう一泊するはずだったが、もしかして関東地方にも何かあるといけないので急遽帰り支度をして川口市に戻ることにした。新潟にいると知った人からは心配の連絡があったが、湯沢に関してはそれほどの揺れはなかった。能登半島の先端部分での大きな地震ということで、夜が開けてからの被害状況が心配である。それにしても今日は元旦、今年は波乱の幕開けとなった。平穏に人々が暮らせることが何よりの幸せであると改めて感じさせるスタートである。無事であることに感謝を寄せて、被災されお亡くなりになった方々のご冥福をお祈りしたい。

仕事始めは8日月曜日の予定、皆様良いお年をお迎えください。

2023/12/30

今日から年末年始の休暇をいただいている。今回のお休みは久しぶりに家族で湯沢温泉を訪れた。この辺りにスキーをしにくるのはかれこれ10年ぶりくらいだろうか。群馬県の水上から関越トンネルを通って谷川岳の西側を潜り抜けるとそこは雪国となる・・・予定だったがなんとも雪が少ないようである。以前来たときは車の運転に不安を覚えるような雪の積もり方で、国道沿いには雪の壁が聳え立っていたのだけれど、今日は道路のアスファルトが剥き出しだ。周りに積も雪も所々地面が見えてしまっていて、まるで虫食いのように見える。1週間くらい前に大雪が降ったはずなのだが、それ以外の日の暖かさが雪を溶かしてしまったのだろう。

ここ湯沢は川端康成の雪国の舞台となった地である。僕はなんとなく山がある場所が好きで、冬の湯沢温泉はその中でも格別に良いと思う。スキーがあるおかげなのか、こうした温泉街にしては今時珍しく活気がある。年末年始は2日までここで過ごす予定である。仕事始めは8日月曜日の予定、皆様良いお年をお迎えください。

埼玉県さいたま市別所にて、庭の中の小屋を作っている

2023/12/29

埼玉県さいたま市別所にて、庭の中の小屋を作っている。とても小さな車庫のような大きさの小屋だ。そんなものを作る仕事があるのかと思うだろうが、僕はこれまでも結構小さな小屋を作ってきた。今回の小屋はアーティストである施主さんが庭の自然と一体になるための居場所として作っている。外壁には大きなガラス面を作り、中から庭が見渡せるようになっている。しっかりと作りすぎないことを大切に、あくまで手作りの粗野な小屋の風情を失わない程度に仕上げている。外壁には焼杉の板を採用した。焼杉はいずれ真っ黒からシルバーに変わり、周囲の緑に溶け込むようになるだろう。屋根は半透明の波板である。空から降り注ぐ光はそれを透過して内部を柔らかく照らしてくれる。屋根の上に落ちた落ち葉はその姿をぼんやりと見せてくれる。こういう魅力を大切にしたいから天井は張っていない。年明けには、塗装、薪置き場、庭の飛び石の工事を行って完了する予定だ。完成を楽しみにして欲しい。

この設計には以前訪問した石見銀山にある群言堂さんのカフェをイメージしていた。(下の写真)古民家の縁側を利用して作られたカフェのガラス面はとても粗野な作りだけれど庭の緑を取り込み、とても居心地の良い場を作り出している。屋根の透明のポリかも光と緑を柔らかく取り込むとても効果的な装置だ。こういう仕事では、現場での即興的デザインとあり合わせ感のある素材選び、職人の手作業の跡がとても大切である。つまりはプリコラージュ(あり合わせの器用仕事)の手法が重宝される場面なのだ。

午後、ものつくり大学三原研究室にて修士論文についての打ち合わせ

2023/12/18

午前中は事務所にて東京都杉並区にて設計中のFさんの家の見積書作成作業。物価上昇の影響は大きいようで、設計開始時点でお約束した予算よりも見積もり金額がオーバーする傾向にあるのだが、なんとか小さな無駄を探し出しそれを省くことや、協力業者に値引きの依頼などをしながら金額を合わせていく。

午後、ものつくり大学三原研究室にて修士論文についての打ち合わせ。来年4月の入学に向けて早くも論文の課題を命じられる。少々フライング気味のスタートであるがまあ学ぶことにいつからも何もないわけで、与えられた課題に挑戦しようと思う。埼玉県の行田市にある建築、機械といった製造業の担い手を育てる大学に初めて身を置いたのだけれど、学生たちがパリで開催される造園の世界大会に出場するための練習として型枠を組んでいたり、巨大な鏝絵が壁面に飾られていたり、家具工房では一生懸命椅子を作っていたりとなんとも感動的な場面に出くわした。日本にはまだこんなふうにもの作りに情熱を向ける人がいたのかの感動である。こういう特殊な環境で育んだクラフトマンシップが消えることのない建築業界でなければいけないと強く感じるし、その業界を作っていくのはまさに私たちの世代である。本当に良いものをどうしたら作ることができるかという、生産体制、組織運営に関する研究はとても意義のあることだと思う。

朝一番で埼玉県越谷市にて中古住宅の購入を検討中のIさんの物件調査立ち会い。

2023/12/11

朝一番で埼玉県越谷市にて中古住宅の購入を検討中のIさんの物件調査立ち会い。この物件は平成10年ごろに作られた注文住宅で、木造2階建の30坪程度の建築である。この世代の住宅は、シングルガラスのアルミサッシ、断熱材はグラスウールの厚さが50ミリ程度の仕様なので断熱性はすこぶる悪い。床下断熱材などは申し訳程度の施工がされているのみで、場合によっては床下断熱材がないことだってある。だからこの世代のリフォームはまず初めに断熱性能を向上させることが必須となる。断熱性能の向上には、まずは1階の床を剥がすこと、床下にしっかりと断熱材を施工することで暖かさはだいぶ変わる。アルミサッシについては最低でもガラスをペアガラスに交換する。それでも足りない場合は二重サッシにすることを考える。場合によってはカバー工法で断熱性の高いサッシを取り付ける。さらに本格邸に行う場合、壁を全て剥がして断熱材を入れ替えるのだがこれは予算に応じて行うようにしている。

中古住宅の場合はこれに加えて、水周りのリフォームがある。風呂キッチントイレの3点セットは全て交換する場合が多いので予算の大部分を使うことになる。内装の仕上げなどはセルフビルドを取り入れて費用を抑えるように工夫する。購入が決まったら施工に入る予定だ。この模様はもしかしたらYOU TUBEでご紹介するかもしれないので楽しみにしていて欲しい。

埼玉県さいたま市にて設計中のOさんの家打ち合わせ

2023/12/09

午前中は古民家の現場にて古民家再生を考えているSさんのための見学会。Sさんは工事中から3回ほど見学にお越しいただいているが、見事に仕上がった様子を見てとても喜んでいただけたようである。下地の構造補強の時からの苦労も知っていただいているのでなんだかとてもお話が盛り上がった。古民家再生は新築ほどスムーズに進まない、だからこその面白さがあるのである。

午後、埼玉県さいたま市にて設計中のOさんの家打ち合わせ。Oさんとは約1年ほど前からであろうか、土地探しの段階からのお付き合いである。一緒に土地を探していると、まるで自分ごとのようにどんな家を探していて、どんな暮らしをしたいのかがわかってくるから不思議である。今日は1階リビング案と2階リビング案の二つの提案をさせていただいた。2階リビング案はとても日当たりが良さそうである。1階リビング案は道路側に作るアクセサリー工房とリビングの距離が近いので職と住の移動導線がとても便利そうだ。どちらも一長一短、結果は1階リビング案を採用することにした。次回はショップのデザイン周辺のご提案をすることに。進行が楽しみである。

林業をしながら国土の保全を担うわけであり、とても重いを背負いながら仕事をしなければいけない職業なのである

2023/12/06

今日は栃木県にある高見林業さんを訪問した。高見林業の斉藤社長は栃木県の鹿沼市を中心に、山林の植え付けや伐採などの受託施業から、作業道の開設、一般製材、木工品の製造販売を行っている会社である。斉藤社長が丁寧に育てた杉やヒノキを天然乾燥で家づくりに使用できるレベルまで乾燥させて、国産材の家づくりに利用するという流れをますいいの家づくりにも取り入れることができないかの検討を行うために、チルチン人の山下編集長よりご紹介していただき、今回の訪問が実現したというわけである。

日本の林業は衰退しているが、一部の林業事業者は山林を買い規模を拡大して営業効率を高めることで黒字化を図っている。しかしとても残念なことに、この黒字化を図っているというのは助成金があってのことであり、事業単体で利益が出る状況ではないのが実情だ。林業家というのはただ単に木を植えて商売をすれば良いというものではない。山から海に流れる栄養分を含んだ川の水は漁業にも影響するし、もしも山の木を手入れしなくなってしまえば豪雨の際に土砂崩れなどが起きてしまうなどの災害にもつながる。つまりは林業をしながら国土の保全を担うわけであり、とても重いを背負いながら仕事をしなければいけない職業なのである。斉藤社長は東京農業大学出身の60歳、息子さんも東京農業大学出身の好青年、ともに柔道部出身のがっしりとした体躯の持ち主で、この地域の林業をしっかりと支えてくれている。良縁に育てることができれば良いと思う。

一泊二日での社員研修旅行

2023/11/14

昨日から一泊二日での社員研修旅行で伊豆の松崎町に来ている。この場所は伊豆の長八美術館がある、いわゆる左官の聖地である。美術館は建築家石山修武氏によって設計され、来年40周年を迎えるのだが、内容としては江戸時代にいた入江長八という左官職人を記念する美術館だ。館内には長八だけでなく様々なコテ絵作品が展示されている。ちなみに今でも街の中には長八が作ったコテ絵を見ることができるので街歩きをしていても面白い。

入江長八という人は、いわゆる今でいう壁塗りだけをする左官屋さんではなく、まるで浮世絵師のような絵心があり西洋の壁画の如きコテ絵を描いた人である。コテ絵など今の家づくりの現場からは完全消失してしまっているが、でもそれをやりたいという若者はいるようで、ものつくり大学には学生の手による大きな壁画が展示されている。建築とアートの融合とはよく言われるが、経済至上主義の世の中ではなかなか実現しない理想だ。ちなみにハウスメーカーの家にある天井の石膏装飾の如きものは大抵は新建材でできている。昔の洋館建築では左官職人が石膏を型取り天井に固定したり、型を引きずって漆喰のモールディングを作ったりしたものであるが、今ではこんなことをするのは文化財の仕事だけなのだ。

松崎町は田舎ゆえに現代社会から消え去った理想が未だ点在していて、下の写真のようなコテ絵を街中で見ることができる。おそらく現代の左官職人さんが作ったものだが、2匹の龍が天を舞う様子が見事に倉の扉の裏に描かれている。数年前に訪れた時はこの扉の前で左官屋さんが座り込み壁画を直していた様子を見た。今回の旅でも二人の職人さんにあったが、「俺らは松崎で十分食っていけるから他の街へは行かない」と言っていた。小さな地方のコミュニティーの中で優れたクラフトマンシップが生きている、なんだか奇跡的な様子を目にすることができたような気がする。これを現代社会で実現するには・・・、左官の復権について暫し考えた。

茶道雑談

2023/11/11

茶室というと、茶道を習っている人でもあんまりよく知らないという人が多い。たった数畳の小さな空間だが、ここにはとてもたくさんの仕掛けが作られている。

日本の国宝茶室というのは3つ、そのうちのひとつが「密庵」だ。京都にある大徳寺竜光院というところにあるが、このお寺は慶長11年に黒田長政が建立したものだ。龍光院の開祖「江月宗玩」(こうげつそうがん)という安土桃山時代の僧が、小堀遠州らと親しかったため、江月宗玩の在世中から草庵や茶室が作られ、小堀遠州が茶室を営んでいたとも言われている。特徴は密庵の墨跡をかけるために作られた4尺幅の床の間。僕は5年ほど前にこの茶室に入ることができたが、ここは最も入ることが最も難しい茶室と言われているのだ。

他の二つは特別公開などの時に拝観することができる、でもこの茶室だけはそう言う機会がほとんどない。僕は裏千家淡交会のお役をしているときに見学をさせていただいたが、それが最初で最後の機会だ。

ほかには、千利休が作ったとされる「待庵」と織田有楽斎が作ったとされる「如庵」があってこの3つで国宝とされている。

それでは、茶室を呼ぶときにどんなふうに呼べば良いのかについて考えていきたい。

皆さんが一番よく目にするのは8畳の茶室だろう。茶室を呼ぶときはまずその畳の広さを初めにいうのが特徴だ。この部屋は8枚の畳で構成されているから8畳という具合。4枚と半分の畳で構成されている部屋なら4畳半となる。半分の畳は半畳と呼ぶが、実は3/4の畳というものも使う。この畳のことを大目畳と言う。普通の暮らしの中では目にすることがない畳だが、茶室の場合は残りの1/4の部分に板を敷き込んで使ったりするちょっと変わった畳である。

茶室の畳は京間畳と言って、955ミリ✖️1910ミリある。ちなみに江戸間という僕たちが慣れ親しんだ畳は870ミリかける1740ミリなので結構違う。長手方向では17センチも変わるのだ。茶道のお点前をするときにはこの広さがとても重要で、特に僕のようにちょっと体が大きいと京間じゃないととても窮屈に感じてしまうのである。

続いて、炉の位置。茶室は炉の位置によって呼び名が変わる。客座が亭主の右側にくる炉の切り方を本勝手、左側なら逆勝手と言う。ちなみに点前座から見てお客様側を客付け、そして水屋側を勝手付けと呼ぶ。おしまいのときに勝手付けに一手でなどというのはこの方向のことだ。さらに、炉の切られる位置によっても呼び方が変わる。広間ぎりというのは畳の角を切る方法を指す。大目切りは、大目畳がある場合の切り方で、炉は大目畳の外側に切り、壁面から炉縁までは1尺5寸。そして最後が向こう切りだ。手前畳の前方壁面に沿って客付きに切った炉のことを言う。6尺の丸畳に切る場合と、向こう板を設けて大目畳としこれに炉を切る場合とがある。壁の隅に切った場合は隅炉だ。

そして最後は床の位置だ。床の間が亭主の前方にあれば上座床、亭主の後方にあれば下座床となる。写真のさいたま市の茶室の8畳の部屋の場合は、点前座から見て斜め後ろになるので下座床と言える。

このように畳の広さ、炉の切り方、そして床の間の位置がわかるとその茶室のことを呼ぶことができるようになる。この部屋の場合は8畳、本勝手、下座床という具合である。

今日は滋賀県県立美術館で開催中の窓計画を見にきた

2023/11/07

昨日から、滋賀県入り。今日は滋賀県県立美術館で開催中の窓計画を見にきた。この展示は石山修武氏が計画して複数の建築家、彫刻家、工務店を呼びかけ、それぞれの小グループによる展示をしているものである。西日本計画と東日本計画の二つの展示で構成され、来年には東日本計画が実施される予定だ。ますいいも出店予定である。さてさて、どんな展示にしようか。

アーキテクトビルダーは機能主義を超えるものを目指さなければならないのだと思う

2023/11/04

今日は早稲田大学理工学部建築学科のOB会に参加した。こういう会合へはこれまで参加してこなかったのだが、僕たちの代が幹事学年だとのことで今回は参加することにした。幹事としては大した役割は果たしていない。でも師匠の石山修武先生のメッセージをいただいてきて欲しいというので、ご自宅までお邪魔していただいてきた。なぜだかわからぬが、これは僕にしかできない大手柄であるという。

スクリーンに映して読み上げる。アレクサンダーのいうアーキテクトビルダー、これはますいいの目指す道だ。まさに自分自身へのメッセージをいただき身が引き締まる思いだ。建築の全てが合理主義、機能主義に陥ってしまったらそこに豊かさはない。せめて住宅くらいはそこから離れてあるべきであり、その担い手としてアーキテクトビルダーは機能主義を超えるものを目指さなければならないのだと思う。たかがOB会、されどOB会であった。

今回はますいいリビングカンパニーの作品が2点優秀賞に選ばれた

2023/10/30

今日は住まいのリフォームコンクールの表彰式に参加した。40年も続く老舗のコンクールということで、今回はますいいリビングカンパニーの作品が2点優秀賞に選ばれた。一つ町田分室の作品で、手狭になったマンション暮らしから、祖父母の住んでいた一軒家に移り住んだご夫婦と4人の子供のための住宅である。6年前に行った引っ越し前のリフォーム(一期工事)では、予算の都合上、主に一階の水回りとLDKをのみを改修。水回りからキッチンへ続く動線を整理し、最低限の断熱改修と構造補強を行った。6年が経ち子供の成長にともなう2階の間取りの使いづらさと、冬の寒さに限界を覚え、2期目のリフォームを行うことに。当初は新築も視野に入れ検討していましたが、1期目の工事で思い通りに作った造作キッチンや水回りへの愛着から2期目のリフォームを決意。育ち盛りの4人の子供たちが走りまわれ、どこにいても家族の気配が感じられるオープンな間取りと冬の寒さ対策、そして耐震改修が求められた。家の中心に吹き抜けと階段を設け、回遊性のある間取りとした特徴的な作品である。

もう一つは、川口本社から歩いて3分ほどのご近所での作品である。こちらは地区50年の木造民家をシェアハウスに改修するプロジェクトである。思い出のある民家を最低限の解体で、元々ある良さを生かしながらシェアハウスとして生まれ変わらせるとても楽しい計画だった。

審査委員長の松村秀一先生の、これからの時代は新築よりもすでにあるストックをどのようにして利用していくかというリフォームの方が面白いという言葉が印象的だった。上位賞の中には工期を2年近くかけて古い集合住宅の設備を刷新したり構造補強を行ったりの力技の作品があったが、これらは今の時代が抱える空き家や古い建築の利活用という問題を解決する糸口である。建築は人が生きていく社会になくてはならないものだ。でも今の日本にはちょっと多すぎる建築がある。これをなくしていくことや、もう一度生まれ変わらせることは社会の要望であり、技術者として取り組むべき課題である。だからこそリフォームは今後もしっかりと腰を据えて取り組んでいきたいと思う。

茶室などという日本語が昔からあったわけではなく、武田五一という1897年に東京帝国大学工科大学造家学科を卒業した建築家が使い始めた言葉である

2023/10/29

今日は埼玉県の川口市にある錫杖寺の茶会に参加した。この茶会は川口茶道会という地元の会が主催しているのだが、僕の先生がこの会の会長を務めている関係で茶席の運営に関わることとなった次第である。今日は200人ほどの方々に来ていただいたようである。文化などとはほど遠いと感じる川口市であるが、それでもわずかでもこのような活動を続けることがまさに文化であると思う。

錫杖寺にはいわゆる狭く囲われた茶室らしい茶室と呼べる部屋はない。でも広間に炉は切ってある。その部屋に茶道具を持ち寄り、広間の茶で来客をもてなすのである。そもそも茶室などという日本語が昔からあったわけではなく、武田五一という1897年に東京帝国大学工科大学造家学科を卒業した建築家が使い始めた言葉である。この武田が描いた長大な論文のタイトルが「茶室建築について」だったところからこの言葉が使われ始めたのであって、それ以前は数寄屋とか茶席とか呼ばれていたらしい。茶席は「囲い」と呼ばれていたようで、一部には「座敷」とも呼ばれていた。今では当たり前の茶室という言葉も、せいぜい100年ちょっと前に作られた言葉なのである。言葉はさておき、その本質は人が集い茶を飲みながら話をする場である。だからその様に明確な定義など必要であるはずもなく、逆にその場に応じて自由であるべきものだと思う。あまり定義にこだわりすぎると、みょうに敷居が高いものになってしまうが、自由に考えればお金をそれほどかけずとも誰でも手に入るもてなしの場となるであろう。以前、公団の1階の部屋で開かれた茶事に招かれたことがあった。この茶事ではベランダに敷かれた飛び石を渡り、アルミサッシの外にかけられた簾をくぐって席入りをした。名を明かすことは避けるが、裏千家の講演会などでよく見かけする著名な方の自由な見立てに感動したことを覚えている。

さてさて今日のお客様たちは喜んでいただけただろうか。もてなしの心をつくし、語り合い、日本の文化に触れる一時を提供できたなら何よりもの幸せだと思う。

今日は早稲田大学の稲門祭なるOBのためのお祭りに参加した

2023/10/22

今日は早稲田大学の稲門祭なるOBのためのお祭りに参加した。49歳になって初めての参加である。なぜ今更こんな会合に参加したのかというと、今年から地元川口市にある稲門会の事務局長をやることとなり、しかもその会の会長さんが今回の稲門祭の実行委員長を務められるというから、これは行かないわけにはいかないなとなったわけである。

お恥ずかしながら行くまでは学生向けの早稲田祭と混同していて、あれ?なんでこんなに学生が少ないのかと当惑していたのだが、よくよく聞いてみると今日はOBのためのお祭りで主催もOBだというから納得である。早稲田祭といえば毎年のようにタモリさんなどの有名人が来ることで知られているのだが、稲門祭はあくまでOB、司法書士稲門会・・・のようななんだかよくわからないテントなどが、おじさんたちによって運営されているジミーな会であった。最後のフィナーレでは総長さんたちが大隈講堂前で立ち並ぶ下で、集まった校友一同で校歌斉唱である。まあ50歳も近くなるとこういう会合が良いと思えるようになるもので、なんとなく胸が熱くなる一時であった。

モルタル研ぎ出しのキッチン

2023/10/21

今日は東京都新宿区にて、「一戸建て貸家と自分たちの住まい」を作りたいというKさんとの打ち合わせを行なった。初めての顔合わせということもあり、ますいいのモデルハウスである「暮らしを楽しむ作り場」についてのご説明をさせていただいた。

この作り場では7つの左官仕上げに挑戦している。7つの仕上げを並べてみると
・木ずり下地の土壁仕上げ(茶室)
・ラスボード下地の本漆喰仕上げ(リビング)
・石膏ボード下地の既調合漆喰仕上げ(廊下、2階)
・木ずり下地の並大津仕上げ(トイレ)
・モルタル研ぎ出しのキッチン
・洗い出しの玄関土間
・モルタルかき落としの基礎幅木
である。

下の写真はモルタル研ぎ出しのキッチンの様子である。ちなみに下地には木ずりを使用しているのでベニヤ板を一枚も使用しないという完全自然素材のコンセプトにも合っている。こうした仕上げの様子は写真ではなかなか伝えることが難しいので、実際にお越しいただいてみて欲しいと思う。

土のソムリエ

2023/10/17

土のソムリエ、と呼ばれる人がいる。東京都中野区にある富澤建材さんの富澤さんだ。自然素材や伝統工法を愛し、全国各地の土を左官屋さんに教えてもらいながら仕入れてきた。ここに来れば京都の土も土佐漆喰もある。有明湾で作られている田嶋さんの貝灰もある。藁もすさも揃っている。こんな店は全国でも少ないだろう。今日はますいいのスタッフと一緒にお店を訪問したのだが、塗り見本やさまざまな素材を見てとても勉強になったと思う。

写真に写っているのは砂である。砂?そんなもの違いがあるのと思うだろうが、この愛知県の砂は綺麗な白色をしている。僕たちが公園の砂場で見る砂はいわゆる灰色、それとは全く違うのである。関東の砂はグレー、でも愛知のは白だったり黄色だったりちょっと違うのだ。土壁を塗るときには砂を混ぜる。その砂の色の違いは仕上がりの微妙な違いにもなる。だから砂もとても大切な要素なのである。

今日は相模原市に作ったカフェ「ガラチコ」さんにてチルチンびとの撮影に立ち合いをした

2023/10/11

今日は相模原市に作ったカフェ「ガラチコ」さんにてチルチンびとの撮影に立ち合いをした。このカフェはサイクリングや高尾山周辺のハイキングを楽しむ方々に向けたもので、宿泊や食事を楽しむことができる拠点となる建築だ。主催するのは元々はサラリーマンをしていたAさんご夫妻で、とてもエネルギッシュなお二人だ。建築に当たっては土地の造成工事までもをセルフビルドで行った。つまりは工作機械の運転まで自分自身で行ってしまったという強者であるのだ。もちろん他にもたくさんある。外壁の焼杉を貼ったり、内部の漆喰を塗ったり、できることは自分でやるを貫いた。だからとてもローコストで夢を実現することができたのである。建築は家形の3つのボリュームがつならる可愛らしいデザインを採用している。コミュニティー建築として集まりやすい場となるであろう。目の前には川が流れているというシチュエーションもまた良い。人は水辺を好むものである。この場所が多くの人々の物語を紡ぐ場になることを切に願う。

学芸、信仰、芸術などに感興を失わず情熱を抱き続ける老人こそ不老の人であり、実は最も幸せな生き方であるような気がするのである

2023/10/04

師匠の石山修武先生に電話をしたら、取り組んでいる事業に関して情熱を持ってお話ししていただいた。大学を退官してすでに8年が経とうか。高齢者であるが、心は青春そのもの、とても刺激をいただいた。

知人から送られてくる便りによると、2022 年における 65 歳以上の就業者数が 912 万人(2021 年比3万人 増)となり、1968 年以降で最多となったそうだ。また、高齢者の就業率(65 歳以上人口に 占める就業者の割合)は 25.2%となり、前年に比べ 0.1 ポイント上昇したということである。年齢階級別にみると、65~69 歳は 50.8%、70~74 歳は 33.5%と、いずれ も過去最高である。就業者数に占める割合は 13.6%(同 0.1 ポイント増)で、10 年前 と比較した高齢者の就業率は、65~69 歳で 13.7 ポイント、70~74 歳で 10.5 ポイント、75 歳以降で 2.6 ポイント上昇したそうだ。

70歳未満の人の半分が働いているというが、これはもはや高齢者と呼ぶこと自体が間違っているような気もする。現に建築の現場だってこのくらいの人が増えているし、ますいいの監督さんだって70歳で現役バリバリで働いていただいている。

高齢者や女性の労働力がこの国の労働を支えているという現実は間違い無いだろう。そしてそれをさらに高めるような政策を国はとっていこうとしている。でもこのようにしてまで働かなければいけないのかの疑問を感じる人もいるだろう。働かなくとも幸せに生きていけるのであればそれに越したことはない。でもそうはいかないのが現実である。

早期退職と年金天国だったイタリアもすでに様相を変えており、今や働かざるを得ない高齢者が増えているそうだ。アメリカは年齢による差別を禁止する法律の制定により、すでに高齢者労働が定着していて、高齢者の賃金が中年層の賃金と比べても遜色ないい所まで来ているという。

そう、やっぱり働かないとダメなのである。どうせ働かなければいけないのなら、若い時と同じように誇りを持って楽しく働きたいものだ。最近建築の労働者が減っているというが、僕は建築こそ高齢者労働に向いていると思う。飛鳥時代から同じようなことをやっている左官職人、小さなタイルを一枚一枚丁寧に貼るタイル職人、長年の経験や知識を必要とする大工職人、そして僕たち設計者も同じだ。経験がものをいう職種だけに高齢者の活躍する意義は大きく、賃金もやりがいも維持しやすいと思う。さらに、建築とは芸術的要素を多分に含む世界である。だからこそスキル以上に大切なことは、何かに対する夢を持ち続けることであろう。まさに師匠の石山先生のごとく、学芸、信仰、芸術などに感興を失わず情熱を抱き続ける老人こそ不老の人であり、実は最も幸せな生き方であるような気がするのである。

 

 

 

今日は衆議院議員の穂坂泰さんが会社を訪れてくれた

2023/10/03

今日は衆議院議員の穂坂泰さんが会社を訪れてくれた。穂坂さんとは2012年に地域の異なる同じ団体で長を務めた関係でお知り合いとなったわけだが、同じ年代の人間が国のために真剣に汗を流している姿というのはなんとも嬉しい限りである。僕たちはすでに49歳になった。この国の子供達の未来を作る間違いなく責任世代だ。どんなことがあってもこの国は僕たちが描く未来以上にもならないから、常に明るい未来を夢見続けなければいけないと思う。

哲学者トゥインビーの言葉を大切に生きている。
・理想を失った民族は滅びる
・ものの価値を全てと捉え心の価値を失った民族は滅びる
・歴史を失った民族は滅びる
毎日考えているわけではないけれど、いつも心のどこかに思っていることである。

仕事にはいろいろある。

僕がやっている建築という仕事も社会との関わり抜きには考えられないものであるし、仕事を通じて少しでも魅力的な社会を作ることを日々考えている。政治という仕事はさらにダイレクトに社会を作る。穂坂さんは現在外務大臣政務官になったということで、明日からはアフリカに出張するそうだ。片道30時間の長旅である。なんでも何かの建物の竣工式に出席するということであるが、それくらいのことでわざわざ出向くということはアフリカとの国交はとても重要なのだろう。この国の未来のために全力で頑張ってほしいと思う。

今日は暮らしを楽しむ作り場にて初めての茶事を開催した

2023/10/02

今日は暮らしを楽しむ作り場にて初めての茶事を開催した。この場所はますいいの家づくりのモデルケースを実演した場所である。自然素材の家づくりということでベニヤ板などの建材を一歳使用しないで作ったことや、左官へのこだわりということで本漆喰や木ずり土壁の家づくりをしていることが特徴であるが、プラン的には1階のL DKに並んで茶室を設ていることが大きい。茶室を作ったのは僕の茶道の活動の拠点になれば良いという思いである。茶道の活動で最も基本となるのが茶事、今日はその茶事を初めてこの場所で開催させていただいたというわけだ。

お客様は普段お世話になっている4名。正午の茶事ということで11時に席入りである。待合は2階にしつらえた。フロアリングにもうせんを敷き莨盆の代わりに萩の坂倉さんの作品を置いた。掛け軸は川口市の書道家市川先生の書である。LDKに躙口までの導線を作るために白屏風を使って目隠しをし、一度縁側に出て草履を履いて躙って茶室に入るという変則的な設だが、一般的な間取りの普通の家の暮らしの中に茶道を滲み込ませるという計画はなんとかなったようである。今後も定期的に開催したいと考えているので興味のある方はぜひお声掛けください。

本物の漆喰にはその白さの奥にある何かを感じるような、まるで水面のゆらぎのような感覚がある

2023/09/29

漆喰仕上げの話をしよう。漆喰仕上げというと最近はプラスターボード仕上げに、白い壁や村樫の漆喰などすでに袋詰めされて調合されている材料を水ごねし、2ミリほどの厚みで塗りつける仕上げ方法を採用することが多い。もちろんこの手法でも立派な漆喰仕上げであるが、さらに厚塗りにしたい場合は昔ながらの工法を採用する必要がある。

厚塗りだと何が良いかと聞かれることがある。漆喰の持つ調湿効果や消臭効果が高まるというような話もあるがこれは来年からものつくり大学の大学院にて研究をする予定なので、それを待つこととする。しかし明らかに違うこと、それは視覚効果である。厚塗りの場合、石膏ボードに薄く塗ったものと比べると同じ平滑な壁でも微妙なテクスチャーを生じる。

ますいいのモデルハウスではラスボードを下地として、4ミリほどの石膏下地を塗り、その上に本漆喰を4ミリほど塗って仕上げとする手法を採用しているのだが、この壁に光が当たる様子は誰が見てもとても静謐さを感じる仕上げである。ただ単に白いのではない、本物の漆喰にはその白さの奥にある何かを感じるような、まるで水面のゆらぎのような感覚があるのだ。

壁を感じるのは視覚である。目に見えるもの以上のものは感じようがない。しかし見えるものであれば結構微細なことでも感知できるのが人間である。壁の厚さが違うことによる差異は普通の人でも確実に目で見て感じることができる。だからどんな人でも、この部屋の漆喰が良いと思うのだろう。

1000万円で家を作るという挑戦をした人の話をしよう。

2023/09/26

1000万円で家を作るという挑戦をした人の話をしよう。この方は東京都で初めて新規就農者として認められたという人なのだが、ある時会社に1000万円で家を作ることができないかという問い合わせがあったのが初めての出会いであった。農家として作業をしているご両親はいつも広大な敷地で作業しているが、お子様たちは小さな公団のようなところでお留守番。ふとこの状況に疑問を持ったお子さんにどうしてお父さんたちはいつも広いところにいるのに私たちの家はこんなに狭いのと聞かれ、それなら家を作ろうと考えたそうだ。

僕のところにはこういう問い合わせがたまにかかってくるのだが、ただ単に安く家を作って欲しいという方の電話はお断りをするようにしている。でも本当に真剣に自分自身も参加して理想の家を作りたいという思いがある方の場合は、それを真剣に受け止めてご協力するようにしているのである。Iさんの場合は後者であった。だからこそ町田分室の田村につないでこの人のための家づくりを真剣になって欲しいという依頼をしたのである。

そんなIさんだが実際に畑の土地を購入して家づくりを始めるまでには結構苦労したそうだ。そもそも東京都内で購入してすぐに家を作ることができる畑など探すのは大変だろう。簡単に見つかれば誰でも欲しくなる。Iさんも約1年半の時間をかけてじっくりと探し出したのだった。

Iさんの家はログハウスだ。これは素人でもできる工法とは何かということを考えた結果の答えである。実際に海外ではログハウスを素人が組み上げて住んでいる事例はたくさんある。ますいいの枕木階段とも同じ発想だ。

このログの材料は国内にある加工工場から送られてきた。材料自体は国産の杉である。この敷地の一部には防火規制がかかっているのだが、当社が木の家一番協会の会員になっているので、防火認定のあるログ加工材を購入することができた。加工は全てプレカット工場で行っているので現場の加工はほとんどない。作業のほとんどをセルフビルドで行っているけれど、大工さんが10人工だけ作業した。具体的には墨出しと初段のログ敷設、屋根工事の初め、屋根のパネル貼り、家具工事の初めなど要所要所で指導などをしてもらった。

窓はアルミサッシはお風呂の1箇所だけ使用した。そのほかはFIXを多く採用し、開く部分は木製建具を3箇所だけ採用している。床は基礎コンクリートの上に根太を敷き、断熱材を入れて、ムクボードを貼っている。これも全てセルフビルドだ。

設備に関してもそうだ。電気の配線などは自分で行い、器具との接続などだけ電気屋さんに依頼した。給排水はなかなか難しく、外回りの穴掘りなどは行ったが、内部配管はプロに任せた。こうして1200万円ほどで家が完成したのである。

セルフビルドで作る枕木の階段

2023/09/22

自分の家を自分で考える、つまりは設計行為にも参加した建築の現場作業を自分で行うという事は、肉体的でも頭脳的でもない新しい労働の質を生み出す。頭の中から生まれた形を、現実のものとすべく職人さんたちと協働しながら、そして自分の体も動かしながら造り上げる労働は、お金の為の労働ではなく、そしてただの遊びでもない、まさにウイリアムモリスが羨望した景色に描かれた新しいスタイルだ。こういう事を大切にしていくことが人間の尊厳を大切にする事なのだと思う。

セルフビルドの中には、セルフビルドでなければ実現しないようなものを作ることがある。例えば僕の会社の外にある枕木の階段がそれである。この階段は僕がこの事務所を作っているときに、工事中にその資金が底をつき、あと5万円しかないのに階段がないという状況で生まれた、まさに起死回生、奇跡の産物である。この事務所建築の設計は私の師匠の石山修武先生によるものなのだが、担当者のTさんが実施にはアイデアを考えていた。あと5万円で階段を作る、そんなことできるわけないよねの諦め半分、でも作り上げないと家に入れない建築になってしまうというときに考えたのがこれであった。Tさんのお父さんは当時JRにお勤めだった。そこでTさんはお父さんに相談してJRに早稲田大学の研究に使用する枕木の寄付を求めてみたのだ。するとある日大型トレーラーに積まれた200本の枕木が運ばれてきたのだ。たくさんの枕木の積まれた様子を見た時は鳥肌がたった。一生懸命に手下ろしをするだけでも疲れて動けなくなるくらいだった。僕たちはその枕木をどう使うかを考えた。バルサ材を切って積み上げたりして色々な形を考えた結果、今の形のような積み木状に積み上げて階段を作ることを決めた。これなら素人でもできると思ったからである。なにせ5万円しか予算はない。大工さんに頼ることはできないのだ。

僕たちは早稲田大学の学生を5人ほど呼び寄せた。いづれも力のある男子生徒だ。枕木は一本40キロほどの重さだ。それをユニックなどの機械を使わずに脚立に乗りながら組み立てるのだから力がある学生でないと務まらない。まず初めに基礎を作った。基礎工事というのは鉄筋と型枠を組んでそこのコンクリートを流し込んで、固まったら型枠をばらす作業である。これは流石にセルフビルドではできないが、元々の工事予算に入っていたのでこの部分は業者さんに依頼した。この階段はコンクリートの基礎から出ているアンカーボルトを枕木に貫通させて締め付けていくことで固定しているので、最初の作業はアンカーボルトが貫通するための穴を開けることである。長い錐を使って垂直に穴を開けるのは意外に難しくって、初めのうちは斜めになってしまったけれどすぐに慣れた。穴を開けたら順番に積み上げていく。そして壁を作ったところに垂直に段板をのせる壁を作って最初の壁とクロスさせたらほとんど終わりである。

もともとこの階段のイメージは「生闘学舎」という三宅島に作られた枕木の建築にある。この建築は、社会運動に敗れた活動家の拠点として作られたが、枕木積みの3階建、違反建築だが日本建築学会賞を受賞する異例の作品だ。この建築の設計者は高須賀晋。1933年東京生まれの建築家で清水建設に入社し、20歳の時に電車に轢かれ片腕をなくしてしまう。そんな苦労をしながらも独立し、この建築を設計している。そしてもちろんこの建築を作ったのは素人集団、つまりセルフビルドなのだ。

(事務所建築当時の私)

朝から急に熱が出だした

2023/09/21

朝から急に熱が出だした。37度1分からスタートしてどんどん上がる。これは会社に行くことはできぬと家で仕事をするも、段々と節々が痛んできて仕事にならぬ。近所の病院にコロナの検査に行くも、コロナでもインフルエンザでもないという。世の中には何万種類ものウィルスがあって、その中でたまたま人間界で流行してたまに重症化するから治療薬を作ったのがコロナとインフルエンザだという。そのほかのウィルスによる風邪は特効薬の開発などしておらず、数日間で症状が落ち着いてくるまで待つしかないということであった。月曜日に行った大相撲、日曜日に留学生を連れて行ったお台場・・・さてさて何処でうつされたことやらであるが、やはり慣れない人混みは避けた方が良い。

身の回りの様々なものを自分で造ろうという事は、知覚できるテリトリーを出来るだけ拡張していこうとすることだと思う

2023/09/19

身の回りの様々なものを自分で造ろうという事は、知覚できるテリトリーを出来るだけ拡張していこうとすることだと思う。ハイテク社会において便利なものを受け入れれば受け入れるほどに、なんだかよくわからない物や事に支配される割合が少しずつ増えていくような気がする。意識するとしないとにかかわらず、何者かに自分自身の行動や嗜好を監視され分析され・・・、社会全体が表面からは理解できないほどに迷宮化している。でも、人が暮らすってそんなに複雑な事なのだろうか。住宅は僕たちの理解できる空間へと創り直すことが出来る唯一の居場所である。だからこそ出来ることは自分でやる、セルフビルドが価値があるのだと思う。

「自分の家は自分で造る」本当はこれが理想である。でも自分自身で全てのことをやるのは無理だから、できるところをやればいいというのがますいいの考えだ。設計を自分自身でやりたい人もいるだろう。普通はこんな人いるわけないと思う。でも実は建築の知識を持っていて、今は木造住宅を作る会社に勤めていない人、もしくは勤めているけれど自分のメーカーでは建てたくないと考えている人はたくさんいる。要するに建築学科を卒業している人の数を考えたら結構存在するのである。実際にますいいには自分自身で1/100模型まで作ってきて、これを建ててほしいというようなクライアントも結構いる。詳細設計は面倒だし、木造のことはよくわからない、でも建築のコンセプトや大まかなプランニング、断面計画などについては僕たちと同じように考えたいというようなパターンは結構あるのだ。埼玉県のさいたま市に作ったWさんの家では、大手の設計事務所に勤めるWさんのスケッチに基づいて設計を行なった。初めはますいいさんのプランも見てみたいと言われたので、僕たちが考えた設計をプレゼンしたのだけれど、出張で関西方面に行く新幹線の往復で描き上げたプラントパースのスケッチを渡されて、これで作って欲しいと言われたのである。このように「自分の家は自分で造る」の最初のパーツは設計である。

 

笑う壁

2023/09/17

塗壁の仕事、特に土壁というのはアバウトでランダムでノープロブレムなものである。アバウトであるということは、その仕事が水を用いて、太陽の熱や風によって乾燥し固まっていくということから起こることだ。これらの条件を人間の力でコントロールすることは叶わない。寒い日を避けようとか、あまりにもかんかん照りの日に外壁を塗らないなどの気遣いはできるが、その程度のことである。乾燥条件が変わるからこそアバウトさが内包されるのだ。

ランダムさは素材の多様性から生じる。先日中野区にある富澤建材を訪問した。そこには伝統左官に用いる様々な素材があった。これらは全て日本各地で採れる左官の素材である。本聚楽土、稲荷山黄土など誰でも知っているものや、白土などなかなか目にしないものまである。白土といえば法隆寺の金堂にある壁画の下地に使用されているのが起源であろう。法隆寺の時代から左官があったのかと驚く方もいると思うが、檜の木ずり下地に土を塗り重ね、白土のキャンパスを作ってそこに壁画を描いている。左官は遠く飛鳥時代から続く手法を今でも用いているのである。

泥だけではない。すさも海藻ノリもそれぞれ同じものは一つとしてない。粘土のように数万年から数百万年かけて岩が風化してできたものですら、そこに含まれる鉄分やアルミや腐食によるものたちは、白や青や黄色や赤の無限と言っていいほどの色を持つのである。

これらの素材を用いて、それをさらに職人の頭の中にあるイメージを膨らませながら混ぜ合わせ、壁に塗ることによってできる塗壁は、ノープロブレムな成り行きに任せて生み出される。ノープロブレムな成り行きというのは出鱈目ということではない。職人の経験に基づいて、さらにその先にある、風、人、太陽、土・・・の出会いの結果に委ねるということである。こういう自由さがあるからこそ私たちは左官の壁に魅了されるのである。ビニルクロスにはない表情、まるで笑う人の表情のように壁もまた笑うのだ。

僕はこういう大規模のメンテナンスは15年、30年のペースが適正と考えている

2023/09/13

東京都板橋区にて15年ほど前に作った4個ハウスのメンテナンスに出向いた。この住宅は20坪ほどの小さな土地に建つ。建坪率・容積率が厳しいので2階建てでは床面積が足りない。だから地下室を作ることにした。狭い敷地での地下室工事は外壁側からの防水をすることができない。土留めのためのH型鋼と矢板はもちろん埋め殺しである。防水はタケイ式コンクリート防水を採用、これはコンクリート自体の防水性能を高める工法である。15年後の訪問、この防水がしっかりと効いていることを確認できたことは何よりもである。

地下工事を行う場合は、その建物が建つ敷地の条件がとても重要だ。この土地は近くに氷川神社があり、高台の上に建っている。通常神社があるような場所は昔から人が暮らしやすい場所であることが多いので、こういうことも一つの判断材料になる。逆に言えば、田んぼだった低地で無理に地下工事を行っても良好な環境を継続して得ることは難しい。設計者はたとえ施主に要望されてもこういうことはきちんと説明してあげる責任があろと思う。

15年のメンテナンスとなると、まずは浴室に使用したFRP防水とコーキング、外壁に使用したシリン吹き付けの上塗りが必要だろう。そのほかには特に問題はないようだが、もし足場を組むなら屋根のガルバリウムも塗装した方が良い。家も人間と同じで定期的なメンテナンスを行えば長持ちする。そうでなければ30年も経てばだめになる。僕はこういう大規模のメンテナンスは15年、30年のペースが適正と考えている。もちろんメーカーの推奨期間はもっと短いけれど言われた通りに10年ごとにやったらお金がかかってしょうがない。何事も程々が良いのである。

 

藤森照信先生設計による神長官守谷資料館他の建築群を見学した

2023/09/12

今日は長野県塩尻市にある木曽アルテックさんを訪問。朝6時30分に会社を出発して、関越自動車道から圏央道を通り中央道諏訪インターを降りる。少し時間があったので藤森照信先生設計による神長官守谷資料館他の建築群を見学した。この建築は鉄平石の屋根を持つ土壁の展示場である。内部展示室では、諏訪大社で行われる御頭祭で供えられた神饌の再現展示や、武田信玄の古文書を中心にした守矢文書などがある。本物の剥製など最近ではあまり見ることがなくなってしまったが、人と獣との関係の中で当たり前に行われてきた儀式から目を背けることはするべきではないと思う。昨今熊による被害がとても増えているけれど、こういうことも人と獣との関係性が変化してしまったことによるものなのかもしれない。

少し歩くと空飛ぶ茶室などの3つの茶室群がある。茶道をやらない人でも一度はメディアで目にしたことがあるだろう。藤森さんの建築はブリコラージュ(器用仕事)である。これは
・ありあわせの材料
・古材の再利用
・粗い仕上げ
・現場のデザイン
を大切にしながら設計を行うこととも言える。この設計手法は利休の茶室作りと同じとも言える。さらにセルフビルドにとても向いている手法でもある。そしてこれは昨今の人間が失ってしまいつつあるものでもあるような気がするのである。

人が自然と向き合いながら逞しく生き抜かなければならなかった太古の昔から身につけてきたものをまだ持っている藤森先生が、その力技の設計を通して僕たちに人間の可能性を伝えようとしているのではないかの妄想をしながら建築を見る、まるでジブリの映画のような考えさせられるひとときであった。

裏千家水屋の張り紙を見て

2023/08/25

今日は裏千家今日庵で開催される茶席に参加した。コロナの影響でこの手の行事は全く無くなってしまっていたのだが、数年ぶりの開催ということで参加者も多いようだ。待合に使われた建物の中にこんな張り紙を見つけた。

「体調不調の場合は参加しない・・・」どれも当たり前と言えば当たり前のことである。でも大人の世界では義理や都合を優先させちょっと無理をして参加してしまうなどのことも多いのが現実だから、当たり前のようで当たり前では無いことが書かれているなあと感じた。ここに書かれていることが当たり前になった世界はきっと暮らしやすいし、無理もないだろう。そして無理もないからコロナやインフルエンザなどの感染なども起きにくいのだと思う。そもそも日本人は頑張りすぎる傾向があったけれど、「体調が悪いから休みます」の当たり前の発言がしやすくなったことはとても良いことである。

濃茶の回し飲みが無くなって久しい。コロナで無くなった回しのみだが、コロナ前から抵抗を感じていた人もいると思う。僕はあんまり感じていないけど、でも隣の席に若い女性がいたりするとなんとなく申し訳ないなあと思うことはあった。こういう感覚は誰だってあると思うし、逆に何も感じない人の方を僕は疑う。感染を防ぐための各服点、回し飲みをしないことが通常の世の中となったのである。しかし茶事などの少人数で、会長管理などをしっかりと行い、この席では回し飲みをするんだという設をしたとして、もちろん参加者の同意を得た上でそれをすることの価値はさらに高まるようにも思う。一期一会の大切な時間を共有する中で、人と人の心理的距離を縮めるための行為として回し飲みの価値はきっと無くなることはない。昔からの決まりだからやっている・・・のではなく、その価値をこの席でどうしても実現したいから行う回し飲み、さてさていつどこの席でやってみようかなあと思いつつ、今日の茶席を楽しませていただいた。

トイレには土と石灰を混ぜたいわゆる大津磨き仕上げを採用した

2023/08/21

今日は東京都文京区小日向にて新築住宅を検討中のKさんご家族をますいいリビングカンパニーのモデルハウス「暮らしを楽しむ作り場」にご案内させていただいた。このモデルハウスは大きく3つのコンセプトを大切に作っている。まず一つ目は暮らしやすいプランを実現することである。40坪のモデルハウスはいわゆるハウスメーカーの住宅展示場にある豪邸に比べると小さい。でも実際に建てる住宅としては実は最も一般的な広さである。最も一般的な広さの中で心地よい暮らしを実現できそうな答えを提示することに意味があると感じ、現実的な住宅の設計を丁寧に行ったというわけだ。

玄関を入るとそこには手洗いが設置されている。玄関収納はたっぷり2畳の広さをとっている。手洗いの隣にはトイレを設置しているのでトイレの際の手洗いとしても利用できる。キッチンから洗面所、そしてハーフユニットの水回りへと続く導線は、扉を一枚開ければ直線的な移動のみで行き来ができるようになっていて家事をする上でとても便利なものだ。

トイレには土と石灰を混ぜたいわゆる大津磨き仕上げを採用した。大津磨きは土壁なのに磨き仕上げ、つまりは表面がツルツルとしている。埼玉県の川島町にある遠山記念館のトイレが赤い大津磨きで有名なのだがそれと同じ素材だ。

リビングの奥には茶室がある。最近は和室のない家が多くなってしまったけれど、やはり畳は日本人の暮らしにはよく合うと思う。そもそも平安時代の寝殿造では全て板敷の家だったところに寒さ対策、そして居心地を改善するために敷き込んだのが畳であるのだ。

一つ目の大切にしたポイント、「プラン」は住宅を造る上で最も大切なことである。そしてとても多くの想いを込めて生み出すものである。このプランが全ての人に当てはまる訳ではない。その人その人に合うプランを丁寧に作り上げていくことこそが大切だと思う。

ようやく新たな茶道の師匠と出会うことができた

2023/08/19

12時、茶道稽古。11年間師事した松田先生が長野県の田舎に引っ越しされて社中を閉鎖してから約2年ほど師匠をもたない暮らしをしていたのだけれど、ここでようやく新たな茶道の師匠と出会うことができた。新しい先生は永井先生と言って、地元の茶会などで何度かお会いしたことがあったのだけれど、これまでお話をしたことはない。先日たまたまお会いした時に、今度お稽古に行ってもいいですかと聞いてみたら、是非来なさいの温かい言葉をかけていただき見学に行ったのだけれど、それがご縁で入門させていただくことになったというわけである。僕は今年で49歳になる。師匠という存在にこの年で出会うことができるのかなあと半ば諦めていたようなところもあるのだが、でもこうしてご縁が繋がったことに本当に感謝したい。

茶道の師匠というのはどんな存在なのだろうか?という質問をされることがある。茶道はお点前を習得するというのが主なのだけれど、実は僕の場合お点前を習得すること自体についてはすごく熱心に取り組んでいるかと言われるとそうでもない。では一体何のために社中に入門して稽古に行くのかといえば、先生と一緒の空間に身を置いて、点前の箇所箇所の間違いを指摘されている時間に感じるある感覚がとても大切なものだと思うからである。その感覚というのは、何となく大人になると忘れてしまうもの、例えば嫌いな正座をして点前が終わるまで待っている時に感じることとか、例えば「姿勢をよくしなさい」「指を卵型にした方が綺麗に見えるわよ」「なんか動きが早すぎであなたの頭にはリズムが流れているの」とか・・・こんな指摘をされた時に感じる感覚、うまく言葉ではいえないけれど、こうあるべきということをピシャリと言われた時に感じる心地よさのようなものだ。厳しくされて心地よい?これは不思議に思うかもしれないけれど、分かっていただける人にはわかるだろう。今日の稽古は茶箱卯ノ花点前であった。中学2年生の兄弟子に助けられながら何とか最後までたどり着くことができた。

終了後、京都の粟田焼きの安田さん、茶碗の絵付け講習会に参加。苫屋を描いてみたものの果たしてどうなることやら。自作の絵付け茶碗は全て普段使いの飯茶碗になっている。初めて茶道で使いたくなるようなものになるかどうか、出来上がりが楽しみである。

「このモデルハウスのこの辺までなら私の土地にも入るかしら・・・」

2023/08/18

朝一番で埼玉県川口市で進行中の古民家再生の現場へ向かった。今日は左官の小沼さんが現場に来て作業をしてくれる日だ。小沼さんは榎本新吉さんのお弟子さんだった方で、今の左官職人の中でも東の横綱というくらいの存在である。今日は和室の土壁の下塗り作業である。出来上がってしまえば分からなくなってしまうけれど、杉板を貼った木ずり下地に半田を塗って、その上に中塗り土、仕上げ土を塗り重ねていくというとても手間のかかった丁寧な工事の末に、素晴らしい土壁が仕上がっていくのである。

11時、東京都板橋区にて住宅の建て替えを検討中のSさん打ち合わせ。Sさんは以前ますいいのモデルハウスにお越しいただき、一目惚れしていただいたということである。「このモデルハウスのこの辺までなら私の土地にも入るかしら・・・」の言葉は何度か聞いたけれど、本当に一番の褒め言葉だと思う。実際には土地ごとに法律による規制も違うし、そもそも土地の形も違う。それに方位が違えば光が入る向きだって違うし、周辺に建っている建築の状況だって違うわけなので、一軒一軒丁寧に設計を行わなければ良い家などできるはずもないのだけれど、そんなことは分かっていても「このモデルハウスのこの辺までなら私の土地にも入るかしら・・・」を言われた時の嬉しさというのはなんとも言えないものなのだ。

壁はできた時が完成ではなく、朽ち果てていく姿こそが美しいという

2023/08/13

今日は朝から奈良県の旅を楽しんだ。まず初めに法隆寺を訪れた。法隆寺は聖徳太子が斑鳩宮のあったこの土地に、推古15年に亡父のために作った寺であった。(実際のところはさまざまな説があるが法隆寺HPより抜粋する)5重塔は昭和17年から27年にかけて大修理を行っており、今見る姿はこの時に作られたものである。

西院から10分ほど歩くと夢殿がある。夢殿は聖徳太子を追慕して創立された法隆寺東院の中心建物で、著名な救世観音を本尊とし、あわせて東院の創立と再興とに尽力した行信・道詮の像を安置する。

今回の目的は法隆寺に残る「壁」を見ること。ここには様々な土壁があるが、それにも増して壁画とそのキャンパスのための木ずり漆喰に壁があることで知られている。こういう視点でここを訪れたのは初めてだが、改めて壁を中心に取材をしてみると本当に様々な表情を残していることに気がつく。壁はできた時が完成ではなく、朽ち果てていく姿こそが美しいという。この写真に写るのは版築の築地塀だ。下の方にある瓦は補強のために受けめ込まれたものが露出している様。その上の何層に重なっているように見えるのが版築の土が突き固められたもの。土はこうして自然に還ろうとするのである。

漆喰の壁画や木ずりの下地は写真に撮ることを許されなかったが、実際の金堂内部にある壁画の様子は見ることができるのでぜひ足を運んで欲しい。

土佐漆喰という不思議な漆喰がある

2023/08/06

土佐漆喰という不思議な漆喰がある。どんなふうにできたかよくわからないばかりか、土佐地方に限っている点も不思議である。土佐では江戸享保年間から石灰が焼かれている。その石灰に発酵させた藁を混ぜ、3ヶ月から半年寝かせて作るのが土佐漆喰である。ちなみに普通の漆喰というのは、消石灰に角またを煮て作った糊を混ぜ、そこに麻のスサを入れて作る。麻のスサは大抵漂白されているから、色は純白である。麻を漂白しないでスサとして使用することもできるがそれには麻農家との交渉が必要だ。麻農家は600キロくらいはいるプールの中でまとめて漂白をするから、それをしない麻を購入するなら600キロ単位で買わなければならない。

袋に入った土佐漆喰はほのかに藁色に染まっているがこれは藁のアクの色だ。藁色とは薄い黄色である。とても優しい色合いで、水回りの壁などにとてもよくあう。壁に塗ると紫外線を浴びてその藁色が薄れていくのも特徴である。しかし、藁を発酵させて混ぜ込むという技術はどこから来たのだろうか。泥壁の綿と土を混ぜたものを発酵させる技術や、酒造りや、麹の仕込みの際の技術などを転用したのかもしれない。酒のことを古語でササという。ササとか、サカと言ったそうだ。朝鮮語では酒をトソと呼ぶ。ササ、サカ、トソ、トサ、そしてサカン、これらの言葉には何か繋がりがあるのかもしれない。

今夜は早稲田大学石山修武研究室の先輩である高木正三郎さんと勇建工業の加村さんと一緒に博多の街で呑んだ

2023/08/02

今夜は早稲田大学石山修武研究室の先輩である高木正三郎さんと勇建工業の加村さんと一緒に博多の街で呑んだ。皆建築バカである。40代後半から50代半ば、改めて思えばけっこう歳をとったもんだ。高木さんは櫛田神社の隣にある灯明殿という結婚式場の設計をやり遂げた。これはなかなかの建築である。もしかしたら日本建築学会賞の可能性もあると言われる傑作だ。千と千尋の神隠し、まさにそんな世界観を現実の建築技術を駆使しながら実現している。しかもその多くは鉄とガラス、無機質な工業素材の組み合わせである。なんだただの現代建築かの諦めを感じそうなところだけれど、そうでないのがやはり高木さんである。1階の外壁は左官による漆喰、内部にも至る所に左官の壁がある。高木さんの壁は単なる間仕切りとは違う。高木さんの壁は生きているのである。高木さんに呼ばれた名人級の左官による壁は、選び抜かれたさまざまな自然素材が封入されていて、それが水や風などと反応して変化し続ける。日本の西の玄関口にに相応しい、新しい建築を見ることができた。

土壁は母なる大地の胎内に包まれるような優しさがある

2023/08/01

全てのものは、土から生まれ、そして土に還る。

人の暮らしはかつて土と共にあった。

今ではその土を目にすることもさわることも減ってしまったような気がする。

土壁は母なる大地の胎内に包まれるような優しさがあるのだ。

8月1日13時30分ごろレンタカーで大分県日田市にある原田左研についた。原田左研の原田進さんは、左官のカリスマ久住さんに弟子入りしたこともある65歳の職人だ。当時は久住さんに弟子入りしたくて大分県から淡路島までバイクを飛ばして行ったが、たまたま久住さんが京都の現場に行ってしまっていたので会えなく帰還したらしい。そのあとちゃんと連絡をして正式に弟子入り、それ以来10年以上にわたって共に活動したというからかなりの経験の持ち主である。

原田さんのアトリエにはたくさんの塗り見本がある。白い壁、茶色い壁、赤い壁、鏝押さえ、ひび割れた地面のようにバキバキに割れたもの、砂鉄を蕨粉で塗った壁、よくもまあこんなに作ったものだと感心してしまう。原田さんの頭の中には、いつもこの素材をこんな風に塗ってみたらどうだろうのアイデアが浮かんできるのだ。

見本の裏側には調合が書いてある。これは左官職人にとってとても大切なレシピだ。土、石灰、藁すさ、蕨粉の澱粉糊、砂、全て自然からいただいたものを人の手を通して、素材を生かすことができる順番と方法で混ぜることで、それらはとても温かみのある壁になることができる。

土壁に入れる藁を手に入れるために田んぼをやっている。ちょうど水が止まってしまっているのを治しに行くというから川に一緒に行ってみると、近所の老夫婦が待ち合わせの場所にいた。どうやらその場所に建つ家がその二人の住まいのようだ。川には中央部分がえぐれた堰があって、そのえぐれた部分からほぼ全ての水が下流へと流れていた。その部分に木の板を渡し、それを石で固定してブルーシートで壁にすると、水の流れが堰き止められて横にある取水口に行くというなんとも原始的な仕掛けであった。一度でも本格的な雨が降れば一瞬で流されちゃうぜというようなものだけれど、皆こんなもんだよという。

「米を作るのは大変なんだよ、にいちやん」老人から言われた。でも原田さんにとって大切なのは米ではない。藁である。原田さんの置き場にはたくさんの藁が保管されている。今では米の収穫の時にコンバインで藁を細かく切って田んぼに戻してしまうから、こういう長い藁をとってほいてくれる農家は少ないそうだ。左官という生き方、また一つ大切なものを目にすることができたような気がする。

東京都の閑静な住宅街に建つ小さな住宅の基本設計

2023/07/28

明日の打ち合わせについての基本設計スタディー。東京都の閑静な住宅街に建つ小さな住宅の基本設計を行なっている。木造2階建、敷地周辺は低層の住宅が並び、大通りから少し入ったところにある比較的静かな環境にある。ただ西側には銭湯があり少々雑然とした環境なのでそちら側に対する塀などの対応が必要だ。敷地のどの部分に対して庭を作り視線を開くか、建物を背景としてどの部分を切り取るかといった検討を重ねプランを作成する。今回は前回のご提案からの発展案を二つ、そして改めて考えたアイデアを二つ、合計4つのプランをご説明することにした。

鉋をかけると木が生き生きとする

2023/07/27

埼玉県川口市にて進行中の古民家再生の現場では大工さんによる造作工事が行われている。この住宅はクライアントのご主人のご実家として使用されていた築150年ほどの古民家。建てられてから100年ほどで曳家に伴う大きな改修工事を行い、その後も家族構成の変化に応じて増改築を繰り返してきた。増築部は材料の不足などの厳しい状況の中おこなわれたのか、梁が柱に届いていなかったりといった非常に混沌とした状況であった。それに対して150年前に作られた部分は、曳家の際に小屋組が少し複雑な状況にされてしまっていたものの、柱や梁は古民家らしい大断面のしっかりとした古材で構成されており、とても見応えのあるものだった。ホール上部にある四本の見事な丸太梁は、吹き抜けにして化粧で見せることに。この建物は平家だが昔は一部2階の床があったような痕跡もあった。事実、小屋組の高さは2階建ての屋根の高さを有に超えるほど高いもの。これだけ高い小屋組の上に立派な瓦が葺いてあるのだから相当重い屋根として構造の補強を行った。

構造に関しては「大工塾」を運営し、伝統工法を科学的に立証してきた木造構造設計の第一人者、山辺豊彦さんのご指示を仰いだ。補強のポイントは以下の通り。

 

・耐力壁として利用できる柱・梁の軸組を作る。

・曳家の際に作られたしっかりとした基礎を利用して新たな間取りに対応した基礎を作る。

・不足する耐力壁を増やす。小屋組も2階建てのように耐力壁で補強する。

・24ミリ合板を用いて屋根から耐力壁への力の流れを整える補強をする。

こうした補強工事を終え、いよいよ造作も最終段階に入っている。写真は檜の部材に鉋をかけている様子。鉋をかけると木が生き生きとする。既製品では見ることができない作業、昔は当たり前だったけれど今では貴重な光景である。

少し腰が曲がったとても優しそうなおばあさんと、凛としたおじいさん

2023/07/23

先日見学した愛知県豊田市の藁工場をご紹介したい。以前ご紹介した鉱山のすぐ近くに位置する田園地帯にある小さな工場。中には85歳の老夫婦がたった二人で作業をしていた。少し腰が曲がったとても優しそうなおばあさんと、凛としたおじいさん。稲を細かく切ったりほぐしたりする機械に向かって作業をしていた。僕たちが入ると、とても嬉しそうな顔で迎えてくれた。「久しぶりだねえ」、一緒に連れて行ってくれた勇建工業の加村さんは顔馴染みなのだ。話をしていると、先日は沼津の方から誰々さんがきたんだよ、その前は九州の方から・・・、土壁を扱う左官屋さんが方々からここに藁を求めてやってくるのだという。昔はどこにでもいた藁職人、今では本当に貴重な存在になってしまったのだろう。

稲藁というのは昔は色々なことに利用されていた。例えばソファの中に入れる藁綿。この工場でも昭和の中期までは藁綿が主力商品だったそうだ。だから農家さんは稲刈りの際にも藁を大切に束にしてとっておいた。しかし今では収穫するときにそのまま機械で裁断してしまうそうで、綺麗な長さ80センチくらいの状態の稲藁はとても手に入りにくくなっているということであった。写真のおばあさんの後ろにある藁は、土壁の土を寝るときに使用するものである。細い繊維状になった藁を練り込み、おいておくとその藁が発酵してバチルス菌という菌を出す。この菌にはカビや匂いを防ぐ効果もあり、人の暮らしの中にはとても良いものだ。自然の産物だからこそ持っている自然を優しくコントロールする力なのだろう。

壁土を採取する鉱山の見学

2023/07/20

今日は愛知県豊田市にある鉱山に訪れた。この辺りは陶器自体のことを瀬戸物と呼ぶ程に焼き物が盛んな町なので、土を採掘する場所はたくさんある。ここで採れた土は焼き物だけでなく左官の土壁にも塗ることができる。今回は勇建工業の加村さんの案内で、土の工場を見学させていただいた。写真の機械はまるでジブリパークの中にでも来たかのようなノスタルジックな雰囲気がある。現代アートと言われればそうも見えてしまうよううなものだけど、これは土を細かく砕いて篩にかけ、袋詰めするための機械である。左下の方に見える糸巻きは最後に袋を縫うためのものだ。袋はいろんな種類のものが置かれていたが、まあ土が入ればなんでも良いのであろう。こういうルーズさが、パッケージラベルの美しさで商品価値を高めようと躍起になっている建材メーカと比べて心地よい。

それにしても土は本当にただの土である。これを篩にかけ細かくして藁と混ぜることによって、あんなにも味わい深い壁に変化するのだと考えると、昔ながらの土壁というものは本当に素晴らしいと感心せ得ざるを得ない。古い土壁は合成樹脂などの余計なものが混入していないので、丁寧に解体すればまた新しい壁に塗ることができる。もう一度人間の役に立つこともできれば、そうではなく元々のただの土に還ることだってできるのだ。そういう自然の素材だからこそ、土壁の部屋に入るとまるで森の中にいるような感覚を感じるものだ。それもそのはず、その空間を構成する要素は木と土だけなのだから。

住宅設計手法

2023/07/14

日本で家を作ろうとすると、30年間くらいの住宅ローンに縛られます。一生に一度の買い物なのに、普通の常識的な値段では建売住宅かハウスメーカーで建てるしかないのが現状です。そうすると、設計に自由がなかったり、ちょっと変更しただけで多額の追加金額が発生したりしてしまうわけです。こうした家づくりをしている会社が悪いわけではありません。大量生産の原理でコストダウンを図っている会社では、ある一つのパターンにはまっている商品を選べば、大幅なコストダウンが可能になり、買う側も割安で、会社側も利益が出るという構造になっています。だからそこから外れるご要望が出た場合にはどうしても追加金額を発生ささせて、それを回収しよう、もしくは変更をさせないように仕向けようとなるわけです。

ますいいでは、こういう家づくりでは満足できない方のために、4つのポイントを重視して工務店機能を兼ね備えた設計事務所運営をしています。

  • 設計事務所つまりアトリエとしての模型やCGなどを利用した丁寧な設計を行う
  • 家づくりの中で自然素材をふんだんに使用
  • 自分の家は自分で作るという理念のもと、セルフビルドを積極的に取り入れる
  • 家のどの部分にどのようにお金をかけるかを考えるために見積書の一つ一つの部材まで値段を公開すること

ますいいリビングカンパニーでは、家づくりの中で多くのセルフビルドを取り入れることを推奨しています。家づくりの値段の約半分は職人さんの人件費にかかります。セルフビルドはこの人件費を節約することができます。例えば壁の漆喰塗りを自分で行う場合はどうでしょうか。通常漆喰仕上げを左官屋さんに依頼すると、石膏ボードに薄塗り仕上げでも平米あたり4500円ほどのコストがかかります。それをセルフビルドで行う場合、材料費のみで済ませることができるのでビニルクロスと同じ平米あたり1500円ほどのコストで漆喰を塗ることができるのです。ますいいでは漆喰仕上げだけでなく、タイル貼り工事や建具などの塗装工事、床のワックスがけ、デッキづくりなど多くのセルフビルドを推奨しています。

ではこうしてできた家の実例をご紹介いたしましょう。この住宅は2年ほど前に埼玉県上尾市に作りました。敷地は農家さんなので畑一つ分、かなりゆとりのある敷地となります。まっさらな土地に家をたてる最初のプランを行うことを基本設計と言います。僕はいつも敷地に立って、その敷地のこの辺がリビングだなあとか考えながら歩き回り、暮らしの中でいつも見ていたいなあと思うような景色はどこかなあと考えて、その風景を切り取ることから始めるようにしています。

これは写真を撮るような感覚ですね。

その時にもう一つ重要なのが家の重心を決めることです。家の重心というのは家族の意識が向かう場所のことを言います。この家のお施主さんはガーデニングの作業がとても好きです。だからどこにいても庭を意識できるようにプランをしたのですが、その庭の方向に薪ストーブを配置して、そこを家の重心に決めました。僕は普段から家には重心がある方がいいと考えています。重心がある方がなんとなく落ち着きます。重心のない家はなんかふわふわしていて、家族の団欒も生まれにくくなります。何も意識をしないでいると大抵の家の重心にはテレビがあることが多いのですが、できればそこには薪ストーブがあるといいと思います。揺れ動く炎を見ていると心が落ち着きます。動物は元々火に集まるものなんですね。焚き火を見ているのと同じような感覚でしょうか。こういう環境を作ってあげることが本当の家づくりだと思います。

リビングの白い壁はお施主さんによるセルフビルドで漆喰を塗っています。石膏ボードの継ぎ手やビス穴のパテ処理を行い、それをヤスリで削り取って、栃木県産の漆喰を塗っています。施主仕事ですので多少の凸凹もありますが、自分の家を自分でつくるとこういうアラもお気に入りのポイントになるものです。欧米では家のリフォームの塗装工事などを自分自身で行うことは普通のことです。だからホームセンターでほとんどの建材を揃えることができます。日本人は、細かいところに目がいくという性質があるのですが、家づくりにおいてはそれが全ての職人に頼まなければいけないという考えにつながり、コストアップに向かっていく原因になります。お金がある人は全く問題ありませんが、限られたお金で理想の家を作ろうという場合には、やはり自分でできることは自分でやることをお勧めします。

重心が決まったらその周辺の空間を決めていきます。リビングの周りにはオープンキッチンを配置してその前には出窓のあるダイニングを作りました。キッチンの素材はモールテックスと言って、モルタルの薄塗りのような質感がある樹脂系の左官材料です。ちなみにこのキッチンの正面に貼られてるタイルはセルフビルドでお施主さんが貼りました。このような1面だけの小さな面積のタイル貼りは数あるセルフビルドの中でも最も取り組みやすいものだと思います。タイル自体はインターネットもで世界中のタイルを購入することが可能です。是非挑戦してみてください。

その横には大きな階段があります。これはお施主さんが作りたいと言って要望してきたものなのですが、イメージの写真をいただいてそれを見ながらどうやって作るか考えて設計しました。ここは時にはソファのように使って映画を見たりすることもできますし、もちろん2階に上がるための階段にもなっています。

リビングには大きな吹き抜けがあります。吹き抜けの上部にはホールがあって、手すりがわりに机を作りました。両側に収納を配置して、机面には立ち上がりを作りものが落ちないようになっています。このように細かいところまで、使いやすいように考えられているんですね。

屋根の上には富士山が見えるデッキを作りました。ベランダから出れるようにしたのですが、ここもとても楽しい場所となっています。プランを作る時には、このように実際の暮らしをイメージしながら、使いやすくて無駄のない答えを探すことが大切だと思います。

夏の暮らしの様子 ルームツアー
https://www.youtube.com/watch?v=3w7RmLAD4Tg

雑誌ちるちんびとに掲載 webマガジンでも記事をご覧いただけます

https://www.chilchinbito-hiroba.jp/column/housing/archives/3468

 

 

 

 

 

 

 

 

煙突のある風景

2023/07/08

僕が子供の頃、それは昭和50年代くらいまでのことであるが、川口市には木型屋さんという商売で生計を立てている家庭がたくさんあって、仕事で出た木屑を薪として利用して沸かす風呂が普通に使用されていた。僕の母型の実家もそうであった。離れの風呂場は木型の材木置き場の横に作られており、薪をくべて水がゆっくりと湧いていく様子を確かめながら恐る恐る風呂に入ったことを記憶している。うちだけではなく周りの家にも同じような風呂があったから、屋根の上には粗末な煙突がたくさん突き出していた。夕暮れ時、通りすがりの家々の煙突に白い煙が上がっている風景があった。

煙突が家々から追放されたのは、ガスや電気が普及して、薪を使うことがなくなったからである。いわゆるエネルギー革命である。ソーラーパネル発電、エアコンや冷蔵庫、電子レンジにIHヒーター、そしてエコキュートなどの普及により、人間は炎という初元的なエネルギーから隔離され極端な便利さを実現したのである。しかしながらこうした住宅は家が家であるための中心を書いているように思われてならない。

今更昔のような暮らしに戻ることはできないだろう。でも寒い時に暖をとるための薪ストーブくらいであれば昔のスタイル、つまり薪を燃やすという原始的な行為を暮らしの中に取り込むことはできると思うのである。薪ストーブはただ単に暖をとるだけでなく、その上で料理もできる。揺れ動く炎を見ていると、それだけで何時間も飽きることなく過ごすことができる。それに現代人の疲れた心も安らげてくれるだろう。だからこそ場所は通常テレビが置かれる場所、つまり家の中心がいいと思う。

昨今の暮らしでは、必ずしもテレビは中心ではなくなった。というのも各自が持つスマホを通して受信される情報によって、情報過多の中の情報不足、結果的には貴重な経験や記憶を逆に喪失しているのではないだろうか?テレビが良かったわけではないが、テレビには確実に家族を集める効果はあった。しかし現代のように集まることを捨て、極端な個の世界への没頭を選択可能な状況の中で家族ですら会話を交わすことが減ってしまった。かつては暮らしの中で自然に得ることができた土塀に苔が生えるように成熟する記憶も、風雨にあらわれる荒壁のように時を刻んでいく経験もないのである。薪で風呂を焚くこともなく、井戸水を組むこともなく、テレビの周りに集まってサザエさんを見ながら談笑することも無くなった子供達は、密かに明るい虚しさを感じているのではなかろうか。薪ストーブの煙突を増やそう。それは子供達の笑顔を増やすことにつながるような気がするのである。

日本左官会議の旧渡辺甚吉邸見学会に参加した

2023/07/05

今日は日本左官会議の旧渡辺甚吉邸見学会に参加した。場所は茨城県取手市の前田建設工業さんの敷地内にある。保存運動の結果、移築保存されたそうで、まだ一般公開前というから大変貴重な機会であった。

旧渡辺甚吉邸は1934(昭和9)年、東京都港区白金台に、岐阜の名家渡辺家の14代当主甚吉の私邸として建てられた洋館である。チューダー様式で、部屋ごとにロココ、山小屋風、和風など多様な様式が存在している。食堂の見事な天井のほか漆喰装飾が随所にあり、左官の見どころも多い。今日は移築時施工にかかわった左官・白石博一さんの解説付きということでとても有意義な会であった。

ちなみに一例、この天井は石膏で作られている。石膏を流し込むのはシリコンで作られた型で、その型の原型は粘土で作るという。出来上がった天井を見ていると、これだけの大量生産だけれどもなんとなく一つ一つに人の手のあとが滲み出ているところが面白い。これがも樹脂製品の天井だったらその綺麗すぎる形態から人の手の跡を見出すことはできないだろう。石膏による型の工程は、自然の素材と人の手の交流により生み出される歓喜を感じることができるギリギリの省力化的工夫なのかもしれないと思った。

 

お菓子の銘は「天の川」

2023/07/03

今日は川口市里に作った、暮らしを楽しむつくり場にある茶室「壽圓庵」にて13時から15時まで茶道の稽古を行った。この「つくり場」はアートや茶道などの文化を通して暮らしをもっと楽しむ場として運営している。建物には茶室やワークスペースを備えており、キッチンも本格的に使用できるようにした。このつくり場を通して、いろいろな交流が生まれ、その交流がこの街をもっと楽しい街にしてくれると良いなあと思っている。

今日のお菓子は四阿先生の手作り「天の川」。程よく甘い涼しげなお菓子をいただきながら、台天目と葉蓋のお点前を行った。まだまだスタートしたばかりの茶道教室、今日はたった3人のお稽古だったけれど、ご興味のある方はぜひお越しいただきたい。

基本設計という段階は良い家を建てる、つまり「自分が本当に納得ができる住宅を建てる」ために非常に重要なステップである

2023/07/01

今日は埼玉県さいたま市にて住宅の建て替えを検討中のIさん打ち合わせ。前回に引き続き、3つの基本設計案をプレゼンさせていただいた。前回の提案ではそれぞれ特徴の異なる数種類のご提案をさせていただいたのだが、その中でも特に良いと思った3案についてバージョンアップを行った。基本設計というのは、敷地に対して建物をどのように配置するのか、敷地周辺を囲む風景のどちらに対して開放感のあるプランにするのか、各階への部屋の配置はどのようにするのか、延べ床面積の設定、駐車スペースなどの条件設計などのプランの骨格となる重要な事項を検討する段階を言う。この段階は良い家を建てる、つまり「自分が本当に納得ができる住宅を建てる」ために非常に重要なステップであるからこそ、いくつかのパターンの魅力というものを拾い出し、それぞれのプランについてスタディーを繰り返していくようにしているのである。

この敷地はIさんの奥様のおばあさまの家で、Iさんも一時期暮らしたことがある思い出の場所だ。今は空き家になっていて誰も暮らしていないのだが、ご家族がここで暮らすことになればこの土地もきっと喜んでくれるだろう。今後の設計をじっくりと進めていきたいと思う。

8人の従兄弟の絆が叔父の死をきっかけにより深くなったような気がする

2023/06/28

今日は母方の叔父の葬儀に参加した。享年71歳、ちょっと早すぎる死だったような気がする。叔父さんというと近い方もいれば遠い方もいるだろうが、僕にとってはとても思い出深い叔父であった。

僕の母の実家は木型屋さんだった。木型屋さんというのは鋳物を作るための型を作る職業で、戦争から帰ってきた祖父が川口市で修行して独立して作った会社であった。寡黙でいつもタバコをふかしながら黙々と仕事をする祖父の姿は今でも脳裏に焼き付いている。母方の初孫だった僕はいつも実家に預けられていて、祖父の仕事場が大好きだった僕は仕事の邪魔だとは薄々感じながらも工場に降りていって一緒に過ごしていた。木型の切れ端をいくつか与えられて、子供の想像力の中では立派な船やら汽車やらを作っては壊しの思い出がある。夜はいつも野球中継、必ずジャイアンツの試合中継がテレビに流れていた。戦争のことを聞いてもほとんど話してくれなかったけれど、一度だけ上陸戦の話をしてくれたのを覚えている。ほとんどの仲間が重い荷物でうまく泳げずに沈んでいく、銃弾は周りに飛んでくるけれどそんなものは当たりはしないんだと言っていた。それ以上は話してくれなかった。

僕が小学校に上がるときには机に入れる木の引き出しを作ってくれた。みんなが大抵はプラスチックの箱を持っている中で僕はそれを6年生まで誇らしげに使っていた。僕が4年生の時に祖父が亡くなった。平日に何故か父方の実家に預けられ、なんだか悪い予感がしていたもののよくわからずに遊んでいたら、帰ってきた母から祖父の死を告げられたことを今でもよく覚えている。叔父の姿はそんな祖父の横にいつもあった。同じくとても真面目で寡黙な人だった。でも僕のことはいつもよく面倒を見てくれていた。よくお酒を飲んでタバコを吸っている人だった。

この葬儀をきっかけに従兄弟の会を発足、ますいいリビングカンパニー僕たち兄弟、コマームの3人とコマムグの和人、いいくらしすとの藤井兄弟、8人の従兄弟の絆が叔父の死をきっかけにより深くなったような気がする。(左端が祖父でその隣が叔父、僕が生まれた時48年前の写真)

その昔穀物を保存するには二つの方法があった。一つは風による保存、もう一つは土の中に埋めることだった

2023/06/20

今日は秩父の丸山に登ってきた。道の駅あしがくぼに車を止めて、道の反対側のある集落を通り抜けて登山道まで。やがて登山道に入ると平日の秩父、ほとんど人がいない。つい先日近くの山の岩登りをしている方が熊に襲われた映像が世間で騒がれているので、なんとなく熊の存在を気にしながらのハイキングである。山道を歩きはじめるとすぐにお墓が現れた。浅見家の墓である。ますいいのスタッフの浅見くんは秩父の出だというが、この辺には浅見家がたくさんあるようだ。

山を降りると写真の土蔵があった。土蔵は穀物や大切なものを保存することにはじまっている。その昔穀物を保存するには二つの方法があった。一つは風による保存、もう一つは土の中に埋めることだった。土蔵の壁の厚さが30センチなのには理由がある。土の中の温度が一定になるのは約30センチの深さより深いところ、つまり温度を一定に保つ最低の厚みがそれなのだ。この屋根が二重に見えるのは、まず一つ目の屋根には土を葺き、その上に母屋と垂木と野地の下地を作ってもう一度瓦を葺いているからである。瓦屋根はは日常の雨から土蔵を守り、土葺きはいざという時炎から土蔵を守ってくれるのである。

この度、茶道教室を始めました

2023/06/19

この度、茶道教室を始めました。

茶道というのは日本の文化がたくさん詰まっている。焼き物、書、漆工芸、蒔絵、指物・・・さまざまな職人の手によって作られたものたちが存在して初めて成り立つことができる。そして茶禅一味という言葉が示すように、鎌倉時代に栄西によって伝えられた禅宗とも深い繋がりを持ち、自分自身を見つめ直すとても良い時間を与えてくれる。僕はそんな茶道を初めて12年目である。まだまだ修行中の身ではあるけれど、すでに50を目前に控え教室を始めることにした。

場所:川口市里309−3「暮らしを楽しむ作り場」にて
7月の日程:3日(月)・10日(月)・19日(火)・25日(月)・31日(月)
時間:茶道体験 11時から12時
(初めての方の抹茶体験。薄茶とお菓子付き)千円
稽古   13時から17時の間
(月に1回など継続して習いたい方。裏千家茶道教室)三千円
指導者 増井真也 四阿純子
申し込みはこちらまで masuii@masuii.co.jp

 

 

効率や利便性とはかけ離れていることだけれど、でも失いたくないものを復元する感覚だった

2023/06/15

6月15日・16日と、全国から来るチルチンびと・地域主義工務店の会見学会がここ埼玉県にて開催された。15日には総勢30名ほどの方々が、ますいいリビングカンパニーの川口市里にある「暮らしを楽しむ作り場」の見学にお越しいただいたのであるが、日本全国の非常に良質な工務店経営をされている方々が大勢起こしになるということでなんとも緊張した次第である。

合計2時間ほどの見学時間、建物の設計や各種仕様、会社の運営方針などについて詳しく説明させていただいた。僕は若い頃は建設同業者の会というものをあまり大切にしてこなかったのだけれど、今はこういう時間をとても大切にしている。というのも、やっぱりさまざまな経験を持つ方々に学び、その学びを生かしながら自分の会社の独自の型を生み出していくこと、つまり「守破離」の如き思考と行動が一番だと思うからである。

例えば「木の家」という言葉について考えてみよう。ただ単に木を構造材として現しで使っているだけの家もあれば、こだわりの産地の国産材を使用している家もあるし、国産広葉樹を丸太で買って製材し造作に使用している家もある。木の扱いひとつとっても実はその幅は大きく、より山に近いところまで遡っていけばいくほどに素材が良くなるだけでなく、価格も求めやすくなるという利点がある。でもそれをますいいの家づくりに取り入れるには、まず自分の足で吉野の山まで木を見に行って、それを製材する様子を見て、「この木で家を作りたいという気持ちになる」過程こそが何よりも重要なことであった。僕はその機会をチルチンびとの山下編集長からいただいた。実際には吉野の山に生える樹齢140年の杉の伐採見学ツアーをしていただいたのだが、木を切る瞬間に聞こえたような気がした「木の声」のような響、チェーンソーを入れた瞬間に木から噴き出す水飛沫、そして木が倒れる瞬間の地面を揺るがす轟音は一生忘れることができないと思う。この過程を経て僕の頭の中には、日本の山の木を使いたいというとても強い信念が生まれたのである。

健康住宅という言葉も同じだ。この建築ではベニヤ板・ビニルクロスのような新建材を一枚も仕様することなく、全てを無垢材で作り上げた。この話を普通の工務店の方が読んだら、何を馬鹿げたことをやっているのかと言われるだろう。一度便利になったものを巻き戻すのはなかなか大変なことであるのだ。こういうことをしようとすると必ず否定する人たちが現れる。そんなことできるわけない、やったことがない・・・色々なことを言うけれど、でも昔の人はやっていたことなんだよと説明し、納得していただいた。と言うのも高機密住宅の中に化学物質を発生する新建材を仕様したことで現代人のシックハウス症候群といったアレルギーに起因する病気が増えたことを考えれば、ある一定数存在する化学物質に敏感な方にはとても大切なことだと思ったからである。効率や利便性とはかけ離れていることだけれど、でも失いたくないものを復元する感覚だった。

兎にも角にも、今こうして皆様に見学会に集まっていただいたことに改めて感謝したいと思う。

水辺の魅力はまだまだ可能性がある

2023/06/10

6月9日から2泊で地元川口市の仲間たちと一緒に京都の小旅行を行った。初日は久しぶりに拝観が許された裏千家の今日庵訪問、そして夜は京料理の会食である。翌朝は朝の5時に起き、四条河原町のあたりから下鴨神社までの往復10キロほどのジョギングを楽しんだ。コースのほとんどは鴨川沿いである。河原には昨夜からオールで遊んでいる若者たちが集っていて、少々気だるさを感じながらも若者という限られた時間を楽しんでた。芝生で死んだように眠る者もいたが、きっと日常的な風景なのだろう。

こんなふうに京都の街を走るなど生まれて初めての経験だが、都会にも関わらず空が広い。僕が暮らす川口市の駅の周辺はほとんど空が見えないのだか、そういえば荒川の土手だけは広い空を感じることができる。北に向かって走っていると遠くの空に山並みが見える、これまた荒川から見る秩父の山並みと同じである。違うのは水との距離であろうか。スーパー堤防の荒川土手は水までの距離が遠いが、京都鴨川はすぐそこに水辺がある。料理屋の河床も作られており、水辺と暮らしや観光とが共存している。一級河川である鴨川でこんなことが行われているのは長い歴史からくる認識の違いだろう。水辺の魅力はまだまだ可能性がある。川口市の荒川ももっと魅力的にしていきたいと思う。

左官の魅力とは仕上がった壁はもちろんのこと、何層にも重ねて塗っていく過程とそこに込められる工夫にある

2023/06/08

埼玉県川口市に造ったモデル住宅の茶室には木ずり下地の土壁仕上げを採用した。左官職人は榎本新吉名人のお弟子さんの小沼さんである。木ずりに半田という土佐漆喰に土を混ぜたものを塗り、さらに中塗りの土を塗ったところで行う作業がこの長ひげこ打ち(釘に麻紐が巻いてあるもの)である。木ずり下地の暴れによるひび割れを防ぎ、良質の土壁を仕上げるための下地処理であるけれど、何だかこのまま仕上げにしても良いと思えるような魅力を感じる。

左官の魅力とは仕上がった壁はもちろんのこと、何層にも重ねて塗っていく過程とそこに込められる工夫にある。出来上がったらただの土壁、誰もこんな作業をしていたとは想像もできないだろう。昔の建築現場には様々なこうした工夫があった。自然の果実が日の光と雨と土からの養分を得て育つ賜物であると同じように、職人の技術はものと人間と自然との長い時間をかけた対話から生まれた賜物であり、だからこそいつまでも見ていたくなる大切なものなのだと思う。

 

親を待つ子供達にはヒノキの香りのする部屋で過ごさせてあげたい

2023/06/06

埼玉県川口市の本町診療所後に造った保育園では炭を使った室内環境のコントロールを行っている。この炭は島根県の出雲カーボンさんが造っている炭八という商品で、保育園の天井全面に敷き詰めている。天井に敷き詰めらあれた炭は余分な湿度を調整してくれたり、化学物質を融着してくれる効果がある。もちろんコンクリート躯体には構造に問題のない範囲で外部と通気するための穴をあけ、最終的には外部への湿気の放出ができるようにした。

なぜこんなことをしたのかといえば、今回の設計では鉄筋コンクリートの建物の内装をリフォームしたからである。元々のコンクリートという素材の持つ機密性の高さゆえに、建材から発生する微量の化学物質はなかなか教室の外に出ることはない。結果そこにいる子供たちがどうしても化学物質を吸い込んだり触れたりの可能性を捨てきれないわけだが、炭を使用することでそれを防ぐことができるのである。床板には無垢のヒノキを使用している。親を待つ子供達にはヒノキの香りのする部屋で過ごさせてあげたい、こういう思いを実現できたことに感謝である。

ダブルだるま窯

2023/06/01

昨日のつづきである。一昔前の淡路島にはダルマ窯というものがあったという。

「桃山、江戸時代の瓦工の焼いていた黒瓦の多くは平窯であった。この平窯の原型は焚き口が一つで外観は達磨さまが座っている格好であったところから「だるま窯」という俗称が与えられたという。今は全く形が違っているがなるべく多量にとの目的からだるま窯を二つ背中合わせにつけ焚き口を二つにし、横腹から瓦の出し入れをするようになった。淡路瓦も昭和30年代までの多くはこのだるま窯により焼かれていた。」

ということである。この女性の写真だけでなく他にも多くの写真に作業をする女性が写っていた。瓦というのはその昔誰でも使用できたものではなく、庶民の家は茅葺なのど植物性の素材によって屋根が作られていた。そういう高級素材を少しでもたくさん作ることができるようにこのダブルだるま窯が考案され、これまでよりも倍速で生産できるようにしたのであろう。江戸時代というのは色々な工業が進化した時で、漆喰の生産量も格段に増えたと言われている。街並みを描く絵の壁の色が白くなるのもこの時期だ。だるま窯、もう見ることはないのだろうなあと懐かしくなる「もの」であった。

建材をめぐる旅で淡路島の野水瓦産業株式会社を訪れた

2023/05/31

建材をめぐる旅で淡路島の野水瓦産業株式会社を訪れた。一緒に行ったのは勇建工業の加村さんである。会社に着くと野水社長が出迎えてくれた。広い敷地に大きな工場が建っている。工場の中を案内していただいたが、中には数人の社員さんたちが作業をしていた。社員はベルトコンベアのような瓦を運ぶ機械で運ばれてきた瓦を焼成のためのラックに積み替えている様子である。一人の男性が黙々と作業をしているのだけれど、その様子が眺めていてとても懐かしく感じられた。

最近の工場というと自動化が進み、大きな機械がガシャンガシャンと動いている横で綺麗な作業着を着た女性の工員さんが微調整作業を行っている、というようなイメージだ。確かにそういう先進的な世界が正義とされる世界があって、ほとんどのものはそこを目指すことでしか存在できなくなっていることも理解できる。でもここには本当に昔ながらの作業をしている職人がいて、釜こそ土でできたものではなくなっているけれど結構アナログな手法で瓦を焼いている。僕も機械加工業者の息子として生まれ、小学生の頃からは一つ五十円とかで賃加工のアルバイトをしてお小遣いをもらった経験があるのだけれど、同じ動作を繰り返しているという状況は精神的にはとても良い状態であることが多い。つまりそれに関わる人は幸せになれると思うのである。何でもかんでも自動化をすれば良いというものでもない。そういえば以前、茶道の関係者から電動お茶点て機なんて話を半分冗談で聞いたことがあるけれど、自動化や機械化が進んでしまったものからは、歴史とか作者の気持ちといった何か大切なものを伝えることができなくなってしまうのだと思う。

徳島・淡路・姫路の建築見学ツアー

2023/05/30

今日はスタッフの上原くんと二人で徳島・淡路・姫路の建築見学ツアーを行った。同行者は勇建工業の加村社長と姫路の井藤工務店のご兄弟である。今日のお目当ては徳島にある中川林材工業さんだ。ここでは杉板を焼いて外壁に貼るための焼杉を製造している。焼杉の黒い外壁はとても温かみのある風合いで、日本の風景にとてもよく合うものである。その外壁を四国の海に面する辺鄙な場所で、人の手で丁寧に一枚一枚の板を慈しむように加工して作っているということを目の当たりにすると、まだまだこういうものづくりが残っていたんだなあの感である。

ちなみに写真の様子は抜け節をおが屑と接着剤で埋めているところだ。外壁が抜け節で穴になることを防ぐための措置だけれど、これまたなんとも途方に暮れる作業である。だって一枚の板に何箇所かの穴があって、それを埋めて乾いたらヤスリで削るということを人の手でやっているのだ。単純繰り返し作業、なんだかネパールの仏教彫刻を作る職人さんや、僕の父が昔やっていた機械加工の繰り返し作業を思い出した。そういえばこういう労働が昔は目の前にあったのだ。それをやっていることで人々が幸せに暮らすことができていた社会はどこに行ってしまったのだろう。生産性の向上、賃金上昇、複雑な精度、・・・どんどん仕事の様相が変わっていくけれどそれもまた人がやっている事。一体何が正解なのか。

人は自然に生かされていると思えば、この板一枚でも節があるからといって捨てることなどできない。人が自然を支配できるという傲慢さは捨てるべきだ。少しでも長く平穏に暮らせる環境を維持するためには何をすれば良いのか、複雑ではないもう少し単純な、でも大切なことを考えさせられる1日であった。

男の隠れ家

2023/05/27

埼玉県川口市にてガレージの引き渡しを行った。内部は梁がむき出しになっており自転車をぶら下げたりの収納も簡単にできる。壁も構造用合板仕上げなので、棚を作ったりのセルフビルドがやりたい放題、まさに男の隠れ家だ。奥の方には水回り、油で汚れた手を洗うなどに便利な設えとなっている。外壁はガルバリウム鋼板の平葺仕上げで木造2階建ての小さなガレージだがなかなか良い顔に仕上げることができた。

杓の柄窓

2023/05/24

今日は神奈川県小田原市にて竣工した茶室の写真撮影に立ち会った。この茶室には面白い窓がつけられている。写真の窓は茶道で使用する柄杓の柄を切り取って藤の蔓で固定して作られているもの。通常の下地窓は木舞下地の細竹が見えているが、杓の柄とは面白い。

このデザイン、元々は京都にある裏千家今日庵の茶室群の中にある寒雲亭と大水屋との間にある六畳、溜精軒にある窓である。これは玄々斎の好みで、逆勝手出炉。風炉先の下地窓が使いふるしの柄杓の柄でつくられていて、「杓の柄窓」と呼ばれている。

このような設えひとつとっても、創意工夫で色々なものが作れるのが建築の面白いところなのだと思う。

今日はものつくり大学にて大学院の入学面接に参加

2023/05/22

今日はものつくり大学にて大学院の入学面接に参加。48才にもなって今更何を?というと、実は左官に関する研究を始めようという心持ちである。担当の教官は三原先生、数少ない左官教育の専門家だ。来年の4月からの入学をご相談。

ますいいモデルハウスでは木ずり土壁仕上げを茶室の仕上げに採用した。杉の細板を柱に打ち付け、そこに半田・土6層を塗って仕上げるわけだが、とても素朴な感じの味わいある仕上がりになる。土は関西に行くほどその色合いが豊富になり、さまざまな発色の仕上げを生み出す。その代表格と言われるのが誰でも聞いたことがある聚楽壁である。この土は京都の二条城付近で採れた土なのだが、都市開発が進んだ今ではたまにある地下工事の時などにたまたま採取されるくらいしかない。遠く飛鳥時代からほとんど変わらぬ左官の技術であるが、現代社会においては最も遠いものとなってしまっている。人件費がかかる、時間がかかる・・・現代社会では排除されても仕方がない工法だ。でも、せめて人が暮らす住宅や茶室だけでも本物の土壁で仕上げたいと思うのである。

埼玉県春日部市にて新築住宅を検討中のIさん打ち合わせ

2023/05/20

午前中、埼玉県春日部市にて新築住宅を検討中のIさん打ち合わせ。奥様のおばあさまがお住まいだった土地に立つ古家を解体して、建て直すという計画である。敷地は2mほどの崖に面していて、とても見晴らしが良い。隣の敷地の借景も良いという。なんだか楽しみな土地である。まずは敷地の調査から行うこととしよう。

建築の設計の初期の段階を基本設計という。基本設計の段階では法律関係や敷地形状、インフラ関係や道路状況などを調べたり、隣地の建物の状況や周辺の景色、樹木の有無など暮らしの中の環境に影響する物を見るようにしている。敷地の中に立ち、そこでの暮らしを思い浮かべると自然と壁が立ち上がってくる。そこに屋根をかけ、ふと視線が向く先の景色を切り取るとなんとなく家の形が思い浮かべられる。視線の向かう先には家の重心が置かれる。家の重心にはできれば薪ストーブがあると良い。家の中心にある火は家族をつなげる要素となる。言葉などなくとも良い。なんとなくその火を眺めているだけで、自然と心が通じるものだ。家はそういう場所であって欲しいと思うのである。

6月から茶道教室を行います!

2023/05/17

今日は雑誌「淡交」の阿部さんがモデルハウスの撮影に来てくれた。淡交というのは裏千家という茶道の流派の機関紙である。今回はそこにますいいの茶室を紹介してくれるということで撮影をしたというわけだ。写真の右端にある四角い穴の向こう側が茶室である。穴の向こう側に写っている茶色い壁は、木ずり下地に土壁を6層30ミリに塗った土壁仕上げである。その手前の白い壁はラスボード下地にプラスターと漆喰を合わせて9ミリ塗った漆喰仕上げだ。そして一番手前にある四角い箱は、モルタルを研ぎ出したキッチンである。このキッチンも下地は木ずり下地で作っている。この写真には左官の3種類の仕上げが写り込んでいる。それぞれに全く異なる表情があり面白い。普通の漆喰仕上げは石膏ボードに2ミリほどしか塗らないけれど、このように本格的に厚塗りをすることによって、塗った時の鏝の力加減一つによって生じる微妙な表情が際立ち、光の揺らぎとなって空間を包み込んでくれるのだ。

左官の魅力は全ての素材が塗った瞬間から土に還ろうとしていることにあると思う。スサを入れたり糊を入れたりの工夫をしても、それすら自然の素材だから結局は全てが土に還るのだ。全てが人工的なもので囲まれた世界から、まるで自然の森の中にいるような感覚になれる場へと変えてくれるのが左官なのだと思う。

午後、茶道の友人の四阿先生来社。6月からの茶道教室について打ち合わせ。6月は5日(月)、12日(月)、19日(月)、27日(火)に行う予定である。時間は11時から15時。誰でも参加ができる初心者のための茶道教室、ご希望の方はぜひご連絡をお願いします。

暮らしに自然を取り込むような感覚こそが軒下空間の魅力なのだと思う

2023/05/15

好きな建築の一つに、先週末に訪れた群馬県高崎市にある旧井上房一郎邸がある。この住宅はアントニン・レーモンドが設計したもので、当時東京にあったレーモンドの自邸兼アトリエと同じような建築を井上が注文したことによってこの地に造られた。今では高崎市が公開しているので誰でも見ることができるようになっている。

この写真は井上自邸の軒先の写真である。この日はあいにくの雨、でも傘をささなくとも軒下にいれば濡れることはない。軒の出寸法は僕が両手を広げたくらいだから大体1800ミリほどである。内部空間に広がる丸太の登りばりが外部に跳ね出していて、その上に垂木を支える受け梁が乗っている。屋根は軽い板金屋根だ。ちなみに妻面は軒が出ていないから、板壁の下部がだいぶ腐り始めているようだ。軒は日本の気候に適したデザインであるのだ。

軒下空間はとても日本的な居心地の良さを感じるから不思議である。軒下の床は鉄平石で仕上げられている。雨樋はなく、屋根から降り注ぐ雨水は那智黒石の敷き詰められた溝に落ちる。内部との境目は一面のガラスによって構成されている。この場所は内部と外部の境界を曖昧に繋ぐ場なのだ。これは最近よく造られるウッドデッキのようなものであろう。庭と内部の中間にある曖昧な場所があることで暮らしに広がりが生まれる。暮らしに自然を取り込むような感覚こそが軒下空間の魅力なのだと思う。

建売、ハウスメーカーの建築にはない「思い」こそが建築が発する唯一の文化だからこそ、大切にしていきたいと思う。

2023/05/12

今日は東京文京区にてリフォームを検討中のSさん打ち合わせ。Sさんの家は東日本大震災の前の年に僕ではない建築家の設計によって造り上げたデザイナーズハウスである。

僕ではない建築家さんの設計だから、まずはその設計の意図を汲み取るところから始まるわけだけれど、同じ世代を生きる建築家同士だから設計当時のコンセプトを理解することは容易にできる。お客様も当時の設計コンセプトを気に入って建てたわけなので、その良さを消さないようにしながら今の暮らしに合うようにアレンジしてもらうことを望んでいる。そして僕のところに相談に来るという時点で、その建築家さんがすでに事業をやっていないなどの事情があるわけで、僕はお二人の意図を汲み取りながら、さらに今の時代を生きる建築家としてもう少し構造は補強した方がいいよというようなアドバイスもしてあげて、この先何十年も快適にかつ安全に暮らすことができる住宅を作ってあげることが求められるのである。

建築家によって作られた住宅は文化だと思う。暮らしている本人はもちろん、周辺の環境にも何らかの良い影響を与えていることが多い。それらの建築には機能や性能だけではない思想が込められている。その思想を理解しつつ、現代社会に求められる機能や性能に少しでも近づけることが大切だと思う。建売、ハウスメーカーのノンポリ建築にはない「思い」こそが建築が発する唯一の文化だからこそ、大切にしていきたいと思う。

窓の性能を高めるために2重サッシを使用する

2023/05/10

先日お引き渡しをしたKさんの家のリフォームでは、断熱性能を高めるために様々な工事を行なった。内側の石膏ボードを剥がして断熱材を入れ替えたり、2重サッシを取り付けたり、床下の断熱材を加えたり・・・、こういう工事を行うことで家全体の性能が少しずつ向上して、結果的に暖かい家となるのである。

僕のような仕事をしていると、性能の違う建物に入ることが多い。ますいいの本社はまるで温室のようなガラス張りの建物で室内環境が外部環境とそれほど変わらないのだけれど、新しく作ったモデルハウスはLCCMの認証をとっているほどの高い断熱性能を有しているので多少外部が熱い日でも窓を閉めているととても快適である。断熱性能の違いだけでもなく、例えば漆喰仕上げであることも良い影響を与えてくれていると思うのだが、とにかく性能の違いと快適性がいかに比例するかがわかるのだ。

断熱を考えるときに開口部というのは結構重要な部分になる。壁・屋根・床下の断熱性能をいくら向上させても、窓から熱が漏れてしまっているのではほとんど意味がない。だから窓の性能を高めるために2重サッシを使用するのである。これは一般的な既製品である。工事も手軽で、価格は少々高いけれど効果は抜群なのでご紹介しよう。

数あるリフォームの工事の中でも確認申請を必要とする増築は一番難しい。

2023/05/08

最近はリフォームの仕事がとても増えている。空き家問題が顕在化する昨今において、すでにある住宅を有効に使用するためのリフォームが増えるのは必然だが、数あるリフォームの工事の中でも確認申請を必要とする増築は一番難しい。元々ある建築が完了検査まで受けている優等生ならば簡単なのだが、ちょっと前の住宅では完了検査を受けていなことは珍しくない。以前の法律に適合していたが今の法律には適合していない既存不適格であれば良いのだが、検査を受けていない場合は以前の法律にもどこかしら不適合である場合が多く、その場合その部分を是正しなければ増築申請を下ろすことはできないことになっている。だから僕たちは完了検査済がない場合は、どこが当時の法律に不整合なのかを判断し、それを是正して既存不適格の状態にした後に、増築の確認申請を通すという気の長い作業をすることになるのである。

東京都杉並区にて増築工事をした現場では、上記の申請の結果、1階を倉庫、2階をワークスペースに使用する増築を行なった。写真の小さな窓の上にある横長の長方形は元々あった窓の跡である。新たにできた連絡通路と小窓のある壁には左側と同じ掃き出し窓があったが撤去した。窓の撤去、ベランダの手すりの切断、・・・とても難しい工事だったのでご紹介しよう。

盛岡の街を歩いていて感じるのは、なんとなく川口市の30年くらい前の様子に似ているなあということである

2023/05/06

今日は雨が昨日から降り続いている。ニュース番組は地震のことでいっぱいだ。昨夜遅くにはこの青森県でも震度4の地震があったが日本中が揺れているのだからどこで起きても不思議ではない。朝起きて散歩でもと思ったが湖から吹き付ける風と雨の中ではとうてい無理である。一路盛岡へ向かい渋い焼肉屋さんで昼食をとり、旧盛岡城前の古本屋さんでゆったりとした時間を過ごした。森岡の街を歩いていて感じるのは、なんとなく川口市の30年くらい前の様子に似ているなあということである。悪い意味ではない。個人のこだわりの商店がまだ元気に営業していたり、喫茶店が立ち並んでいて、しかもそこにちゃんとお客さんが入っていたり、なんか昭和から平成初期の雰囲気を残しているのである。なんでもニューヨークタイムズ紙で訪れたい街52選に選ばれたというが、これは確かに面白い。ちなみに52選は以下の通り。

ロンドン(イギリス)盛岡市(日本)モニュメント・バレー(アメリカ)キルマーティン・グレン(スコットランド)オークランド(ニュージーランド)パームスプリングス(アメリカ)カンガルー島(オーストラリア)ビヨサ川(アルバニア)アクラ(ガーナ)トロムソ(ノルウェー)レンソイス・マラニャンセス国立公園(ブラジル)ブータンケララ州(インド)グリーンビル(アメリカ)ツーソン(アメリカ)マルティニーク(フランス)ナミブ砂漠アラスカ鉄道(アメリカ)福岡市(日本)フローレス島(インドネシア)グアダラハラ(メキシコ)タッシリ・ナジェール(アルジェリア)カヘティ州(ジョージア)ニーム(フランス)ハジャン(ベトナム)サラーラ(オマーン)キューバオーデンセ(デンマーク)ウルル=カタ・ジュタ国立公園(オーストラリア)ボケテ(パナマ)タラゴナ(スペイン)チャールストン(アメリカ)カヨ・コチノ(Cayos Cochinos)(ホンジュラス)ブルゴーニュビールトレイル(Burgundy Beer Trail)(フランス)イスタンブール(トルコ)台北(台湾)エル・ポブラド(コロンビア)ローザンヌ(スイス)メタナ(ギリシャ)ルイビル(アメリカ)マナウス(ブラジル)ヴィリニュス(リトアニア)メーコン(アメリカ)マドリード(スペイン)グランドジャンクション(アメリカ)ラ・グアヒーラ(コロンビア)ベルガモとブレシア(イタリア)アメリカンプレーリー(アメリカ)イースタンタウンシップス(カナダ)ニューヘブン(アメリカ)ブラックヒルズ(アメリカ)サラエボ(ボスニア・ヘルツェゴビナ)

偶然とはいえ、こういう時間を過ごせたのも雨のおかげ。旅は何が起こるか分からないのが良いのである。夕食は仙台郊外で食し、途中福島第1原発の立入禁止区域に立ち寄る。この辺りは立ち入ることができないようにしたエリアが多く残っているので、野生動物も多い。車を運転していると二度ほど狸らしい動物が突っ込んできた。交通量は意外と多いが、建ち並ぶ家の灯りはほとんど消えている。街はほぼ死んでいるようだ。こういう光景を見ると僕たちの暮らしを支える電気を生み出していた街が、災害によってどうなってしまったのかをもっと広く知らせるべきではないだろうか。日本人は臭い物に蓋をする習性があると思う。それは僕も同じだけれど、この光景はなるべく見るべきだと思った。22時過ぎ常磐自動車道で川口に帰る。4日間の旅、なかなか多くのことを感じることができたと思う。無くしてはならない素晴らしいものとの出会い・・・、その多くは岩手県にあったような気がする。今度は岩手県だけをゆっくり回ってみたいと思う。

今日は青森市にある青森県立美術館と三内丸山遺跡を見学した

2023/05/05

今日は青森市にある青森県立美術館と三内丸山遺跡を見学した。この二つの施設は隣り合う敷地にある。美術館は青木淳氏による設計だ。地下2階、地上2階で、遺跡の発掘現場のような土の大きな溝(トレンチ)に凹凸の白い構造体を被せるという設計で、三内丸山遺跡と一体化したデザインとなっている。この、上向きと下向きの凹凸の間にできる隙間を「土の展示室」とし、それ以外は「展外展示室」や「創作ヤード」とすることで、全体が美術館として利用できるように設計されている。2005年にこの美術館ができた頃は僕が会社を始めてまだ4年目の頃、なかなか青森まで見学に来る機会はなかったのだがようやく見ることができた。今日は庵野秀明展を開催しているということでいつもよりも多くの人で賑わっているようだ。連休中の一大イベントなのだろうが、県外からも多くの車が来ている様子を見ているとアートの力を感じたりもする。この展示内容であれば熱狂的なマニアだけでなく、ウルトラマンや仮面ライダー世代のお父さんたちも十分に楽しめるだろう。家族みんなで楽しめる展示、そんな嗜好を感じることができた。

すぐ隣歩いて500mほどの距離に三内丸山遺跡がある。言わずと知れた縄文遺跡であるが実はここには野球場の建設計画があったそうだ。昔から遺跡があることは知られていたが、調査をしてみると実はとんでもない遺構があるということで、当時の青森県知事・北村正哉氏はわずか1カ月で、野球場建設を中止し、遺跡を保存・活用していくという英断を下した。こういう政治判断はとても良いことが、とても難しいことでもあると思う。

建築はいわゆる和小屋組に近い組み方で作られている。柱は基礎の上ではなく地面に掘った穴の中に直接立てる掘立て柱だ。地桁の上に丸太の根太を流して床を作り、棟梁から桁梁にかけて丸太の垂木をかけ、その上に茅葺き屋根を葺いている。床のない建物では地面を掘って内部の床面とする。周囲から水の侵入を防ぐために土盛をして壁を作るが、その技術は土壁の起源だそうだ。これは版築と呼ばれる土を突き固めて固める技術で、塀などを作ることができる。古くは万里の長城などにも利用されているし、今でも住宅の塀などに利用することもある。京都の街中にある瓦などが補強のために埋め込まれている古い築地塀も同じだ。土を練って塀にしたり、土を焼いて土器にしたりのデザインはずんぐりむっくりしているどこか優しい様相になるものだが、これは現代建築にも通じるデザインの手法である。特に茶室などにはよく合うであろう。

続いて青森公立大学の敷地内にある国際芸術センター青森を見学した。この施設は国内外のアーティストを招聘し、一定期間滞在しながら創作活動を行うアーティスト・イン・レジデンス・プログラムと、展覧会、教育普及を3つの柱に推進する施設として、2001年に開館したもので、設計は安藤忠雄氏によるものである。この見学は長男のリクエストである。鉄とコンクリートの建築見学に喜んで行く年齢はすでに過ぎたと思っていたが、やはりこういうところに来るとその造形美に心躍る。好きなものは何歳になってもあんまり変わらないのだなあの感である。

一路場所を移動して今日の宿泊地の十和田湖へ向かった。約15万年前の火山の噴火活動で中央部が陥没した地形となり、3万5000年〜1万5000年頃の巨大噴火で水が流入してカルデラ湖が形成されたそうだ。中禅寺湖など日本にはカルデラ湖がたくさんあるが、その中でも山の深さは一番であろう。隣に位置する八甲田山といえば新田次郎の「八甲田山死の彷徨」を思い出す。中学時代に読んだ小説だがとても印象に残っている。十和田湖への山道はまだ残雪がたくさん残っていて、さすが北国の様相を感じさせた。急激な気温上昇で雪解け水が道路に大量に流れ出しているが事故でも起きなければ良い。能登半島で大きな地震が起きたようだ。余震も続いているというが連休中だけに混乱も大きいだろう。今日の宿は湖畔にある民宿かえで荘だ。とてもリーズナブルだけれど人情味のある宿であった。こちらもとてもおすすめの宿であった。流石にだんだん疲れてきたので今日は宿で早くに休むことにしよう。

2023/05/04

東北の旅二日目。朝3時37分に目が覚める。外はまだ暗いけれど、今日も良いお天気だ。僕たちが泊まったクリコマ荘というのは栗駒山の登山口の近くにある。標高は結構高く、まるで山小屋のような趣だ。迎えてくれた亭主の人柄だろうか、とても暖かい雰囲気の宿であった。外が明るくなった頃ちょっと車を走らせて栗駒山の見えるところまで登ってみた。活火山特有の硫黄の匂いがする。山頂付近にはまだ雪が残っているが今日は登山者の姿は見えないようだ。山小屋のようなところに来るといつも思うのだが、このような場所に来て宿を経営するというのはどんな感覚なのだろうか。その代表的な存在としてかつて尾崎喜八の戦争疎開のための小屋を購入して、入笠山の草原の横に山荘を営んでいた夫婦を思い出す。数年前の火災で小屋はなくなり、後を追うようにして木間井さんというご主人も亡くなってしまったけれど、そこには一種のユートピアがあった。自らの手で作る理想郷、人里離れたところにある自分らしい暮らしの場があった。セルフビルドで場を作り続け、それを求めて来訪する人々がいる。観光というものでもない何かを求めてくる人々である。その何かがここにもあったような気がする。

食事を終えて、今日の最初の目的地、毛越寺に向かった。ここは仁明天皇の嘉祥3年(850)、天台宗の高僧、慈覚大師が創建したと伝えられている。この寺にある浄土庭園は平安時代末期に作られたものだとされる。その周りにあったであろう建築群は消失してしまっているが、庭園だけはその姿を残している。桂離宮にある浄土庭園と同じ、戦乱の続く世の中にあって小さな理想郷を作り、そこに舟を浮かべて時を過ごすための場所である。写真は丸石が敷き詰められた洲浜で見る場所によって形が変わるように工夫されている。浄土庭園は全てが見渡せないように作られていて、しかもさまざまな景色が生まれるようになっているのが特徴である。池の中には橋を支えていたであろう礎石があったり、家の周りにも建屋を支えていた礎石が散らばっている。礎石を見て当時の建築を想像するには少々の経験がいるけれど、境内には復元予想の絵もあるのでご安心いただきたい。

続いて中尊寺周辺散策を楽しむ。流石に連休中ということでだいぶ人が多い。今日はかつて義経の館がありこの場所で自害したとされている義経堂を訪れた。

今日の宿泊は青森県の野辺地町である。平泉からは約200キロの距離だ。実は青森県に足を踏み入れるのは初めてのこと。だからなんとなく新鮮に感じる。まず感じたのは森の深さである。山のまた向こうに山がある、逆にいうと人が少ないということなのだろうが、こういう景色は長野や山梨の山系では見ることがない。かつて蝦夷と呼ばれた人々が暮らし、中央の朝廷からの圧力に対抗しながらも独特の文化を作り続けることができたのは、この距離のおかげであろう。今のような交通手段のない当時では、京都と東北の距離は圧倒的なものだったに違いない。では現代社会ではどうであろうか。今でも関東とは違う何かがあるのだろうか?今日から二日しかないけれど、できるだけ街の風を感じてみたいと思う。

土でできているから土に還ることができる仕上げである。土に還ることができるものは暖かいものである

2023/05/03

今日から数年ぶりの家族五人の旅行に出かける。目的地は東北の方、なんとも漠然とした旅だ。朝の、というより夜中の12時に目を覚まし車に乗り込む。今日は渋滞ピークの日、明け方に出たのではいつ辿り着くかわかりゃしない。というわけで日付が変わってすぐに出発、朝には東北にいようという計画にした。

東北自動車道はいつもよりも車が多い。所々に事故あり。明け方ごろ、松島にある雄島に着く。日本三景の一つとされる場所だけれど、波もおだややで空気も澄んでいる明け方の景色はとても綺麗だった。島にはなんだか奇妙な彫り物がある。小さな祠のようなスペースの中には、仏像やら壁画のようなものが彫り込まれている。その昔死者の浄土往来を求めて誰かが掘ったのだそうだ。これまさに地霊、アニミズムの類である。地表をコンクリートやアスファルトで全て固めてしまった関東地方には滅多にない、東北ならではの遺構だ。人の思いが地を削り、何者かが現れた時、それが諸元的な形となる。東北地方にはまだそういうものが残っているのだ。

続いて、市場にて朝食。この市場は好きな魚を買って、それを丼に乗せてその場で食べることができる仕組みになっている。それを目当てに来た観光客に混じってお買い物。今日は水揚げがなかったというから、僕たちのようなもののために用意された海産物なのかもしれない。僕はマグロといくらと雲丹という王道3点セットを購入し、丼に乗せていただいた。美味。

一路、鳴子温泉へ。鳴子温泉には早稲田桟敷湯という温泉施設がある。この建物は石山修武氏による設計で25年ほど前に建てられたものだ。石山氏らしい独特の造詣を黄色い漆喰で塗りこめられた建物は当時だいぶ話題を呼んだが、今でも観光客や地元の人々に愛されているようだ。温泉街特有のガスによってか、だいぶ外壁は痛んでしまっているけれど、その建物の放つ暖かさはまだまだ健在である。すぐ近くにおそらく公共建築であろう、足湯ならぬ手湯を体験するための施設が造られていた。こちらは新築である。しかし誰も利用者はいない。いわゆるゴミ建築と化してしまっている。こういう建築を見ると「まちづくり」という言葉ほど怖さを感じるものはない。この言葉は全ての無駄遣いを正当化してしまう言葉である。それに比べると外壁が剥がれ、少々汚らしくなってしまった早稲田桟敷湯には人を惹きつける力がある。建築の持つ暖かさがあるのだ。建築は漆喰で包まれている。しかも黄色い大津磨きのような風合いで仕上がっているのだ。大津磨きは漆喰と土によって造られる。主役は土である。土を磨いて光らせる。光るといっても淡い光だ。土でできているから土に還ることができる仕上げである。土に還ることができるものは暖かいものである。鉄とガラスで包まれた建築とは違う温度を持つのである。家族みんなで素晴らしい湯を堪能し鳴子を後にした。

一路、一関へ。ここにはベイシーというジャズ喫茶がある。タモリさんなどの有名人が訪れることで知られているが、今は休業中だから行っても仕方がないのだけれど、まあせっかく東北に来たのだから見るだけでも行ってみた。店には菅原さんがいるようで、中からは大音量の音楽が漏れ聞こえてくる。休業していても元気ならば店に来ると思っていたが、やっぱりそうである。中に入りたい衝動に駆られるも、なんらかの事情があっての休業であるからには、そこを無視して菅原さんの聖地に踏み入るような野暮なこともしたくない。漏れ聞こえてくる音を聞いただけで満足である。大体僕は音楽を楽しみにこの地へ来たわけではないのだ。無くしてはならない素晴らしいものとの出会いを求めてきたのだからこそ、見るだけでその目的は十分なのである。

そのまま気仙沼へ。ここは同じく石山氏によるリアスアーク美術館がある街だ。僕は先日見に来たばかりだが、早稲田大学創造理工学部の建築学科に通う息子は初めてだから見たいという。というわけで僕一人、リアスアーク美術館のある山のうえから約5キロ離れた安婆山までのジョギングを楽しむことにした。海に近い低地の街は津波の被害を受けたからどこも新しい建物が建っている。津波の時に作動する防波堤の内側ということで、ここらの低地にも住宅が戻っているようだが、まだまだ空き地が目立つのは当然のことであろう。漁港の周りには目新しい施設が建ち並んでいるが、どことなく薄っぺらい様相となってしまっている。氷漬けの水族館・・・いったいなんなのだろうか。東北の漁港にいるはずなのに、まるで関東のショッピングモールにいるようだ。これで良いはずがないのに、なぜこんなものを造ってしまったのか。現実社会までテレビの中のお笑い番組のようにしたいというのか。現代社会の建築に対する認識の甘さをなんとかしなければならぬの強い思いと憤りを感じつつ、そのまま安婆山へ向かった。この高台のような街並みは当時のままである。お笑い番組に沈むNHKの数少ない良質な番組のようなものであろうか。腰の曲がったおばあさんが急な坂をゆっくりと歩む姿が懐かしくなんとなく目が放せなくってしばらく眺めていた。日本の漁港のすぐ近く、懐かしい風景はまだ残っている。そんな風景を求めてこの場所に来たのだ。

このウッドデッキは言わば桟敷席、Tさんたちのためだけにあるわけでもなくって、友人を読んで喜んでもらうために大切な席なのだ

2023/05/02

午前中、13年ほど前に造った埼玉県川口市の中青木にあるTさんの家のメンテナンス打ち合わせ。Tさんの家は川口市役所の近所にある真っ黒のガルバリウム鋼板で外壁を包まれた木造3階建てのデザイン住宅である。1階では奥様が手作りのケーキ教室を営み、2階に主な生活スペースを配置している。そのため1階には、はばが3mくらいはある大きなシステムキッチンとガスオーブンを設置した。3階はご主人の書斎とウッドデッキがあって、そのウッドデッキからは毎年川口市のオートレース場で開催されるタタラ祭りの花火大会を眺めることができる。

花火の特等席は、おまけのような機能だけれど、でも実際には結構特別なことだからこれからも大切にしてあげたいと思う。このウッドデッキは言わば桟敷席、Tさんたちのためだけにあるわけでもなくって、友人を読んで喜んでもらうために大切な席なのだ。

今回のメンテナンスは屋根の上に作ったウッドデッキがだいぶ痛んでいるということで、その床の張り替えを依頼された。ウッドデッキにはレッドシダーを採用している。塗装はキシラデコールだ。この素材は目が詰まっていて腐りにくいとされているけれど、やはり10年以上経つとだいぶ傷んでくる。外部仕様の木材としてはもっと長持ちする素材としてアイアンウッドのようなものもあるが、僕はレッドシダーか国産の檜や屋久杉が良いと思っている。アイアンウッドのような素材は日本の住宅にはちょっと仰々しくって硬すぎるような気がするのである。

今日は小林澄夫さんと会うために風土社に来た

2023/04/24

午前中、東京都台東区にて新築住宅を計画中のSさん打ち合わせ。Sさんの家はいわゆる浅草近郊の込み入った住宅街に建っているのだけれど、すぐ隣に10階建てのマンションが突然建ってしまい、日当たりの悪い状況となってしまった。そこで古いご実家と貸家を壊して、日当たりや風の通りに配慮したパッシブ設計の手法を取り入れた木造2階建ての住宅を作ろうという計画である。今日はプラン修正の打ち合わせを行った。

 

夕方、JRの飯田橋駅で降りて、神楽坂の隣にある軽子坂を10分ほど登ったところにある風土社を訪問。この坂は江戸時代に海から上がってきた荷物を下ろし、屋敷街まで運び上げるために作られた坂だそうだ。今では洒落た店が並んでいて、特に二つの坂に挟まれた細い路地を入った地帯は表通りよりも発見と驚きに溢れる魅力的な路地となっている。

今日は小林澄夫さんと会うために風土社に来た。仲介人はチルチンびとの編集長、山下さんである。小林さんは左官教室という本の編集長をされていた方である。いわゆる左官の世界の生き字引、多くの仲間を持ち、知識も持っている。さらに言えば小林さんは詩人という肩書も持っている。その目はまるで亀の目のように透き通っていて、純粋である。まあこういう人ではいと人生をかけて左官の研究などしないのだろう、と訳のわからぬ納得を感じながらお話に耳を傾けた。
僕は左官について研究を深めようと考えているのだが、そのための道筋を示してくれる羅針盤となってくれる人であると予感している。このような素晴らしい方をご紹介いただけるというご縁に感謝、なんとも恵まれた話なのだ。話を終えて路地にある居酒屋で一杯、最後には〆の鰻重を堪能して家路についた。

今日は早稲田高校山岳部のOB会に参加した。

2023/04/22

今日は早稲田高校山岳部のOB会に参加した。場所は懐かしの高田馬場「清龍」である。この店で何度酔いつぶれたかわからぬ思い出の店だ。総勢40名ほどだろうか、顧問のお二方もすでに退職されており、青木先生など80歳になられたとのことだが、昔と全く変わらない様子に驚いた。3歳年上の高村先輩は最も可愛がってもらった先輩だ。同じ早稲田の理工学部に進学したので、目標とする先輩だったが30年間ほぼ変化なしの当時のままの姿であった。人はあるところから先は老いはするもののそうそう変化はないということなのだろう。髪がなくなったり、体重が倍増したりの劇的変化がない限り、少しづつシワが増え年老いていく変化には気が付きづらいのかもしれない。

数年ぶりのOB会、初めのうちは恐る恐る声を掛け合うが、次第に昔の呼び名に戻ってくる。時を戻すのに30分以上はかからない。中学高校の6年間を共に過ごした仲間との再会は、なんとも言えない楽しい時間であった。

様々な地域に残る伝統的左官の技法を調査し、その特徴を比較調査してみたいと思う

2023/04/19

現代建築では省力化や均質化のために、古くから伝わるさまざまな技術がなくなっているが、左官もその一つである。ビニルクロスや塗装にその座を奪われることは避けられたとしても、石膏ボードに薄塗り仕上げのような漆喰が当たり前になってしまい、昔ながらの手法で施工できる職人はどんどん減少してしまっている。

私は住宅、茶室建築や古民家の再生、公共建築の新築やリノベーション等に設計者、そして住宅規模の木造建築においては現場施工管理者として携わっており、それらの現場では木ずり下地などの本格的な漆喰や土壁、そうでなくとも薄塗りの漆喰仕上げを取り入れるように心がけている。しかしそれらの設計施工を行うにあたり、建築が建つ場所性に基づき適正な色土、砂、色砂、石灰、荒壁土、中塗り土、スサ、糊、顔料を選定し、職人に対して適正な指示を出すことはとても難しい。昔は至る所で土が取れ、その土が持つ色がその場所の左官の色を決めていた。だから良い土が取れる場所の近くには左官屋さんが多くいたそうだ。今ではその土が取れる場所は一部の山を残すのみとなってしまったのである。

様々な地域に残る伝統的左官の技法を調査し、その特徴を比較調査してみたいと思う。そうすることで、その壁がこうであって欲しいと定義づける言語が手に入るような気がする。そしてその言葉はきっととても優しい言葉であるような予感がある。

下の写真はますいいリビングカンパニーモデルハウスの茶室の壁に用いた木ずり下地土壁仕上げの断面模型である。木ずり下地は檜厚み15mmを使用した。

今日はますいいリビングカンパニーの新入社員歓迎会を兼ねた家族会を開催した

2023/04/16

今日は埼玉県さいたま市にある二木屋さんという料理屋さんにてますいいリビングカンパニーの新入社員歓迎会を兼ねた家族会を開催した。設計や現場管理のスタッフだけでなく、一緒に家づくりをしている大工さんとそのご家族もご参加いただき総勢64名で大変賑やかな会を開催することができた。これからも良い仲間と共に、良い家づくりを続けていく所存です。末長いお付き合いをよろしくお願いいたします。

 

社員の顔を思い浮かべながら、そして奥様やお子様の顔を思い出しながら、メッセージを紡ぎ出していると、自然とみんなにもっと幸せになってほしいなあと思うものである

2023/04/15

午前中は東京都杉並区にて新築住宅を検討中のFさん打ち合わせ。お母様がお亡くなりになったご実家の敷地に小さな家を建てる計画である。昨日は平家の提案から2階建ての可能性を探るお話をさせていただいた。

12時より水道屋さんのSさん宅訪問。Sさんは僕が初めて家造りをさせていただいたお客様でもある。昨年より大病を患い今は病気療養中、大好きなお酒を飲むことはできなかったけれどその分僕が飲んであげた・・・。奥様の美味しい手料理を味わいながら16時ごろまで長居してしまう。言われて気がついたけれどこんなふうに一緒に飲むのは10年以上ぶりだとのこと。大切な人との大切な時間は意識して作らないとあっという間に時間がたってしまうのだなあの感である。

今日は明日開催されるますいいリビングカンパニーの年一回の新入社員歓迎会、家族会に向けてご参加くださる社員と大工さんとその後加増に向けたお手紙を書かせていただいた。こんなふうに一人一人に向けてお手紙を書くなどそうそうあることではないけれど、ゆっくりと時間をとって書き出してみると、すごく上質な大切な時間を過ごしているなあということに気がつく。社員の顔を思い浮かべながら、そして奥様やお子様の顔を思い出しながら、メッセージを紡ぎ出していると、自然とみんなにもっと幸せになってほしいなあと思うものである。そんなふうに思う本当の思いがあってこそ、優しさあふれる経営に向かっていくことができるのだと思う。明日は一人一人と丁寧にお話ししたいと思う。

今日は朝からチルチンびとさんの編集長の山下さん、ライターの太田さんがモデルハウスの取材に来てくれた。

2023/04/10

今日は朝からチルチンびとさんの編集長の山下さん、ライターの太田さんがモデルハウスの取材に来てくれた。取材にはモデルとして設計を担当した田村室長のご家族も参加してくれた。取材は10時ごろから始まり、14時ごろまで続けられた。光の移り変わりを見ながら良いアングルを探していく山下編集長を見ていると流石だなあの一言である。

建築に感じる美しさや愛おしさとは、自然とつながる無償の存在がどれだけ含まれてれいるかによって感じるものなのだ

2023/04/06

今日は、東京都文京区でご両親から受け継いだ土地に、自宅と貸し屋の建築を検討中のKさん打ち合わせを行った。土地は結構広い。こういう広い土地を維持し続けるということはなかなか大変だ。部分的に販売すると言っても、計画的に行わなければメチャクチャになってしまう。道路のように使用する部分を作ったり、はたまた本当に位置指定道路を造成してしまったりの手法によって、区切ることができる区画の数も変わってくる。位置指定道路というのは本当の道路と同じように扱えるので、そこに2m以上接道するように分割すれば小さな土地を多く作ることも可能になるのだ。

こういう土地を相続すると多くの場合アパート経営の道を進む方が多いだろう。でも、同じようなアパートばかりが建ち並ぶ街並みをこれ以上増やしたくないなあの想いは誰にでもあると思う。なんでも良いから建てて貸せば良い、の発想で造られた街並みはなんとなくきちんとした豪華なものに見えるけれど、でもそれ以上の何も感じることはできない。

田舎道を歩いているといわゆる農家建築を見かけるが、そういう民家はどこか愛おしく感じるものである。こうした民家に使われている素材は、木であり、竹であり、草であり、泥であり、石であり・・・つまり地場で見出される元々は無償のものである。樹木は板になるために生えたのではない。砂利はコンクリートになるために生まれたのでもない。しかしながらハウスメーカーが作る工業住宅によく使われる建材はサイディングに代表されるようにあらかじめ建材になるべくして生まれたもので無償の存在とはいえないものである。木はゆっくりと土に帰る。泥と草で作られた左官壁もまたゆっくりと粘土に帰っていく。無償の存在から生まれたものたちは、再び自然に帰ろうとする。建築に感じる美しさや愛おしさとは、自然とつながる無償の存在がどれだけ含まれてれいるかによって感じるものなのだ。

街並みもしかり。あらかじめ貸しアパートとして作られた積水ハウスやパナホームの建ち並ぶ様相はまさに新建材で作られた住宅から感じる薄っぺらさである。対して、自然な住宅の集合体に同じような価値観の人たちが集い暮らすような場は、無償性を持つ素材のごとき愛おしさを感じるものとなるであろう。この計画では普通の住宅の集合体を作ることが望ましいと思うのである。
(桂離宮:土壁、石、畳、・・・ここには無償性の素材しかない)

埼玉県川口市鳩ヶ谷の里というところにますいいのモデルハウスが出来上がった

2023/04/03

埼玉県川口市鳩ヶ谷の里というところにますいいのモデルハウスが出来上がった。木造2階建ての40坪ほどの小さな建築である。この住宅はパッシブ設計を取り入れたLCCM住宅である。パッシブ設計とは、光や風といった自然の力を久の出寸法や窓の位置や大きさをコントロールすることで最適化して、エアコンになるべく頼らないで快適な状態を作り出そうという設計である。LCCMというのは「ライフ サイクル カーボン マイナス」の略称で、CO2排出量が生涯を通してマイナスになるという性能である。この性能は建築の断熱性能を高めるとおともに省エネ機器を使用し、屋根の上でソーラー発電をすることで実現する。

もう一つの特徴は、ベニヤ板などの新建材を全く使用していない健康住宅という点である。この性能は僕みたいに喘息といった現代病を持っている人には大変ありがたいものである。多くの現代病は化学物質に対するアレルギーによって引き起こされるものである。昨今の耐震等級3の住宅を作るには24ミリの構造用合板を釘留めして水平剛性を実現するのだが、この住宅ではそれを使用せず、杉板を根太に釘3点留めすることで水平剛性を発現させている。合板を使用すれば瞬時に終わる作業だけれど、わざわざ手間隙をかけて一枚一枚の板を貼る作業は合理的ではない。でも大切な家づくりにはこういう手間隙をかけることこそが重要だと思うのである。

一生暮らす家を一生続くローンを組んでまで建てて、その家が理由で健康を害することほどおかしなことはない。これは全て生産者の側の理由で起きた悲劇であるのだ。少しでも手早く、少しでも均質に、少しでも大量に物を作る必要などないのである。むしろ空き家が問題となっている現代においてそれでも家を作ろうとするならば、なるべく丁寧に時間をかけて自分たちにとって本当に快適な空間を作らなければいけないと思うのである。これらの構造計算は「ヤマベの構造」で有名な山辺先生に依頼した。山辺先生はますいいの構造研修会で全4回にわたる社員研修を依頼した先生である。90角の檜の筋交など強固な構造を考えてくれる心強い仲間である。

古民家再生現場にてチルチンびとの撮影を行った

2023/04/01

今日は埼玉県川口市にて進行中の古民家再生現場にてチルチンびとの撮影を行った。この現場では現在構造補強を行っている。この建物は100年前に作られ、50年前に曳家されている。その後も小さな増改築を繰り返し今に至る。築100年の古い構造体には傷んでいるところもあれば、度重なる改修工事などの結果ちょっとまずい状態になってしまっているところもある。特に接合部の金物が無かったり、そもそも筋交と呼ばれるものがなかったりの状態では来るべき大地震に耐えられるはずもないわけで、計算に基づいた補強をしなければ安心して暮らすことができないわけだ。

今回の古民家再生では「ヤマべの構造」という木造の構造書の中ではバイブルとなっている書を執筆した構造家の山辺先生の指導を受けながら、耐力壁を作ったり、梁や柱の接合を強化したりの補強を行った。使用している材木は全て岐阜県の木曽と奈良県の吉野から取り寄せたヒノキである。古民家は欅などの硬い木が使用されているので、杉ではそういう固い木に負けてしまって耐えることができないのである。今日はちょうどその工事がそろそろ終わりそうだということで、古民家再生における構造補強というテーマで取材をしていただいた。

古民家再生という仕事は、やっていてとても気持ちが良い。民家再生を手掛けてみると日本のような高温多湿の環境下でいかにして長寿命の家をつくろうと努力を重ねてきたかがわかるだろう。木材は地面に近いところから腐り始める。民家の外周部にある柱の根本にはそういう部分を直した根継ぎの跡がある。先に述べたように、家族構成の変化に応じリフォームもされているだろう。つまりはすでに何度も再生されてきて今に至るのである。写真に写っているような今では手に入らない太い良材が魅力である古民家再生だが、昨今の急激な気候変動を引き起こした大量生産大量消費社会に対するアンチテーゼであるという点こそがその本質的な意味であると思う。

取材には編集長の山下さんとカメラマンさん、そしてライターの鈴木さんがいらしていただいた。構造補強や力の流れ、工事をする上で大変だった点などなど説明させていただいて12時ごろ終了した。

ますいいのモデルハウスは自然素材だけで作り上げている

2023/03/28

ますいいのモデルハウスがオープンした。ますいいのモデルハウスは自然素材だけで作り上げている。奈良県吉野の檜と杉、栃木県八溝の杉、漆喰、土壁、・・・とても空気が綺麗な空間が出来上がった。漆喰とは石灰と麻の繊維を海藻ののりで混ぜたものをいう。海藻は言うまでもなく、石灰もその始まりは海に起因する。海のサンゴや貝が生成した貝殻が石化したものが海底から隆起して石灰石となり、山から掘り出されて石灰となる。自然の力で生み出された偶然の産物なのである。

漆喰

サンゴ
貝殻
石灰石
火と水で変幻したそれらの白い灰。
さらりとした麻と和紙
白い灰とすさを混ぜ
すきとおった海藻の糊で捏ねて生まれた漆喰は
風の中でゆっくりと白い貝殻に帰っていく
海の青から生まれた白
漆喰の白から風景は誕生した  (小林純夫)

 

火を囲みながら語り合う、外では寒いから一応の囲いを用意する、その囲いは最小限空間で良い、それが侘び茶の茶室なのだと思う。

2023/03/26

動物が集まる所の中心には水がある。アフリカの砂漠の中の僅かな水場に、ライオンもしまうまもカバも集まる様子はそれを如実に表す。水がなければ生きていけないのである。人間の場合、水の次が火である。火を起こし、その起こした日の周りに集い、野宿する。家はその後だ。僕たちがキャンプをするときも、家はないが火を起こし、雨露をしのぐためにテントをはる。色々揃えることができる状態になると住宅と呼ばれる建築が発生する。住宅の4要素は屋根、壁、火、床である。要するに周りを囲って、火を入れるということだ。

茶室は一つの小さな部屋の空間の中に火=炉を入れているがこれは利休の時代から始まったものだ。ちなみにそれ以前はどこか別の部屋からお茶を運んでいたらしい。畳敷の部屋の中に火を入れるなどはそれがなかった頃に初めて発想するとしたら、かなり大胆な型破りだったに違いない。侘び茶の成立ともに生まれたというが、なぜそうなったのだろうかの疑問に答える論を見たことがない。

侘び茶の時代以前は自分で茶を点てるのではなく誰か他に使用人がいたという。自分で客をもてなしながら茶を点てようとすると、他の部屋に火があったのでは客を一人にしてしまうことになる。だったら部屋の中にいろりのように湯を沸かす場所を作ってしまえ、ということなのかもしれない。

茶室で釜の湯を沸かすと、釜なりの音がする。松風とも言われるが、しゅーと音がする状態がちょうど良い湯加減だ。下は僕の茶室の炉で湯を沸かす様子である。薄暗い茶室の中で炭の燃える色は赤く輝き、松風は静寂のなかで唯一の音となる。これはなんとも言えない風情がある。薪ストーブも好きだが茶室の炉も良い。これには共通する良さがあるのだ。人が最も落ち着き、最も語り合うにふさわしい場をデザインしたとき、炭と釜の二つを取り入れるアイデアが生まれた、というのがおそらく本当のところだろう。火を囲みながら語り合う、外では寒いから一応の囲いを用意する、その囲いは最小限空間で良い、それが侘び茶の茶室なのだと思う。

東大寺鐘楼

2023/03/22

平安時代末期から鎌倉時代に生きた栄西は、茶を持ち帰り広めたことで知られているが、実は建築の世界にも大きな業績を残している。そのうちの一つが、写真の東大寺鐘楼である。もともと東大寺は重源という僧が勧進を行い建立したことで知られているが、重源の死後その後を継いだのが栄西であった。重源が中国式の木組みを日本の大工でもできるように合理的にアレンジしたのに対し、栄西はまるで素人のようにダイナミックな子供のような木組みをデザインした。転ばし根太が柱を貫通している様子などは合理的な木組からは程遠く、まるでギリシヤの神殿のごとき重厚感を木造で表現しようとしているかのような意思をも感じる。喫茶養生記があまりにも有名は栄西だが、実は法勝寺の九重塔の再建の時にも設計を行うなど建築家としても一流だったことをご紹介しよう。

春は花夏ほととぎす秋は月冬雪さえて冷しかりけり

2023/03/19

日曜日。今日は所属している裏千家青年部の総会に参加した。コロナの規制が解けて3年ぶりのリアル開催である。裏千家茶道というのは、現在の千宗室お家元を頂点とする立派だが、僕は縁あって35歳の時からこの流派で茶道を嗜んでいる。元々のきっかけは、鵬雲斎大宗匠の講演会を拝聴したことであった。自分が建築家として生きていく中で、日本人としての文化的なアイデンティティーを芯に据えた上で活動していきたいと感じたからである。元々そういう人間だったのかといえば全くそんなことはない。元々は49年生まれにありがちな暮らしぶり、ロックを聴き、英語の勉強はするけれど国語の勉強はしない、理系は好きだけれど歴史などは苦手・・・、そんなタイプだった。大学を卒業し、働き始め、35歳というのは文化との出会いとしてはちょうど良い時だったのかもしれない。僕は引き込まれるようにその世界に入ることができた。これまで目にしたことはあるけれどそいの用途が全くわからない、例えば棗とか建水などなどの道具についても知識を得ることができた。焼き物の数々も観れば窯元がどこかまで想像することができる位の目を養うこともできた。

今日の講演会は筑波大学の石塚先生をお招きしての講演会であった。石塚先生は国語の先生である。今日の講演のテーマは和歌。この僕が和歌である。これまで全く興味のなかった世界観だけれど、なぜだかスーッと入ってきた。そして面白いと感じることができた。短い言葉の中にある思いを封じ込める行為は実は無限大の広がりを持っているのかもしれない、言葉だけは何にも左右されずにどこまでも表現できるという感覚を覚えたのである。

・・・家に帰り石塚先生の本を手の取って読んでみた。「茶の湯ブンガク講座」その中に川端康成「うつくしい日本の私」という章がある。ちなみにこの題名はノーベル文学賞を受賞したときの受賞スピーチの題である。その章の中に

春は花夏ほととぎす秋は月冬雪さえて冷しかりけり

という道元の和歌が記載されている。四季の自然の情景をただ4つ並べただけの無造作な歌だけれどその中に自然を愛おしむ日本の良さがあるとのこと、これこそが茶の、というより人としてとても大切なことだと思うのだ。この短い言葉の中に世界を変える力があるかもしれないと思えるくらいに、何か響くものがあったのである。

・・・この章を読んで井上陽水「夢の中へ」の歌詞が浮かんできた。探し物はなんですか、見つけにくいものですか、・・・今日は楽しき仲間たちとの集いの時間を大切にできて本当によかったと思えた1日であった。

 

保育園の維持管理者がお客様でがあるけれど、あくまで子供達のことを考えて設計をしたいし、そうさせてくれたコマームの小松社長には心より感謝したい。

2023/03/16

今日は埼玉県川口市にて完成した本町診療所跡のコマームナーサリー完成立ち合いを行った。このプロジェクトは鉄筋コンクリート造のビルの2階と3階に保育所を作るというものだ。保育所に入る子供達にとっては、この場所は家よりも長く居るかもしれない場所だからこそ健康に配慮した設計を行うこととした。コンクリート造の建物は普通非常に機密性が高い。確かに換気扇はつけるけれど、それでも新築状態、つまり化学物質が大量に放散されるような環境に3年間も預けられたらその後の健康状態がとても心配だからである。

今回の設計では天井裏にびっしりと炭を敷き詰めた。この炭は空気中の化学物質を吸収してくれ、さらに外壁に開けた穴から放出してくれることで、室内空気環境を健康的に保つ効果がある。さらには天井の断熱効果も高め光熱費の節約にもつながる。床には檜のフロアリングを敷き詰めた。保育園に無垢材などは・・・という声もあるが、自分の子供をリノリウムの床にビニルクロスの保育園と檜の床に炭を敷き詰めた天井の保育園のどちらに入園させたいですか、というアンケートを二十人ほどのお母さんに聞いたところ全員が後者を選んだのである。保育園の維持管理者がお客様でがあるけれど、あくまで子供達のことを考えて設計をしたいし、そうさせてくれたコマームの小松社長には心より感謝したい。そしてスタッフの宍戸君にも心より感謝したいと思う。

 

 

埼玉県川口市にて進行中の古民家再生の打ち合わせ

2023/03/15

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)昨日から名古屋出張に来ている。埼玉県川口市にて進行中の古民家再生の打ち合わせのためである。

今日は朝のうちあわせを少々行い勇建工業さんを出発、恵那市にある木ポイントさんに出かけた。ここは岐阜の檜、いわゆる木曽檜の販売を手がけている組合さんである。色々な製材所の商品がたくさん並んでいて圧巻だ。木曽檜というのは岐阜県と長野県の間にある木曽谷に生える檜をいう。立地で言うと木曽谷の南の入り口が恵那市というところだろう。実際に木曽谷を入って行ったことはないが、長野県側の千畳敷カールから木曽駒ヶ岳には登ったことがある。よくよく地図を見てみると木曽谷がいかに山深いかということに驚く。普段見ている八ヶ岳や秩父とは比べ物にならない山深さだ。岐阜県というところはほとんどが山で構成されているからこそ、林業が今でも盛んなのだろうと思う。下はその一部の写真である。

現代社会というのは情報過多の中の情報不足

2023/03/13

浅草演芸ホールに行ってみた。ここは昭和39年に浅草フランス座に増築されて作られた落語のためのホールである。当時は古今亭志ん朝、立川談志といった若手がここで活躍したそうだ。午前午後の2部制でどちらか決めればいつ入っても良い。とても自由な雰囲気であるけれど、舞台の上の落語家さんたちは真剣そのもの、特に新人さんたちの落語を聞いているとその緊張感が伝わってきてこちらまで緊張してしまいそうになる。

なんで、今更落語なのと思われる方もいるだろう。僕も自分が落語を楽しいと思って聞くようになるとは全く予想していなかった。落語というのは江戸時代から始まったそうだが、生の人間が目の前にいる数十人に対して話をするというおよそ現代的ではない手法で、しかも昔から伝わる同じ話を自分流にアレンジして話をするという、情報過多の現代社会には全く反対をいく芸能である。しかし現代社会というのは情報過多の中の情報不足ということもできる。何が必要な情報なのかの区別もつきにくいくらいに振り回されているのが実情だ。そんな中で、古典落語をひたすらアレンジする姿勢はなんとなく心地よい。どこか親しみやすい伝統といっても良いようなものだからこそ惹かれるのかもしれない。

建築というものが人間を入れる容器を作る仕事だからだ

2023/03/12

僕は建築家になって良かったと思っている。なぜかというとこの仕事はすごくわかりやすく人の役に立っているなあという実感が湧くからだ。どんなことでもそうだけれど、自分が儲かりたいとかの欲得だけでできる仕事は歳をとってくると疲れてしまう。多くの投資家さんのような仕事をしている人は、お金を稼ぐということに十分な満足を得ると、決まって世のため人のためになるような慈善事業をやるものだが、それもきっと私利私欲には限界があるとうことなのだと思う。

建築の仕事は何歳くらいまでできるか?ますいいには松永さんという監督がいる。松永さんは70歳を超えているけれどとても頼りになる存在で、いなくてはならない人だ。

設計者ではそこまで高齢者はいないけれど、僕自身48歳になって、これまで作ってきたものとこれから作っていくものはやっぱり変わっていくんだろうなあという実感はある。そして当然だけれどこれから作っていくものの方が良い建築になるという気もしている。それは建築というものが人間を入れる容器を作る仕事だからだ。人間を知るにはそれなりに時間がかかる。自分が生きた分だけ、なんとなく人間がわかってくる。そうすると段々と良い家というものがわかってくるものなのだ。

 

安行桜

2023/03/10

朝、事務所に向かって歩いていると近所の公園にある安行桜が満開を迎えていた。もともと梅と桜の合間に咲くと言われている桜だからそろそろかなあと思っていたら、いつの間にやらの満開である。元々は昭和20年ごろに安行の沖田さんという方が早咲きの桜を増やしたことで広まったらしいので、沖田桜などと呼ぶこともあるそうである。

午前中はABC商会さんという建築金物を扱うメーカーさんと打ち合わせ。現在工事中の中庭のある家の防犯性を高めるためのルーバーについてのご提案をいただいた。昨今の物騒な事件はどうしても防犯への意識を高める。安心して暮らせる家づくりを目指してご提案をしたいと思う。

建築は建物を作るだけにあらず、そこに起こる「こと」を作るのが楽しいのである。

2023/03/09

今日は埼玉県川口市にて木造平屋建ての築50年ほどの古い住宅のリノベーションを行ったNさんのシェアハウスの引き渡し式に参加した。現場はますいいリビングカンパニーの川口本社から歩いて5分ほどの場所にある。この古い家には以前親族含めて暮らしていたことがあるそうで、壊してしまうのは忍びない、かといって古くなってきているので自分で利用することもない、さてどうするかというところでご相談いただいた次第である。シェアハウスという選択肢は実は僕自身実績がある。僕が2年ほど前まで住んでいた住宅が空き家となり、そこを簡易的にリノベーションしてシェアハウスとしたのだ。僕が運営しているシェアハウスは、大体五人程度を上限として、実際は四人くらいの人が暮らしている。床面積は50坪ほどあるのでかなりゆったりとした状態だ。川口駅まで徒歩10分程度の立地で、光熱費込みで6万円台、それで広いリビングや大きなお風呂が使えるという物理的な利点もあるけれど、女性専用ということで同棲の同年代の仲間がいるという安心感が良い。月に一度は私の妻の手作り料理を振る舞うというイベントもある。建築は建物を作るだけにあらず、そこに起こる「こと」を作るのが楽しいのである。(参加者左から、私、担当建築家宍戸君、現場監督松永さん、クライアントNさん、大工瀬野くん、私の妻)

白い外壁に差し込む青ガラスの光が美しかった

2023/03/05

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)今日は東北小旅行。岩手県まで往復1000キロほどの道のりをのんびりドライブしながらの建築見学である。最初の目的地は宮城県気仙沼のリアスアーク美術館だ。この建築はますいいリビングカンパニーの生みの親である石山修武氏による設計で、屋根の上になんだか奇妙な形態の給水塔が浮かんでいる写真は建築に携わる人なら一度は見たことがあるだろう。鉄板を曲げてできる有機的な造形は気仙沼の船を作る技術を転用して製作しているのだが、建築の鉄骨に慣れている施工業者さんではなかなかやりたくはならないような3次元的な曲げの技術が多用されていて面白い。分厚い鉄板の外壁に穴を穿、その隙間に色ガラスを差し込む芸当はますいいの本社にも同じ収まりが存在する。当時、ますいいを担当してくれたスタッフの土屋さんが師匠の石山先生が設計したリアスアークを真似て設計したのだろうけれど、白い外壁に差し込む青ガラスの光が美しかった。

行きは常磐自動車道を利用したのだが、途中いわきを超えて双葉町のあたりまで来るとすれ違う車もまばらで、あの時以来時が止まってしまったかのような印象を受けた。SAも仮設のトイレが申し訳程度に整備されているだけである。きっともうここら辺に観光に来る人はいないのだろうし、そもそも暮らしていた人々の多くが帰還をしていないのだと思う。街一つが突然消えると言っても良いような現象である。今日は高速道路の上から眺めただけだが、次回はこの辺りの街を回ってみたいと思った。

人にとって気持ちが良いプライバシーの保たれている中庭は猫にとっても外敵の心配のいらない天国のような場所である

2023/03/02

10年ほど前に建てた二つの中庭のある家を見て、こんな家を建ててほしいというご連絡をいただいた。場所は横浜の郊外、竹林に面する敷地である。猫と暮らすご夫婦のための小さな住宅を建ててほしいということである。

猫と暮らす家、なぜか僕は猫や犬と暮らす家を設計することが多い。その理由は明確にはわからないけれど、使っている素材が猫も喜ぶ自然のものが多いからだと思う。猫と暮らすということで特別な何かをしようと思うことはないけれど、自分も気持ちが良いと思うもの、例えば杉無垢材の床板などは猫にとっても気持ちが良いものだし、人にとって気持ちが良いプライバシーの保たれている中庭は猫にとっても外敵の心配のいらない天国のような場所である。

二つの中庭の家では敷地の目の前にあるハローワークという施設からの目線を考えて、中庭を採用した。中庭というキーワードについては、敷地条件などによってその重要度が変わるので、あくまで今度の敷地に合わせて計画すれば良いと思うが、人が心地が良いと感じる素材については注意深く大切にしていきたいと思う。自然の素材で囲まれる空気感については今度作ったますいいのモデルハウスで体感することができる。興味のある方はぜひお越しいただきたい。

誰にも出し抜かれない生き方がある。それはゆっくり歩くことだ

2023/02/28

最近お葬式に参加することがやたらと増えている。今週は今日と明日の2連続でお世話になった方のお父様の葬儀に参列するのだが、そんなに寒くもないのにどうしてお亡くなりになる方が増えているのか不思議である。葬儀に行くと、最近はメモリアルコーナーのような設をよく見かけるようになった。生前のお姿を見ると、その人が生きてきた証のようなものが感じ取られ良いと思うがこういうものもあまり形骸化しない方が宜しいような気もする。亡くなった方を見ていると、たまにとても幸せだったんだろうなと感じる時がある。なんだかとても良い人生を歩んできたのがひしひしと伝わってくるような瞬間である。そういう人は大体自分のペースで生きてきた人のような気がする。

「誰にも出し抜かれない生き方がある。それはゆっくり歩くことだ。」

これはヘンリーデビットソローの言葉である。「さて今から出発すれば、夜までにフィッチバーグに着くだろう。以前このペースで1週間歩いて旅をしたことがある。君はその間働いて汽車賃を稼ぎ、明日、あるいは幸運にもかきいれどきですぐ仕事が見つかれば今夜にも、そこへ着くだろう。フィッチバーグを目指して歩く代わりに、君は1日の大半をそこで働いて過ごすわけだ。ということは、鉄道が世界を一周したとしても、僕は常に君より先を行っていることになる。さらに、その地方を見物し、いろんな体験ができることを考えると、とても君のやり方に付き合う気にはなれないね。宇宙の法則とはこうしたもので、人間はとてもかなわない。」

まあ地球を一周は大袈裟だとしても、こういうふうに自分の足で歩くスピードを忘れないことは大切だと思う。そして僕が良い人生を歩んできたのだろうなあと感じる人は大体の場合、自分おスピードで歩く時間を大切にしてきていた人だと思うのだ。自分自身への戒めである。

建築本体で1500万円というなかなか厳しいローコスト住宅への挑戦である。

2023/02/25

午前中、埼玉県吉川市にて設計中のSさんの家の打ち合わせ。建築本体で1500万円というなかなか厳しいローコスト住宅への挑戦である。クライアントのSさんは弓道をやっていて、セルフビルドで弓道場を作りたいという夢を持つ。元々は家の中から弓を射るような計画も考えていたのだけれど、流石にそれもないだろうということで、まずは住宅を建設しその後に弓を射ることができる小屋を作ろうという計画になったわけだ。住宅は木造2階建、仕上げなどはほとんど全てセルフビルドで行う予定だ。今回の打ち合わせでは予算まであと一歩というところまで近づけることができたのでいよいよ工事に向けて進みそうである。

午後、東京都台東区にて茶室のリフォームを検討中のOさん打ち合わせ。修正プランのご説明と概算見積もりのご提示を行った。

続いてマンションのリフォームを計画中のTさん打ち合わせ。プランの作成に向けたヒアリングなどを行った。

今日は埼玉県入間市にある茶業研究所の茶室の調査に伺った

2023/02/22

今日は埼玉県入間市にある茶業研究所の茶室の調査に伺った。とても古い木造平家建築で、石場建に土壁風仕上げなのだが、だいぶ傷んでしまっているようで全面的な改修工事が必要となる。柱だけでなく梁までもがシロアリの被害を受けてしまっているようだから、構造部材の交換も半分以上は必要そうだ。写真は小屋組の様子である。丸太を使って組み上げた化粧の小屋組の上に、葭簀の天井を貼っている。草庵と呼ぶにふさわしいなんとも粗野な作りだが、果たしてどこまで綺麗にお色直しができるやらである。

中心に大きな中庭を配置し、その庭を取り囲むようにL DKと和室のある多目的室を配置している

2023/02/20

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)

埼玉県川口市にて進行中のNさんの家の現場では上棟を終えて大工工事が進行中だ。この住宅は約60坪ほどの木造2階建である。土台と柱は桧の120角を採用し、梁には国産材の杉を使用している。プランの特徴としては中心に大きな中庭を配置し、その庭を取り囲むようにL DKと和室のある多目的室を配置している。比較的大きな現場ということで、大工さんが2〜3人体制で取り掛かっているがこの先の進行が楽しみだ。

今日はスタッフの宍戸君の結婚式に参加した

2023/02/18

今日はスタッフの宍戸君の結婚式に参加した。約1年ほど前に入社して依頼、地元川口市で保育園を営むコマームさんの新たな保育園の設計や、同じく地元川口市で古い住宅をリノベーションしてシェアハウスを運営する予定のY さんの家などで力を発揮してくれている。

奥様は新入社員歓迎会の時に一緒にバーベキューに参加してくれたことがあって、とても優しそうな素晴らしい女性であった。コロナの影響でこのような会合を開催することがなかなか決断できない社会情勢の中で、若い二人が力を合わせて今日という日までたどり着いたことが何よりもよろこばしいことであるし、心より祝福したいと思う。きっとこういう不安定な世の中で結ばれたからこそ、幸せな家庭を築いてくれることだろう。

今回は主賓の挨拶ということで少々緊張。アトラクションでは宍戸君には内緒でスタッフのみんな、そして隣の青木食堂の皆様やお客様のYさんにも登場していただいた、「氣志團」のマブダチに合わせてダンスをした結婚お祝いビデオを披露。会場の皆さんもサプライズビデオを楽しんでいただけたようで何よりであった。

埼玉県川口市にて進行中の古民家再生現場の管理

2023/02/16

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)

今日は埼玉県川口市にて進行中の古民家再生現場の管理を行った。この現場では現在構造補強の真っ最中である。構造の補強については「山辺の構造」の著者である山辺先生に依頼している。築100年にもなるとその構造はいろいろな変遷を経て、必ずしも理想的な状態とはいえない箇所がたくさんあるわけだけれど、それを一つ一つ丁寧にあるべき姿に近づけていくという作業である。弱ってしまっている柱があれば、その周りに添え柱を立ててあげる。細すぎす針があればその下に桧の梁を付け足してあげる。そうこうしていくうちに、スケルトンに解体されたときには風が吹いたら倒れてしまいそうだった構造が、安心感のあるどっしりとした状態になってくる。下の写真は桧の平角材である。この材料は奈良県の吉野から購入している。次の写真は構造補強の様子である。現場で作業をしてくれている大工さんたちも、生きているうちにこんな仕事に巡り会えてよかったの感謝感謝だ。このような素晴らしいご縁をいただいたことに心から感謝したい。

お嬢さんのアトピーが良くなったことが何よりの知らせである

2023/02/14

洗面室の設計はなるべくシンプルな形にする。この洗面化粧台は大工さんの造作によるもので、シンクはTOTOさんのSKシリーズを使用した。このシンクは実験室用シンクと言われるもので、安価で使いやすいことが特徴だ。シンク前の壁にはタイルを貼っている。鏡は大工さんに作ってもらった枠の中に貼っている。前板は杉で作り、家具用コンセントを取り付けた。

クライアントのOさんのお嬢様は、アトピー性皮膚炎に悩まされていた。健康になれる住宅が欲しいということだったので、化学物質の発生を抑えるために新建材やビニルクロス、ベニヤ板を一枚も使わないことにした。構造や下地材などは無垢材だけで作り上げている。床は30ミリの杉板を貼った。壁の仕上げは左官屋さんによる漆喰仕上げである。お嬢さんのアトピーが良くなったことが何よりの知らせである。この住宅の空気環境測定結果は来月号のチルチンビトで紹介される予定である。その時はまたご紹介したいと思う。

日本の山を守るために国産材を使用した家づくりに取組む

2023/02/12

16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリさんによるスピーチが話題になりました。十代の学生たちが世界中で運動をおこし、未来の地球のためにメッセージを伝えていました。そのメッセージには、「私たちの活動には、大人の皆さんの力が必要なんです。」という言葉がありました。

2019年は大きな台風が2回関東地方を襲いました。気候変動による自然災害がその勢いを増す中で、建築に携わる私たちにはできることがあるのではないかと思います。そこから目を背けて建築を造り続けることは、間違っていると思います。

だからこそ、ますいいは日本の山を守るために国産材を使用した家づくりに取組んでいくことを決意します。

「山の豊かさが川を通じて、海に恩恵をもたらすことは広く知られています。山の樹木から落ちた葉や、森の土壌に含まれる多くのミネラルをはじめとする様々な物質が雨水や地下水に溶け込み、河川を通じて海洋に運ばれ、植物性プランクトンを大発生させて、それが貝類や動物性プランクトンの餌となり、やがて小型魚、大型魚と食物連鎖が進んでいきます。「海を豊かにしているのは山の森」、その山を整備するにはやはり人手が必要です。山を整備してくれる人々、つまり林業に関わる人が暮らしていくためには、その山でとれる木を売らなければいけません。地域の山を育てる人、地域の山の木で家をつくる人、地域の山の木で作った家に暮らす人、こういう関係性が成立する事こそが僕たちの暮らす自然を守ることにつながるのです。」

庭の緑の中に溶け込むようなものにしたい

2023/02/09

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は埼玉県さいたま市にて庭のある小屋の改修工事を設計中のYさんと打ち合わせを行った。Yさんの家はさいたま市にある別所沼公園の近くにある。この公園の付近には昔からアーティストさんが好んで移り住んできた場所で、今でもなんとなく風情がある街である。公園の中には立原道造のヒヤシンスハウスがある。この小さな小屋は詩人であり建築家であった立原がアトリエとして作ろうとしたものを2003年に建築したものだ。立原はこの構想を実現しることなく24歳でこの世を去ったので、建築家としての実作はないのであるが、ある意味この小屋が唯一の実作のようなものと言えるだろう。

Yさんの家も別所沼の近くにある。母屋の前には庭があってそこには小さな小屋が置かれている。今回の計画はその小屋をお色直ししようというものである。下のパースはそのイメージだ。庭の緑の中に溶け込むようなものにしたい、というにはちょっと作りすぎの感がある。透明なポリカの波板を使ってうまく透明感を作り出せるようもう少し手を加えてみたいと思う。

浅見くんが秩父を盛り上げる原動力になれると思う

2023/02/06

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)

昨日の山で見た、倒れそうな蔵である。竹木舞を編んで土壁を作っている様子がよくわかるけれど、構造は今にも倒れそうに傾いている。吾野駅の周辺にある沢沿いの道をしばらく登っていくとこんなふうに空き家になってしまっている家がたくさんある。その坂を一番上まで登っていくと浅見茶屋さんが美味しいうどんを振る舞っていて、そこには多くの観光客が来ているのだけれど、そこに至る途中の住宅のほとんどはこんなふうに空き家になっているのだ。限界集落、そんな言葉が頭に浮かぶ。ここのインフラを整備するために一体どれだけの税金が必要なのか、ほんの一部の人のためにインフラを整備し続けることも難しさ、でもそこに昔から暮らす人の生活を守ることの公共性と大切さ、途中にあった看板には江戸時代初期からこの地に暮らすと言う文章が書かれていたがその宿屋も今は休業中だという実態・・・これは山登りの最後になんとも色々なことを考えさせられる光景と出会ってしまった。道を下っていると、そこには浅見茶園に浅見鉄工・・・、そういえばうちのスタッフの浅見くんの出身地は秩父だったな。もしかしてこの辺り集落かと聞いてみるとやっぱりそうらしい。浅見君、いつか秩父で分室やるといいと思うよの言葉に、なんとも前向きな反応が返ってきた。僕たちの仕事は街を作るきっかけになる可能性があると思う。企画、設計、積算、施工、素材、職人・・・、色々な経験を積んでこれらをまとめることができるようになれば、浅見くんが秩父を盛り上げる原動力になれると思う。浅見くんにはぜひ頑張って欲しいと思う。

今日は天気が良かったので埼玉県の秩父にある伊豆ヶ岳に登ってきた

2023/02/05

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)

今日は天気が良かったので埼玉県の秩父にある伊豆ヶ岳に登ってきた。このコースは正丸駅をスタートとする合計12.8キロ、登り1030m 、下1142mのコースである。正丸駅の前にある駐車場に車をとめ歩き出すと、20分ほどで登山口にたどり着く。伊豆ヶ岳までは約1時間ほどの登りだ。写真は伊豆ヶ岳山頂直下の男道にある岩場である。合計100mほどの岩場で、なかなか迫力がある。途中で引き返すわけにもいかず、下を見ないでぐんぐん上がると頂上に着く。山頂を過ぎると、古御岳、高畑山、イモグナの頭、天目指峠、愛宕山を過ぎ、子の権現をへて吾野駅にたどり着く。ここからは電車で正丸駅に戻って終了。なかなか楽しいコースであった。

僕は壊さない建築家、つまりリフォームをとても大切にしている。

2023/01/28

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
午前中は埼玉県さいたま市にて計画中のMさんの家のリフォーム打ち合わせ。最近は古い住宅をリノベーションして暮らすと言う事例がとても増えている。そして僕は壊さない建築家、つまりリフォームをとても大切にしている。建築費の高騰も原因の一つだと思うけれど、住宅寿命が伸びていること、古いものを大切にしようという思いを持つ人が増えたことも原因なのだろう。

そもそも、日本人は短期間に住宅を壊し過ぎてきた。これは多くの社会資本を自らの手で壊してきたとも言えるだろう。多くの国民が投資してきたものを、簡単に壊してまた投資させるというのは、多分に経済政策の影響とも言える。

しかし経済政策のために住宅投資を促す時代は終焉を遂げた。経済政策は社会福祉や子育て支援、そして望ましくはないけれど防衛費などに向けられつつある。個人が住宅ローンに縛られる時代は終わりつつあるのだ。これからの住宅は本当に必要なものを必要な時に作ると言う形に変わるだろう。一度作られた住宅は少なくとも2世代(40歳で作り、そこに10歳の子供がいる場合、その子が80歳になるまでの70年間程度だろうか)にわたって住み続けられるよう作るべきだし、今の木造住宅ならばそれは十分に可能だと言える。もちろんメンテナンスは必要である。適正なメンテナンスを行えば、今の建築は100年は持つ。つまり3世代にわたる利用に耐えるのだ。2世代目、3世代目は住宅ローンから解放される。その分は社会福祉に回せばよい。よい社会を作らなければこの国の未来はない。建築ばかり作ったって仕方がないのである。

茶室紹介2

2023/01/24

数年前に作った鉄と毛糸の茶室である。その名も鉄毛軒。なんともふざけた茶室であるが、実はこれ建築家藤森照信先生のスケッチを実物化したものである。作ったのはますいいのスタッフ達。大工さんなどの職人さんは一切参加していない。ベニヤ板に穴を開け、10ミリの鉄筋を曲げて差し込んだところに、倒れないように横方向の鉄筋を結びつけていく。最後に白い毛糸を壁と感じるくらいの密度で結びつけていけば出来上がりである。草庵茶室とは戦国時代の仮設の建築物であった時もある。利休の待庵などはまさにそのような経緯で作られたものだと予想されているわけだが、それを現代的な素材で簡単に作ると・・・こんな茶室もあるのだなあになるわけである。

茶道家にとって、水屋実は茶室と同じくらいに大切な場所だ。

2023/01/22

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は、東京都台東区にあるOさんのご自宅にて現地調査に伺った。Oさんは茶道をされているのだけれど、この度自宅に茶事を行うための茶室を作りたいということでご相談いただいたところである。既存の図面をもとに簡単なプランを行なったので、新しく作る間仕切り壁と実際の建物の窓との関係性や、新たな設備器具の給排水の配管経路、炉壇を設置するために床のレベルをどこに合わせるかの確認などなど現地でなければわからないことについての確認調査業務を行った。

写真は昨年作った茶室の様子である。いつも茶室の写真ばかりを掲載しているので今日は水屋の写真である。茶道家にとって、水屋実は茶室と同じくらいに大切な場所だ。この事例では茶碗だなを水屋の幅いっぱいに幅広くとるという工夫を施している。

ますいいリビングカンパニーさんって小さな工事もやってくれるの?の質問を受けることが多い。もちろんである。

2023/01/20

地元の町会の倉庫の棚の工事である。ますいいリビングカンパニーさんって小さな工事もやってくれるの?の質問を受けることが多い。もちろんである。建築家が工務店機能を兼ね備えるという経営スタイルをとって21年、ますいいには大工さんも社員雇用として所属している。だからこそ小回りが効くし、急なご要望にも応えることができる。材木だって奈良県の吉野とか栃木県の八溝地域、岐阜県の檜材がある木曽地域や群馬県の中之条市など直接製材所と取引をすることで、街の材木屋さんの仕入れ値と同じくらいに安く仕入れることを可能にしている。

このような取り組みは全て地域の皆様の暮らしを住宅建築を通して豊かにするためだ。町会の倉庫の棚を作る、これは立派な仕事だと思う。皆様もお気軽にお声かけいただきたい。

長い階段のある家

2023/01/19

埼玉県の川口市の高台の上に、長い階段のある家を作った。階段の向かい側にある大きな窓からは、隣の家の屋根の上の視線が抜けていて、街並みを見渡すことができる。窓の外にはウッドデッキがあり、まるでリビングの続きのように広がっている。階段の上は子供室だ。引き戸で仕切ってプライバシーの確保もできるようになっている。

全て壊すのではなく、残せるものは残す、そしてそれを地域にとっても魅力的な形で利用できる提案

2023/01/16

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は東京都台東区にて新築住宅を検討中のSさんの敷地調査に伺った。Sさんの敷地には現在古い貸家兼住宅が建っている。今回のプロジェクトでは既存建築の大半を解体して、残りの部分を貸家として利用し、空いた土地に新築住宅を建築するというものである。浅草周辺の工事はとても多い。この辺は人情の街で祭りなども残っている。観光客が多く来るのもこれぞ日本という雰囲気に惹かれてのことだろう。路地裏を入ると古い木造住宅を改装したカフェなども多い。革製品を製造販売している個人の工房なども多く、歩いているだけで面白い街だと思う。多くの東京の街が大型再開発を起点に特徴のない街並みに変化してしまうものと比べると大変大きな差のように感じるがそれは住民の意識の差だろう。一人一人の住民がその町に対して愛着をなんとなく感じていて、だからこそワンブロックまとまっての再開発にはならなくて、古さを生かした街並みや和の文化が残っていることが今の形を作ってきたのだと思う。そして東京のこのような形は、観光立国を目指す日本にとってとても貴重なものであると思うのだ。全て壊すのではなく、残せるものは残す、そしてそれを地域にとっても魅力的な形で利用できる提案を考えていきたいと思う。

埼玉県川口市にて進行中の古民家再生プロジェクト

2023/01/12

今日は朝から埼玉県川口市にて進行中の古民家再生プロジェクトについての見積もり作業を行った。築100年の古民家をスケルトン状態まで解体し、耐力壁で耐震補強工事をおこおなってから暮らしやすい住宅に蘇らせるというプロジェクトである。下の写真は玄関を入った上部にある化粧梁の様子である。直径30センチ以上の丸太が四本、堂々と並んでいる姿はまさに荘厳だ。工事の進行が楽しみである。

成人式

2023/01/09

成人式。今日は長女が早生まれの19歳、つまり二十歳の記念ということで、振袖を着て家族で記念撮影をした。思えば今年で21歳になる長男が生まれた年がますいいリビングカンパニー本社の完成した年であるから、僕が戸田建設を退職して独立した実質的なスタートであった。今の本社で生まれ育ち、そこで5年ほどして現在シェアハウスに利用している家に引越し、そして現在の住まいに昨年より住んでいる。どの家が最も思い出に残っているかを聞いてみると、やはり予想通り最初の家、つまり今のますいい本社であった。この建築は僕の師匠の石山修武先生により設計されたもので、やじろべえのような鉄骨構造の上に木造の平家が乗っているというとても特徴のある建築である。住まいとしては決してふさわしい形ではなかったかもしれないけれど、建築に挑戦する工務店の強い気持ちを表すというコンセプトを存分に表現できているとても力強い建築である。

撮影は最後に川口駅前にて行った。思い出の場所をめぐり家族5人で映る写真を撮影するなどそうそうあることでもない。良い記念日となった1日だった。

 

以前東京都新宿区にて造ったFさんの家の外構工事が終わりましたの報告の便りをいただいた。

2023/01/08

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
以前東京都新宿区にて造ったFさんの家の外構工事が終わりましたの報告の便りをいただいた。川に沿った幅の狭い歩道に面する狭小敷地で、その歩道と建物の間約1mほどの隙間を利用した外構工事である。風情のある数々の木々が植えられ、石を詰め込んだ金属カゴの塀が立ち上がり天然石の飛び石まで出来上がるととても良い雰囲気の庭が出来上がった。やっぱり建築は庭とセットで初めて出来上がるものだと思う。そろそろコロナも落ち着き、念願の民泊施設としての利用も始められるかもしれない。それも楽しみに待ちたいと思う。

Iさんの避難観測所

2023/01/06

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日から仕事始めである。みんなが無事に出社とはいかず、1名コロナでテレワークとなってしまった。まあ仕方がない。

昨日の日記でご紹介したIさんの避難観測所の写真をご紹介する。下の写真は100歳になるおばあちゃんの様子である。毎日施設に通っていくが、施設では針仕事をしているという話をいつも聞かせてくれる。僕の祖母が生きていたら同じくらいの歳である。お互いご近所だからよく知っていて、あなたのおばあちゃんはねえ・・・の話はいつも聞かせてくれる。お年寄りは新しい記憶は忘れても昔のことはよく覚えているらしい。

外観。鉄骨の一本柱によって支えられたステージに木造の小さな小屋が建っている。鉄骨は水害時に水が通り抜けやすく水圧力を受けにくいデザインとした。上部のバットレスのような支えは筋交の代わりの役目を果たしている。

内観。支那合板仕上げである。赤い印は外部のバットレスで支えられているポイントを示している。天窓からは星の観察ができる。避難・観測所たる所以である。

母家との接続部。内部階段を上がって避難をすることができる。階段には移動式のスロープも設置できるようにした。スロープは普段はしまっておく。

新建築住宅特集にますいいリビングカンパニーの取り組みが紹介された

2023/01/05

まだ仕事始めではないけれど、今日から少しずつ動き始める。午前中は川口市役所挨拶回り。午後は裏千家埼玉県支部新年会に参加した。

今年は新年早々、新建築住宅特集にますいいリビングカンパニーの取り組みが紹介された。以前から紹介してきた、川口市が浸水被害にあった時のための避難小屋の計画である。クライアントは元大学教授のIさんだ。Iさんは僕がこの会社を作った時に知り合った。当時は壁の漆喰塗り替え工事をやらせていただいたことを記憶している。以来20年間のお付き合いである。当時Iさんには奥様がいた。二人のお嬢さんも同居していた。今年で100歳になるお母さんもまだ若かった。奥様は亡くなり、二人のお嬢様はすでに家を出た。75歳と100歳の老老介護の二人暮らしである。いざというときに近くの小学校や公民館に迅速に避難することなど到底難しい。そもそもこの地域には何十万人もの住民がいる。入り切るわけがないのである。だったら自分の敷地の中に避難できる場所を作ってしまえ、の発想である。

住宅の仕事をしているとその家族の一生にお付き合いすることになる。どれだけ寄り添ってその家族の要請に答えられるか、建築を通して、そして建築以外の部分でも、とにかくできることはなんでも答える、それが町医者的建築家の姿勢である。作って終わり・・・ではないのだ。作った時が始まりなのである。

このプロジェクトは大学の後輩である佐藤研吾君(コロガロウ/佐藤研吾建築設計事務所)と一緒になし遂げた。佐藤くんには心より感謝したい。詳しくは紙面にて紹介されているのでぜひご覧ください。

僕たちの暮らしの中には古き良きもの、風習、習慣、風景、が沢山ある

2023/01/03

新しい年が始まったが、なんだか昨年来の戦争や物価上昇、それを抑えるための金利上昇などのきな臭さを纏ったスタートとなっている。さてさて、今年はどんなことが起こるのやらである。世界の未来など予測できるはずもなく、それは誰の意思だかわからないけれど海の波のようにゆらりゆらりと動いていく。そう言うことは今も昔も同じで、でもそう言う不安定な世界の中で、この国は独立した立場、つまり主権国家であるという形を失うことなく続いてきたわけだ。

岡倉天心の東洋の理想を読んだ。その中に、
「日本はアジア文明の博物館となっている。いや博物館以上のものである。なんとなれば、この民族の不思議な天性は、この民族をして、古いものを失うことなしに新しいものを歓迎する生ける不二元論の精神を持って、過去の諸理想の全ての面に意を留めさせているからである。・・・一方においては近代的強国の地位に押し上げると同時に、アジアの魂に常に忠実にとどまらかしているものは他ならぬこの粘着性である。」とある。

仏教や儒教といった文化宗教の伝来や、元寇や日清戦争や日露戦争などの争い事まで、隣国との関係は切って捨てることができるはずもないという現実の中で、古きを生かしながら新しいものを受け入れて変化することで生きてきたこの国は、この先もきっとそういうふうに発展していくのだと思う。しかしながら昨今のこの国はこの古きを生かしの粘着性に欠けているような気もするのだ。これがなくなるとただ単に新しいものに振り回されるだけとなるであろう。僕たちの暮らしの中には古き良きもの、風習、習慣、風景、が沢山あるのだ。こういうものに対する粘着性ということについてもう少し考えを深めてみたいと思う。

 

 

新年あけましておめでとうございます

2023/01/01

新年あけましておめでとうございます。

今年の正月は妻の実家の滋賀県東近江市に来ている。妻と結婚してかれこれ21年が経つが、コロナなどで来れない時を除いては、ここ東近江氏で過ごす正月が我が家の恒例だ。結婚したのが26歳、今年は49歳になる歳だから23年間という長い年月がたった。妻のお父さんはとても活発な人で、本業の工務店の他に、魚釣りや鴨などを獲る猟師もやっていた。年末の30日には職人さんも交えて餅つきなども行った。餅米を蒸し、何臼も餅つきをして、それをその場で食べる、とても良い思い出である。結婚当初はよく山に連れて行ってもらった。山菜やワサビ、きのこ、そして猟・・・いろいろな経験をさせてもらった。高齢となった今では鉄砲をやめ畑作業を中心に釣りなどを楽しんでいる。

昨年薪ストーブをプレゼントした。MOKI製作所のMD140というちょっと大きめのストーブで40センチほどの長い薪も入れることができる。大工さんが自分で作った家なので、どこに煙突を通そうかと考えて全てを自分で作ってしまった。バックパネルやスチールアングルのガードも手作りである。セルフビルドと言っていいかどうかは微妙だけれど、プロによるDIYであることは確かだ。薪は山でとっている。1年以上乾燥させた薪がたくさんあって、その過程で写真のような欅の足置きまで作ってしまった。毎朝火をつけるのが楽しみなんだよ・・・暮らしの一部に溶け込んでくれたようで何よりである。ここに来て二日は早起きの僕が火をつけたけれど、うまくつくとそれだけで気分が良い。夜の団欒もいつもは和室でゴロゴロだったのが、自然と火の前に集まってくる。やっぱり家の重心には火があると良いのだ。

いよいよ新しい年が始まった。今年もいい家、そしていい家族の団欒を作って行きたいと思うのである。

僕が建築を学にあたり最も苦労をしながらその著書を通読した方が亡くなった

2022/12/30

今日は滋賀県の妻の実家に移動してきた。朝というか夜中というか、1時40分に自宅を出発してかれこれ5時間30分で東近江市の実家に到着である。渋滞に巻き込まれることもなく順調な移動ができて何よりであった。朝の新聞を見ていると磯崎新氏が亡くなったとの報道があった。僕の恩師の石山修武先生が福岡のオリンピック誘致に参加していたときにその先陣を切っていた方、僕が建築を学にあたり最も苦労をしながらその著書を通読した方、そして間違いなく日本のポストモダンを牽引した方であった。磯崎氏の建築は、群馬県立近代美術館や水戸芸術館、京都音楽ホールに筑波センタービルなどあげればキリがないほどである。また建築に対する深い洞察とその瞬間を篠山紀信の写真で切り取った建築談義シリーズは今でもたまに読む愛読書だ。

建築という分野は、この日本が世界に誇ることができるとても珍しい経済芸術分野である。天心がその講義の中で「徒に古人に模倣すれば、必ず亡ぶ。これは歴史の証するところである。系統を守って進み、従来のものを研究して、一歩を進めることを勉むべきである。西洋画は宜しく参考するが良い。然し乍ら、自ら主となり、彼を客として進歩することを要する」と言っているが、こういう姿勢はこれまでもこれからも同じように求められることだと思う。そして磯崎氏の建築もまたこの類であると思うのである。晩年を沖縄で家族と過ごしていたという話は聞いていた。安易に老いた姿を表す人ではないと思っていた通りに、現役で活動していた時代の凛々しい写真とともに死亡の記事を目にすることになった。まさに最後の最後まで計算し尽くされた行動だと思う。現代に生きる武士の如き生き様に快い敬意を表したいと思う。

 

茶室紹介〜松琴亭

2022/12/29

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
桂離宮は京都の西を流れている桂川のほとり、430アールほどの敷地に八条宮の別荘として作られた。庭が出来上がったのが八条宮智仁親王の時、次の智忠親王の時に建物が増えて庭も再度整備された。古書院から池を挟んでちょうど反対側くらいのところに、松琴亭がある。茅葺き入母屋造の主屋に杮葺きの茶室が接続し、背面に水屋、勝手が付属する。襖に貼られている白と藍色の加賀奉書の市松模様が特徴的だ。二の間東に二枚襖の口で接する茶室は三畳台目、桂離宮内における唯一の草庵風茶室である。写真は大目切り炉と中柱である。手前座の背景には中庭に向けて窓がたくさん配置されているが、きっとお手前さんには後光がさして見えるんだろう。

 

埼玉県さいたま市にて和室に炉を切りたいというSさんと打ち合わせ

2022/12/27

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)今日は埼玉県さいたま市にて和室に炉を切りたいというSさんと打ち合わせ。築5年ほどのまだ新しい家の和室である。木造在来工法で床下のスペースもそこそこありそうだからなんの問題もなく炉を切ることができそうだと思っていたら、畳の厚みが15ミリしかないことに気がついた。炉壇の上にのせる炉縁という茶道具の高さは通常の畳の厚さである60ミリで作られているので、これだと炉の部分だけを45ミリ落とし込んで、15ミリの畳に合わせなければならないことになる。まあなんとかなることはなるのだけれど、なんとなく違和感が生じてしまう。新建材と伝統とのミスマッチ・・・こんなところにも現れるのだなあ。

「余計なものはつくらない、大切なものは壊さない建築家」

2022/12/22

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)

埼玉県川口市のほぼ中心に位置するグリンセンターという公園内で、シャトー赤柴という築50年の建築のリノベーション設計を行なっている。宮殿のようなイメージを彷彿とさせるなんとも言えないデザインの建築で明仁上皇陛下が皇太子だった時代に、川口市で開催される国体をご覧いただくために建てられた建築である。依頼結婚式場やレストランとして利用されていたけれど、ある一時期からはほとんど利用されなくなってしまっていたようだ。当然取り壊しの声も上がったけれど、何でもかんでも壊して再建築の時代ではない。川口市の理解ある人の手により保存再生の道を選ぶことになったわけである。「余計なものはつくらない、大切なものは壊さない建築家」として活動する僕としては、本当によかったと思っている。(ちなみにこの建物以外は全て取り壊し、再建築となってしまった。)

公園はメインアプローチの場所が変わり、この建物のアプローチの方向も変わるということで、メインアプローチの正面に向けて人を導き込むような装置を増築する予定だ。写真はその模型である。だいぶイメージも固まってきた。来年夏の実施アップに向けて頑張っていきたい。

坂戸訪問診療所の高野副理事長とお会いした

2022/12/19

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は坂戸訪問診療所の高野副理事長とお会いした。この診療所は在宅医療を専門とする病院で、いわゆる普通の外来の診療はしていない。患者さんは在宅で末期癌の最後の時期を過ごす方や、施設に入所する高齢者などだ。登録している医師が患者さんを訪問し、診療を行うのでとても手間隙がかかる方式なのだが、通院をすることができなかったり、末期で病院にいることができなくなってしまった患者さんにとっては「最後の砦」となるとても大切な病院なのである。

病院での出来事に46歳の末期卵巣がん患者さんのお話を聞いた。ご主人は地域消防士、お嬢さんが大学生で、息子さんが高校生、どこにでもある普通の家庭である。そこに余命半年の状態でお母さんが病院から退院してきた。初めの半年はお母さんが家事を行なっていたけれど、容態が急激に悪化し、その全てに家族が対応することができない状態になってしまったという。家族が不在の時に診療所の職員が8時間も付き添ってあげるというようなことも起きる状態となってしまい、再入院を勧めるも患者さんはそれを拒否。家族と患者さんのすれ違いまで生じてしまい、結局入院したのは朦朧とした意識の中での決定だったそうだ。(家族はこれ以上の介護は無理と言い、本人は一度追い出された病院には戻りたくないといっていたそうだ)妻として母としてこれ以上家族に負担をかけることを避けたのかもしれない。

お話を伺っていると本当に重く重要な最後の砦の診療所であると感じた。今後ますます高齢者が増え、それを支える若者の数は減っていく。マンパワーも経済的にもこれまで以上に厳しい状況になるだろう。看取りという言葉を数多く聞いたが、人の死を陰に追いやってしまった現代社会を生きる僕たち世代が、最もどうして良いかわからない行為であるような気がする。在宅医療との向き合い方という問題は、今後のこの国の医療を考えるともう少し身近に置いておかなければいけない事象であるような気がするのである。

埼玉県川口市にて建設中のパッシブLCCM実験住宅の木ずり下地

2022/12/14

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
現在埼玉県川口市にて建設中のパッシブLCCM実験住宅では、漆喰仕上げに3種類の仕上げを採用している。その一つが写真にある木ずり下地だ。細い木材を水平に固定し、そこに土壁の下塗りを厚み8ミリほど塗りつける。その上にさらに半田を塗り付け、漆喰仕上げを塗ると、全部で15ミリほどの厚さを持つ左官壁が出来上がるわけだ。通常の石膏ボードに対する施工の場合は厚さは2ミリほどしかないので、その差は歴然となるだろう。

ちなみにこの板は茶室の床の間のたれ壁である。このたれ壁にも薄い左官を仕上げるために杉板の下地に穴をたくさん開けて食いつきを良くしているのである。

今日は雑誌「チルチンびと」が企画する家づくり対談に参加

2022/12/13

今日は雑誌「チルチンびと」が企画する家づくり対談に参加した。場所は東京都の神楽坂を登りきったあたりにある風土社事務所である。この界隈は昔ながらの風情が残っており、歩いているだけでも楽しい路地がたくさんあるが、チルチンびとを発行する風土社さんらしい立地である。集まったのは4社。千葉さん、五香さん、渡邉さんと私だ。主なテーマは断熱性能や自然素材についてである。昨今の家づくりでは高断熱と高気密が求められることが多いが、気密を実現しようとするとどうしてもビニールで包まれた家となってしまう方向に進んでしまう。いくら暖かくてもビニールの中で生きたいか?という問題は大きい。そこでそれぞれこだわった家づくりを行っている4人が、それぞれ独自の工夫についてのお話をするという展開となるわけである。

ますいいでは現在実験住宅となるモデル住宅の建設を進めている。この住宅はパッシブLCCMとして、高性能な断熱性を実現しているだけでなく、部材間のコーキングや気密テープの施工により高気密も実現している。ビニルを使用するよりも少々手間はかかるが、より自然に近い形での高性能住宅となる予定である。完成後は室温データ、部材表面温度などの測定も行う予定なので楽しみにしておいてほしい。

漆という素材にちょっと興味を持ってみたいと思う。

2022/12/10

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
先日基礎アルテックさんを訪問したときに漆の鷲というものを初めてみた。和紙に丁寧に漆を塗り乾燥させるとできるのだが、火や水にも強い特殊な和紙というだけでなく、様々な表情を持つとても風情のある仕上げとなる。茶道の世界にも漆製品はたくさんあるが、一体どれほど昔から漆というものは使用されているのだろうか?

北海道の函館で発掘された漆が塗られた糸で編んだ装飾品や櫛状の髪飾り、腕輪などは年代測定の結果約9000年前のものだということが発見された。これは現在のところ世界で最も古い漆とみなされているそうである。このエリアから津軽海峡を挟んだ地域のあたりは9000年前から縄文末期の2000年前ごろまでの集落後が多数発見されていることから、縄文時代には漆製品が多く使用されていたことが予想される。縄文時代にには各地で栽培されていた漆の木であるが、今では漆かきを生業とする人の数も減りだいぶ減ってしまったようである。現在日本で使われている漆はその98%が中国を中心とした外国産で、国産の漆を復活させようとしている人が僅かに活動しているだけになってしまったようだ。

漆の木というのは10年から15年ほどで漆を採取できる状態となる。漆の幹に傷をつけ、滲み出てくる樹液をヘラで掻き取るのだが、一本の木から採取できる量はわずか200gほどだそうだ。ネットで検索すると100gの国産生漆が1万円以上で売られているが、この年数を考えると安すぎるくらいのような気もする。

物の値段の決まり方、つまり資本主義の失敗はこういうところに起きるような気がする。漆製品がプラスチック製品に変わり便利さだけが重要視されたときに国産漆の値が下がる、つまり需要と供給の原理だけに任せた結果なのだろうが、それが正しいとは限らないということだろう。こういうことは他にもたくさんあると思う。失敗に気がついてもそれを再生させることは結構難しいものもある。だからと言ってそのときに不要と思われるものに税金で補助をして生きながらえさせることが必ずしもうまくいくわけでもない。木曽アルテックのさんの漆製品は漆製品の可能性を感じるものばかりだ。当然、木曽漆器の産地だからこその発想だと思うが、素材を利用した他の製品への活用の可能性をデザインすることは、一見不要となってしまった製品の需給バランスを再構築してくれる可能性があると思うのである。漆という素材にちょっと興味を持ってみたいと思う。

キッチンなどの設備器具はコストに応じて適材適所の設計と選択を行うことが大切だ

2022/12/07

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
午後より埼玉県川口市にて設計中のYさんの家のキッチン打ち合わせのために、東京都小金井市にあるヤジマさんを訪問した。ヤジマさんは元々ステンレスのメーカーさんだったそうだが、今では多くの建築家が依頼する特注キッチンメーカーである。ますいいでもよく利用しているのだが、ステンレス天板の見付けの厚みを15mmほどの薄い表現にしたりのデザイン的お気遣いがとても嬉しいだけでなく、機能面でも長年の経験に基づいて積み上げたノウハウを生かしてくれるとても信頼のできる会社である。興味のある方はぜひ訪問してみてください。

さて、せっかくなので大工造作のキッチンにについて少々書く。ヤジマさんのようなメーカーはどうしても高いお買い物になってしまう。ローコストでこだわりのキッチンを作ろうとすれば、・・・その場合、大工造作がお薦めだ。大工造作のキッチンは基本的に箱を作るところから始まる。設計ではガスコンロを納められ、引き出しや扉を取り付けることができる箱のデザインを行うのだがこれには結構な経験がいる。箱ができたらその上にステンレスの天板を載せる。天板はステンレス加工屋さんに製作を依頼するのだが、ここでもコンロの穴や水洗金具の設置位置などを詳細に設計しなければいけない。天板を乗せたら、コンロや水栓を取り付け、扉や引き出しをつけたら完成となる。箱のデザイン時には最後のコンロとガス管の接続や給水給湯配管の結びができるような配慮も重要だ。こうしてできたキッチンもまたこだわりの作品だ。

キッチンメーカーと大工造作、もちろんキッチンメーカーの方が膨大な経験とノウハウを持っている分安心ができる。でもコストは少ないけれど安易な既製品にはしたくないという場合もある。キッチンなどの設備器具はコストに応じて適材適所の設計と選択を行うことが大切だと思うのである。

 

天井裏から現れるうねうねとしたダイナミックな梁は古民家再生のいちばんの魅力だ

2022/12/06

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
午前中、埼玉県川口市にて現在進行中の古民家再生工事の現場管理のためにスタッフの上原君と一緒に現場に向かう。今日は構造の山辺先生にお越しいただき、耐震補強方法についての検討などを行った。現場は古民家再生の第一段階、解体の工程である。天井や床、全ての土壁などを落としていくとその構造体があらわになっていく。天井裏から現れるうねうねとしたダイナミックな梁は古民家再生のいちばんの魅力だ。まさに心が躍る瞬間である。

 

津田寛治様邸に関する手記④

2022/11/30

津田寛治様邸に関する手記④
「あとアトリエの本棚もそうでしたね。素材をただ切り取ってざっくりしたもの、きれいに仕上げないで欲しいって言ったら、厚い合板の積層小口を表しにして、切り出したそのままみたいで、それがすごくかっこよかったんです。僕は最近いつもそこで過ごしていますね」

「素人の僕がいろいろと意見を通したのだから、実際には多少の後悔はあります。でも本当に嫌ならあとから直せばいいんだし(笑)。僕は意見を言って、よくその後に「もし嫌になったら後から直りますよね」と、いつも言っていたんですよ。この窓あとから大きくできますかみたいに。そしたら田村さんが嫌な顔をするんですね」

「そういえば、階段の真ん中に段板を支える鉄骨の柱があって、「俺は白だ」と思ったけれど、田村さんは絶対黒だと言いました。僕は正直全く黒くする意味が分からなかったので、せめてグレーにしませんかって言ったんです。結局妻と相談して黒にしたんですが、あれは黒が良かったと思っています。とてもいい感じになっているんですね」

そういえば、津田さんの家の完成間近の時に、リビングの丸柱に棕櫚縄を巻いて存在を和らげようとしたことがあった。完成した姿を見て喜んでもらおうと思い、津田さんには黙って縄を巻いておいたのだけれど、引っ越しして数日でその縄はほどかれてしまっていたことを思い出した。どうやらその縄の表現は、引っ越しを手伝ってくれた若手の俳優にしか受けなかったそうで、しかも縄が好きな幾分変わった性癖を持っている方だったというから、仕方がない。縄を巻くときは縄を持って柱の周りを何十周も歩きながら締めていくのだけれど、その数日後に奥様と二人で柱の周りを何十周も歩きながらその縄をほどいていたというから、思い出すと思わず吹き出してしまう。

通常は家づくりにおける映画監督とは僕たち設計者のことである。でも津田さんにとって自分自身が監督をやっている感覚のほうが合っていたのだろう。最後にもう一度家づくりをするとしたらどんな家を造りたいか聞いてみた。「基本的にあの家は気に入っているので、もう一度建てたいとは思わないですね。

今の家は、たまにはっと思う時があるんです。仕事が終わって帰ってきたとき、外から見て丸い窓があって、そこから明かりが漏れていて、そんな姿を見ていると温かいなと思います」「僕は建築雑誌に載るような家は好きじゃないんです。かっこいいかもしれないけれど、住んでみたら大変だろって思う家は嫌いです。たまに人の家にお邪魔したりしたときに、デザイン的にはそんなに肩ひじ張って頑張っていないけれど、なんかいいなと思う家があるんですね」「奥さんが家事をやりやすくなっていて、家族が自然に使えている感覚が滲み出しているような住宅が僕は好きで、今の僕の家もそういう風になっていると思います。だから、建て替えようと思うことはないですね」

津田寛治様邸に関する手記③

2022/11/29

津田寛治様邸に関する手記③
「実は昔は水道工事のアルバイトをしていたこともあるんです。小さい現場だと、親方が途中でほかの現場に行ってしまって、庭の裏の土間コンクリート工事を任されたりするんです。そういう時にコンクリートの金鏝仕上げをやったりするのは病み付きになります。コンクリートとか土壁、粘土、あと鉄がさびた様子などは取りつかれると病みつきになるんです。そういうことに取りつかれて仕事にしている方は本当に幸せだなと思います」

津田さんは家づくりの最中もとても熱心に自分の希望を担当者の田村に伝えて、まるで自分が設計者のように参加していた。

「映画を作ることと、家づくりはとても似ていると思います。僕は映画監督もしています。本業は俳優だから、異業種監督と呼ばれるんですが、この異業種監督の場合は本当に家づくりに似ていると思います。つまり映画監督は、家づくりの場面のお客さんみたいなものなんですね。専業の映画監督ではないから、撮影などに関する技術は何も知らないけれど、いろんな映画とか本を読んだりして、すごく知識はあります。そしてこんな映像を造りたいという強い思いはあるんです」

「家を建てている間は、自分の家というよりも一つの作品作りに参加している感じでした。この家の特徴は先ずは大きなウッドデッキ、そして斜線制限の関係で屋根がとんがっているところですね」「基本的に家づくりは妻にお任せと思っていたんですが、あるとき「往々にして旦那は意見を言わないけれど、それがだめな家をつくてしまう原因である」と何かの本に書いてあったのを読んだんです。それで口出しをするようにしました」

「思い出に残っているのは、外壁に丸い窓を配置したことと、玄関のトイレのところに同じ大きさの丸い窓を開けたことですね。担当者の田村君に丸い窓を開けてって言ったら、始めは小さい窓の絵が描かれてきました。そうじゃないと思ったので、大きな窓をつけってって言ったら、どーんとつけてくれた」「これも映画監督と似ていると思う。映画監督がああしてこうしてと言って、現場のスタッフが一生懸命頑張ってくれて、思った通りの画が撮れた時と同じなんです」

津田寛治様邸に関する手記②

2022/11/28

津田寛治様邸に関する手記②
「はじめての打ち合わせで、妻がこれまで依頼しようと考えていた他の設計事務所が書いた図面を見せて「これでお願いします」というようなことを言ってしまったときに、さすがに失礼だろって思ったのですが、増井さんが「わかりました」と言ったんですね。あの時の増井さんを見て、クライアントの要望を寛容に受け入れるところと、それでも自分を崩さないところを持っているなあと、つまりとても自然体だなと思いました」

「施主の思いを実現するという設計手法は、ともすると設計という行為に対してモチベーションが感じられなくなる場合もあると思います。でもそこをうまくバランスをとって、それを楽しんでくれる のがすごくよかったんです」

津田寛治さんは僕の印象では、芸能人と呼ばれる人が持つであろうとイメージされる派手さと か、傲慢さとかとは無縁の人である。むしろ普通の人よりも自然体かもしれない。乗っている車 は、ぼろぼろのワゴン車にニコちゃんマークのペイントを施しているような車だし、服装だって センスの良い普通の大学生のようなもの。とにかく見栄を張るような行為とは無縁の人だ。僕は当時、津田さんのことを知らなかった。もともとあまり芸能界に詳しいほうではない。だから僕も自然体でいられたのだろう。知っていたらもっと緊張していたと思う。

素朴な人だからであろうか。この工事では素材そのものを表現することを求められた。塗装等 で仕上げることは最小限にして、なるべく素材のままの表情を大切にしたいというのである。 例えば外壁では、本来は吹付下地として施工するモルタルを、そのままで仕上げてほしいという要望があった。普通では割れてしまうモルタル下地をどうしたら割れないようにできるか の苦悩の末に、ファイバーネットを敷きこんだりモルタルそのものに繊維を混ぜ込んだりの工 夫を施したりもした。この仕上げの取り組みは僕にとっても実験的な試みだった。ひびだらけになってしまうかもしれないとの不安を持ちながらの工事であった。今回、7年がたって現場に行ってみて、壁が割れていないことには正直驚いたが、何よりもそのモルタル仕上げの風合いが経年変化と共に さらに良い雰囲気になっていたことがうれしかった。そんな津田さんにとっての住宅とは、ど のようなものだったのかを聞いてみた。

俳優って特殊な仕事のように思われるけど、実は普通の仕事と変わらないんです。一部のス ターは違うかもしれないけれど、僕たちのような役者は現場に行って、衣装に着替えて、せりふをしゃべって、お疲れ様でしたと、まるで大工さんみたいに働いています。日本中のいろん な現場に行って、その現場の仕事をします。だから僕が家を建てる時も俳優だからと言って特別なことを考えていたのではなく、普通のお父さんと同じように、ただただそこで育つ子供の ことを考えていました」 「僕の中では子供たちがたくさん集まる児童館みたいな家にしたいと思っていたんです。決してファッショナブルなものではなく、どちらかというと暖かいもの」 「僕にとって家というものは、その場だけの完成作品ではありません。住んで、何十年もたっ て完成するものです。できた時はすごくきれいだけれど、 20 年たっていろいろなところが汚れ てきたらみすぼらしくなるものではなく、時間がたって使い込んだ時に魅力があるようなもの が良いと思います」

「この家ももう7年がたっていますが、先日も通りすがりの人が、この家を建てた人を紹介し てほしいと言ってきましたが、こういうのはうれしいですね」

「僕は特にこの家のモルタル仕上げの外壁面が大好きです。吹付とかしていないただのモルタ ル仕上げですがこのラフな感じがすごく良いと思います」

「ラフさって要求することがすごく難しいと思います。映画のカメラワークでもそうなのです が、映画監督がカメラマンさんにわざと揺らしてくれと言うと、すごくわざとらしくなってし まうんです。でもカメラマンが一生懸命とっていて、でもちょっとカメラが揺れてしまった時 はとてもかっこよく仕上がります」

「壁も一緒で、すごくきれいにして欲しくはないんだけれど、わざとムラムラをつけられると わざとらしすぎて嫌なんですよね。増井さんは僕がそんなことを行った時に「ようは吹付の仕 上げの下地程度にすればいいんでしょ」と言ってきましたね。結果とても好きは風合いに仕上 がりました」

「左官屋さんも大工さんも、左官の魅力とか木の魅力に取りつかれているんですね。そういう 人を見ると本当に幸せだと思う。大好きな仕事をして夢中になっていられるのは見ていて気持 ちが良いですね」

津田寛治様邸に関する手記①

2022/11/27

建てた家を巡るというインタビュー記事を書いたことがある。取材はもちろん自分で行った。今日はその中でもある俳優さんについての手記をご紹介する。

津田寛治様邸に関する手記①
建築家をやっているといろいろな人と出会う。年齢も職種もそれぞれで、打ち合わせをして いると、いろいろなお話が聞けてとても楽しいし、ためにもなる。 時には有名人もやってくる。13年ほど前に俳優、津田寛治さんのご自宅を建てた。映画やテ レビドラマなどで活躍されている方でご存知の方も多いだろう。津田さんとの出会いは、奥様 がさんかくの家が掲載されている雑誌「住まいの設計」をご覧になった時に、モルタルで作っ たキッチンやお風呂の写真を見て気に入ってくれて、ご連絡してくれたところから始まった。 (さんかくの家では名前の通り三角形の建築形状を採用しているのだが、その形状に合わせ て、左官屋さんがモルタルで作ったキッチンやお風呂を配置している。)

津田さんは当時、すでに土地を購入して、不動産屋さんに紹介してもらった設計士さんに図面 を書いてもらうところまで進んでいる状態だったのであるが、その設計士さんに塗り壁で仕上 げをして欲しいと依頼したところ、「この土地では地盤が悪いから塗り壁の仕上げは無理で す。クロスを貼らなければ仕上がりません」と言われて、決別してしまった時に、たまたま新 宿パークタワーにあるリビングデザインセンターオゾンのライブラリーで雑誌を見つけて、ま すいいに来ていただいたというわけである。

津田さんは当時のますいいとの出会い、印象をこのように話してくれた。 「僕の家づくりには、設計を押し付けるような建築家は絶対に入れたくないと思っていまし た。そういう建築家って他人の住む住宅を自分の作品としてとらえているじゃないですか。で もそれは傲慢なことでしかないと思うんです」 「住宅は決して建築家の作品ではないと思います。住宅はあくまでそこで暮らす人のものなん ですね。だからこそ、住む人の希望とか使いやすさとかをないがしろにして作品性を高めるこ とに偏りすぎてしまうことは傲慢だと思います」 「建築家がもしクライアントの希望を聞いていて、でもやっぱり後々後悔するよって思って も、お客さんがそう望むのであれば思うようにやらせてあげればよいと思います。それで、ど うしても嫌になったらやり直せばいいと思います」 「僕たちは、デザインを押し付ける建築家ではなく、工務店なんだけれどセンスのわかるとこ ろを探していたんですね。その考えにぴったり合う会社を見つけたのが、たまたま、ますいい リビングカンパニーさんだったんですね」

今回の茶会にあたりオリジナルの棚を創作した

2022/11/26

今日は僕がブロック長を務めている、茶道裏千家淡交会の関東第2ブロック青年部40周年を記念する茶会と式典を開催した。裏千家というのは千利休から始まる茶道の流派の一つである。三千家と呼ばれるくらいだから、他にももう二つの流派があって、それぞれ表千家と武者小路千家という。元々は一人の茶人から派生したわけだが、3代目の宗旦の後にそれぞれの流派に分かれた。淡交会というのは昭和15年にそれまで全国に既存していた裏千家茶道の様々な団体をまとめて宗家の直轄団体として結成され、昭和28年に文部省より社団法人の認可を受けたそうである。この名前は荘子の「君子之交淡若水」に由来する。僕は縁あってこの団体の長を務めているのだけれど、それも今年で終わりである。後輩に道を譲るに当たり、40年の歩みを振り返り、未来へとつなげるためにこの会を開催しようと心に決めた。

今回の茶会にあたりオリジナルの棚を創作した。名は「彩の国」と青年部の彩に因んで「彩棚」と名付けよう。茶道は一服の茶を点て飲むことにつきるのだけれど、その嗜好を考え、設ているときが何よりもの楽しみなのだ。

木ずり下地の左官工事

2022/11/25

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
モデルハウスの工事が進んでいる。この現場では和室の壁などに木ずり下地の左官工事を行う予定だ。木ずり下地というのは写真のように柱に木を打ち付けて、そこに土壁を塗りつける工法である。木と木の間に土が入り込み下地と一体となった上に仕上げの漆喰を塗るのだが、石膏ボードに薄塗りの漆喰を仕上げたものと比べるととても重厚感のある仕上げとなる。ここでいう重厚感とは、例えば音が壁に吸収されていくことだったり、例えば厚みのある漆喰壁ならではの調湿作用だったりということなのだが、やはり言葉ではわかりにくいもの。だからこそ「漆喰の塗り厚さがその空間にどのような質の変化をもたらすか」について体感していただくことができる場所となることを楽しみにしている。

建物の設計に当たっては、温熱環境シュミレーションソフトを利用した。

2022/11/24

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
埼玉県川口市にてますいいリビングカンパニーのモデルハウスを建築中だ。この建物はパッシブLCCMの手法を取り入れている。LCCMというのは建物を建てる時から解体するまでの二酸化炭素排出量を上回る発電を行うことで、二酸化炭素排出量をマイナスにするというものだ。LCCM住宅はすでに多くのハウスメーカーで作られているがほとんどの住宅は窓が小さく、まるで魔法瓶の如き様相となっている。

さてさて、魔法瓶の中で暮らしたいと思う人はいるであろうか。人は誰も窓の外に緑が見えて、季節の良い時には心地よいそよ風が吹き込んで欲しいと思うものだ。いくら省エネと言っても流石に魔法瓶はつらい。そこでパッシブ設計とLCCMの融合を図ったというわけである。建物の設計に当たっては、温熱環境シュミレーションソフトを利用した。ホームズ君という一風変わった名前のソフトだが、室内を通り抜ける風の量や、窓から入り込む季節ごとの日射量まで算出してくれる。これらの数値は例えばパーゴラをつけたりひさしの長さを調節したりの設計上の工夫を施すことで変化し、最適解を探すことができるようになっている。ますいいではこの手法を全ての住宅設計に取り入れることにしているので是非ご相談いただきたい。

 

東京都杉並区にて進行中のYさんの家の引き渡し式を行った

2022/11/22

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は東京都杉並区にて進行中のYさんの家の引き渡し式を行った。この計画はリビングデザインセンターオゾンさんのご紹介である。オゾンというのは東京ガスの関連会社が運営している家づくり全般に関する情報提供を行う場所で、西新宿の都庁から少し先、パークタワーというビルの中に入っている。

もともとある住宅に小さな倉庫とワークスペースを増築するという計画、普通ならば簡単に終わるところがとても苦労して造り上げることとなってしまった。なぜ苦労したのか、一つ目の理由は完了検査済を受けていない住宅のために既存不適格の調査をこなっての増築となったことである。既存不適格調書というのは建築士による建物調査によって書くのだけれど、僕が一人で見たところで本当に完全な調査をできるわけでもなく、そこで民間の確認申請審査期間に依頼することとした。調査の結果、例えば勝手口のサッシの交換を指摘されたり、隣地協会に立つブロック塀の改造を指摘されたり・・・、本当に色々と是正をしながらも増築が認めていただけたのは本当に嬉しかった。
二つ目の理由は、既存のバルコニーの手すりをカットし、大きな掃き出しサッシを取り外し、そこに増築した建物を挿入するというなんとも雨仕舞いの難しい工事であるという点である。これをクリアーできたのは、担当スタッフの高野君と塩野谷大工のおかげである。小さいけれどとても良い仕事ができたと思っている。ちなみに下の写真の黒い部分が増築部です。

 

無理をせず、無駄を出さず、余計なことをしない

2022/11/19

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
小さな家には魅力なんとも言えない魅力がある。かつて最小限住宅を作った増沢恂がその設計にあたって以下のようなことを配慮したという。
・無理をせず、無駄を出さず、余計なことをしない
・簡単に手に入る安い材料をそのまま使う
・製品の寸法を尊重し、無駄を出さない
・少ない材料でつくる
・難しい技巧、手の込んだ仕事を避ける
・大壁、フラット天井、トラス構造。素地の美しさを評価
・ローコストだが格調高く気品がある
・生活に対する柔らかな目差しが感じられる
・科学的、工学的設計法。構造設計者と協働、採光率、断熱・結露計算もした
1952年という戦後の混乱期に作られた住宅だが、昨今のウッドショックの如き状況を見ているともう一度再考するべきことのような気がするのである。

下の写真は数年前に作った9坪ハウスだ。この建物も上記のようなコンセプトを持つ。3間✖️3間の平面の中にどのような設えを納めることができるのかの検討はなかなか楽しいものである。南側の大きな海溝には障子を嵌め込み、日照調整とプライバシーの確保を可能にした。小さなカウンターの裏側にはキッチンがあり、それと並ぶように洗面所と浴室がある。玄関は階段の下のスペースを利用し、特に専用のスペースはない。吹き抜けを入れても延床面積が18坪、まさに最小限の住宅の形と言える。

妻の実家の古い家がこんなにも丁寧に作られていた価値ある住宅だということにDIYで参加して初めて気が付かされた。これからも大切に住み続けていきたいと思います。

2022/11/17

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は埼玉県伊奈町にて進行中のTさんの家の引き渡し式に参加した。この計画はお母さんが一人で暮らしているご実家に、Tさんご家族が移住するというものである。Tさんとは元々10年以上も前に新築住宅の土地探しのご相談で知り合っていたのだけれど、このようにリフォーム工事を依頼される形での再会となった。
住宅は奥様のご実家である。玄関などはそのまま利用し、和室だった部分を小世帯のLDKとした。解体に当たっては全てを壊してしまうのではなく、和室の欄間など部分的に再利用した。天井を剥がしてみるとなんとも魅力的な梁が現れたので勾配天井とし梁を表しにしたのだが、このように臨機応変に作りながらデザインできるのもリフォームの楽しいところである。床は信州の唐松フロアリングとした。壁の白はクライアント自らが頑張ってセルフビルドで塗り上げた漆喰である。自分の家は自分でつくるをまさにやり遂げたわけだけれど、きっとこれからも楽しみは続いていくのだろう。引き渡し式の際に、「妻の実家の古い家がこんなにも丁寧に作られていた価値ある住宅だということにDIYで参加して初めて気が付かされた。これからも大切に住み続けていきたいと思います。」という言葉を聞いたが、こういうことは本当に大切なことだと思う。ぜひ長く使い続けて欲しいと思うのである。

リフォームを行う場合、必ず2階の天井裏・1階の天井裏・1階の床下を点検して金物と筋違の有無を確認する

2022/11/15

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
埼玉県さいたま市にてリフォームをご検討中のMさん打ち合わせ。今日は現地ではなく、現在お住まいになっている岩槻駅の近所にあるマンションでの打ち合わせとなった。打ち合わせにお客様の家にお邪魔することは結構多いけれど、実際の暮らしを拝見するとその方の嗜好が現れているので設計にとても参考になる。Mさんの清らかそうなお人柄がなんとなく感じられるお宅であった。

今回の計画では、古い木造住宅の1階床を剥がして断熱工事を行い、窓には2重サッシを取り付ける。2階の天井も剥がし屋根断熱を施すことで断熱性能を向上させる。解放性のあるプランにするために間仕切り壁を撤去しながら、耐震補強も行う予定だ。このくらいの時代の建物は筋違が入っていても金物で固定されていないことが多い。僕はリフォームを行う場合、必ず2階の天井裏・1階の天井裏・1階の床下を点検して金物と筋違の有無を確認するのだが、予想通り金物は少ない建物であった。プラン提案の際には点検結果に配慮した提案を行うようにしている。今回もできる限り金物の補強を行う予定だ。実は有料の耐震診断の時の調査と同じことをしているわけだけれど、これをしないと責任のあるリフォーム提案とはいかないわけだから、いわゆる町医者が聴診器やレントゲンで検査をするかの如く大切に行ない続けていきたいと思っている。

住宅の医者=住医

2022/11/14

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は改修工事中のツーバイフォー住宅の構造をチェックしていただくために、「山辺の構造」という木造建築構造のバイブルの著者、山辺先生をお招きしての現場調査を行った。ツーバイフォー住宅の構造を触るリフォームというのはなかなか難しいのでやりたがる人は少ないわけだが、住宅の医者=住医をイメージする僕としては、やっぱり断るわけにはいかない。とはいえいい加減な工事はしたくないので山辺先生にセカンドオピニオンのアドバイスを求めた次第である。結果は概ね良好、僕がある程度予想していた通りの補強方法をご指示いただくことができた。これで一安心、自信を持って工事を進めることができる。これらかの時代はリフォームが主流になっていくことが予想されるわけだけれど、間仕切り壁をとってほしいというような構造を弱める工事を、その可否の検討もなしに適当に進めてしまうような業者が多いのも事実である。新築住宅や確認申請が必要な大規模修繕ではない場合、それをチェックする人もいないわけで、このような状況が放置されて危ない建築が増えることがとても危惧される状況である。だからこそしっかりと進めていきたいと思う。

もっと自由に家を作ろう

2022/11/11

「自由に家造りしたい」、「豊かな家を造りたい」という人に有益な情報はなかなか手 に入らない。土地を探すにしても、決められた住宅会社で建てなければいけない「建築条件付 き」の物件がほとんどで、そうした縛りのない敷地は、長い時間をかけて探さなければいけな いのが現状だ。また、家造りについて建築家に相談しようにも、そういう人がどこにいるのか よくわからない。メディアに取り上げられることの少ない「工務店」という存在に至っては、 もっとよくわからない状況である。それならば少しでも自分でできることをしたい、セルフビルドやDIYをやってみたいと 思っても、材料はいったいどこで買えばよいのだろうか。正しいやり方はいったい誰が教えて くれるのだろう。ホームセンターで材料を購入することもできるけれども、個人で使う程度の量では割高だ。建材によっては驚くほど高い値段になってしまうこともある。

もしも、自分の家を自分で作るとしたら…。  まず必要なのは、地盤の調査と改良、その次に家の基礎をつくる工事、そして骨組みとなる プレカット木材の購入、その他の材木の購入。それらの木材を施工する大工工事、もちろんサ ッシや木製建具、ガラスも必要だし、内外の壁や屋根を施工するための左官、内装、屋根、板 金、タイルの工事、電気・ガス・水道工事などの設備工事、そして建物の周りの外構工事など も発生する。これらの工事を自由に組み立てながら、自分らしい家を作ることができたら、どんなに楽 しいことだろう。それは、自分のイメージを現実に置き換える行為であり、子どものころに 興じたプラモデルを実物大でつくるようなわくわくする気持ちを味わえるはずだ。

一昔前なら、自分の町にいるそれらの職の担い手たちに直接話をしながら、家を作る ことは可能だったけれど、いまではそういう人たちがどこにいるのかもわからなくなってしま った。実際、僕だって2000年に独立した時には、知り合いの建設会社に紹介してもらった職 人さん以外に頼める人はいなかった。腕のよい大工がいるとうわさに聞いて、秩父まで行って みてもあっさり断られ、タウンページに掲載されている大工さんに会いに行ったら笑われた。結局、材木屋さんに紹介してもらった大工さんだけが、僕からの仕事を請け負ってくれた。工事代金の不払いなどが多い世知辛い世の中であるが故、見ず知らずの人からの依頼を快く受 けてくれる人などそうそういるはずもなく、だからこそ見ず知らずの人からの受注をするため の宣伝・広報などもするはずがないのである。

要するに、自由な家づくりをしようにも情報が全くない。表面的なところまでインターネッ トで調べられても、奥深く調べようとするとすぐに壁にぶつかってしまうのだ。僕はこれまで約21年間、このような困難な状況にもめげずに建売住宅でもハウスメーカー の住宅でも満足できない自分自身の家づくりを行いたいと強く願う人々と向き合ってきた。 小さな土地の中で許されるあれやこれやの工夫を施し、ただでさえ高い建築コストを少しでも 安くするにはどうしたらよいか。考え得るあらゆる方策を重ねて、時には一緒に作業をしなが ら、200軒以上の家づくりにかかわってきた。そしてこれからもそれは続いていくはずだ。

住宅産業はこれから確実に衰退していく。人口も減少する。建築の寿命が延びて、住まい手 のいないまま、取り壊されることもなく、空き家は増えていく一方だ。そんな状況が進行するうち、大資本がこの住宅産業を担う時代も終わってしまうかもしれな い。余った土地に道路を敷設し、分譲して販売すれば利益が出る、という時代も確実に終わる。ハウスメーカーが軒を連ねる展示場が減少し、建て売りもこれまでの様には売り出されること がなくなっていく。つまり、家づくりを取り巻く環境は、ますます変化し、これまでの「常識」が通じず、わか りにくくなることが予想される。

でも自由な家を造ろうという人々は決していなくはならないと思う。だからこそ、住宅業界 は再構築される必要がある。昔の棟梁のように、建築の知識を深く所有し、建て主の要望に 合わせてそれを引き出し、建て主と一緒に建築を創り上げる、そういうことのできる「建築家」「工務店」が、新しい家づくりの体制を作っていくことが必要なのだ。日本の家づくりがもっと自由になることにもっともっと貢献していきたいと思う。

長野県の塩尻市にある木曽アルテックさん

2022/11/08

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)

今日は早朝から川口を経ち長野県の塩尻市にある木曽アルテックさんにお邪魔した。この会社は漆を塗った和紙や鍛造の取手などを作っている。漆和紙と聞いてもなかなかピントくる方はいないかもしれないけれど、初めてみたがこれがまたとても良い。職人さんが一枚一枚の和紙に丁寧に漆を塗っている姿を写真に撮ったのでご紹介しよう。

僕はローコストを得意とする建築家である

2022/11/04

僕はローコストを得意とする建築家である。「いくらでもお金を使ってよい」という言葉を かけてくれる建て主など出会ったことはない。でも、もしそういう機会があったとしても僕は 多分それほど楽しむことはできないと思う。お金がないのにこんな理想の物を作りたいという夢を語られているときに感じる、あの何と も言えない感覚が好きだ。どうしようかと頭を悩ませているときにアイデアが浮かぶ瞬間の喜 びや、建て主まで巻き込んでセルフビルドを多用しながら建築を実現していく過程が何とも言 えなく好きなのだ。

今の社会は「あるものをいくつ作ったからいくら支払います」、「あることを一日やってもら ったからいくら支払います」のわかりやすい金銭感覚が薄れてきているように思う。これはハ ウスメーカーの家づくりにも言えることだけれど、要するに価格の構成がベールの向こう側に 隠されていてわからないのである。たとえばハウスメーカーの家づくりの物自体にかかるお金ってどれくらいの割合なのだろう か。工場生産される鉄骨の骨組み、それに取り付けられる部材の数々を合わせても、僕たちが 想像もできないくらいに、総額に対して低い割合しか占めていないと思う。なぜならば、住宅展示場に実際に建築を建て、その建築を数年間で取り壊し、そこには営業 担当の社員が常駐し、テレビでは有名な芸能人を使ったCMが流れている。そのどれもが僕 の会社ではやってみようと考えたことがないほどにコストがかかることであって、その値段 も一棟一棟に割り振られてきちんと価格に転嫁されているのである。

この感覚は家づくりに限らず、普段の生活でもいつも感じることだ。ありとあらゆる商品は、 そのイメージを創り上げるパッケージで飾り立てられ、その結果生み出されたイメージによっ て価格を決定されている。そのものの持つ本質的な価値など二の次となり、消費者の側もいつ の間にか表面的なイメージを追い求めて消費行動に駆り立てられるようになってしまった。「ブランド戦略」と言ってしまえばそれまでなのだろうが、本質的な事よりも、見た目のよ いパッケージを創り上げることが重要視される時代、そして消費者の側もそこにご門を感じて いるのだけれど、どこに本質があるのか明確には判定できない状態になっているような気がするのである。

「自分の家は自分で作る」ということを実践するには、現実の細かいこと、つまりどういう 部材がいくらで手に入って、それをどのように取り付ければ住宅の一部となるか、ということ をきちんと理解する必要がある。そこには先のようなあいまいなイメージの状態はない。あくまで現実の物の組み合わせの世 界だ。僕たち建築家はそういう現実の物の情報をきちんとコントロールすることができなけ ればいけない。そうでなければ、みなさんの自分自身の家づくりに役立つことはできないの だと思っている。下の写真は埼玉県伊奈町にて作った住宅である。壁の漆喰はセルフビルドで塗り、ワンボックス型の大きな吹き抜け空間とした。とても自由な家づくりの事例である。

川口荒川ふれあい祭りにて、茶道で集う仲間達と一緒に茶席の設営をさせていただいた

2022/10/30

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
日曜日。今日は数年ぶりに開催された川口荒川ふれあい祭りにて、茶道で集う仲間達と一緒に茶席の設営をさせていただいた。3年前は台風、それ以降はコロナで開催することができなかったが、その前までは毎年開催していたお祭りである。ゴルフ場を開放してのお祭りはなんとののどかで良い雰囲気だ。

ゴルフ場で抹茶?の疑問はあったものの、緑の中でお茶をいただくという嗜好は案外喜んでいただける方が多かったようだ。かつて秀吉が北の大茶会を開催したのも屋外だったが、こんなに自由にお茶を楽しむことができるならば来年以降も参加しても良いかもしれないなと思ったところである。お茶会というと豪華絢爛な道具を取りならべ、特別に許された人だけが参加するというイメージがある。なんとなく敷居が高いような、近づきにくいようなそんな世界だと思っている人はとても多いし、現にそんな階級意識の如きものが蔓延っている世界であることも事実だ。今回僕たちが行なったのは、お祭りでお菓子と合わせて三百円、敷居も何もないとても親しみやすいものである。好きな人が誰でも寄れる、現に小学生の子供たちが百円玉を握りしめて来てくれたりもしたくらいに身近な茶道を振る舞っていると、なんとなく川口市らしい文化のあり方だなあと感じた。

とても良い家ができたのでご紹介しよう。

2022/10/29

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
先日引き渡し式にて訪問した高崎市のHさんの家である。玄関のような門を入るとそこは中庭だ。この中庭は道路の喧騒から扉一枚で切り離されており、ヨーロッパの住宅を思い出させるとても雰囲気の良い場となっている。中庭を通り抜けるとリビングへの入り口となる木製建具があって、そこを開けるといわゆる玄関のような場所がなく直接リビングに入ることができる。1階には水回りとリビングが配置されているが、水回りの床はセルフビルドによるタイルばりとなっている。
2階も同じように中庭に対して開かれたデザインで、廊下には長い机のような設があり、ワークスペースのような使い方ができる。切妻の屋根は半割りの梁で支えられており、長手方向に続くリズミカルな表現となっている。とても良い家ができたのでご紹介しよう。

転勤が多い暮らしの中で本当に帰る家ができたような気がします

2022/10/25

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は高崎分室での引き渡し式に参加した。ますいいでは建物の引き渡し式というものを行なっている。お客様から感謝状をいただき、引き渡しの書類をお渡しするという簡単なものだが、この感謝状をいただく瞬間は何よりも嬉しい瞬間だ。現場は高崎駅から近い住宅地の一角である。「もともと実家のあるこの地についの住処としての住宅を作ったことで、転勤が多い暮らしの中で本当に帰る家ができたような気がします」というクライアントの言葉になんとなく目頭が熱くなってしまった。家を建てる意義ってそういうものなんだなあの感である。

躙口から4畳半に入るとそこには土壁に囲まれた小宇宙が広がる

2022/10/24

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
僕が茶道と出会ったのは今から10年以上前の2010年の秋、36歳の時である。これまでも日本建築は好きだったので京都の街を歩いたり、桂離宮や曼殊院、詩仙堂や南禅寺などお気に入りの古建築の見学をしたりの機会はあった。でも自分自身で和風建築の設計をすることをイメージするようになったのは茶道を始めてからのことである。日本の大学では日本建築の設計に関する教育は限定的である。一般的な研究室ではあまり取り組まず、日本建築史という歴史分野の教育に含まれてしまうことが多い。だから個人的な興味以上には関わる機会もなかったというのが正直なところだ。

今回の計画では、ご実家だった土地に姉妹で使う茶室建築を設計した。住まいではなく茶道を楽しむための建築である。

茶室建築にはその使われ方と連動した決まり事がある。寸法体系も独特で、基本的には京間の畳の大きさが基準となり多くのことが定められている。畳の枚数で広さが表現されることも独特だ。4畳半以下の部屋は「小間」と呼び、それより広い部屋は「広間」と呼ぶ。客三人くらいまでは小間を使い、それ以上なら広間を使う。茶事は小間、お稽古は広間と使い分けることもあるだろう。この計画では8畳と4畳半の二つの部屋を作ることにした。

懐石料理・菓子・濃茶・薄茶を振る舞う茶事が茶道の醍醐味であるが、それらの全てをスムーズに準備することはなかなか大変なことだ。客三人をもてなす料理を作り、盛り付け、運びながら片付けもする。菓子を盛り付け運び出し、同時に濃茶や薄茶の準備もできる。亭主側の動線を考え、客の動線も考え、限られた敷地面積の中でコストを抑えながら両者を成立させることが今回の設計の醍醐味であった。

客はまず8畳の待合に入る。見立ての路地を通り、腰掛け待合に待つと、迎え付けとなる。蹲で清め、見立ての路地を通り躙口から4畳半に入るとそこには土壁に囲まれた小宇宙が広がる。いよいよ茶事の始まりである。

能の特徴は、シンプルさ

2022/10/22

今日は埼玉県さいたま市にある二木屋さんにて、知人が出演している薪能を拝見した。出演しているシテ方は金春流という流派の方々である。以前からご縁があって何度か拝見させていただいてきたが、今日はお天気にも恵まれとても良い雰囲気の中鑑賞をすることができた。能について語るほどの知識はないが、出演されている方々に聞くと深い意味を考えるよりまずはこの空気感を味わってほしいという。この世とあの世をつなぐ世界観、正直言ってほとんど意味がわからないけれどそこで交わされる会話、怨念、・・・そういうものを感じることが初心者の鑑賞方なのだと思う。

能の特徴は、シンプルさで、歌舞伎や現代の演劇などとは異なり、大がかりな舞台セットや小道具などはなく、幕で舞台と客席とが遮断されず、開かれた空間だということ。そこで必要となるのはまさに想像力で、鎌倉時代に始まったとされる能が放つこの国の空気感をどこまで受け入れることができるかなのだと思う。次は能楽堂に行ってみよう。

身の回りの様々なものを自分で造ろうという事は、知覚できるテリトリーを出来るだけ拡張していこうとすること

2022/10/21

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
ますいいではセルフビルドを家づくりに多く取り入れている。身の回りの様々なものを自分で造ろうという事は、知覚できるテリトリーを出来るだけ拡張していこうとすることだと思う。ハイテク社会において便利なものを受け入れれば受け入れるほどに、なんだかよくわからない物や事に支配される割合が少しずつ増えていくような気がする。意識するとしないとにかかわらず、何者かに自分自身の行動や嗜好を監視され分析され・・・、社会全体が表面からは理解できないほどに迷宮化している。でも、人が暮らすってそんなに複雑な事なのだろうか。住宅は僕たちの理解できる空間へと創り直すことが出来る唯一の居場所である。だからこそ出来ることは自分でやる、セルフビルドが価値があるのだと思うのである。下の写真は薪ストーブの周りのタイルを貼っている場面だ。セルフビルドをたくさん取り入れ、家づくりを本気で楽しんでほしいと思う。

やっぱり家づくりは20年先を見据えてやらないといけない

2022/10/19

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は埼玉県越谷市にてリフォームを検討中のSさんと打ち合わせを行った。今回の計画は1階にある3部屋の個室のうち、一つを息子さんの部屋、残りの二つをつなぎ合わせて将来1階だけで生活が完結するようなリビング空間へとリフォームするというものである。段々と歳をとってきて2階に上がるのが大変になってきた、というお話はよく耳にする話だ。今すぐにというわけではなけれど将来に備えて1階だけで暮らすことができるようにする工事をしていると、やっぱり家づくりは20年先を見据えてやらないといけないなあと感じるものである。

数年前に埼玉県の川口市で建てたIさんの家は3階にリビングがある。周りを高層のビルに囲まれている土地なので、トップライトからの採光がとても効果的に機能している。3階へはエレベーターで上がることができるようになっているので、将来的にも安心だ。光と風を取り入れながら暮らしたいという思いは大切である。様々な条件をクリアするためには、ときにエレベーターの如き機械を採用することも必要なのである。

家族の団欒を生み出すストーブを家の重心に置く

2022/10/18

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
住宅の設計をするときにはいつもその家の重心をどこに置くかを考えるようにしている。若い頃にはマンション暮らしをしていたこともあるのだけれど、マンションと一戸建ての大きな違いはこの重心と呼ばれるような場所があるかどうかのような気がするからである。重心とは何かというと、家族が集待ったときにそこに向かって座る場所だったり、いつもどこかで意識をする方向だったり、みんなが気にかけているところだったりする。この写真の家では庭いじりが大好きなお二人の暮らしの全てを庭に対して開くとともに、家の中でも庭の方向に薪ストーブを配置することで意識の方向性を整えている。ストーブの横には開口を配し、窓の向こうに庭が見えるようにした。家の重心にテレビが来てしまうことが多いけれど、ここにストーブの火があると心にとても良いと思う。火というのは見ているととても癒される。ワインなんかがあったら本当に最高のひとときを作り出してくれるし、子供たちもとても喜んでくれる。家族の団欒を生み出すストーブを家の重心に置く設計をこれからも続けていきたいと思う。

そういうものが一つ一つ抜け落ちていってしまえば一体何が残るのだろうか?

2022/10/15

今日は裏千家の埼玉県支部の60周年事業に参加させていただいた。なんだかとても華やかな会である。僕はあんまりこういう豪勢な会合は好きではないのだけれど、一つの団体が60年も続いているということには敬意を表する次第である。

僕は35歳の時、今から13年ほど前に茶道を習い始めた。元々こういう文化活動をしていたのかというと決してそうではなく、茶道に出会い入門するまでは観光地で抹茶をいただく程度の人間だった。とある講演会で千玄室さんのお話を聞き、おばさま達の交流や見えの張り合いとしての茶道というよりは、人としての生き方としての茶道に出会うことができた。先生を探し、定期的にお茶をいただくようになり、いつの間にかいくつかの点前も覚えた。教えるほどの知識も経験もないけれど、いくつかの茶会もやった。コロナで先生が教室を閉めてしまったので今は誰にも習うことができないけれど、でもこれまでの継続で活動は続けている。

裏千家の構成員が5000名も減少したという。コロナ、高齢化、さまざまな要因がある。結果95000人になったというが、5%の減少は大きいだろう。これは等しく文化の喪失ということなのだろうか、それとも一時的な人数の減少でしかないのだろうかそれはわからない。茶道にしても、華道にしても、能にしても、流派があり、家元制度があり、会員からの会費によって文化の担い手が活動するという構図と採用している。この構図自体が一体どこまで継続することができるのかも少々心配なところである。でもそうでもしない限り、ある文化的活動の担い手が専業としてそれに従事し続けることなど不可能だ。あとは国費にでも頼るしかないがそれもきっと簡単ではないだろう。バレエやクラシックの楽団などは世界的文化となったが、茶道はそれほどでもない。本質的にはお茶を服む、ただそれだけのこと。でも茶道がただお茶を服むのとはちょっと違うのは、やはり禅と深くつながることだと思う。日本人は宗教観がないと言われる。この点もそれで良いのかの疑問を感じる。神道に仏教が混じり、儒教などが合わさって現代日本人が出来上がっているのに、そういうものが一つ一つ抜け落ちていってしまえば一体何が残るのだろうか?別に裏千家にその答えがあるとは思わないが、でも答えの一部とは出会うことがあるような気がするのである。

雑誌「ちるちんびと」の撮影に立ち会った

2022/10/14

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は、雑誌ちるちんとの撮影で埼玉県さいたま市の茶室の現場にて雑誌「ちるちんびと」の撮影に立ち会った。これまでも何度か日記で紹介させていただいてきたのでご存知の方も多いと思うがようやく完成することができた。この建物は8畳の広間と4畳半の小間の二つの茶室、水屋、2階の道具置き場、休憩所からなる建築である。30つの弱の小さな敷地の中で、茶事の動線が成立するようにプランを考える点が最も難しかったが、とても良くできたと思っている。見立ての路地から入るにじりぐちはとても気に入っているところだ。左官工事は小沼さんという職人さんにご協力いただいた。日本でも有数の職人さんである。僕はこの現場を通してこれまでよりも左官工事に対する思い入れが強くなったように思う。土を塗ることで生まれる空間の重みが心地よいのだ。これについては厚みや下地の作り方などを工夫してさらに研究していきたい点である。作らせていただいたAさんに心より感謝したいと思う。

埼玉県川口市にて作った避難観測所の引き渡し式

2022/10/12

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
夕方、埼玉県川口市にて作った避難観測所の引き渡し式を行った。この建物は木造2階建ての住宅の横に鉄骨造の柱の上に建つ小さな小屋を作ったものである。埼玉県の川口市という町は荒川の氾濫時には4mを超える浸水被害が予測されている。この家にはもうすぐ100歳になるおばあちゃんが暮らしているのであるが、いざというときに避難所に逃げることができるかどうかの不安がある。そこで一時的に在宅避難できる施設を作ろうということになった。まず第1に垂直移動である。押し入れの中にチェーンブロックで吊り上げることができる箱を設置し、非常時にはここに車椅子ごとおばあちゃんを入れて垂直移動をできる装置を設置した。(チェーンブロックはあくまで荷物用である。普段は人のためには利用できない。)この装置、初めはもっと簡易的にモッコという包み込むタイプのものにしていたのだが、箱に改良したことで乗りごこちはだいぶ改良された。それで2階に移動したら、次は避難観測所への移動だ。スロープを使い窓の上に上がって、観測所に移れば一安心というわけだ。こんなところに避難しなければいけない状態が起こらないことを祈りつつ在宅避難の一つの答えとして作らせていただいた。最後の引き渡し式を無事に迎えることができてよかったと思う。

大工造作による洗面化粧台

2022/10/11

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
ますいいリビングカンパニーでは自然素材を使用した健康にやさしい住宅を作っている。健康住宅というと仕上げに漆喰を使用したりの工夫が多いが、本質的に考えていくと様々な化学物質を放出するベニヤなどの新建材を使用しないというのが最もシンプルなものとなるだろう。近年の家づくりはベニヤなどを使用することが当たり前となっている。しかも気密性が向上しているので高濃度の化学物質にさらされる危険がある。それを回避するために24時間換気というものが義務付けられているのだけれど、昨今の電気代の高騰の時代に24時間も換気をし続けるなどできることなら避けたいことだ。さらに、外国産の構造材は消毒などのために薬品がかけられており、これらの揮発による化学物質の蔓延も気になるところだ。
そこで、ますいいでは構造材に国産の杉・檜を使用し、内外部にベニヤ板を使用しないで作る家を提供している。写真はその家の大工造作による洗面化粧台だ。下地にベニヤを使用しないために床組のように根太で骨組みを作りその上に天板を貼った。幕板は杉、鏡の枠は栗で作っている。この住宅では、引越しするまでひどかった小さなお嬢さんのアトピーが改善するという好結果を得た。こうしたアレルギー性の症状はストレスや環境など様々な原因によって発症するわけだが、真面目に作った家が悩まされている方々にとって、一つの解決策になれば良いと思う。

建築という仕事はとても面白い仕事だと思う

2022/10/07

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は原田左官工業さんの会社を訪れた。以前から女性の左官職人チームを作るなどの先進的な取り組みでマスコミに取り上げられているので知っている方も多いと思うが、今でも10名以上の女性職人さんが活躍しているというから驚きである。現在は様々な種類の仕上げに取り組み、店舗の内装工事を中心として取り組んでいる。一例ではコーヒー豆を混ぜた漆喰をカフェの壁に施工した事例などのアイデアをご紹介いただいた。もう一つ特筆すべきは、職人を育てる仕組みである。ビデを鑑賞で動きを覚え、そのあと実際に練習をする。塗れるようになったら現場で実践、その繰り返しで人が育つという。背中を見て覚えろの時代ではないのだ。

建築という仕事はとても面白い仕事だと思う。飛鳥・奈良時代に作られた法隆寺に始まり、現在建てられている現代建築に至るまで、人々が過ごす場としての建築は全てその時代に生きる誰かの思想によって設計され、その時代に生きる職人の手で作られてきた。名作といわれる建築を生み出すには、それに関わる人の情熱が欠かせない。人は自分の趣味であれば、命をかけて山に登るし、その苦労も楽しみと化す。そこでは苦労は達成感のための条件であり、その達成感を得るために目標は次々と高く変更されるのが常である。だからこそ仕事と楽しみが一致している人は幸せである。建築家や職人はそういう人の集団が良いと思うのだ。建築は面白い、それを実感できる会社でありたいなあと深く思う1日だった。

 

まず初めは基本設計である

2022/10/04

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
午前中、埼玉県さいたま市にて新築住宅を検討中のMさん打ち合わせ。土地選びからのお付き合いで、ようやく土地の購入まで辿り着いたところで、いよいよ家づくりについての打ち合わせが始まった。

まず初めは基本設計である。基本設計の段階ではご予算に配慮しながら敷地の配置計画、大まかなプランニングなどを、1/100の模型と図面を用いながら行う。模型は周辺の敷地状況も作成し、日照や通風なども感覚的に理解できるようにしている。基本設計で考えたものが具現化するようにするのが実施設計である。実施設計で考えたものを作るのが現場だ。この3段階をしっかりと一気通貫して管理を行うことでしか、多くの人が現場でか変わる魅力的な建築を作ることはできないのである。

何もかも隠してしまう改修工事は何かつまらない

2022/10/03

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は埼玉県伊奈町にて進行中のTさんの家の現場確認。現場では大工の瀬野さんが木工事の最終盤でリフォーム特有のアラ補修についての打ち合わせを行った。例えば柱、通常は長押が差し込まれた穴が空いていたりの状態である。改修工事の場合はこうした元々の痕跡を全て隠してしまう手法と、そういう痕跡を残して魅力と見る手法があるが、ますいいではなるべく古い魅力と新しいデザインを融合させるようにしている。何もかも隠してしまう改修工事は何かつまらないからである。今回は小屋裏の梁を現場での変更で現しにした。これも古いものの魅力の一つである。

大分県でのテレワークスタッフの渡邊さん

2022/10/01

今日は熊本県から大分県へ移動した。途中には阿蘇山がある。阿蘇は典型的な二重式の火山で、阿蘇五岳を中心にした外輪山や火口原をも含めた呼び名である。外輪山は南北約25km、東西約18km、周囲約128㎞もあり、世界最大級の火山だ。火口原には約5万人が生活していると言うからなんだか少し怖いような気もする。10万年前の大規模な活動の後、その中心部分が陥没してできたのが今の地形だそうだ。阿蘇山を見渡すことができる大観峰からの眺めは、そんなカルデラの地形を一望に見渡すことができるので良い。それにしても今日はいいお天気である。ちょっと暑いくらいだけれど、観光にはそれくらいがちょうど良い。

阿蘇を過ぎて湯布院へ。こちらはだいぶ観光地化されており地方ならではの魅力というよりは、九州の人たちの遊び場という感であった。さらに進んで大分市へ。大分に足を踏み入れるのは生まれて初めてであろう。なんだかだいぶ遠くへ来たような気がする。印象的には熊本よりも遠い感覚がするのは初めて来たからだろう。

実はますいいには大分県でテレワークをしてくれている社員がいる。昨年までは川口市の隣、蕨市にいたのだけれど産休中にコロナが起こり、Iターンをしてしまった。そして職場復帰、つまりはテレワークとなったわけだ。以前ならこんなことはあり得なかっただろうけれど、これが成立することはコロナ禍のテレワークで明白である。多様な働き方の一つとして更なる発展形が生まれるかもしれない。事務所協会の懇親会に来てくれた大分県でのテレワークスタッフの渡邊さん、久しぶりに笑顔が見れてよかった。社員とその家族が幸せになれる会社を作ることが経営者としての僕の目標である。笑顔、それが何よりなんだなあ。ちなみに真ん中にいるのは構造設計でお世話にになっている大沼さんです。

 

日々の犬の散歩でも早朝のジョギングでも近寄ることができてこその地域資産だと思う

2022/09/30

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は建築士事務所協会の全国大会に参加するために熊本県に来ている。ここ2年間はコロナで開催できなかったので久しぶりの参加だ。熊本は20年ほど前に熊本アートポリスの建築アイデアコンペに参加するために現地調査をしたときに訪問したことがあるのだが、今回はとても久しぶりに訪れる。街の雰囲気も一変、こんなに栄えていただろうかの印象の違いである。熊本地震で大きな被害を受けた熊本城もだいぶ修復が進んだようだ。どこからでも見ることができる街に聳えるシンボルとしての建築があるというのはいいものだと思う。特に大きな地震の後だけに、この建築物が復興の証として意識されることだろう。ここにもまた人々の心の支えとなる建築を見ることができた。

熊本城の周辺は観光地化されており、あるラインから先へは営業時間内しか近寄ることはできないようになっている。このような規制を設ける手法はたまに見かけるのだけれど、僕はあんまり好きではない。例えば皇居周辺でコレをやったら・・・。心の支えとなる建築は特別であって特別でない、つまりは人々の日常に溶け込む場所であってほしいと思う。日々の犬の散歩でも早朝のジョギングでも近寄ることができてこその地域資産だと思うのに、営業時間中しか近寄れなかったり入場料が必要になったら地元の人は行かなくなってしまうだろう。多くのコストをかけて多くの叡智を集結した建築だからこそ、誰でも近寄ることができるものとしてほしいものだと思う。

地球環境変化に追従する改修工事はとても大切だと思うのである

2022/09/27

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は東京都北区にてリフォームを検討中のSさん打ち合わせ。10年ほど前に建築家の設計によって作った住宅を部分的に改修したいとのご相談である。1階は大きな二つの土間スペースで構成されており、中央部にはロフトまで通じる階段が貫通している。2階はワンフロアー全て一体となるおおきなLDKとなっていて、吹き抜けを介してロフトと繋がっていた。今回の計画では1階に子供室を作ったり、外壁のメンテナンスを行ったり、はたまたお風呂のFRP防水のトップコートをやり直したり、ガラス壁の一部を木製の壁にしたり、ちょっとずれてしまっている化粧梁の接合部を補強したり、かびが生えてしまっていそうな石膏ボードの中身を点検したり・・・。ここ10年で世界の気象条件は大きく変わっており、それに伴って住宅に求められる性能もだいぶ高くなったように思える。だからこそ地球環境変化に追従する改修工事はとても大切だと思うのである。

引き渡し式での感謝状贈呈

2022/09/26

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は埼玉県さいたま市にて作ったAさんの茶室のを行った。工事に関わってくれた職人さんにも声をかけ、ますいいのスタッフも全員集まっての式である。式ではAさんから僕たち工事関係者に対して感謝状を発行してもらう。その感謝状には一言ずつメッセージを書く欄があって一人一人に向けた言葉をいただくことになっている。

もちろん通常のオープンハウスのように建物の解説もするのでスタッフ達にとったら最高の研修となる。左官仕上げの種類、各所の収まり、素材の使い方、実物を見ることは何にも勝る勉強だ。

僕たちはお客様のために家づくりを行っている。目の前に使う人がいることが他の大規模建築とは違い住宅に携わる何よりもの魅力である。引き渡し式では施主の生の声、しかも建物を建ててくれてありがとうという声に触れることができるのである。これこそが僕たちの生きる意味といっても過言ではないくらいの最高の宝物なのだ。写真はAさんから大工の本間さんへの感謝状贈呈式だ。いい大工といい設計、そして良い材料があればいい家が建つ、コレは僕の口癖だ。本間さんは本当にいい大工である。なんだかちょっと涙がでてしまう、とても嬉しい瞬間であった。

縦1910ミリ✖️横955ミリ

2022/09/21

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は淡交社さんのインタビュー取材を受けた。淡交社というのは裏千家という茶道の流派に関連した会社で、作動関係の書籍や道具を販売したりの活動を通して茶道文化を普及する会社である。僕が今作っている埼玉県さいたま市の茶室についての取材ということで色々とお話をする機会を頂戴したというところである。
茶室というのは普通の住宅建築とはちょっと違うところがある。まず一番はモジュールの違いだ。茶道で使用する畳というのは京間サイズを基本とする。これは僕たち関東人が慣れ親しんだサイズよりも一回り大きいもので、具体的には縦1910ミリ✖️横955ミリとなる。江戸間の畳と比べると縦方向で約10センチも大きいので体感的には全く別物のような感じがするものだ。
何でこんな細かいことにこだわるのかというと、それは茶道の色々な決まり事は畳の目の位置で表されたりするからである。それに僕のように体が大きな人の場合はやっぱり京間の方がゆったりしていて良い。
畳の大きさが違う、ということは910モジュールにも影響する。つまりは柱の割り付けが変化してしまうのだ。日本の建材はベニヤをはじめとして多くのものが910✖️1820を基準として作られているから、このモジュールの違いは新建材系の家づくりには向いていないこととなる。僕は国産木材や無垢材、左官仕事を中心とした家づくりをしているのであんまり関係はないのだけれど、サイディングとボードの家づくりだとこれはだいぶ大変だったりもする。こんなふうにものづくりはなかなか奥深いものなのだ。

好きな雑誌に掲載されたのを見てきてくれた方とはなんとなく気が合うものなのである

2022/09/20

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
埼玉県さいたま市の別所沼にほど近い住宅街の一角、そこは昔からアーティストさんたちが好んで暮らした場所である。別所沼の公園にはヒヤシンスハウスなる小さな古屋が展示されており、文化的な香りが漂うとても良い雰囲気の街だ。そんな街に建つ古い木造住宅の庭にあるアトリエを改築したいというご相談を受け、現地を視察させていただいた。現場には古い木造住宅と立派な庭がある。庭にはこれまた古い小屋のようなものがあり、いろいろなものが収納されている。この小屋をひとを招いたり、好きなことをしたりのスペースにしたい。庭の緑が近くにあって、まるで半分外にいるような場所にしたい。なんとも面白そうな魅力的なご相談である。Yさんはチルチンびとという雑誌を見て僕の元を訪ねてくれた。好きな雑誌に掲載されたのを見てきてくれた方とはなんとなく気が合うものなのである。

大きな意味を感じさせる装置としての建築の可能性は昔も今も変わらないような感じがする

2022/09/17

今日は九段下にて会合に参加した。駅を降りてしばらく歩くと靖国神社がある。帰りがけ、夕日に染まる神社の鳥居を見た。何とも綺麗な光景である。なかなかお参りに来ることはないけれど、かつての戦争で亡くなられた方々の慰霊に対しての感謝の思いを感じる瞬間だ。こういう心を揺さぶるようなイコンとしての建築は既に存在し得ない時代となったと言われるが、果たしてそうであろうか。日常のスケール感から外れ、大きな意味を感じさせる装置としての建築の可能性は昔も今も変わらないような感じがする。いくらバーチャルの世界が進化してもやはりリアルには叶わない。だって人はリアルに生きているのだから。

いつの頃からか建築は既製品のそっけない集まりと化し、アートは実生活からかけ離れた高嶺の花となった

2022/09/16

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は東京都北区にて以前造った木造耐火建築のアパートに玄関の雨除けを設置した。素材は軽いアルミ角材を使用し、ポリカーボネイトの透明版を屋根とした。これで玄関先が濡れなくて済むようになる。やはりちょっとした距離でも濡れてしまうのは不便なもの。暮らしている皆様が喜んでくれれば良いと思う。
ちなみに玄関ドアの周辺にくっついている亀さんは川口市に昔住んでいた彫刻家の高野さんの作品である。高野さんの彫刻作品は川口市民なら一度は目にしたことがあると思う。スロータイムというアパートメントの名前にあうような、ゆったりとした彫刻が欲しいとオファーしたところテラコッタの優しい亀さんをいくつも造ってくれた。オーナーさんの優しさを表現するとても良い雰囲気に仕上がっていると思う。
建築とアートは昔から共存してきたものだ。いつの頃からか建築は既製品のそっけない集まりと化し、アートは実生活からかけ離れた高嶺の花となった。アートとは何のためにあるのか、それは人の暮らしを豊かにしたり、人が何かを考えるきっかけとなったりするためである。建築にアートを取り入れるには僕たち建築家側からの発想が大切だと思う。だからこそこれからもアーティストさんたちとの協働を意識していきたいものである。

何とかして光を取り込む計画を作ることが大きなテーマだ

2022/09/15

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は東京都新宿にあるリビングデザインセンターオゾンにてSさんの家のプレゼンテーションを行った。この計画はSさんのご実家があった敷地に、新たな暮らしのための住宅を新築するというものである。敷地はすぐ隣に10階建ての高層マンションが建ってしまい、直射日光はごく限られた場所からしか差し込まないという条件である。このマンションが建てられる以前は駐車場として更地だった。更地から10階建て、、、突如現れた壁の如き存在感なわけだから、何とかして光を取り込む計画を作ることが大きなテーマだ。今回は3つの提案と模型を作成しプレゼンさせていただいた。今後の作業が楽しみである。

ヤジマのキッチン

2022/09/12

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
朝9時に事務所を出発。今日は埼玉県川口市にて設計中のNさんの家のキッチンの打ち合わせをするために、小金井にあるヤジマさんを訪問した。ヤジマのキッチンは僕の自宅でも利用してるくらいのお気に入りである。元々はステンレス屋さんから出発したということであるが、ますいいが作る住宅の雰囲気にとてもよくあうすっきりとしたデザインが良い。写真は僕の自宅のキッチンである。タイルとマッチする扉の面材の色合いやバイブレーション仕上げのステンレス天板がとても良い雰囲気となっている。

自然素材の家づくりの空気環境測定

2022/09/10

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日はますいいの自然素材の家づくりの空気環境測定を行った。調査を行ってくれたのは、近畿大学医学部の東教授、東京工業大学環境社会理工学院建築学の鍵教授、中京学院大学看護学部の立木教授、工学院大学建築学科の柳教授他一名である。医学、カビの調査、心理学、空気環境などさまざまな面での錚々たるメンバーが集まって、住環境研究の調査をしてくれている。調査は引越し前のアパート、新築時の住宅、そして今回住みはじめて1年が経った後の環境を測定し、そのあとは冬にもう一度調査を行う。それぞれの環境変化と、住まい手の健康状況やストレス度などを分析し、自然素材の住宅がいかに暮らしやすいかの実証を目指しているのだ。
この家のクライアントのお嬢さんは引っ越しをしてアトピー性皮膚炎がほぼ改善した。以前住んでいたアパートは結露やカビが酷かったことを考えると、おそらく住環境の影響がもたらした変化だと思われるだけれど、こういう感覚的な事象だけではどうも説得力がないのも事実だ。感覚的なことだけれどでも深刻な事象につながることというのはたくさんある。例えばストレスを感じ続けると癌を発生させるなどがそれである。そういう感覚的なことが原因となり、長い時間をかけてある現実を作り出した時、それが体にとって悪い状態だと病名がつく。もちろん全ての要因を取り除くことはできないけれど、家づくりで改善できることはなるべく改善していきたいと思うのである。

大切な出来事に携わらせていただいているのだという自覚を持って、しっかりとした仕事を提供することを心に誓う

2022/09/08

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は現在設計中のOーアパートメント新築工事の地鎮祭を取り行った。神主さんはいつもお願いしている川口氷川神社の宮司鈴木さんである。Oさんご家族をはじめ、総勢11名ほどの参加者で、ギリギリ雨も降らない中で執り行うことができ何よりであった。
地鎮祭に参加すると、やっぱり家づくりは当事者にとってはとても大きなものなのだなあと実感する。僕たちにとっては日常の風景だけれど、お客様にとっては一生に一度か二度・・・、そんなに多くあることではない。そういう大切な出来事に携わらせていただいているのだという自覚を持って、しっかりとした仕事を提供することを心に誓う、僕たちにとっての地鎮祭はそんな機会でもあるのかもしれない。神主さんが土地に神様をお呼びして祝詞をあげる、そして神様を送り届けると、なんとなく心が晴れ晴れとする。僕たち日本人に染み付いた何かが、そんなふうに心の洗浄を思わせてくれるのだろう。

お客様の大切なお金を山で働く人々にお届けすること

2022/09/05

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)

奈良県の吉野の山に杉の木を伐りに行った。吉野というところはとても山深い。なんか他の山とは違う雰囲気があるなあと周りを見渡すと、ここには太い木が多いことに気がつく。なんで太い木が残っているのか?山に生えている木を効率的に伐ろうと思えば、その斜面の木を全て伐り出すことが良いのだが、それでは太い木は育てることができないから、吉野では間引きをするように伐採をする。だから自然と太い木が残ることとなって、山の深みを生み出すのだという。私たちは5代前野ご先祖さまのおかげで木が伐れる。だから私たちも5代先の子孫のために木を残すのだという山主の言葉がとても印象的だった。この日選んだ木は樹齢140年ほどの杉である。木をきるとその切り口から水分が滲み出す。季節によっては吹き出すように見えることもあるそうだ。それはまるで怪我をした時の血飛沫のよう、木も生きているんだなあの感の瞬間であった。国産材を使うことは日本の山を守ることにつながる。昨今の自然災害も山をきちんと整備すれば防ぐことができる物も増えるだろう。山との直接取引は山で働く人々に収益をもたらす。それはとても良いことだと思う。僕はこれからも山から直接ものを買いたい。お客様の大切なお金を山で働く人々にお届けすることが、何世代にもわたって良い家を作り続けるためにとても大切なことであると思うのである。

1000万円で家を建てたい!!

2022/09/03

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
午前中は埼玉県さいたま市にて新築住宅を検討中のMさんご家族打ち合わせ。今回土地の契約を行い、新たに購入した土地に新築住宅を検討しているところである。今日は銀行提出用の図面と見積書についてのお話をさせていただきながら、住宅のイメージについて共有することができた。次回からの提案を進めていくことを楽しみにしたいと思う。

午後、ローコスト住宅を設計中のSさんご家族打ち合わせ。17坪ほどの狭小住宅を1500万円ほどのローコストで挑戦するべく設計作業を進めている。多くのセルフビルドを取り入れながらの現場となるわけだけれど、そもそも自分の家は自分で作りたいというSさんだからこそ、きっととても良い家ができることだろう。ますいいリビングカンパニーの家づくりではこれまでもたくさんのセルフビルドを取り入れてきた。
下の写真はログハウスをセルフビルドで作ったIさんの事例である。Iさんは東京都で初めて就農を認められた方である。マンションに暮らしながら毎日畑に行くという生活をしているときに、お子様たちからお母さんたちはいつも広々としたところでお仕事をしていていいなあの声をかけられたらしい。自分たちは農家をしているけれど、子供たちは狭いマンションではなんか違う、ということでご相談があったわけだ。はじめのご相談は1000万円で家を建てたい!!であった。
なんとなく断れない、つまりはますいいの理念にあっているなあの感を感じたので、ともに家づくりを始めた。本職の大工さんは十人工、あとはIさんが自分でやった。セルフビルドの限界はその人次第。これからも挑戦する人の応援団として取り組んでいきたいと思う。

ますいいリビングカンパニーの実験住宅

2022/09/02

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
ますいいリビングカンパニーの実験住宅がいよいよ着工した。この住宅はベニヤを用いない完全な自然素材で建築している。もちろん材木は100%国産材、奈良県の吉野の木を使用している。柱と土台には檜を使用、梁は杉を使用した。屋根はガルバリウム鋼板、外壁にはモルタル+ジョリパット仕上げを採用した。
この住宅の設計にあたっては環境ソフトを使用した温熱環境趣味レーションを行うことで、冬場の無暖房室の最低温度や、各室の換気回数なども示している。LCCMを満たすことで高性能な省エネ建築としたわけだが、この結果がどのように運用されるのかは今後の調査の対象とする予定だ。年内完成を目指して進めていく予定である。

手作りかまどでサラメシ

2022/09/01

今日から新入社員の久保くんが出社している。中途採用の好青年、現場などの経験もあり期待している。僕は社員とその家族が幸せになることができる会社を運営したいという思いで会社を運営している。会社は社会の公器である。だからこそ社長一人の人生の為に会社があるなどとは考えてはいけない。それに社員自身が幸せと感じる状態でなければお客様を幸せにすることなどできるはずがないのである。僕たちの使命は「もっと自由に家を作ることで、お客様に家づくりを楽しんでいただくこと」である。「家づくりで大切な人生を束縛されるのではなく、自由な家づくりを思いっきり楽しんでいただきたい」という思いから、ますいいリビングカンパニーはスタートした。それを実現する為には、社員自身が満足できる環境が必須なのだ。久保くんも多いにますいいリビングカンパニーを満喫してもらいたいものである。

左官職人の小沼さんにかまどをいただいた。もちろん小沼さんが手作りで作ったかまどだ。お米を3合、お昼のサラメシのときに炊いてみた。スタッフ一同大いに喜んでくれた。手作りかまど、とても貴重なプレゼントに感謝したい。

埼玉県川口市にて設計中のNさんの家についてのスタディー

2022/08/31

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
埼玉県川口市にて設計中のNさんの家についてのスタディー、次回打ち合わせに向けてのプレゼンの準備を行なった。Nさんの家は、約90坪ほどの敷地に建つ木造2階建て住宅である。Nさんと奥様、そして二人のお子様のための専用住宅だ。道路よりも1m近く低い状態だった土地の外周部に擁壁を造成し、そこに土を盛土して道路の高さと同じ高さに嵩上げする工事を終了し、いよいよ住宅を作る段階となった。現在は実施設計真っ最中、次回打ち合わせでは平面詳細図と各部屋の展開図をご覧いただくための準備を進めている。展開図というのは部屋の壁の見え方を描いたもので、4面の展開図を見ればその部屋の内装が全てわかるようになっている。この段階では開口部の位置や開き方を決定し、構造の検討に入る準備を進めるわけなので、開口部中心にスタディーを行った。次回以降はいよいよキッチンなどの設備などについての打ち合わせに入っていくこととなる。気を引き締めて取り組んでいきたいと思う。

鹿児島の人は桜島がいつも見えているから心が堂々としている

2022/08/27

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
研修3日目。今日は朝早起きをして鹿児島中央駅前のホテルから桜島まで蒲郡の小林住建社長の小林さんと一緒にジョギングをした。小林さんはトライアスロンを趣味とするアスリート、僕はたまにジョギングの一般人、当然僕のペースに合わせていただき、たまに歩きも交えながら桜島まで4キロほどの道のりを楽しんだ。桜島は現在進行形で噴火している活火山である。今日も山頂付近の火口からはモクモクと噴煙が上がっている。鹿児島の人は桜島がいつも見えているから心が堂々としているということを聞いたが、確かに存在感がとてつもなく大きい。ただの山ではない、生命のようなものを感じるところがそう言われるのかもしれない。

午後、知覧に行った。僕は初めての訪問である。ここは特攻隊が飛び立った飛行場があったところで、今では多くの特攻隊員たちによる手記が展示されている。その多くはお母さんに宛てたもので、国を守るために自ら進んで犠牲になる志を勇敢に書き記しているものが多かった。今の時代を生きる僕たちには計り知れない思いであるが、当時欧米列強に追いつかなければの思いで必死に生きた日本人にとっては当然としなければいけなかった辛い思いなのであろう。語り部のお話が聞けるというので部屋を移動すると、60歳くらいの初老の方がお話を聞かせてくれた。特攻隊の生き残りのお話かと思っていたのでちょっと残念だったが、考えてみれば生き残りの方はすでに90歳を超える高齢、そういう生の声が聞ける時代は終わりを告げているのかもしれない。

ウクライナの戦争のニュースを目にすることが少なくなってきた。ある状況がしばらく続くとそれが日常のように感じてくる。中国が台湾に対してプレッシャーをかけている状況が続くが、日本もこれに対して防衛費を増やす方向に進み出しているようだ。こういう少しづつの動向が向かう先はいったいどこなのか?人類の叡智は平和の継続を実現することはできないのだろうか。少なくとも歴史はNOという答えを示しているが、この先は過ちを繰り返さずに進むことができるような一人一人の思いが大切なのだと思う。

今日から3日間は研修のために九州を訪れている

2022/08/25

今日から3日間は研修のために九州を訪れている。羽田から飛行機で福岡空港へ。コロナが始まってから飛行機には乗っていなかったので、久しぶりの飛行機である。空港に雰囲気は以前と変わらないようだ。僕がこうして移動しているのだからみんなもしている、だいぶ元通りに戻ったということなのだろう。福岡空港から待ち合わせの博多駅までは地下鉄で10分ほどだ。とても移動が楽だと感じるが、これくらいのコンパクトな都市へと東京も変換されていく必要があると思う。人口減少の時代ここまで広がりすぎた首都を維持し続けることはおそらく困難になってくるだろう。

福岡といえば数年前に東京と争ってオリンピックの誘致をしていたことを思い出した。もしも福岡で開催していたらいったい何が起こったのだろう。今更になって当時の汚職が事件になっているが、磯崎新先生と石山修武先生が福岡について誘致合戦を戦っていた理念はとても崇高なものだったと記憶している。福岡、中国や台湾を巻き込んだアジア圏の創造という理念が実現すれば、今のごとき争いの中心ではない別の形のアジア圏が生まれていたかもしれないと思うと、現在の都市の規模による経済力から判断をしてしまったこと、なんとも惜しいことをしたなあと思うのである。

洗い出し仕上げ

2022/08/24

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
左官土間の仕上げにはいろいろなものがあるが、僕は洗い出し仕上げという手法が好きだ。石とセメント・石灰等を混ぜ、塗り付け、鏝でしっかり伏せこみ、セメントが硬化する前に表面のセメント分を洗い出し、中の骨材を表す。いわゆる昔からある定番の黒磯仕上げもあれば、石の種類を調整すれば三和土風の柔らかい表情にすることもできる。こういう仕上げは均質にならないのが良い。なんでも均質な工業製品が多い時代、職人の手の跡が残る仕事、つまりは職人によって仕上がり具合が異なるような仕事はとても価値があると思う。呼び名は同じでもついた師匠や癖などにより微妙に仕上げが異なるからこそ、オンリーワンの良さがあるのだ。

下の写真はますいいの本社庭の洗い出し仕上げの風景だ。スタッフたちが職人さんに教えてもらいながら体験しているが、ラフ仕上げであればセルフでも挑戦が可能な仕上げだと思う。

小屋組はいかがかなあと屋根裏を覗いてみると。。。

2022/08/23

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は朝一番から埼玉県川口市にて古民家再生の工事前調査を行った。築年数は100年ほどの古建築であるが、数十年前に場所を移動する曳家によって改築されているので既にベタ基礎であったりの補強はされている。小屋組はいかがかなあと屋根裏を覗いてみると、なんだか面白いことになっている。中央にあるのは何にも支えていない小屋束である。以前の改修工事の際にどういうことがあってこんな状態になったのやら、もしかしたら微妙に屋根の高さが変わったのかもしれないけれど、新築ではあり得ないこういうものが観れるのが面白いところである。丸太のうねうねとくねっている母屋は以前からのものだろうが、なかなか表情があって良い。今の建築は製材された角材しか使用しないが、昔はこういう丸太もきちんと利用していたのだなあと改めて感心させられる。今日は解体工事の事前説明を行った。建築工事の見積もりなどは解体を行った後に詳細に調査をしながら行うことになる。普通の場合と違って2段階構成であるけれど、これもまた古民家再生のという特殊な工事ならではだ。極端に古い建物では解体してみないとわからない部分が多すぎるということなのである。10月からいよいよ解体を始める予定。進行がとても楽しみである。

本当のプロは道具にこだわる

2022/08/19

小沼さんの大津磨きの道具を見せていただいた。大きな輪島塗りの3段重ねの箱にたくさんのコテがしっかりと油紙で包まれて納められている。コテはハガネでできていて、とても高価なものだと言うことだ。とても腕の良い鍛冶屋さんが手作りで作ったコテなのだけれど、こう言う良い道具を作ることができる鍛冶屋さんはもういなくなりつつあるそうだ。鍛冶屋さんというと元々は刀鍛冶あたりの流れである場合が多いのだけれど、こういう状態はどんな業界でも同じなのだろう。ちなみにこのコテは大津磨き専用だという。土壁を塗るには土壁のコテ、なんでも一緒のコテで塗るのではない。これはレストランのシェフがオムレツ専用のフライパンを用意していたり、対象に合わせてさまざまな包丁を用意していたりするのに似ている気がする。本当のプロは道具にこだわる。これは最良の仕事をするための条件をしっかりと準備するということでもあるし、そもそも良い仕事をするための道具そのものが好きなのだと思う。

真紅の大津磨き

2022/08/17

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は埼玉県さいたま市にて進行中のAさんの茶室の撮影を行った。作業をしているのは左官屋さんの小沼さんである。小沼さんは以前の日記にも書いたけれど、○○建材などの調合漆喰を使わない職人さんである。調合漆喰が悪いわけではないけれど、やっぱり消石灰と藁すさとツノマタを混ぜて作る漆喰の方が良いという考えで、いわゆる昔ながらの材料を作り、昔ながらの手法で壁を塗っている。今写真撮影をしているのは大津磨きの手法で茶道口の壁の小口を塗っている様子である。小口だけを真紅の大津磨きの手法で仕上げているのは小沼さんの提案なのだけれど、これはなかなか洒落た仕上げになるだろう。撮影しているカメラマンさんも真剣な眼差しで見学をしていたが、なかなか見れるものではない特別な仕上げなのである。

 

高過庵

2022/08/15

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
中央自動車道を通ると滋賀県から埼玉県への帰りがけに諏訪がある。このみちは中央アルプスと南アルプスの間を通り抜けるので、とても眺めがよく山好きにはたまらない道である。この伊那谷は寒天などの生産が有名である。同じ長野県でも長野市とはまた違う本当の田舎が味わえる。もう少し進むと諏訪がある。諏訪の地にある諏訪大社の神長官を務めている守矢氏の資料館、及びその周辺の茶室群を藤森照信先生が設計している。非常にユニークな小建築群で、一件の価値ありということで帰りがけに寄ってみた。

写真は高過庵である。入るには梯子を登る。実際に使うのは骨が折れるだろうが、ユーモアあふれる建築としてとても愛着が持てる。大体昔から人は高いところが好きなのだ。藤森建築群は近隣の公民館も加わり合計五件となっていた。建築が街を変えるという現象を目にすることがあるが、この街も藤森建築とともに少し変化したのかもしれない。

太陽の光はまさに1日のスタートであり、全ての生命の目覚めの機会だ

2022/08/11

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
二日目の今日は、昨日と同じく丸山から天狗岳方面いむかい、様子を見ながら天狗岳アタックか黒百合ヒュッテのビーフシチュを目指すことにした。だいぶ差のある目標だけど、二人の娘たちのリクエストだから仕方がない。

朝、4時ごろに小屋を出て高見石まで登るり日の出を待つ。だいぶガスっているので日の出を見ることは難しそうだけれどもしかしたらの期待を込めて・・・。残念ながらご来光とはいかなかったが、朝焼けで空が染まる様子は見ることができた。太陽の光はまさに1日のスタートであり、全ての生命の目覚めの機会だと思った。単純なことだけれど都会で暮らしているとなかなか気づくことができない大切なことである。自然と涙が出てくる、とても感動的な一瞬であった。

黒百合ヒュッテは改修工事中でまさにスケルトンリフォームの真っ最中である。大工さんたちが作業しているが、なんとなくあくせくした様子がない。まあ標高2000メートルまできて作業をしてくれる大工さんたちである、そんなにあくせくするような人はいるはずもない。息子と妻が天狗岳アタック、娘たちと僕は黒百合ヒュッテでお留守番ということになったので、一足先にビーフシチューを味わうことにした。名物だけあってなかなかの味である。滞在するほぼすべての人がビーフシチューを食している様子だが、これはとてもすごいこと。山の上でも行列のできるお店はあるのだなあ。

ニュウを通過する帰路、北八ヶ岳の原生林を見た。とても緑色の深い山である。高山に生まれた湿原地帯ならではの植生なのだろう。地球高温化による山火事などのニュースが断つことがないけれど、これからも失いたくない光景である。

僕は好きな仕事をするために建築の道に入り込んだ

2022/08/10

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は家族で北八ヶ岳白駒池に訪れた。北八ヶ岳の広大な原生林の中に、満面に清水をたたえた神秘的な湖で標高2,100m以上の湖としては日本最大の天然湖だ。コメツガ、トウヒ、シラビソの原生林で、地面は一面の苔で覆われている。うねうねとした大地が緑一色で覆われている様子は色々な山に行っているけれどあまり見ることはできないだろう。

今夜の宿泊はあらかじめ高見石小屋、まずは白駒池を通過して小屋まで登ることにした。高見石までは約1時間ほどの軽い登りである。苔の大地から発生するマイナスイオンに包まれながら気分よく歩いているとすぐに目的にが見えてきた。そもそも標高が高いので下界の暑さが嘘のような状態である。気温は100メートルで0.6度下がると言われているので、2000メートルでは12度も低いことになる。下界が30度ならこの地点は18度、ちょっと長袖を着たくなるような温度なのだ。

小屋に到着してひと段落したら、1時間ほどかけて近くの丸山まで登る。途中次女の様子がおかしいので引き返すことにしたのだが、どうやら車の中に貧血の薬を忘れてしまったようだ。幸い約2時間ほどの往復できるコースなので取りに行くことにした。本当はニュウを回遊する予定だった物足りなさを晴らそうとハイペースで往復すること約1時間、コースタイムの半分で薬を取ってくることができた。

山小屋の主人は30代の若者である。星博士の先代について修行し引き継いだそうだ。毎晩星について話をしてくれるようだが、なかなか面白い。小屋の蔵書にヘンリーデビッドソローの「孤独の愉しみかた」に出会った。この本にあった一節「手段や道具は、真理を追究するためのものなのに、手段や道具ばかりに夢中になる社会ができあがってしまった」に代表されるように人生の真理を考えさせてくれる本である。僕は好きな仕事をするために建築の道に入り込んだ。好きなことをして生きていることの大切さを改めて感じさせてもらった本との出会いがこの山小屋であったこともまた最高の偶然だ。山はやっぱり最高だ!

セルフビルドにはロマンがある。自分の家は自分で建てるの実践は多くの可能性を示してくれる。

2022/08/08

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日はお盆休み前のバタバタとした1日であった。午前中は川口市で取り組んでいる旧本町診療所内のコマームナーサリーという保育園の設計に関する打ち合わせ。この建物は古い診療所あとを改修して、2。3階を保育園に利用しようというもの。1階ピロティー部には車椅子用の駐車場が計画されているが、どうやらこれが条例に違反するようだ。とはいえ後から道路拡幅が行われ、結果的に違反となってしまったのだから悪意はない。でもそのまま確認申請を行うこともできないわけでやっぱり駐車場はなくすということで決定するしかないであろう。こういうシチュエーションはリノベーションならではの難しい局面であるけれど、それを嫌がれば全てを壊して再建築するしかないの破滅的結論になってしまうわけだから、「壊さない建築家」を標榜する僕としては、これも環境保全のための大切な活動と考え丁寧に突破していくしかないのである。

午後、新たな設計ソフト導入に関する打ち合わせ。

続いて埼玉県さいたま市にて進行中のAさんの茶室現場確認。

夕方、埼玉県越谷市にて弓道場のある住宅を作りたいというSさん打ち合わせ。開発申請の関係からまずは住宅部分だけを作り上げることになり、いよいよ確認申請の段階である。超ローコストへの挑戦なのだけれど、セルフビルドを積極的に取り入れたいSさんであれば何とかなるであろう。セルフビルドにはロマンがある。自分の家は自分で建てるの実践は多くの可能性を示してくれる。もちろん全てのことを行うのは難しいが、例えば屋根と外壁部分だけを作り上げてしまって後は自分でやるというようなハーフビルドであれば、やる気があればできないはずはないのだ。何もしないでローコストを目指せば、建売住宅の餌食になるしかない。だってこの世界には、同じものを大量に作るという大量生産の塩酢による手法しかないのだから。でもセルフビルドは違う。自分のための家づくりを行うことは労働ではない。労働ではないからこそ、時間をかけてこだわりの作業を経済という呪縛から解放されて行うことができるのである。

 

光を効率的に透過するためにスノコ状の床や段板だけのオープン階段

2022/08/06

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は東京都豊島区にて新築住宅を設計中のWさんご夫妻打ち合わせ。都会の土地に作る完全2世帯住宅の計画である。周りを囲まれている土地の中でいかに光を取り込むことができるかを考えた結果、階段を納めた箱を光の筒として構成し、そこに対して居室空間が寄り添うようなプランをプレゼンすることに。今日は第1回目のプレゼンテーションなので、1/100のプランと模型を使用したご提案をした。ますいいでは基本設計のスタート時点で2回の無料プレゼンを行っている。プレゼンは基本的に基本設計が終わるまで模型と図面によって行う。図面だけだと建物の全貌が理解できないが、模型があれば一目瞭然だからである。今回は光を効率的に透過するためにスノコ状の床や段板だけのオープン階段をご提案した。
次回は第2案である。裏千家茶道を楽しむWさんのご意向で畳の魔が欲しいとのこと、面積を確保するために螺旋階段を取り入れた新たな案を楽しんで考えたいと思う。

良い家づくりを目指す思いは同じ思いを持つ人を集めるのだ

2022/08/05

埼玉県さいたま市にて進行中のAさんの茶室の工事でいよいよ左官工事が本格的にスタートする。今回の左官職人さんは小沼さんと言って、知る人ぞ知る名人である。名古屋の知人よりご紹介いただき、この現場から土塗壁などの仕上げをお願いすることになったことは以前の日記にも書いた。そして小沼さんと大工の本間さんが15年くらい前に同じ現場で家づくりをしていたというご縁があったことも書いた。類は友を呼ぶ、良い家づくりを目指す思いは同じ思いを持つ人を集めるのだと改めて感じた出来事であった。この現場はとても良い空気に包まれている。クライアントのAさんが本間さんの最後の作業日に花束を持ってきてくれた。こんなことってあるだろうか。僕はこれまで経験したことがない。お互いの思いがとても良い方向に影響しあっているのである。写真は小間の下地処理の様子。小間は荒めの土塗り仕上げ、広間は土塗壁のスサが目立たないように仕上げる予定だ。小間の茶道口のRの部分にはそこだに大津磨きを施す。入口土間は藁漆喰、トイレなども水回りには土佐漆喰を塗る予定である。土間はかき落としで仕上げてもらう。左官は水と漆喰そして土を使って空間を包み込む要素を作る芸術的作業である。この素晴らしい技が加味されることでさらに素晴らしい茶室となるであろう。

そもそも山は動物たちの住む世界なのである

2022/07/31

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は仲間と一緒に福島県の吾妻山系にある一切経山へ。この山はまさに活火山で福島県西部から一部は山形県南部にかけて、東西およそ20キロメートル、南北およそ10キロメートルにわたって標高2,000メートル級の火山が連なる山脈の一部となる。一切経山は今でも火山ガスが噴出しており、つい最近までは立ち入りを禁止されている登山道もあった。今でも硫黄の匂いが漂っていて、浄土平からの風景はなんだか黄泉の国のような独特な雰囲気がある。山系にはコバルトブルーに輝く小さな沼が点在してい流。登山道には新しい熊のふんもあって、流石に東北の山という奥深さを感じた。
山を歩いていると、頭の中が山のことしか考えられなくなる。それなりに危険も伴うわけだから、天候のことや道を間違えていないかどうか、熊などの野生動物との遭遇、そして自分自身の体調等を考えながら、一歩一歩高みを目指す行為は僕の性格にとても合っている。イライラしている熊さんには会いたくないけれど、僕が中学生の時に北海度の大雪山で出会ったヒグマは僕たちのことなど気にするでもなくひたすら何かを食べているだけ、50mくらいの距離でクマを見ることができた僕たちはとても幸運な出来事としてそれを捉えていた。他にも猿やカモシカなどに出会うことも多い。そもそも山は動物たちの住む世界なのである。山には多くの植物もあって、それらをみているだけでも楽しいものだ。夏山では雷が最も気になるリスクである。上空の気温と800mエリアの気温の差が27度を超える時には、雷雨に巻き込まれる危険が高いから、12時以降の行動は避けたほうが良い。今日も昼までには浄土平に戻ってきた。

 

我が家は予約制のモデルハウス

2022/07/30

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は東京都杉並区にて新築住宅を検討中のFさんが、埼玉県川口市にある我が家と埼玉県上尾市にに造ったHさんの家の2軒を見学するということでご案内をさせていただいた。

我が家は予約制のモデルハウスとして利用している。床の仕上げは群馬県中之条市の唐松である。この床板はとても気に入っている。僕がこの床に出会ったのは今から10年ほど前、栗材を探してあちらこちらの森林組合に電話をしていたときに、たまたま気のあった製材所に出向いてみて、栗はないけれど唐松のフロアリングならあるぞということで市場や材木屋さんを通さずに直接買い付けをすることになった次第である。(栗材については北海道の栗を丸太で買い付け、製材、乾燥して大工さんが加工して使用するという流れをこの後に作り上げた)唐松フロアリングは、杉よりも少々硬い。硬い分傷はつきにくく、でも針葉樹ならではのソフトな感触もあってちょうど良い。障子は東側の光を和らげてくれる。この窓の向こう側はファミリーマートの屋根だから滅多に開けることはないのだけれど、でもここはやっぱり窓で良かったと思っている。キッチンは壁向き、その向こうにある緑地帯を眺めることができる。タイルはセルフビルドでスタッフと貼った。興味のある方はぜひご覧いただきたい。

 

社員がこの会社で働けて幸せだと本気で心の底から感じてくれるからこそ、皆が本気でお客様のために働くことができる

2022/07/29

僕はますいいリビングカンパニーという会社を大きな家族のような会社にしたいと思っている。設計業界は昔から徒弟制度のような業態で、いわゆるブラック企業というか、つまりは低賃金や長時間労働が当たり前の世界であったけれど、僕はそういう会社は作りたくない。僕にとって理想の会社とは、働いていて幸せに感じる会社である。会社にいて楽しいと感じる雰囲気があり(ニコニコ仕事をしようと呼びかけているし、ニコニコしている社員は給料を通常よりUPしている)、暖かい人間関係があり(助けを求めたり、新しいことに挑戦して失敗しても責められることがなかったりの社風は壁に貼り出している)、仕事にとてもやりがいを感じ(思わず子供や友達に自慢したくなるような仕事がいい)、健康であり続けられ(35歳以上の社員やその奥様には人間ドックを受けてもらっている)、休みをきちんと取れて(有給休暇の取得率70%を目指している)、余裕のある暮らしができる(給料は同業種・同一地域平均を超えるように)そんな会社である。自分自身が会社に大切にされていると感じずして、お客様のために本気で家を作ることなどできるはずは無い。社員がこの会社で働けて幸せだと本気で心の底から感じてくれるからこそ、皆が本気でお客様のために働くことができるのである。

今僕は障がい者の雇用を考えている。
だって「障がい者を生みたくて産んだ親はいないし、障がい者に生まれたくて生まれた人もいない」のである。会社は社会の公器である。だからこそ障がいのある人にも働く機会を提供し働く喜びを共に味わいたいと思っている。もしもこの文章を読んでくれた障がいのある方の中に興味がある人がいたら声をかけてほしい。ものづくりが好きな人なら大歓迎である。

お嬢さんのアトピーが改善されたという話を聞いて本当に作ってよかったと思った

2022/07/27

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
昨年埼玉県川口市にて造った戸建て住宅の現場では、ベニヤを一枚も使用しなかった。ベニヤを使わない理由は化学物質を最小限に抑えるため、だからもちろんビニルクロスもメラミンなどの化粧材も使わずに、内装漆喰はシーラーなしのプラスターの下塗りに漆喰仕上げの徹底ぶりである。キッチンだって、わざわざ家具屋さんにヒノキを使って接着剤最小限の注文で依頼した。断熱材も羊毛断熱材、ちょっと高いけど新築現場が臭くない、なんだかとても居心地が良い。

ベニヤを使わない、昔の大工さんならそれがどうしたの?という感じだろうが、ベニヤ板があることが当たり前の僕たち世代にとっては、なかなか大変な作業である。野地板、外壁モルタル下地合板、床下地合板といった部位に杉板を使用するのだが、非乾燥材ならまだしも床下地に使用する乾燥材の荒板など持っている材木屋さんはなかなかないのが実情だ。しばらく前に、米松などの輸入材をやめて構造材を国産材に切り替えたことでできた山とのつながり、もしもこれがなければ買うことすらできなかったかもしれない。ちなみに床板は杉の30mmを貼っている。軒天なども然り、当たり前のものを当たり前に使っているだけだけれど、なんだかとても懐かしい良さを感じる。

ある時、ふと栗を使いたくなった。栗の丸太はどこにあるのか?東北の岩手県にはまだたくさんの栗材があるらしい。ではそれをどこで買えるの?そしてどこで製材するの?寝かせるのは何年?製材ってどうやって目利きするの?誰に聞いたら良いかの暗中模索、でも困っている時は指導者が現れる、僕に丸太の目利きを仕込んでくれたのは地元の木風堂の親父さんである。そんなわけで最近は栗や桜、鬼胡桃の丸太を購入して製材所で製材し、1年間以上寝かせて造作材として使用するようにしている。うちの倉庫にはいつも100枚くらいの板がある、国産広葉樹の板を常にストック、これはとても大切にしていることだ。うちの大工さんはこの栗を使って建具の枠を作ったり、家具を作ったりの造作を楽しんでくれる。もっと難しい図面を描いてこい・・・、腕の良い大工はセリフまでかっこいい。

気をつけないと無くなってしまいそうな大切なものを、決して忘れないように大切にしたいと思う。僕たちはこの世代の責任世代である。もしも僕たちが亡くしてしまえば、子供たちの時代にそれは博物館の中のものになってしまう。

ベニヤのない家の建築後、52種類の空気環境測定の調査をしてみた。その結果検出されたのは、微量のアセトンとαピネン。微量のアセトンは配管工事の接着剤、ピネンは杉から放出する天然物質であった。引っ越しをしたらお嬢さんのアトピーが改善されたという話を聞いて本当に作ってよかったと思った。

人間は本能的に火に集まる生き物なのだ

2022/07/25

今日はダッチウェストジャパンの猿渡さんと初めてお会いした。現在作っているパッシブLCCMの「ますいいハウス」に設置する機種を選定するという目的と、代理店として薪ストーブの販売を行うという二つの目的のためである。

なぜ住宅にストーブを置くか?
住宅には重心があると良い。重心というのは何かというと、どこにいても家族みんなの意識が向かう場所とでも表現するのが良いだろうか。多くの家ではこの重心にテレビがあるのだけれど、それだとやっぱりなんか物足りないわけだ。僕はそこにストーブがあると良いと考えている。人間は本能的に火に集まる生き物なのだ。炎を見ていると、何となく心や安らぐ。語らいの口調も和らいでくる。時がたつのも忘れて生まれるひと時、それこそ本当の家族の団欒と呼ぶべきものだと思うのだ。

ストーブを入れるかどうかは初めに決めた方が良い。ストーブにふさわしい場所を設計するにはやはり初めから決まっていた方がやりやすい。ストーブには薪ストーブとペレットストーブの2種類がある。薪が手に入るのであればもちろん薪ストーブの方が良いのだが、その入手が難しいなどの理由があればペレットでも同じような雰囲気は味わえる。僕はなるべく図面にストーブを描くようにしている。もちろん採用するかどうかはお客様次第、一人でも多くの方がこの楽しさを味わってくれればと思う。

青は空気、緑は水、黄色は電気、そして赤は人

2022/07/23

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
午前中、埼玉県伊奈町にて進行中のTさんの家のリフォーム打ち合わせ。現場で急遽変更した小屋裏の表わし仕上げをどのように納めるかについて再度現場にて打ち合わせを行った。天井を剥がしてみると、塩ビのパイプが出てきた。排水か何かだろうと思い辿ってみると、どうやらバルコニーの雨水排水のようである。屋根がついているバルコニーなのでそれほどの水がここを流れることはないだろうが、でもとても重要な排水パイプなので無くすこともできそうにない。すでに梁の下端をかき込んで配管されているけれど、これを天井で隠れる隣のスパンに移動しようとすれば3640mm飛んでいる大きな梁のど真ん中に穴を開けなければならないこととなりそれはあり得ないなあと頭を悩ます。さてさてどうしたものか、こうなったらペンキで塗装してちょっとかわいい金物で固定し直し、衣装として表現してしまおうという結論に至った。

下はパリのポンピドゥーセンターの写真である。設備はカラーコードで示され、青は空気、緑は、黄色は電気、そして赤はを表わしている。設計者のレンゾ・ピアノは建築に必要な血流を全て表現することで、全てを覆い隠された美ではなく、機能自体そのものを表現したわけだ。天井裏の雨水配管・・・だいぶスケールは違うけれど隠すだけが答えではないのである。

職人さんにも喜ばれるような良い仕事はお客様にとっても必ず良い仕事

2022/07/19

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
先日、埼玉県さいたま市にて進行中のAさんの茶室にてなんとも奇跡的な出来事があった。Aさんの茶室は、ますいいの本間大工が造っている。本間大工は昔、自然素材を使用することで有名な某工務店で大工さんをしていたのだが、数年前よりますいいに参加してくれているとても腕の良い大工さんだ。
そのAさんの茶室の壁は、小沼さんという左官職人に塗ってもらう予定だ。小沼さんは名古屋の勇建工業の加村さんという左官屋さん出身の工務店の社長に紹介していただいた練馬の職人さんで、本当の漆喰を塗ることができる数少ない人物である。本当の漆喰・・・これにいついて話し始めるとまたすごく時間がかかってしまうのであるが、要するにメーカー品の商品ではなく、消石灰とわらスサ、そしてつのまた、貝灰といった昔ながらの原材料を混ぜ合わせ、漆喰として壁に塗ることができる状態に材料を作り上げることから始める本格的な職人さんと言うことである。
ある日、本間大工に「この茶室の漆喰は腕の良い大工さんに塗ってもらうんだよ」と言ったら、『そんなの俺の知り合いにいるのに」と言われたので「どこの人」と尋ねてみると、「練馬だ」と。もしかしてと思って「小沼さんってしってる?」と聞いてみたら「「え、小沼さんが塗るの?昔の馴染みでよく一緒に仕事したんだよ」の答えであった。聞くと約15年ぶりの再会であるそうだ。良い仕事には良い職人が集まってくる。そしてその人たちの世界はそれほど広くは無いと言うことが改めて感じられたのである。
ちょうど同じ時、今後ますいいで大工をやりたいという松本大工さんが現場見学に来た。松本大工さんはやはり若い頃、本間大工さんと同じ工務店で働いていたらしい。本間さん、小沼さん、松本さん、ますいいの現場での再会に笑顔で楽しそうな昔話をしている様子を見ていると、やっぱりこの仕事をしていてよかったなあの感であった。職人さんにも喜ばれるような良い仕事はお客様にとっても必ず良い仕事である。皆が笑顔で働ける、そんな良い家を造っているんだなあと心の中で涙を流したひとときであった。

人は火の周りに自然と集まるものだ

2022/07/18

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
オーレン小屋はとても居心地の良い小屋である。この日の気温は17度ほど、朝は肌寒い。標高が2000mほどだから平地よりも12度ほど低いのだ。薪ストーブが真ん中にあり、そこを囲むように座ることができるようになっている。この間取りは普通の住宅ではないなあと思うけれど、山小屋ならではの配置と言えるだろう。人は火の周りに自然と集まるものだ。この日の朝も、自然と数人の人がストーブの周りに座っていた。

今日は天狗岳を目指す。天狗岳は西と東の二つのピークがあるが、どちらも危険箇所はなくとても登りやすい山である。蓑冠山を越えると突然森林限界となり強い風に晒される。このエリアに来ると駒草を見ることができる。ロープで囲われた中にちょこんと植えられた駒草、そういえば早稲田中高時代の池田先生を思い出す。山岳部の顧問でもあった池田先生は、木曽駒ヶ岳の駒草を復活させるために毎年苗を育てては植えに登っていた。山の花の写真集まで発行するほどの花付きの先生だった。担当は数学、厳しいけれど筋の通った先生らしい先生だったことを記憶している。天狗岳の往復は約3時間ほどのコースである。風に吹かれながらも、たまに晴れるガスの隙間から見える景色を楽しみつつ山行を終えることができた。

まるでジブリの世界のような景色

2022/07/17

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日から二日間の連休である。世間では線状降水帯でひどい被害が出ているが、僕が登ろうとしている八ヶ岳は比較的穏やかな気候のようだから、出かけてみることにした。朝3時家を出発し中央自動車道を経て6時ごろ桜平駐車場に到着した。ここからオーレン小屋までは1時間30分ほどの距離である。さて、早速歩き始めようと靴を履いていると隣で妻がなんだか様子がおかしい。「私の靴は?」の質問にまさかと思い「まさか忘れたの』と聞くと「だって、玄関を見たらそこに靴がなかったから積んでくれたと思ってた」の返事。でも僕は妻の靴は触ってもいないのだ。玄関に無かったのではなく、見なかっただけなのである。仕方がないので、以前泊まったことがある原村にあるペンション、ジョバンニの小屋のご主人に電話をして聞いてみるとアルペンがすぐ近くにあるという。でも開店は10時、それまで待つのはいかにも勿体無い。もしかしてホームセンターがあるかもしれないと思い検索すると、すぐ近くにドンキホーテがあるではないか。行ってみるとそのまた隣になんと出来立てのホームセンター、そしてそこには2700円のトレっキングシューズが売られていたのであった。時間はまだ8時である。まだまだ挽回できそうな時間だ。早速桜平まで戻り車を止め、11時ごろにはオーレン小屋に着くことができた。流石にこの時間からの天狗岳往復は雷のリスクもありそうなので、より近くにある硫黄岳にアタックすることに。稜線まで出るもガスで視界無し。妻の疲労もだいぶ溜まっているようなので今日はここで諦めることにした。
北八ヶ岳は苔で有名である。ここは沢沿いの道なので、湿気も多く綺麗な苔の森が広がっている。まるでジブリの世界のような景色を楽しむことができるのでおすすめである。

経年美化したものの魅力はなるべく生かす

2022/07/16

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は埼玉県伊奈町にて進行中のTさんの家のリフォーム現場管理。現場ではすでに解体工事が終了し、天井裏の小屋組がむき出しになっている。築年数が40年ほどの古い建物、どんな小屋組が出てくるのかと思ったら、とても大きな梁が組まれており、なかなかの魅力であった。こう言う小屋組が出てきたら隠してしまうのはもったいない。経年美化したものの魅力はなるべく生かすのがリフォームの良いところである。そして計画変更もリフォームの常、その時の状態に合わせて最適な解を求めていくことで、コストを抑え魅力的なデザインの住宅空間を生み出すことができる、だからこそ現場での判断が重要なのである。脚立に登り、小屋裏を覗きながらどうするかの算段をTさんと一緒に行うこと約1時間、方針を決めたところで事務所に戻った。

公共事業 グリンセンター大集会堂実施設計スタート

2022/07/15

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
午前中、埼玉県川口市にて進行中の公共事業、グリンセンター大集会堂打ち合わせ。川口市の入札で正式に契約させていただくことができたので、基本設計に引き続いてのお仕事をさせていただくことになった。この仕事は、築50年の古い建物のリノベーションだ。50年前に川口市で開催された国体を観戦された当時皇太子であった上皇陛下がお泊まりになるために作られたという建築であり、これまでは結婚式場などに利用されてきた。それ以来、廃墟とまではいかないけれどほとんど利用されていなかった建築を取り壊すのではなく再生させ、公園利用者にとって魅力的な施設にするというのが目的である。
この設計は後輩の建築家佐藤研吾さん、構造家の名和研二さんと一緒にコラボで取り組んでおり、出来上がるのがとても楽しみなところである。今日は役所の方々とのキックオフミーティング、いよいよ本格的にスタートである。

午後、東京都豊島区にて新築住宅を検討中のWさんご夫妻打ち合わせ。なんでもお知り合いから土地を購入できるということで、その土地に新築住宅を作ろうという計画である。まずは土地の調査、そして良い家のご提案を進めていきたいと思う。

子どもたちが安心して暮らせる未来を今からでも作れるかもしれない

2022/07/14

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
午前中は年に一回発行している「ますいい通信」の取材で、埼玉県上尾市にあるHさんの家に出かけた。チルチンびとにも紹介されているHさんの家はとても健康に配慮した住宅だ。その取り組みの一つを紹介すると、例えばベニヤ板を一枚も使わないで作っている。構造材は全て国産の檜と杉である。その他の下地材も全て国産の材料だ。建具枠などには国産広葉樹を使用した。国産広葉樹というととても高級な素材のように聞こえるが、ますいいでは毎年二十本ほどの、栗、山桜、鬼胡桃といった丸太を購入し、製材して1年ほど乾燥させた材料を常に400枚ほど確保しているので、中国産の安い造作材と同じくらいの値段で手に入れることができるのだ。つまり国産広葉樹の高いイメージは、ブランド化された新木場などでの値段の高さであり、山での価格はそうでもないと言うことなのである。

そもそもこう言う家づくりをしようと考えたきっかけは、子どもたちが安心して暮らせる未来を今からでも作れるかもしれない、そんな思いであった。親から子へ受けつぐことのできる大切なものとして家を造るからこそ、愛着がわき体にやさしく、そしていつの時代にも変わらぬメンテナンスのできる健康・自然素材を利用していきたいと考えているのだ。

■ 地産地消の考えで地域の自然素材を活用
奈良県の吉野で採れる檜や杉材などの国産材を使用
■ 人に優しい住宅を作る
気密層の内側には合板、ビニルクロス、新建材などは極力使わない。
■建築を省エネ化し環境に配慮する
建築の構造や素材を上手く組み合わせることで温熱環境性能の向上を行う、パッシブ LCCM の住宅を目指す。
こうした家づくりを今後も続けていきたいと考えている。

午後、東京都中野区にてリフォームを検討中のIさんご家族打ち合わせ。一つの家に八人が集まって暮らすことになったと言うことでのリフォームである。集まって住む、それはとても良いことだ。でもやわらかく区切られた程よい距離感がないと、どうしてもうまくいかないことも出てきてしまう。そこをどううまく解くか、よく考えて提案していきたいと思う。

何十年の月日を経て得た経年美化

2022/07/06

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は埼玉県川口市にて秋からの着工を予定している古民家再生工事についての打ち合わせを行った。古民家の再生というのは、築年数が100年近い民家に関して、構造や設備などの状態を調査し、これから先もしっかりと住み続けることができるように補強・改修工事を行うことを言う。表面的なお色直しではなく、基礎・土台・柱・梁の骨組みから、設備器具や配線配管の一新までを行うため、出来上がりはほぼ新築と変わらない。しかしながら、何十年の月日を経て得た経年美化は新築住宅にまでのできるものではなく、古民家だからこその魅力と言えるだろう。古いものが価値を持つ、そんな時代がこの国にも来れば良いと思う。

8畳広間の竿縁天井

2022/07/05

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
朝一番より埼玉県さいたま市にて進行中のAさんの茶室現場管理。茶室の大工工事も段々と進んできた。写真は8畳広間の竿縁天井の様子である。この天井に使われているのは八溝杉の無垢材だ。決して高級な材料ではなく、製材所が丁寧に轢いてくれた普通の造作材のうち節がない部分を大工さんがより分けて加工したものである。今時無垢材の無節の天井なんて高級すぎてできるはずがないと言われそうな仕事だけれど、山と直接お付き合いをして材料を仕入れ、大工さんが適材適所使い分けることでこういうことも可能になるということで皆様にもご紹介したい。

家族で助け合って幸せに暮らすことができる家と家の関係性

2022/07/02

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は東京都杉並区にて新築住宅を検討中のHさん打ち合わせ。ご実家の一部にある古い住宅を取り壊し、そこに一人で暮らすための小住宅を建設するという計画である。これまで暮らしてきた母屋にはご兄弟のご家族が住むという。このような「集まって暮らす」形態は震災以降とても増えたように思う。核家族化が進み一度バラバラになったこの国の家族の在り方が、少しずつ見直されていたということなのだろう。家族で助け合って幸せに暮らすことができる家と家の関係性をしっかりとでデザインすること、これはこれからの住宅の設計者にとって大きなテーマだと思う。じっくりと取り組んでいきたいと思っている。

危ない新耐震基準建物

2022/06/28

今日は川口市で大工さんをしている金井さんと一緒に建築士事務所協会の耐震診断に関する講習会を開催した。前にもご紹介したことはあるけれど、金井さんは浦和高校卒、大卒の一級建築士の大工さんで僕の耐震診断の師匠でもある。すでに70歳を超えているけれど、その見識はとても素晴らしく多くの経験に支えられた真実の見識だ。今回の研修は主に、「新耐震基準」の建築の一部に危険な建物があるということについて行われた。

この基準は昭和53年の宮城県沖地震を検証してできたもので、平成7年の阪神・淡路大震災で被害を受けるまでは完璧な基準ということになっていた。被害を受けた原因は、耐震壁のバランスとか,地耐力に応じた基礎構造かどうかの検討がされていないこと、結合部の構造などである。そこで,平成12年(2000年)に建築基準がさらに改正された。それを「2000年基準」とよんでいるが、この基準によって
①地盤調査の規定
②地耐力に応じた基礎構造
③耐震壁の配置バランスを考慮
④筋かい金物使用や柱頭柱脚接合金物使用の規定
が定められたのである。

平成28年4月14日の9時26分に熊本地震が発生した。この地震で「新耐震基準」で建築された住宅に大きな被害が発生したのは、まさに金物固定がされていない建物であったのである。

築年数が22年以上の建物は耐震診断を行い、金物補強をした方が良い。これはまだあんまり知られていないことである。だからこそ認識を広く共有し、少しでも被害をなくすための講習会を開催したのであるがさてさて効果は如何程であろうか。今後川口市の補助金制度などを構築して周知できればと考えている。

黒尾谷山から南月山

2022/06/26

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は栃木県にある黒尾谷山から南月山の往復ルートを歩いた。この山は有名な茶臼山(那須岳)への継続ルートで天気が良ければ、茶臼山が大きく見える。今日は午後から雷注意報が出ているけれど、午前中はなかなかの好天ということで前夜入りの早めのスタートを切ることにした。初めから急な上りである。暑さで尋常でない汗をかいたが、熱中症にならないように水分と塩飴を大量摂取し、なんとか山頂までたどり着いた。よく見える茶臼岳との中間にある日本平まで歩いてみようと歩みを進めるとものすごい勢いで雲が湧いてきた。日本海側からの寒暖差のある空気の流入により5分程度で豪雨と雷鳴が聞こえ始めた。これは危険と急いで引き返しなんとか下山、やはり注意報が出ている時は無理は禁物である。

僕は大工さんという職業が好きだ

2022/06/25

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
午前中はますいいで仕事をしたいという大工さん面接。
僕は大工さんという職業が好きだ。もう今更修行して大工になることはできないけれど、もしも一念発起して職人さんになるなら大工になりたいと思う。元々父親は機械加工の職人だったし、祖父は機械加工と木型職人だったという生まれ育った環境からか、職人という生き方に対する親しみもある。そんなに器用な方ではないけれど、でも不器用な方でもない。それなりにできそうな自信もある。

大工という職業は、設計から材木の仕入れ、加工、組み立て、各職方の指揮監督まで行う、つまりは棟梁という存在であった。僕は今でもそうであってほしいと願っている。でもそれがいつの頃からか、ただの作業者になってしまった。これはおそらくハウスメーカーの台頭とともに始まったことだと思う。メーカーが決めた仕様通りに、メーカーが購入した材料を組み立てるだけ、そこには工夫をする余地もなければ自由もない。ただ同じような建物を作るだけのまさに組み立て屋さん、面白くもなんともない職業になってしまったのだ。小さな子供達にはとても人気のある職業だが、物心がついた高校生くらいになると大工になりたいという人はだんだんいなくなっていく。それもそのはず、いまだに日給月給で休んだらその分だけ給料が減り、大変な作業なのによくわからないハウスメーカーの設計者のいいなりにならなければいけないような職業ではやりたくなるはずがない。

ではどうすれば良いか?僕は大工さんをもう一度家づくりに現場における棟梁にすれば良いと考えている。腕の良い大工にはそれができるはずだ。設計者がお客様と打ち合わせをした図面があって、山から購入した自然素材の良い材料があって、そこに大工さんが独自の納まりを設計者とともに考え造り上げていくのが良い。良い設計、良い材料、良い大工、家づくりの必須3条件はこの3つなのだ。各職の手配は大工さんが行い、現場のリーダーとして建物を造り上げる。決してただの組み立て屋ではなく、主体的な存在として家づくりの一員となり活躍してもらう。職人さんも社員としてきちんと休みを取り、家族を養い、そして本当の意味で憧れの職業と言えるような存在になってもらいたい。そうすれば大工さんは本当に誇りを持って仕事に励むことができるはずである。そしてそれはお客様にとって良い家を造り上げることにも必ずつながるはずだと思うのである。

シェアハウスの計画

2022/06/23

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
埼玉県川口市にて設計中のNさんのシェアハウスの見積もり打ち合わせを行った。この計画はお母さんが暮らしていた古い平家の住宅をリノベーションしシェアハウスとして利用しようというものである。部屋数は6部屋、大きな部屋は簡易的な間仕切りをつけて4畳程度の広さに仕切る。キッチンやリビングは広めに計画し、住人が伸び伸びと過ごすことができるように配慮した。床下や天井裏には新たに断熱材を敷設し快適性を高める仕様にしている。

実は僕も今、ヒュッゲハウスなるシェアハウスを一つ運営している。この家は元々僕たち家族が住んでいた建物だ。部屋数は同じく6部屋、今は五人の住人が仲良く暮らしている。月に一度のオーナー食事会では僕の妻がみんなに食事を振る舞うのだけれど、まるでサークルのような関係を保つにはこういう交流はとても大切だと思う。現代社会は核家族化が進み、隣の住人もよくわからないような世の中だ。でもそんなのってどうなの?と思う人はたくさんいるだろう。人は一人では生きられない、と僕は思う。(平常時は大丈夫でも、いつかは困る時が来るだろう)助け合い、支え合い、相談し合い、笑い合い・・・・そんな場になれば良いと思うのである。

本物の漆喰

2022/06/21

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日から二日間、社員みんなで名古屋研修である。なぜ名古屋かというと、二つの見学すべき工務店があるからだ。一つはエコ建築考房さん、そしてもう一つは勇建工業さん、ともにこだわりの健康住宅を造っているとても良い工務店だ。

勇建工業さんはもともと左官職人さんだったので、特に左官技術に優れている。下地に木ずりを打ちつけ、そこに15mmの左官を塗りつける壁の様子は実際に見てみるととても良いものであった。厚さから来る壁の良さはただ見ていてもわかるものではない。でもその部屋に入ってみると音が吸収されていくような感覚、なんとなくヒヤッとする漆喰に包み込まれているような感覚がなんとも言えない。本物を知るということはこういう事なんだろうなと感じた瞬間であった。写真は消石灰から作る本物の漆喰の材料だ。つのまたや麻、貝灰といった天然素材だけを使って塗る漆喰の本物の材料なのである。

夜はひつまぶし会席をいただいた。名古屋といえばの名古屋めしを楽しみながら、スタッフのみんなと楽しいひと時を過ごすことができた。

ゆったり山歩き〜谷川岳

2022/06/19

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は群馬県と新潟県の県境にある谷川岳に登った。早稲田大学附属中高の山岳部員だった時代にもなぜか行ったことがなかった山なのだけれど、土合駅から谷川岳ロープウェーを使用して天神平まで上がり、そこからトマノ耳、オキノ耳を往復するコースは山の名前から来る危険なイメージを全く感じることのない楽しい山行であった。歩いているとあちらこちらに白根葵が咲いている。この時期だけにさくなんとなく素朴な花である。途中には、まだ雪が残っている。軽アイゼンをつけている人もいれば、靴のまま滑りながら登っている人もいるけれど、やっぱりアイゼンはあった方がいい。僕はチェーンアイゼンに助けられた。適材適所の道具は大切だなあの感であった。天候は晴れ、雷の注意報も幸運にも外れてくれた、とても楽しい1日であった。

土地探しのご相談

2022/06/18

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は埼玉県さいたま市にて土地の購入を検討中のMさんご夫妻打ち合わせ。Mさんたちはかれこれ1年間にわたって土地探しのご相談をしてくれているが、土地の購入はやっぱり悩むものだからこそ寄り添って相談に乗って行くことを大切にしている。だって、土地は高いのだ。300万円くらいの車を買うんだって本当に買うかどうか悩みに悩んで契約をするのが普通だけれど、土地は車の何倍もするのである。しかも普通の人にはその土地にどんな建物が建つかどうかなどわかるはずもない。でも僕たち建築家は土地とその諸条件を見れば、自然と建物がイメージとして浮かび上がるくらいにはトレーニングされているのである。では土地の諸条件とは何か?土地には用途地域というものが決まっていて、それぞれの土地に建てられる建築の用途がある。高さ制限というのもがあり、道路側や北側や隣地境界線から高さの制限線が引かれる。水道が引き込まれているのが当然と思うであろうけれど、水道がなければ自分で引き込まなければならない。ガスもしかり。そしてそういう行為には多くの場合結構なお金がかかる。こうした制限が多いからこそ、建てたい建物と土地のマッチングミスを防ぐために契約をする前に相談に来て欲しいと思うのである。

男メシ〜カレイの唐揚げ

2022/06/16

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
インターネットで新潟の漁港から魚を直送してもらうという商品を利用してみた。どんな魚が来るのかと楽しみにしているとなんと「マコガレイ」が2枚も入っている。見慣れない、というより裁くのは初体験の魚である。身がプックラとしていて厚い。鱗をとり、エラの下に包丁を刺しワタを取って綺麗に洗う。見様見真似で骨に沿って包丁を入れ左右の身を丁寧に剥がし、裏面も同じように処理をすると、太い骨がなんとか綺麗に抜ける。軽く塩胡椒をして片栗粉をまぶし、油でよーくあげること10分弱、こんなに太い骨でもバリバリと食べることができるではないか。これまで居酒屋さんでしか食べたことがなかったカレイの唐揚げ、初めて自分で作ることができました。

インターンシップの学生たち

2022/06/15

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
朝8時、大工の本間さんが埼玉県さいたま市にて進行中のAさんの茶室の枠材加工のために事務所に来ている。見慣れない学生二人がいるが、彼らは今日からインターンシップに参加してくれる、埼玉県行田市にある「ものつくり大学」の2年生たちだ。今日から40日間、主に設計の仕事を体験したいということでますいいに来ることになったわけだけれど、今年は実演指導だけでなく、学校から渡されている交換日記のような記録ノートをしっかりと書くことを指導していきたいと思う。

何かを体験し、それを改めて考え文章にするという行為は、客観的で論理的な思考能力を鍛えることにとても良いと思う。この先の人生の道を選択する青年にとっては実務的な経験よりもむしろ価値のあるものとなるであろう。一字一句、丁寧に文章を書くという基本的なことを確認しつつ、僕が思う人生観を伝えられればいいなあと思う。

2022/06/12

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)

今日は、僕が現在関東第2ブロック長を務めている裏千家淡交会青年部の行事で、栃木県佐野市にある佐野天明釜の実演講習会に参加した。佐野天明釜というのは、西の芦屋、東の天明と言われるように茶湯の釜の世界ではちょっと有名な産地である。佐野には現在5軒の鋳物屋さんがあるそうだが、今日はその中の若林先生の工房に訪れた。工房には大きなこしきがある。今は使っていないそうだが、昔はこの「こしき」を使って三日三晩かけて鉄を溶かしていたそうだ。足で踏むたたらなども保存してあるが、これはまるでもののけ姫に出てくるたたら場の如く作業をしたのであろう。

あらかじめ作られている砂型に湯を流し込む作業からのスタートである。1500度に熱せられ真っ赤に溶けた鉄を流す作業は流石に迫力がある。外側の型、内側の中子の隙間に流れた湯が固まると見事な釜が出来上がるわけだけれど、砂でこんな風に薄く精巧なものを形作る技術は本当にすごいと思う。

実は僕の生まれ育った川口市という街も鋳物で有名な街である。僕の祖母の実家は鋳物屋さんで、僕の祖父の代から鋳物を加工する機会屋さんを営み、僕の母の実家は鋳物の型を作る木型屋さんであった。こんな風に鋳物産業のどこかを担う家系に育つというのは川口市では割と普通のことなのだ。なんとなく親しみを感じる作業を拝見しつつ、とても真摯に作業に打ち込む若林先生のお姿にとても心を打たれたひとときであった。

古民家再生の基礎補強

2022/06/08

今日は神奈川県小田原市にて進行中の古民家再生の現場視察。古民家の再生ではまず最初に骨組みだけを残して解体工事を行い、次にベタ基礎補強を行う。大抵の場合は石の独立基礎だったり、ブロックを並べてあるような状態だったり、良くても無筋コンクリートだったりするわけだけれど、鉄筋コンクリートのベタ基礎で補強することでバラバラだったものが一つに繋がり筋交補強の際の引き抜き力に対抗できる金物もつけることができるようになるわけだ。その後には傾いている状態を水平に直すレベル調整、立ち上がり基礎を作りその状態で固定できるようにして、ようやく筋交をつけたりの構造補強工事に入ることができるようになるわけである。それが終わるといよいよ古民家再生の仕上げに向けた大工さんの造作工事に入っていく。この先の進行を楽しみにしたい。

 

武蔵一宮氷川神社

2022/06/04

朝7時、埼玉県さいたま市にある武蔵一宮氷川神社にて裏千家の献茶式茶会参加。今日は僕が所属する淡交会の青年部が立礼席の席持ちをするということなので、なんとなくいつもよりも気持ちが昂っている。茶道をやっている方ならこの感覚はわかっていただけるだろう。ただのお客様として参加する茶会とは違い、主催者側としての緊張感の中参加することとなるのである。

今日のお菓子は東松山にある清晨庵さんである。このお菓子屋さんは主人の小林さんが明け方から本当に手作りで丁寧にお菓子を作ってくれている奇跡のようなお店である。京都で修行したというから味も良い。茶菓子だけでなくわらび餅など日常の菓子もとても良い。小林さんの人柄が滲み出るような素直な味である。おそらく今の埼玉県では一番美味しい菓子を作ってくれるお店なので是非足を運んでみてほしい。

今日の茶席では普段より半分程度の客とした。ちょっと寂しいかなあと思ったが、実はこれがちょうど良いと思った。一席の人数は28名程度である。話をしていてもどこに誰がいるのかなんとなくわかる。小学校の1クラスくらいの人数だからこその親密感、一期一会の茶席にはこのほうが適していると感じた。大寄せ茶会に感じていた疑問がコロナによって変更せざるを得なくなったわけだが、これを機にもう少し地に足のついた茶道を目指しても良いのではないかと思ったのは僕だけではないだろう。茶道は歴史を意識する。もてなしの心を第一とし、そしてその場における理想を追求する姿勢を大切にする。イギリスの哲学者ツインビーの言葉に「理想を失った民族は滅びる」「自国の歴史を失った民族は滅びる」「ものの価値を全てと捉え心の価値を失った民族は滅びる」とあるが、茶道はその言葉を打ち消すことを大切にしている。会の運営を第一とすれば、この価値ある茶道までもが会の運営など経済原理で動くこととなり、それは本質的な価値の低下につながると考えるわけである。目の届くお客様に目の届くおもてなしを心を込めて行うことの大切さを改めて感じたのである。

 

マンションリフォームのプラン

2022/06/03

午前中、埼玉県さいたま市にて計画中のNさんのマンションリフォームご相談。この計画では主に断熱改修を中心として、これからの暮らしに対応する新しいプランへのフルリフォームを行う予定だ。二酸化炭素排出削減につながる省エネ化である断熱性向上は戸建てもマンションも関係なく社会全体で取り組んでいく課題である。マンション内装における断熱改修の便利素材も開発されているようであり、この計画では補助金を利用した新素材の利用にも挑戦していきたいと考えている。

とはいえまずは快適に暮らすことができるプランのプレゼンテーションである。人間は魔法瓶の中では快適に暮らすことはできないわけで、やはり心地よい光や風を感じることができるプランニングを行うことが大切だと思うのである。

無垢の杉による茶室の木工事

2022/06/02

朝8時、埼玉県さいたま市にて進行中のAさんの茶室の現場視察。現在は大工さんによる木工事の真っ最中である。今日は2階にある道具置き場の棚を杉の板を使って造作している。この杉の板は栃木県の八溝杉である。栃木県では八溝杉と日光杉が知られているが、実は檜の北限としても有名で目の詰まった良材が得られる。僕が買っている製材所では仕上がりで30ミリと15ミリの2種の厚みを挽いてくれている。幅は9寸ほど、これは棚板などにちょうど良い。僕も茶道を嗜むが、脆い茶碗を硬い素材のメラミンカウンターなどに置くことはなんとなく気が引けるのだ。特に楽茶碗などは、痛々しく感じてしまうほどに脆いのである。

午後、知人の所有する東京都の茗荷谷のご自宅訪問。亡くなられたお父様が知り合いの建築士と一緒に丁寧に作り上げた住宅である。床はなんと木造で嵩上げされている。これはまるで千葉県の笠森寺や京都にある清水寺のような掛け造りのようなものであり、一般の平地に立つ住宅で採用されているのは初めて拝見した。床下は物置として利用されているけれど、挑戦的なその姿勢になんとも感服する限りである。強い意志とともに作られた建築は面白い。そして是非次の世代に残したいと思うものだ。詳細に見ていくと独立基礎が爆裂している。これはベタ基礎で全てを一体化させるように補強した方が良さそうだ。ちょっとした工事で安心が得られる。今後適正なご提案をしていきたいと思う。

古民家再生

2022/05/30

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は埼玉県蕨市にあるSさんの家の古民家再生調査を行った。Sさんの家は築90年が経つ古民家である。古民家の再生にあたっては、まず現地の入念な調査が必要ということで、約600項目の調査項目に従って劣化などに関する調査を行った。それにしても90年前の家づくりと今の家づくりでは、構造体などが全く違うから面白い。土台は地面の埋め込まれた大谷石の上に乗せてあるだけだし、束石はただの自然石、しかも隙間には適当な楔が打たれているだけだ。今の耐震技術などに比べたら比較にならないのだけれど、でもこれで90年もったのだから昔の技術はすごいのである。写真の柱の横にある黄色い筋はシロアリの被害だ。すでに薬剤処理されていたが、梁や柱はだいぶ傷んでしまっていた。こういう部分は交換するにしても、小屋裏の見事な梁を荒鷲にした様子は今から想像するだけでもワクワクするのである。

セルフビルド待合

2022/05/29

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
日曜日の今日は、千葉県の知人から正午の茶事にお招きいだいた。参加者はとてもよく知る身近な仲間たち、このような茶会がもっと増えれば良いと思う。千葉県のIさんは創意工夫のある方で、腰掛け待合は知人に設計してもらって、協力しながらのセルフビルドで作り上げてしまったらしい。屋根は自分でモルタルを塗ったという。さすが芸大出身、陶芸から絵画まで、ついには左官の技術まで器用にこなす。実際に5人で腰掛けてみると、これが実にちょうど良い具合である。自分でできることは自分でやる、まさに楽しみながらのセルフビルド待合にとても感動した。

まず何よりも信頼関係

2022/05/28

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
午前中、埼玉県所沢市のNさん宅にて瓦がずれているのご相談の調査に伺う。Nさんは僕が通った早稲田大学の先生である。以前2階ほどリフォームを依頼していただいたのだけれど、こうして何度もご依頼いただくということは何よりも嬉しいことである。建築の仕事というのは、家にも入るし、家族にも顔を合わせ、家の構造から設備までを工事するのであるからこそ、まず何よりも信頼関係が重要であると思うからである。屋根の上に上がって調査をしてくれたのはいつも屋根工事を依頼している山内さんだ。結果は瓦が一枚割れているとのこと、部分補修のお見積もりをさせていただくことをお約束した。

午後、東京都内で小さな土地を探して家を建てたいというご夫妻と打ち合わせ。コロナで地方への移住が進み東京都の人口が減少し始めたとのニュースがあったが、それも束の間、最近はまた増加傾向にあるらしい。ますいいでもこれまで結構たくさんの狭小住宅をつくってきた。一番最初に作ったのが、三角の家である。この土地は板橋区の成増駅から徒歩圏内にある三角形の土地だ。初めは四角い家が建っていたのだが、それを解体すると本当に直角三角形の土地が現れたのである。お母さんとお子さんが二人で安心して暮らすことができるように、三角形の土地をくるりと包み込むように外壁を作り、外周部からの採光は最小限にして吹き抜けの上部から光が降り注ぐようなプランとした。狭小住宅は土地によって様々な表情となるものである。さてさて今回はどのような土地が見つかるか、楽しみにお待ちしようと思う。

仕事を通して世のため人にために貢献する

2022/05/26

午前中、淡交社の阿部さん打ち合わせ。淡交社というのは裏千家の雑誌を作ったり、茶道にまつわるグッヅを販売したりしている会社である。今回は埼玉県さいたま市にて工事進行中のAさんの茶室の取材に関する件で打ち合わせにお越しいただいた。

茶道を習い始めて11年がたつ。茶道ほど日本文化と総合的に関わることはないと思うくらいに奥が深く、故に僕などまだまだ修行中のみではあるのだけれど、それでも一つのことを10年以上やり続けていると案となく見えてくるものもある。

致知という雑誌で読んだ言葉に
「賢は賢なりに、愚は愚なりに、一つのことを何十年も継続していけば必ずものになるものだ。君、別に偉い人になる必要はないではないか。社会のどこにあっても、その立場立場においてなくてはならぬ人がある。その仕事を通して世のため人にために貢献する。そういう生き方を考えなければならない。」
というものがあった。茶道を通じて日本の文化をつくるというなんとも壮大な夢を描いて入り込んだ道だけれど、僕も少しはお役に立てるようになってきたような気もするのである。

屋根屋さんは一人だけ

2022/05/23

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は朝一番から、埼玉県さいたま市のKさんの家の屋根補修に関する現地調査を行った。同行してくれているのは板金屋さんの山内さんである。ますいいの屋根工事を一手に請けてくれている職人さんで、僕よりも少しだけ年下の後輩である。屋根屋さんは一人だけしか依頼していないのだけれど、築年数が何十年も経った後に、もしも雨漏りなどしたら誰にメンテナンスを頼んで良いかわからないような状態にはなりたくないので、本当に信頼できる一人だけとお付き合いをしているのである。この現場ではコロニアルが葺いてある屋根下地の野地板が結露のために朽ち果ててしまっている部分に対して、屋根を一度剥がしての下地交換を行おうというモノである。急勾配の屋根だけに、屋根足場なども必要な工事なのだけれど、もしもこのまま放っておけばいつかは屋根に穴が空いてしまうのでしっかりと補修してあげたいと思う。

続いて川口市上青木にあるIさんの家の屋根補修工事現地調査。こちらは近所でたまたま工事をしていたという職人さんに「屋根の一部が壊れていますよ」という声をかけられたのでみてほしいという、昔のクライアントからの依頼である。このケース、実は最近とても増えていてそのうちの半分は何も問題がないことが多い。つまりはリフォーム詐欺であるのだ。今回は、、、やはり大きな問題はないようである。せっかくなので点検し、下地の木が痛んでしまっている部分のみ補修を提案することにした。

大切なものを大切だと思う心をなくしやすい時代

2022/05/22

建築の仕事は古いものを壊して新しいものを作ることが多い。この国は相変わらずスクラップアンドビルドの傾向が強く、家づくりでも公共事業でもとにかくなんでも新しくしてしまう。でも僕たちが観光に行った先で見てみたい建築や街並みは、大抵古いものであることが多いわけだから、なんとも不思議な国民性なのだ。僕たちの住む川口市のような東京近郊の土地では、その利便性から人口流入が増加しており、余計に古い建築を文化的に利用しようとする思想は育ちにくいように思える。例えば川口市にもまだ本町のあたりには古い洋館風の住宅などが残っていて、そういうものを大切に再利用すべくリノベーションをすれば谷中千駄木のような魅力的な街並みを形成する要素となる建築を生み出すことができるわけだけれど、実際には解体処分してなんとも特徴のない賃貸マンションなどを建設してしまうという選択をする人の方が多いのが実情である。まあ僕たちもそういうことに加担しながら生活しているわけで,マンションを建てるオーナーさんを悪く言うことはできないのだけれど、魅力的な街を作りたいという建築家としてのそもそもの願望だけは忘れたくはないと思うのだ。

とあるリフォームの現場にはあと数ヶ月で100歳を迎えるお婆さんがいる。世話をしているのは有名な国立大学の名誉教授で今年で77歳となる。お嬢さんたちはすでに家を出ているから二人で暮らしていて、まさに老老介護の現場である。時間があると焼酎の瓶とつまみを持ってお邪魔するのだが、大学の教授を勤めていた知性とそのお母様だけあって、年齢からは信じられない話が飛び出す。○○年の何月何日には中曽根総理が・・・、1989年の何月何日にあんたのおじいさんがこの家に来てさ・・・、この梅酒は12年前の何月何日に誰と一緒に作ったんだっけ・・・なんで日にちまで記憶しているのかわからないけれど凡人とは脳の構造が違うのである。この家とても古く、且つ物で溢れている。僕がちょっと片付けようとすると、元教授は烈火の如く怒り出す。ただただモノが溢れているようにしか思えないのだけれど、自分だけが分かるものの配列があるらしい。

先日その家の床下に耐震診断の師匠である大工の金井さんと一緒に潜った。金井さん曰く、「床下に潜るのは好きじゃないと。好きじゃなきゃこんなことやってられないよ。今日はどんな基礎、土台が見れるかなあというワクワク感なんだよね。」

床下に潜るとやたらに瓶があった。まだ飲めそうな梅酒もあった。(これはさっきの梅酒である)床下にあるいろいろなものはなんとなく一家の歴史を垣間見させてくれる。そして建築に関しても基礎の作りを見れば増築の歴史も手にとるようにわかるし、大工さんの気持ちもなんとなくわかる。

経済だけでいろいろなモノが評価される時代であるが、人にとって大切なものとはなにかを考えると決して一番はお金ではない。僕が遊びにいくと必ず100歳のおばあちゃんも参加させ、おばあちゃんも一緒に日本酒を飲みながら昔話をさせる元教授の思い、そしてそういうことをする場となる家とそこにあるいろいろな物たち、こういうものこそが人の歴史であり、大切な物であり、幸せなんだろうなあと思うのだ。

ちなみに金井さんの家も元教授の家と同じくらいにもので溢れている。そして大切なお母さんと一緒に暮らしてもいる。大切なものを大切だと思う心をなくしやすい時代にあくせくと生きているとどうしても忘れてしまうことがある。もちろん僕も忘れがちなんだけれど、金井さんにはその大切なものをなんとなく教えてもらったような気がする。

もっと自由に家を造ろう

2022/05/20

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
朝礼終了後各プロジェクト打ち合わせ。
石山修武先生の作品に、開拓者の家というものがある。この作品は長野県の菅平に草原の中に、コルゲートパイプという材料を用いて楕円形のパイプを作り、その両側に壁を設けて住宅としているものである。基礎を持たずに、砕石を積み上げた上に置いてある。動かないようにワイヤーで引っ張られているだけだから、基礎を持たない建築、つまりは仮設建築のごときものだ。この住宅は一人の男性がセルフビルドで作り上げた。もちろん石山先生もそれにどっぷりと参加していたのだろうけれど、素人が自分の作りたい家を自分の力で作り上げた建築であり、さらには何とも言えない造形美が出来上がっている点でもとても面白い建築であるのだ。数年前に僕がお邪魔した時には、クライアントがこの家を大切に使い続けていた。おそらく今でも同じように使用しているのだろう。住宅というのは自分自身のものである。自分の暮らす場所をどのように作るかは自分で決められるのが一番良い。このコルゲートパイプの家は、普通の住宅と比べることはできないものである。でもこの家の住人のSさんにとっては、他のものでは変えることができない最高の居場所なのだ。もっと自由に家を造ろう、というますいいの理念の発祥のような建築を一つご紹介したい。

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島根県研修二日目

2022/05/17

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
島根県研修二日目。今日は石見銀山にある中村ブレイスさんと石見銀山郡言堂さんの訪問した。この地域は人口がわずか500人程度しかいないのだけれど、そのうちの100名ほどがこの二つの会社で働いているという、とても珍しい状況が出来上がっている。中村ブレイスという会社は義足や人口的な手や皮膚などを作っている会社である。創業者の中村会長と現社長にお会いしたが、優しい人柄がとても素晴らしい。社員さんたちは黙々と作製作業に没頭していたけれど、皆様とてもご丁寧に対応していただいた。

石見銀山に向かう坂を上がっていくと両側に古い古民家が建ち並んでいるのだけれど、これらの古民家はなんとまちづくりのために中村さんが買い取って改修工事を施しているというから驚いた。義手義足という事業で得た資金を使って、地方の本当に小さな街をとても魅力的な状態に作り上げていく、なんとも高貴な行いに感動した。

中腹にある群言堂さんに入るとそこは緑豊かなカフェである。古い古民家を改装したお店ではこだわりの洋服などが販売されている。店員さんに声をかけたら、なんとつい最近小田原から移住したそうだ。

調湿炭(炭八)

2022/05/16

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日はいくつかの企業を視察に行くために朝一番で羽田空港に向かい、島根の出雲空港行きのJALに乗り込んだ。11時ごろ出雲空港に着くと、すでに前日から来ている仲間が出迎えてくれた。始めの目的地は出雲土建さんである。この会社はますいいでも使っている調湿炭(炭八)を製造している会社で、今日はその工場を見学させていただいた。先日も木造の住宅のリフォームの際に床下に敷き詰めたのだが、よくわからないけれどなんとなく湿気が多いと言うような状況の建物ではなかなか効果があるようだ。なんとなく湿気が多い建物というのは、例えば周りを囲まれていて風通しが悪いとか、敷地内に降った雨がどこにも抜けることができないようになっているとかの事情があることが多いのだけれど、そういう根本的なことを解決しようとするとすごくお金がかかる場合などもある。それに比べると、炭八を式並べれば良いというのはそれほどコストがかからないのでおすすめの方法なのである。

アパートの天井に炭八を敷き込み、室内環境を良くしているモデルルームを案内していただいたが、湿度が安定している様子を実験で示していただいているのでとてもわかりやすかった。今後も何かと利用するつもりの建材なのでご紹介する。

リフォームの打ち合わせ

2022/05/12

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は東京都東村山市にてリフォームを検討中のUさん打ち合わせ。断熱性能を向上させたり、耐震性能を向上させたりを目的にする大規模改修工事であるが、なるべく費用を抑えながらも暮らしやすいプランとするように間取りの変更なども提案している。昔の住宅は大抵の場合お風呂場が狭かったり、キッチンが孤立していたりする。当時のスタイルではそれが当たり前だったのだろうが、それが今の暮らしには合わないと言うケースは多い。水回りは毎日使うものだから、そこでのストレスはとても大きなものになってしまう。断熱もしかり。冬になるといつもいつも寒いと感じ続けて暮らすことは大きなストレスとなる。そして健康を害する原因にもなってしまう。コロナ禍のちょっと先が見通せない時代になったことで、リフォームの依頼はとても増えた。せっかくお金をかけてリフォームをするのだから、本当にやってよかったと思える設計を考え尽くしたいと思う。

茶室の床柱を買いに

2022/05/09

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は埼玉県さいたま市にて進行中のAさんの茶室で使用する床柱などの銘木を選びに行った。広間の床柱は北山杉の天然絞り丸太である。小間の床柱はこぶしを使う予定だ。ちょうど良いまっすぐなこぶしが数本あったが、小間にはあんまり太い柱は似合わない。直径が3寸弱の柱がなかなか良い肌合いだったのでそれを選ぶことにした。落とし掛けは栗、床框には山桜を使用する。4畳半の天井にあるタレ壁の見切りには2寸丸太の杉を使う。垂木掛けにちょうど良い絞り丸太の切り落としや架に使用する竹も選ばせていただいた。さてさていよいよ茶室の内装工事に入っていく。出来上がるのがとても楽しみである。

古い建築を大切に

2022/05/08

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
日曜日。今日は地元の建築士事務所協会の金井さんという大工さんのご自宅にて耐震診断と補強設計についてのレクチャーを受けさせていただいた。金井さんは浦和高校、大卒、一級建築士の大工さんである。埼玉県の方ならわかると思うけれど、浦和高校を出た大工さんはきっと金井さんしかいないだろう。工務店の3代目として生まれ、きちんと学んで大工さんになった方だからこそ、裏付けされた知識と技術でおそらく日本一の耐震診断と工事を行なっている方である。年は70歳、僕はこの金井さんに耐震診断を学びたいと思って本日のレクチャーとなった。

耐震について考えると、昭和56年以前の住宅の耐震診断と、それから2000年基準ができるまでの耐震診断の二つに分かれる。2000年までは金物の使用が義務付けられていなかったので、筋交はあるけれど弱い建物がたくさんあるのが実情だ。僕は古民家の再生を手がけていきたいと考えているので、もう少し古い建物をイメージしているのだけれど、結局はどの年代も考え方は同じである。地震力や風圧力を受ける耐力壁をバランス良く配置し、木材の接合部を金物で補強し、力のかかる部分に適正な基礎をもうけることで建築は強くなるのだ。古い建築を大切にする建築家として、構造をしっかりと見ていきたいと思っている。

野地板の結露

2022/05/07

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
午前中、埼玉県越谷市にて調整区域内の土地に住宅を作りたいというSさん打ち合わせ。打ち合わせをしようとしていたちょうどそのタイミングで、農地転用の許可申請を担当していただいていた土地家屋調査士さんより電話があり広すぎる土地に小さな建物を作るのはどうにも農地転用の許可が降りなさそうだという報告を受けた。仕方がないので、カーポートを作ったり、住宅を少々大きくしたりの設計変更をしなければならないことに。スタッフが夜鍋をして作ってくれた模型が無駄になってしまった。ごめん、若者たちよ。次回また頑張ろう。

午後、埼玉県さいたま市にて住宅のリフォームを相談されているKさんのご自宅調査。20年ほど前に横浜のツーバイフォーの会社に作ってもらった住宅の屋根の合板が結露で腐ってしまっているということで原因や改善方法などについての調査を行なった。木造住宅は健全な状態を保つ頃ができれば100年でも持たせることができるが、結露などの症状を抑えられなければ20年でこんな状態になってしまう。こういうことを防ぐにはしっかりと屋根の通気を確保してあげる必要があるのだけれど、この住宅ではそのような措置を施していない状態であった。この状態では一部の屋根を剥がして野地板からの交換が必要となる。次はこのような結露を起こさないようにしっかりと直してあげたいと思う。

芍薬畑の老夫婦

2022/05/05

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
連休最終日の今日は久し園の先にある2反ほどの土地を借りて長らく畑をやっている。とはいうものの最近なんだか忙しく、あんまり自分で行くことはできていない。今日は連休最終日、久しぶりに畑の作業を行うことにした。行きつけのホームセンターで苗を数本購入し、畑に植え付ける。雑草はあんまり増えていなかったけれど、それでも草刈り機を1時間ほど動かした。畑の隣で何十年も芍薬の栽培をしていた老夫婦がいたのだけれど、昨年でやめてしまった。どうやら地主さんが産廃屋さんに土地を貸してしまったらしい。なんとも悲しい限りである。その芍薬畑の老夫婦にいただいた根から見事に花が咲いた。少ないけれどひきつづことができたのがとても嬉しかった。大きな花を見ていると、去っていった老夫婦の大きな手を思い出す。長年の野良仕事に耐えたお大きなグローブのような手であった。

1日の始まり

2022/05/04

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は雲取山参考二日目。本当に久しぶりのテント伯山行とあって、体には疲れが溜まっているようだ。特に足の筋肉の疲労が顕著である。もう少し体重を落とさないと長期間の縦走はできそうにないなあと思いながら、なんとか今日は無事に降りれそうでもあった。山の朝はとても空気が綺麗だ。もう凍てつくような寒さはないけれど、それでも明け方は氷点下まで気温が下がる。そういう空気の中で息を吸うと、肺の中までスーと冷やされるような感じがする。次第に明るくなるとあちらこちらで鳥の囀りが聞こえ始める。今日という1日の始まりだ。たくさんの命が活動を始める。そして夜行性の動物たちは逆にひっそりと息を潜めるのだ。
ところで長い下の途中、娘の靴底がついに剥がれてしまった。10年くらい経った登山靴はそこが剥がれる。これは紛れもない事実だ。僕は初めての経験だったが、皆さんも注意していただきたい。

奥多摩・雲取山

2022/05/03

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
連休3日目ということで奥多摩の雲取山に1泊2日の山行に出かけた。東京都で最も標高の高い山で標高は約2000mほどである。上り下りが1600mの鴨沢からの往復コースを選択したが、流石に日帰りで踏破するほどの脚力はない。トレイルランの方々は涼しい顔をしてこのコースを往復しているけれど、あの体力はすざまじいものがあると思う。ゆっくりと登っているといよいよ雲取山頂への稜線が見えてきた。珍しく一緒に来てくれた次女は太ももが攣って少々辛そうにしているけれど、この素晴らしい稜線歩きを楽しんでくれているようだ。山を歩いていると、普段の暮らしの中で感じる自然という存在がより身近なものになってくる。例えば熊が出たらどうしようの不安だって、都会にいれば全く感じないが奥多摩に来れば出会っても不思議ではないわけだし、現に今年に入ってからすでに二件の目撃情報もあるようだ。新緑の木々が芽吹き、さまざまな命が溢れんばかりの生命力を感じさせる。あちらこちらにあるシカのフンや足跡もすぐ近くにある自然だ。地球に暮らす一員としてテントを張って地面の上で寝て、夜空に浮かぶ星を見ると本当に山に来て良かったなあと思うのである。

 

 

上棟式

2022/04/30

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は埼玉さいたま市にて進行中のAさんの家の上棟式を行った。実際の上棟からは結構工事が進んでいるが、神主さんや大工の本間さん、左官屋の塙さんも交えての式である。お施主様の側もご兄弟や甥御さん、ご主人様もご一緒に現場にて顔を合わせる良い機会となった。この建物は茶室である。茶道という道を歩む舞台としてしっかりと神事を執り行うことで、なんとなくこの建築の場自体が清められたような気がした。今後も安全に作業を進めていきたいと思う。

玄関へのアプローチ

2022/04/29

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は埼玉県上尾市にて計画中のTさんの家打ち合わせ。今日が2回目のプレゼンテーションということで、前回のプランへの様々なご要望を反映させる形での変更案を提案させていただいた。今回のプランでは玄関へのアプローチと、2階に配置したリビングとウッドデッキの関係にとても配慮してデザインを行なっている。
玄関へのアプローチというのはとても大切なもので、家に帰ってきたときに外界から住宅へ向かう意識の変化を感じる場所だったり、家にお招きしたお客様を玄関まで誘導する迎え入れの装置だったりする。そこにはある程度の距離、緑、奥へと続く伸びやかさ、照明などが適切に配置されることが良い。奥の方の外壁に見える家の中の灯りも大切な要素だ。下の写真は僕の家のアプローチの様子である。ちなみに外壁についている鉄製の照明器具は僕が書いた円相をアーティストさんに写していただいたものである。こんな物語を埋め込むこともまた家づくりの楽しさの一つである。

耐震診断の調査

2022/04/28

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は、埼玉県川口市のIさんの家にて、耐震診断の調査を行なった。Iさんの家はもともと平屋だったところに、2階が乗せられて、そして最後に2階建ての9尺かける3間が付け加えられるというなんとも複雑な状況となっている。今回は本格的な耐震改修工事を行うにあたり調査を始めた次第である。
まずは2階の小屋裏を確認する。小さな点検口から頭を入れると小屋裏には、2回の工事の接合部が見える。無理矢理の接合の様子や、時代によって入れられている筋交の存在、金物の有無などの情報から当時の大工さんの心情を読み、耐力を推察する作業はなかなか楽しい。次は1階の天井裏であるが、ここは意外と空間が広かったので天井を踏み抜かないように注意しながら梁の上を歩き回っての調査であった。ネズミの糞やら、木舞壁の竹を編んだ様子やらを確認しながら、やはりここでも筋交や金物、そして梁が途中で途切れてしまう上部構造なしがないかなどを確認した。最後に入るのが床下である。床下は匍匐前進で進むのだけれど、基礎のひび割れや有無、土台の腐食など多くの情報が手に入る。そしてここが一番いろいろなものが出てくる場所でもあった。なぜか古い瓶、レンガ、などなど・・・、邪魔なものは掃除してあげての調査であった。
外部では鉄骨の避難観測所の骨組みが組み上がっている。水害への備え、そして地震への備え、この両輪を満たせば古い家でも十分使うことができる。古いものを大切にする行為はとても尊いものだと思う。そして僕にとってもとても正しいことに協力しているような気持ちになれるとても大切なことであるのだ。こちらの写真は見事なので掲載しておこう。

 

山辺の構造

2022/04/25

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は構造家の山辺先生をお招きして、ますいいリビングカンパニー構造研修を開催した。山辺先生は「山辺の構造」なる書籍を出されている木構造の権威であるが、とても親しみやすく物腰の柔らかなお方である。全4回シリーズの勉強会の初日は、構造の基礎についてのお話をいただいた。今の日本の大学教育では、どうしても木造についてのレクチャーが欠けている。そして社会に出てみると、その木造に関わる機会はとてつもなく多い。特に2階建ての建築までは4号特例という範囲の中で、仕様規定に基づく壁量計算などの簡易計算で造れてしまうので要注意だ。そこで一人一人の技術力を高めるべく、全員参加での研修会を開催した。良き学びを大切にしていきたいと思う。

成長しない自分の心

2022/04/24

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は埼玉県川口市にある錫杖寺さんにて、茶筅供養の茶会に参加させていただいた。このお茶会は2代前の永瀬市長さんが始められた歴史ある茶会だということであるが、僕は初めての参加である。しかも、濃茶のお点前というとても大切なポジションということで、なんだか朝からソワソワ、手のひらにはなんとなく汗が滲むような心持ちであった。
茶会の点前で緊張し手が震えて抹茶を掬うことが出来ない経験・・・、わからない人にはわからないと思うけれど、本当に笑ってしまうくらいに手が震えることがあるのだ。そして大抵の場合、それはその日の1席目に起こる。2席目以降は慣れて落ち着くから、大切なお客様は2隻目以降に来てくれれば良いと思うのだけれど、そういう人に限って大体1席目に入る。緊張するお点前さんを気遣い、あまり視線が集中しないように会話でそらせてくれるのだけれど、それでもどうにもならない場合は茶杓を清めたところで震えが止まるのを待つしかない。1秒、2秒・・・なんだかとても長く感じる時間、誰も見ていないのだろうけれど、でも視線を上げて確かめることもできない時間、それでもダメならエイヤーとお茶を掬い出すしかない。そしてその一部は大抵畳の上に・・・。成長しない自分の心と向き合いつつも、なんだか妙な達成感を味わえた1日であった。

古民家の再生

2022/04/20

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は名古屋にある勇健工業さんを訪問させていただいた。勇健工業の加村さんは左官の世界ではとても有名な方である。そしてもう一つ古民家の再生の世界でもとても活躍をされている。今回は築100年の古民家の再生を進める手法を学べく訪問させていただいた次第である。
古民家の再生という仕事はとても魅力的な仕事だと思う。そしていつか関わりたいと考えていた仕事だ。曲がりくねった梁や太い柱の力強さを見ていると多くの人は縄文的なパワーを感じるだろう。こういう空間での暮らしは如何に?を考えると、先日見学させていただいた奈良県のKさんの家を思い出す。文化財として登録されているご自宅で、何代にもわたって変わらぬ空間での暮らしを営んでいるお姿には、なんだかとても強い意志のようなものを感じたし、その空間は僕にとってとても魅力的であった。年月の中で染み付いたい黒光する古材の魅力を生かした再生を是非手がけてみたいと思うのである。

荒川の氾濫に備えて

2022/04/19

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
埼玉県川口市にて進行中のIさんの家の避難観測所の基礎工事が始まった。ここ川口市は荒川の氾濫時に水深が4mほどになる。この避難観測所は十字型の基礎の中心に立つ鉄骨造一本柱の上に木造の小さな小屋を乗せ、いざというときに2階の窓から避難できる装置である。平常時は小さな小屋の前にあるテラスに出て星の観測ができる、なんともロマンチックな小屋なのだ。

世界には目に見えるものと目に見えないものがある

2022/04/16

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
昨日から裏千家の行事に参加するために京都に滞在している。裏千家というのは千利休から始まる茶道の流派の一つで、表千家、武者小路千家と並んで三千家と称される。僕は元々茶道を嗜んでいたわけではなく、たまたま千玄室大宗匠の講演を拝聴し、日本の伝統文化を知ることで建築を通して日本の街並みや歴史を形作ることに貢献できるようになりたいと思い、今から11年ほど前に習い始めた。初めは先生など知る由もなく、裏千家の総本部から紹介していただいた先生について習い始めたが、その先生も今年の初めに社中を閉鎖してしまったので今は先生がいない状態となってしまった。
なんでもコロナの影響から社中を閉鎖してしまう先生はとても多いらしいというから驚きなのだけれど、文化というものは緊急時にはどうやら蔑ろにされがちなのかもしれない。まあ様々な事情で辞めるという選択をされる方が多いのだとは思うが、僕はこういう時こ文化の如き精神の柱となるものが重要だと思う。世界には目に見えるものと目に見えないものがある。そして目には見えないものの方が圧倒的に多く、そしてそれらによって人は幸せとか不幸とか、つまりさまざまな状態に変化してしまうものである。人はこういう現象を運が良いとか悪いとかのように表現するが、それは結果を端的に表しているだけで、実は目に見えないものたちから働く力学によって起こる必然なのだと思う。文化は目には見えにくいものの一つだが、確実に様々な力学を発することができる何かであると思うのである。
下の写真は、裏千家の今日庵の兜門である。たかが門、されど門。色々な方の思いが詰まる場所なのである。

古い診療所の建物をリノベーション

2022/04/14

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
夕方、今度川口市内で開設される保育園の内装工事に関する設計業務打ち合わせを行なった。この保育園はコマームさんという地元川口市の事業者さんが4月から運営することになったところで、川口駅から歩いて15分くらいのところにある古い診療所の建物をリノベーションして作る。すでに元々あった内装などの解体工事は始まっていて、その工事に引き続いて新たな内装を作る予定だ。なんのご縁か知らないけれど、川口市の保育園の施設認可に関する審議業務をかれこれ4年間も行なってきたのだけれど、実は保育園の設計は初めてである。すでに四十件以上の施設の認可をしてきただけに目だけは肥えてしまっているので、予算オーバーしないように注意しながら設計をしていこうと思う。

この写真は世界最貧国と言われるネパールの保育園だ。貧しいというのはどういうことなのだろうかと観察していると、もちろん収入も低く、装飾品や車などといった物量も少なく、建築などの工事の質も低く、水道や下水の整備も進まず、病院などの数も少なく、歯医者などどこにあるかわからず、汚職は蔓延り、たまに内戦が起きたり・・・とにかく今の日本と比較することはできないような状況なのだけれど、こと保育園に関してはそれほど状況が変わらないということに驚いたのである。逆に言えば日本は保育園という施設に対して、少々手を抜きすぎのような気がするのだ。直接的な生産性はないが子供を育てるというのは国の未来を作ることに等しい。その施設が最貧国のネパールと似たり寄ったり・・・、これはなんとかした方が良いと思うのである。

2022/04/12

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
午後、スタッフの上原くんと一緒に埼玉県吉川市にて計画中の弓道場のあるSさんの家打ち合わせ。約9坪の平面の中に居室と弓道場を併設し、弓が走る外部のエリアは畑として利用するというなんとも楽しげな計画である。今日は断面計画の検討を行なったが、続いて模型の作成に進んでいきたいと思う。

下の写真はセルフビルドで家を作るIさんの様子である。この計画ではなるべく自分でできる部分を増やすためにログ積みの構造を採用した。今回は在来木造の中でどれだけセルフビルドができるかへの挑戦となるであろう。

 

2階にリビングのあるプラン

2022/04/10

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
午前中は東京都新宿区にあるリビングデザインセンターオゾンにて、埼玉県蕨市にて古民家の再生を検討中のSさんご家族と打ち合わせを行った。古民家と言える築年数が70年を超えるような建築の再生はどことなくロマンがある。古い梁や柱に刻み込まれた当時の大工による刻みの後や、色濃く染まった構造材の様相は縄文的なダイナミズムを感じさせる力強い意匠だ。Sさんの家も素敵な古民家に再生できればと思う。

午後は、埼玉県上尾市にて新築住宅を検討中のTさんご夫妻打ち合わせ。今日は第1回目のプラン提出ということで2階にリビングのあるプランのご提案をさせていただいた。2階リビングのプランというのは、道路が迫っている敷地においてとても有効である。プライバシーの確保がしやすく、カーテンを閉めたりの必要がないリビングを作ることができる。
今回の土地は比較的広いので1階リビングでもプライバシーの確保ができる可能性もあるので次回のプレゼンではそちらの案も考えてみたいと思う。
写真は東京都町田市に建てた2階リビングの家の外観である。ウッドフェンスがその向こうにある大きな窓のプライバシーを確保している。

2022/04/09

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は新入社員の歓迎イベントで名栗湖の近くにある河原でのバーベキューを行った。毎年新しく入った社員とその家族をお招きしてのイベントをやっている。どんな会社で働いているのかをご家族にも見ていただこうという趣旨なのだけれど、これがなかなか盛り上がる。この湖は、有間川に設置された有馬ダムによって誕生したダム湖である。周辺には温泉や名栗カヌー工房、そして今回行った有間渓谷観光釣場があるが、先日登った棒の嶺もこの近くだ。近くにある山を見ながら「登りたいなあー」と思いながらも今日は肉を焼く係に徹して過ごした。幸いお天気にも恵まれて、新緑の自然を楽しんでいただいただろうと思う。これからも少数精鋭、良い家づくりに向けて最高のチームを作っていきたい。

完成しない方が良いもの

2022/04/08

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
以前、スペインのバルセロナに行ったときにサクラダファミリアの尖塔に登った。この教会は初代建築家フランシスコ・ビリャールが無償で設計を引き受け、その後を引き継いで2代目建築家に就任したガウディーが今の姿を設計した。いつ完成するかわからないと言われていた建築、スケッチに基づいて多くの人が魂を捧げて作り続けている建築であった。尖塔を登っていてもあちらこちらで工事中、それもまるで彫刻を制作しているかのような様相である。技術の進歩により2026年に完成するということであるが、こういう建築は完成しない方が良いような気もした。IT技術が進歩し、昔のようなある特定の空間が力を持つことが出来ない時代に建築が特別な力を持つとしたら、それを作るという行為の中にあるような気がする。そしてこの感覚は、自分の家を自分で作るという住宅のセルフビルドにも通じるものであると思うのである。

仏教とともに残るもの

2022/04/06

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は東京都豊島区にある本納寺さんの増築工事の打ち合わせに出かけた。以前屋根の瓦の吹き替えを行った本堂の裏に、物置スペースを作りたいという内容である。既にある3畳ほどの物置とその前の2畳ほどのスペースを合わせて5畳くらいの物置にするのだけれど、床の高さはそれぞれのスペースで微妙に違うし、複雑にかかる屋根をどのように処理するかがなかなか難しいのである。

この本堂の屋根の吹き替え工事を依頼していただいたのはもう3年ほど前になるだろうか。初めてお寺の出入りを始めさせていただいたのがかれこれ10年ほど前、お寺の工事をやったことはないけれど、社寺仏閣は建築に携わるものにとっての夢の舞台なのでぜひと行って以来のお付き合いである。その想いは今でも同じ、自分の命はいつかは終わるがこういう建築は、仏教とともに残るものであるからとても大切にしていきたいと思うのである。下の写真は瓦を吹き替え、宝珠を交換した時の写真である。

良い建物はやっぱり良い施主がつくるもの

2022/04/05

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
今日は事務所にて各プロジェクトの打ち合わせを行った。下の写真は10年ほど前に埼玉県の川島町で作ったアスタリスクというカフェである。会社を早期定年退職で辞めた後、退職金で新築の住宅とカフェを手に入れたいという一見無謀とも思えるような計画であった。土地を700万円くらいで先に買ってしまったので、建物の予算は1200万円ほどしかないという。これで本当にできるのかの不安を感じたものの、施主のHさんご夫妻の熱意を感じるうちにこれならできるだろうの予感がしたので請けることにした。カフェは見事に完成した。そして埼玉県ではとても人気のあるカフェとなったのである。
良い建物はやっぱり良い施主がつくるものだと思う。お金の額はあんまり関係ない、良い施主の強い思いとそれを実現させようとする僕たち建築家の熱意が合わさって初めて出来上がるのだ。

Kさんにとって本当に良いデザインの住宅に生まれ変わらせたい

2022/04/04

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)
午前中、埼玉県さいたま市にてリフォームを検討中のKさんご夫妻打ち合わせ。ツーバイフォーの建築の間仕切り壁を撤去して一部屋にしたい、床の撤去をして大きな吹き抜けを作りたいなどのご要望なので、構造計算をしながらの丁寧な設計が求められる仕事である。なるべくご予算を抑えながら対応させていただければと思っている。
下の写真は、以前作ったお寺の用務員さんの家である。お仕事柄、大工工事も塗装工事もなんでもできる、いわゆるセルフビルダーである。そのSさんがこだわって、そしてなるべくコストを抑えながら作った住宅がこの家だ。外断熱を採用しているので、内部の構造は剥き出しにされている。構造がそのまま建物の魅力となっている力強い表現だ。間柱と間柱の隙間は、自作の棚によって本棚などに利用されている。キッチンは自らの持ち込み、写真に映るテーブルももちろん自作である。床の土間には実は温水パイプが埋設されていて、太陽光で温められた温水を利用して床暖房が利用できる。まさにアイデアの詰め込まれた住宅、施主が家を本当に好きで、心から楽しみながら作った住宅といえる。

Kさんの家もとても大切に使われているいい家だ。その家を見れば愛されているかどうかはすぐにわかるものだ。こういう家のリフォームをすることは本当に光栄なことである。この先も一生使い続けることができるよう、Kさんにとって本当に良いデザインの住宅に生まれ変わらせたいと思うのである。

建物に対する愛着を高める

2022/04/02

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅を造っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)

今日は埼玉県伊奈町にて設計中のTさんの家の契約前打ち合わせを行った。設計と見積もりを終え、金額調整最終段階ということで、セルフビルドの範囲を決めたりの話し合いを行った。
ますいいでは普段からセルフビルドを多く取り入れている。これはもちろんコストダウンにつながるわけだけれど、それ以外の効果もある。例えば漆喰塗りをセルフビルドで行えば、暮らしている中でお子様が壁を汚してしまったとしても、自分の手で塗り直すことができる。多少のひび割れが発生しても、自分でその穴埋めを行うこともできる。タイルなどは一度経験してしまえば、住みながらにして洗面所にも新しいタイルを貼ってみようなどの模様替えも可能になる。それに自分の家を自分で作るという行為を行うことは、建物に対する愛着を高めることにもつながることとなるのである。

なるべく費用を抑えて

2022/03/30

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、注文住宅を中心に丁寧にデザイン設計を行います。(東京都町田市、群馬県高崎市にも分室があります。)
東京都東村山市にてリフォームを検討中のUさん打ち合わせ。大規模改修をするか、はたまた新築住宅を作るかの検討をしているのだが、その判断基準として将来住宅を売却するときの価格についてお話をした。例えば築年数が30年の住宅を2000万円の費用をかけてリフォームし15年後に売却するとする。土地の価格が3000万円だとして、そこにリフォーム費用なるべく多くを上乗せして売りたいと思っても、築年数が45年の木造住宅はそうそう簡単に売ることはできない。日本では木造住宅の寿命は30年程度と思われており、文化財のような特別な建築を除いては建物価格を上乗せして不動産取引が行われることはほとんどないからである。それに対して、欧米では古い建築を手入れしながら住みつぐという文化があるので、古ければ古いほど価格があがる国もあるのだが残念ながら日本はそうはなっていないのだ。

日本でも古い建築が価値を持ってくれれば良いと思う。そのためには新築時点でのより良い住宅の設計が不可欠であろう。構造、断熱、素材、・・・さまざまな要素が100年の使用に耐えうるという想定で設計することが求められるわけである。最近はますいいで作った住宅の再販の事例も増えている。下の写真はもう18年ほど前に作った住宅だが、数年前に持ち主が変わった。そして新しい家主さんからはリフォームの依頼を受けている。こういうことに丁寧に対応していくことは環境にも良い。そしてとても良い種類の仕事だと思うのである。

Uさんの家、リフォームでも新築でも良い仕事をできればと思っている。リフォームならばなるべく費用を抑えて作ってあげたいと思う。

 

 

予約制モデルハウスの我が家

2022/03/29

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、注文住宅を中心に丁寧にデザイン設計を行います。(東京都町田市、群馬県高崎市にも分室があります。)
今日は埼玉県さいたま市にてマンションのリフォームを検討中のNさんご家族が、僕の家、つまり今モデルハウスとして予約制で公開している住宅を見学に来てくれた。公開しているのは2階のリビングと1階の水回り、そして茶室である。1階は鉄筋コンクリート造としているが、これは荒川が氾濫した際の水害に備えてのことである。2階から上は木造住宅だ。やはり住宅は木造の方が住み心地が良い。この住宅は中庭を介して2世帯住宅となっている。中庭部分は細い廊下で繋がっているだけなので、構造上の弱点となっている。この廊下部分の床には鉄骨の補強ブレスが仕込まれているのだけれど、地震が起こるとそのブレスが頑張ってくれているのがわかる音がするのが面白い。少々の説明の後、薄茶を差し上げて次は現場の見学に移動した。

初めての茶事

2022/03/27

埼玉県川口市にてデザイン性の高い注文住宅を建設する、工務店機能を兼ね備えた設計事務所を営むますいいリビングカンパニーの増井真也です。
今日は我が家で行う初めての茶事を行なった。お客様としては旧知の某大学の先生、千葉県でいつも年末の釜にご招待いただいている先生、そして川越の先生である。11時に席入りなので、15分ほど前にお客様がくる。待合で白湯を出している間に、僕は茶室で炉の中を整える。準備ができたら迎え付け。さあいよいよ後戻りはできなくなってしまった。隅点前を終えると、素飯を差し上げますで懐石の始まりである。菓子、濃茶、そして薄茶と全ての工程が終わる頃にはドット疲れ果ててしまう。やはり慣れないことをするのは大変なものだ。でもお客様には喜んでいただけたようで、何よりの達成感であった。亭主1回、客100回という言葉があるそうだけれど、僕は100回のお客様分の勉強ができたのだろうか?

今日で21年目の長い道のり

2022/03/24

今日は1年間取り組んできた川口グリンセンター内シャトー赤柴大集会堂の基本設計の納品を行った。このプロジェクトは明仁上皇陛下が皇太子時代に宿泊をしたことがある洋館風建築である。それ以来はレストランや結婚式場などの用途に使用されてきたのだけれど、老朽化によって最近は空き家状態であった。今回のプロジェクトでは、利活用の提案も含めてリノベーションの基本設計を行なっている。構造に関しては約1500平米ほどの2階建ての鉄筋コンクリート構造の強度や中性化の破壊試験なども行なった。50年経った建築が意外なほどに健全な状態を保っていることが分かったのだが、これを当時建てた会社が僕が以前勤めていた戸田建設であるということもまたなんとなく運命を感じるのである。

ちなみに今日はますいいの本社を2001年3月24日に使用開始して以来、21年が過ぎた記念日でもある。あっという間だったけれどよくこれだけ長く続けることができたものである。ますいいリビングカンパニーは工務店機能を兼ね備える設計事務所として運営している。今では丸太の製材、吉野や八溝の山とのお付き合い、社員大工さん、そしてこうした公共建築の設計なども手がけるようになった。これも一緒に仕事をしていただいている社員と協力会社さん、そしてますいいを信頼して仕事をご依頼いただける皆様のおかげである。これからも精一杯建築家の道を精進していきたいと思う。

気配をデザインする

2022/03/23

窓辺に座って外を眺めるのが好きな人は多いだろう。ともすると隣の家の人と目が合ってしまうところが都会の住宅の困ったところなのだけれど、まあそんな変化も窓がなければ感じることができないわけだから、窓のというのはとても大切な存在であると思う。窓からは色々な光が入ってくる。直射日光だけではなくて、北側の窓から入り込む安定した反射光もまた魅力の一つだと思う。緑が見えたりのご馳走があればなお良しだ。

僕の家の北側の窓はとても大きい。アルミサッシだけれど内側に木製の飾り枠を設ることで木製建具の如き感じとなっている。家の玄関に向かう路地の一番奥にある窓だから、家族が帰ってくるとその気配が伝わってくるのも良い。窓の設計をすることは、ただ単に壁に穴を開けることではない。その家の暮らしの中で感じる、家の内外双方の気配をデザインすることだと思う。

丹沢山登り

2022/03/20

今日は丹沢にある塔ノ岳という山に登った。昨年から地元の先輩に誘われたことをきっかけに山登りを再開したのだけれど、中学高校山岳部時代のようにはなかなか行かないものだが、ようやくコースタイムにして8時間ほどの一日の山行としてはロングコースと言われる山に登ることができた。今日は風のない穏やかな日だった。でも登り初めからずーっと何だかよくわからない音がどーん、どーんと聞こえていた。これは雷かなと思いながらも、天気予報では晴れマーク、道ゆく人に尋ねてみると「自衛隊の軍事演習だと思いますよ」の答えが返ってきた。世界ではウクライナとロシアの戦争が行われている。遠い世界の出来事だけれど、日々その映像が自然と目に入る。SNSなどの情報は個人の意思で世界中を飛び回ることができるから、遠い世界のこととすぐ身近で起きていることが、同時並行的な情報として知覚されるわけだ。東富士演習場から聞こえてくる大砲の音とウクライナで響くミサイルの音が何となく被ってしまい、何だか不思議な感覚になった。平和というものの尊さや、それがプーチンのような人間の一瞬の判断によって奪い取られてしまう不思議を感じながらの山歩きであった。

 

たまに米の研ぎ汁で磨いてあげる

2022/03/19

埼玉県伊奈町にて設計中のTさんの家の打ち合わせ。このプロジェクトはTさんの奥様の実家に、Tさんご家族が同居するための炉フォーム計画である。都心から程よい距離を離れたちょっと田舎に移り住み、畑を耕したりの自由を得ながら暮らす「田舎暮らし」を快適に行うための設計を進めている。もちろんますいいの得意なセルフビルドなどを積極的に取り入れて、コストダウンを図っているが、床の唐松無垢材などの自然素材にはこだわりを持って設計しているところである。

群馬県中之条市で製材している唐松のフロアリングは僕のお気に入りの素材の一つだ。この写真は僕の自宅であるが、ここの床にも使用している。建てて2年ほどになるが、色合いも落ち着いてきた。たまに米の研ぎ汁で磨いてあげると自然な艶が出てきて良いのでおすすめだ。

アイデア、そしてアイデア

2022/03/17

埼玉県川口市で設計中のNさんの家の擁壁工事についてのスタディー。このプロジェクトでは、道路より1200mmほど下にある敷地地盤に擁壁を作って嵩上げする予定だ。川口市という場所は元々低地であるので地盤は悪い。地盤の悪いところに擁壁を作るとなれば、それなりの地盤改良が必要となる。構造設計者との協議では平米あたり5.5トンの地耐力が必要だということだけれど、ギリギリでの施工は地盤の沈下が心配なので7トンの地耐力を実現することができる改良方法を検討することにした。

この擁壁は現場打ちコンクリート擁壁である。既製品の擁壁を並べるだけの工法もあるがこちらは必要とされる地耐力が現場打ちの場合よりも大きくなってしまう。現場打ちということは敷地の外での作業が必要となるので、隣地の許可を得たり駐車場の車を移動していただいたりの調整が必要となる。それがもし叶わない場合には、やっぱり既製品擁壁をうまく利用することも考えなければいけないかもしれない。下のスケッチは直接7トンの地耐力が出せない場合のアイデアだ。擁壁の下に幅広のスラブを作りう、そのスラブを7トンの地盤で支えることでその上に置かれた既製品擁壁の傾きを抑えようという考えだ。これはこれで二つのコンクリート塊をいかに固定するかの工夫も必要となってしまうのでもしもの時の第2案としてとっておくことにしよう。

保育園の設計コンペ

2022/03/15

川口市で募集している保育園の運営事業者選定コンペに設計者として協力している。僕は決して保育園の設計を専門としているわけではないのだけれど、実はもう4年間も保育園の施設認可を行う審議委員として活動していて、これまで何十もの保育園の認定に関わってきた。そろそろ新規整備も終わる頃かなあと思っていたら、何とこの設計に事業者として関わることになったのである。こういうケースというのはなかなか緊張感があるものだ。これまで審査している側が、今回は審査される側になる。これまで指摘してきた事項は少なくともクリアしなければならないし、それ以上に魅力的に設計をしたくなるのが人情というものだ。さてさて、これは頑張らなければいけないなあの思いであるのだ。

戦争が終わらない。なぜ人が人を殺すのかと思うけれど、どう考えてみてもロシア人の総意ではなく一人の独裁者による暴挙としか思えない。これはナチスのヒトラーと同じような気もするが、民族主義や帝国主義のような偏った思想で形成された熱狂的なエネルギーのようなものがロシア国内にあるような気は全くしないところが、第2時世界大戦時とは異なるようにも思える。ある力を持った権力者が、国民の意思とは関係ないところで軍を動かし、反対者を処分し、必ずしも士気のない若い兵士たちが何となく戦いをしているという状況と言った感じだろうか。ミサイルで街を破壊する先に一体なにがあるのか。領土を占領することが目的とも思えないし、そうしたところでロシアに格別な何かが起こるとも思えない。まるでアメリカがイラクを破壊し独裁者を殺してあるはずの核兵器は見つけることができなかったあの戦争の時のように、きっとなにもなかったかのように終わるだけなのだろう。

 

家を作ったお客様からのプレゼント

2022/03/14

埼玉県川口市に数年前に建てた中庭のある家のMさんから、「白文字がとても綺麗に咲いたからよかったら見にきてください」のお誘いを受けた。この住宅は二つの中庭を外壁が囲むように作られており、内部と外部(中庭)が木製の建具を介して連続した空間での暮らしを楽しむように設計されている。今日はとても暖かく、中庭ではいついているのら猫が3匹まるで我が家というふうにゆったりと過ごしていた。白文字は黄色い綺麗な花を咲かせていた。まるで桜のように1週間ほどで終わってしまうようだが、まさに四季の移ろいを楽しませていただいた。

 

マンションのスケルトンリフォーム

2022/03/08

埼玉県さいたま市にてリフォームを検討中のNさんご家族打合せ。Nさんはお母さんとお二人で暮らすマンションのスケルトンリフォームを検討している。マンションのリフォームというのはコンクリートの躯体やサッシで囲まれた空間を、どのようにアレンジするかの工夫なのだけれど、今の日本のマンションは何の工夫もない一律の内装パターンで作られているので、まずはそこにどのような暮らし方の個性を組み込むかの検討から始めることとなる。趣味のハープを奏でる場所が欲しい・・・のような特別な行為を心地よく行うことができる場をアレンジできるのがリフォームの楽しいところ。これからの設計を楽しみにしたいと思う。

下の写真は数年前に東京都で行ったスケルトンリフォームの写真である。約1800万円ほどでの改修工事であったが、ご夫婦二人でのびのびと暮らすことができる自然素材を中心とした内装とした事例だ。小上がりはベッドのように使用でき、その下は収納となっている。空間を余すところなく利用した良い事例である。

2022/03/06

今日は埼玉県蕨市にある古民家を訪れた。築90年ほどの古い木造住宅を丁寧に直してこの先も住み続けたいというご相談である。僕は古い建物がとても好きなので、こういうご相談はまさに大歓迎だ。田村と妻と一緒に現場を調査し、どの程度の痛みがあるかの推察や、どのような改修工事が適しているかの考察を行なった。

日本の建築は50年もすると価値がないことにされてしまうことが多い。住宅を丁寧にメンテナンスして、次の世代に受け継ぐという文化がないのは、高温多湿の気候や木造が中心であることが原因なのだろうが、海外では木造の住宅でも何世代にもわたって使い続けられているし、古ければ古いほど価値があるという価値観もあるわけだから、この国でもそうした文化の醸成ができるのではないかという期待もある。でもそのためには受け継ぐに値する建築であることが重要なことで、だとすると僕たち建築家が良いものを作る努力をもっともっと行わなければならないということなのかもしれない。

木製建具とウッドデッキの素敵な家

2022/03/05

午前中、埼玉県上尾市にて新築住宅を検討中のTさんご夫妻打ち合わせ。Tさんご夫妻は昨年上尾市で作ったHさんの家のオープンハウスに来ていただいた時に出会った。土地はすでに購入しているということで、これまでハウスメーカーさんなどにプランを作ってもらったりの検討をしてきたのだけれどどうも気に入った住宅に出会うことができないということで、ますいいに来ていただいたところである。ますいいの好きな住宅のイメージは、南大谷の家とのこと。2階にL字型のリビングを配置し、木製建具を使用した開口部とその向こう側にあるウッドデッキが特徴的な住宅である。素材の味を生かし丁寧にデザインされたとても良い住宅なので、皆様にもご紹介しよう。

 

 

2022/02/28

午前中東京都荒川区にて、集合住宅の改修工事現地調査。この計画は最上階のオーナー住宅の断熱改修工事で、主に開口部の断熱性能の向上を行う予定である。数十年前の新築時に建築家が設計したFIXの大開口がたくさんある建築のために、このたくさんあるアルミサッシの開口部をどのように2重構造にするかが課題となった。中には三角形の大開口まであるのだけれど、こういう設を後から2重にするというのはなかなか大変なことなのだ。今回の計画では内窓が作れるように大工工事で下地を組み、その下地にアルミサッシを取り付けることにした。他にもキッチンの回収などの工事もある。小さなエレベーターで資材を搬入しての工事だけに丁寧に計画していきたいと思う。

 

2022/02/25

ますいいリビングカンパニーでは奈良県の吉野杉と栃木県の八溝杉を中心に国産材の家づくりを行っている。昨今のウッドショックで外材の価格が高騰しているのに合わせ国産材も価格を上げているけれど、それでもまだ国産材の方が安定しているのは明らかだ。国産財は少なくとも戦争の影響は受けないし、下がり続ける円の価値の影響も受けない。こういう混乱期になって今頃気が着くのは遅すぎるのかもしれないけれど、これからでも変わることはできると思う。食料や材木などさまざまなものの自給率が話題となっているけれど、材木に関して言えば早く植林から伐採、そして製材までのサイクルを確立し、林業で生きていける仕組みづくりが求められていると言えるだろう。写真はますいいが材木を仕入れさせていただいている永井さんの製材所の様子である。たくさんの丸太を見るとワクワクしてくる。いい家はやっぱりいい材料でしか作れないのである。

作り手が幸せな現場を作りたい

2022/02/23

ますいいリビングカンパニーでは3人の大工さんが専属で働いてくれている。家づくりはやっぱり大工さんが主役だから専属の大工さんがいるということはとても心強いことである。先日、その大工さんの一人である瀬野さんと話をした。瀬野さんは昨年の木造建築士の資格に合格したという。その日はその資格を交付するための勤務証明などの書類を作るために来たわけだが、大工さんが資格を取得するということはとても前向きで良いことだと思う。「自分の家は自分で設計したいんですよね」の言葉は、家づくりに関わるものとして至極当然の思考だし、それ以外の設計だってできるようになるかもしれないわけだ。
僕は作り手が幸せを感じながら仕事をすることができる空間を実現したいと思っている。作り手が幸せと感じない場で、住まい手が幸せになることができる家などできるはずがない。そしてそれは設計者も監督も大工さん達職人さんも一緒である。家づくりがみんなにとって良い仕事であると心から思えるような場こそがますいいリビングカンパニーであると思うのである。

川口の避難観測所

2022/02/21

今日は埼玉県川口市にて計画してきた避難観測所の工事請負契約を結ぶことができた。この計画は荒川の流域である川口市でもしも河川の氾濫が起きた場合、地上4mの鉄骨造の構造物の上にある木造の小屋に避難することができるようにするというものである。地域の避難所というのは大概が学校などの建築物である。でもこうした建物はその地域の総人口を受け止めるにはあまりに小さく、さらに言えば感染症などの危険がある中で高齢者が利用するにはあまりに過酷な環境となる。本当はそれぞれの住宅の敷地内で避難ができるような装置があることが望ましいことは明らかであり、この計画が完成すればそれを広く知らしめることができると考えている。
掲載の記事は昨年の住宅特集に掲載されたものだ。いよいよ工事が始まるところまで来た。ここからが楽しみなところである。

注文住宅には蒔ストーブを設置したい

2022/02/15

住宅には重心があると良い。重心というのは何かというと、どこにいても家族みんなの意識が向かう場所とでも表現するのが良いだろうか。多くの家ではこの重心にテレビがあるのだけれど、それだとやっぱりなんか物足りないわけだ。僕はそこにストーブがあると良いと考えている。人間は本能的に火に集まる生き物なのだ。炎を見ていると、何となく心や安らぐ。語らいの口調も和らいでくる。時がたつのも忘れるくらい自然で幸せで暖かいひと時、それこそ本当の家族の団欒と呼ぶべきものだと思うのだ。ストーブにはそれを生み出す力がある。だからなるべく設計に取り入れるようにしているのである。

講演会のご報告 茶室四方山話

2022/02/13

ホームページのリニューアルを行なっている。ようやく日記を書くことができるようになったので再開したい。20年分もの日記を新しいページに全て移すことはできなかったので、それについては後日外部ページに公開することにしている。

今日は裏千家の埼玉県青年部総会に参加。約1時間ほどの講演会講師をさせていただいた。テーマは「茶室四方山話」である。ZOOMでの開催とあって、全国北海道から鹿児島まで多くの方々にご参加いただいた。

暮らしの中に馴染む茶室とは一体どんなものだろうかの結論に至るために、闘茶の会所から書院造の茶、鎌倉時代の草庵、そして珠光・紹鴎・利休に至る侘び茶室に関する解説をした。そして利休の茶室はブリコラージュの手法を用いているという結論で締めた。現代に生きる僕たちが造るべき茶室はまさにこのブリコラージュで良い。伝統の中にある高価な素材を全て使う必要などなく、今の時代に手に入るものを現場の即興でデザインし、なるべく安価で無理のない茶室をつくることが本来の姿であるのだ。利休の時代はまさに戦国、コロナ禍の不安定な昨今とても参考になる何かを含んでいる気がする。こんな時代に茶室を造る意味・・・そんな答えに少しは通じることができたような気がする。

(待庵の作られ方を想定したCG)

東京都東村山市にて設計中のUさんの家打ち合わせ

2022/01/24

東京都東村山市にて設計中のUさんの家打ち合わせ。今回の打ち合わせではリフォームの計画と新築の計画の二つのプランをご提案させて頂いた。

新築プランでは中庭のある住宅を考えている。以前作った中庭のある家では、家中のどこにいても庭と一体で暮らすことができるプランを作った。この家は女性が一人で暮らすための住宅なのだけれど、防犯のことを考えると南側に開いた庭を作るよりも、外壁でくるりと囲んだ内側に庭を配置する方が良いと考えたからである。プライバシーのことを気にせずにいつも庭と内部をつなげることができるとても良い手法だと考えている。

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埼玉県伊奈町にてリフォームを設計中のTさんご家族打ち合わせ。

2022/01/22

午後、埼玉県伊奈町にてリフォームを設計中のTさんご家族打ち合わせ。今日は2回目のプラン提案である。奥様のご実家にご家族が移り住んでのハーフ2世帯住宅づくりなのだけれど、最近はこのようにちょっと田舎でゆったりとした暮らしを楽しみたいという方が増えてきるような気がする。コロナの影響で働き方や暮らし方に関する考え方が変わったという方は多いが、考え方の変化が都市や住宅そのものにも変化をもたらすことが顕在化してきているような気がする。

僕が初めて田舎への移住のための住宅を設計したのは、東京都世田谷区から屋久島への移住をしたMさんの家であった。なんで屋久島の家の設計を僕がやったかというと、屋久島の設計士さんに頼むよりも現在住んでいる東京の近くにいる僕の方が細やかな設計の打ち合わせが行えるからである。多くの別荘建築などは現地の建築会社に依頼して思い通りに建たないというケースがあるようだけれど、しっかりと設計をしておきさえすればそいう齟齬も防ぐことができるということでのご依頼であった。

Mさんご夫妻はスキューバーダイビングが好きで、よく海にもぐっていた。僕も一度ご一緒させていただいたことがあるけれど、特にご主人は水中での写真撮影が上手だった。田舎での暮らしは地元の人との交流が大切だから、よく地元の大工さんの家で飲み会をしたりのお世話になった。そのまま大工さんの家で子供達と一緒に雑魚寝という日も少なくなかった。いも焼酎「三岳」を薄めようとすると、なんてことすんちゃ・・・の怒号が飛んできたことを今でも覚えている。当時は屋久島に現場管理に行くのが楽しくて仕方がなかった。鹿児島空港から飛ぶヤバそうな国産機に乗って離島に旅立つのである。こんなに楽しい仕事は滅多にない、そんな思いで現場に向かった。Mさんの奥様が亡くなったのは数年前のことだ。世田谷の小さなマンションに比べたらとても豊かな生活の中で息を引き取ったのだと思う。癌と戦う中での移住だったから、それだけ長く生きることができたのもとても良い環境のおかげだったのかもしれない。
田舎暮らし、僕の周りでも少しずつ増えてきている選択である。Tさんご家族の暮らしが豊かなものになるように設計を進めていきたいと思う。

 

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埼玉県蓮田市にて住宅のリフォームを検討中のOさんご夫妻打ち合わせ。

2022/01/20

午後より、埼玉県蓮田市にて住宅のリフォームを検討中のOさんご夫妻打ち合わせ。都内からちょっと田舎に引っ越しての暮らしの拠点となる住宅を購入し、リビングダイニングをリフォームする計画である。古い農家の住宅らしくとても立派な和室の続き間があり、和室にはこれまた立派な床の間や仏壇入れが設えてある。作り付けのタンスも立派で非のつけどころがない。大工さんが丁寧に時間をかけて作り上げた住宅であることが一眼でわかる良い家だ。Oさんの家に行くといつも2羽の鶏が迎えてくれる。手を差し出すとツンツンとつかれるのだがこれがまた可愛らしい。毎日のように卵を産んでくれるとても優秀な二羽だそうで、今日も田園住宅のマスコットとして僕たちを和ませてくれた。

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今日はとあるご縁で武蔵野大学建築学科にて

2022/01/17

今日はとあるご縁で武蔵野大学建築学科にて大学3年生向けの講義をさせていただいた。大学3年生というのはすでに就職活動真っ盛り。将来に期待を抱く人もいれば、何をやって良いやらの途方に暮れている人もいる、そんな学年であろう。だからこそ僕のように建築家として住宅設計を行いながらも、実際に大工さんを雇用し丸太を山から直接購入して家づくりをしたり、はたまた公共建築の設計をしたり、街づくりの運動をしたり、お寺の改修工事をしたり、神社の建築を作ったり・・・そういう人がいったいどんな思いで建築を愛し、向き合い、仕事をしているのかをお話しすることで、少しでも将来を考える参考にしてもらうことができたらと思いながらの講義であった。

終了後、田中教授の作品を見せていただいた。シェル構造の屋根の実物である。これを学生と一緒に作り上げたというのだからこの先生も只者ではない。セルフビルドが好きな構造家・・・こういう人には初めて会った。

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今日は自宅の茶室にて初釜を開催した。

2022/01/16

今日は自宅の茶室にて初釜を開催した。お招きしたのは裏千家でともに活動しる仲間達、コロナの関係で少人数に限っての小さなお茶会であった。点前は濃茶の各服点てと続き薄茶である。各服点てというのは、元々回し飲みをしていた濃茶をコロナ対策の関係で一人一人に一碗ずつ点てる点前である。一人分の濃茶を練るというのはその加減がとても難しく、濃すぎると全く引くことができないし、薄すぎればそれすなわち薄茶となってしまうわけで、何度も稽古して慣れなければ美味しく点てることができないのである。さてさて、みなさん美味しくいただくことができたのかどうか、お服加減は・・・の問いには大変結構と言われたものの、やっぱりちょっと心配なのでああった。

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藤井厚二氏の自邸「聴竹居」の写真集を見た。

2022/01/15

久しぶりに藤井厚二氏の自邸「聴竹居」の写真集を見た。この住宅は1888年生まれの藤生厚二が作った実験住宅である。藤井は「1日も早く我が国固有の環境に調和し、吾人の生活に適応すべき真の文化住宅の創生せられんことを熱望してやみません」というように、10年にわたって五件もの実験中住宅を作っている。この住宅はその5作目、まさに集大成とも言える作品だ。写真はこの住宅のサンルームの様子である。現在でも竹中工務店によって保存され見学できるのだが、実際に建築を見てみるととても心地が良いことに驚かされる。

この建築はいわゆる数奇屋建築を西洋化し再構築したような木造住宅である。和洋折衷、しかし和の様式も伝統をそのまま置いたものではない。その意匠はとても挑戦的なのに、でもとても心地よい、この心地よさはいったいどこから来ているのだろう。聴竹居は自然素材で作られている。漆喰の左官壁を面として使い、線材としての木が縦横無尽に使われて、紙が貼られ、石が積まれているのである。そこにはいわゆる人工的な素材は一切なく、職人の手によって生み出された自然の暖かさがあるもののみで包み込まれているのだが、人は本来こうした空間を見慣れており、だからこそ落ち着く、いつもあでもそこで過ごしたいと思うような感覚になるのだろう。写真のサンルームは圧巻の造作である。視界を遮らないように工夫されたコーナー部のガラスの収まり、柱がなくとも持つように軒をはね木で持たせていたり、見せたい中央部のガラスのみを透明とし、上下のガラスは曇りガラスで調整すなど非常に細やかな気遣いがある。ここはこの建築の中で僕が最も好きなところだ。

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埼玉県川口市にあるグリンセンターの大集会堂シャトー赤柴

2022/01/13

午前中、埼玉県川口市にあるグリンセンターの大集会堂シャトー赤柴に関する利活用についての打ち合わせ。ますいいリビングカンパニーでは古い建築のリノベーションに力を入れている。すでに新しい建築をどんどん作る時代は終わりを告げたことは明らかなのに、それでも新築中心主義を貫く人が多いことに驚くが、僕はなるべく古いものを大切にする建築家のあり方を大切にしている。そこで、市内コンペに応募しこの設計に携わることとなった次第である。

このプロジェクトは50年ほど前に作られた洋館風建築物をリノベーションして、利活用しようというものである。本年度は基本設計を行なっているのだが、僕たち設計事務所のエゴで設計行為を行うことの無意味さを避けるために、市内の飲食事業者さん達とのワークショップを行い、どんな建築だったら使いやすいかなどについての意見を伺って来たわけだ。建築はあくまで使い手のために存在する。住宅だって寺院だって教会だって同じこと。飲食店を行うならば飲食事業者さん達の意見を聞かなければ良い設計などできるはずはないのである。

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午後、京浜東北線の浦和駅東口にある店舗について打ち合わせ。16時ごろまで。

長野県の菅平というところ

2022/01/11

長野県の菅平というところに、開拓者の家という建築がある。この建築はますいいリビングカンパニーの生みの親でもある早稲田大学名誉教授の石山修武氏が設計したもので、コルゲートパイプという大きなパイプを地面に転がし、砕石で転がらないように固定してさらにワイヤーで引っ張って強風などに備えているという、建築のような建築でないようなの物体だ。内部はセルフビルドによって作られたスチールの造作が施されており、勇気的な意匠がとても特徴的だ。レタス栽培などを手がける農家を営む施主のSさんはここでお子さんも育て上げた。形は変わっているけれど、とにかくれっきとした住宅なのである。

先ほど建築のようで建築ではないと書いた。基礎で地盤に固定されていない伽藍堂のパイプは建築なのか?の曖昧さを述べたのであるが、普通の家庭の庭に置かれているイナバ物置の如く簡単に動かせるようにしてあればそれはあくまで仮設建築と言えるだろう。建築でなければ固定資産税がかからない、そういう束縛からの自由を手に入れることができる可能性があるところに夢がある。人は何十年というローンを組んで住宅という呪縛に縛られすぎるところがあるが、本来住宅は人が安心して暮らすことができればそれで良いのである。ここで暮らすSさんはそんな自由を手に入れるためにこの建築を造った、そしてその精神を引き継ぎながら僕たちますいいリビングカンパニーも「もっと自由に家を作ろう」の合言葉で家づくりに励んでいる。

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日曜日の今日は本当は山に行こうかと思ったのだけれど

2022/01/09

日曜日の今日は本当は山に行こうかと思ったのだけれど、来週僕の家で行う茶会の席で濃茶の各服点というお点前を行う稽古をしなければいけないなあのプレッシャーを感じて諦めることにした。濃茶というのは通常3人分や5人分の量を1椀に点て茶碗の回し飲みでいただくのが普通だったのだけれど、コロナの影響でそれが叶わずさてどうするかという段になって、スペイン風邪の時に円能斎という方が考案した各服点というものを再び採用することになったわけである。古いお点前だけにお家元がビデオメッセージまで出して僕たちにご紹介してくれたわけだけれど、これがどうも普及しない。だったら僕たちがやってみようということで、十六日のお茶会で披露することになったわけだ。

このお点前ではたっぷり3杓の濃い茶を茶碗に入れ、追柄杓なしで濃い茶を点てることになっているのだけれど、これは誠に難しくなかなか上手にできない。長盆に4椀を乗せ、一気に点てた濃い茶を妻や子供たちといただくこと4回、流石にもうお茶は飲めないなあと思った頃にようやく濃茶らしくなってきた。

僕の茶室にはほんのりと照らしてくれる小さな照明がついている。でも茶室の明かりを消して窓から入るわずかな光に包まれている方がどれだけ心地よいか、というわけで明かりを消してのお点前も試してみると、黒茶碗のなかは完全な暗黒、他の茶碗はなんとか見えるがこれは全くの暗闇なのだ。黒楽茶碗というのは利休が作ったものである。長次郎という瓦職人に焼かせたと言われているが、中国伝来でも朝鮮伝来でもない日本の美、それを真っ黒な茶碗に背負わせたのだからこれは革命的なことであっただろう。これまで何度も使ってきたが、こんなふうに暗闇にして使ったことは一度もなかった。利休の時代、当然照明器具などはなく、あっても蝋燭や油の灯りで照度は今日と同じであろう。ということはこの黒茶碗、今も昔も点前をする人が何も見えない状況をあえて生み出す茶碗なのである。見えないのだから頼りは勘のみ、下手な小細工はやりようがない。勘は体に染み付いた所作からしか出てこない。果たして僕にその所作が身についてくれるだろうか。茶碗のなかの暗闇に吸い込まれるような不思議な感覚、目に見えないことを見ようとするのではなくあるがままに受け入れることで感じる神聖さ、なんだかちょっとお茶というものがわかった気がした1日であった。

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午前中は事務所にて雑務。

2022/01/08

午前中は事務所にて雑務。

午後、丸太の注文。ますいいでは国産広葉樹として栗・桜・鬼ぐるみの丸太を購入し常に200枚ほどの造作材を板で保管している。今年はウッドショックの影響で少々少なめのようだけれど、とりあえず今購入することができる栗と鬼くるみを買っておくことにした。こうした丸太は製材して約1年間ほど乾燥させる。乾燥させた後には再度プレーナーをかけて反りをなくし、ようやく天板や棚板などに使用することができるようになる。製材所ではマルタの割れや木自体の反りなどを見て鋸を入れる角度を決める。厚みは使いたい用途によって変わってくる。テーブルなどは60mmくらいの厚板に、棚板や枠材だったら30mmほどの薄板にする。もちろん薄板の方が乾燥期間は短くなるし、1枚あたりの単価も安くなるので用途をしっかり考えて製材しないと後で結局使うのに苦労する羽目になってしまうのだ。天候次第では2月半ばに製材ツアーを企画した。雪があまり降らないようだったらスタッフを連れて行ってみることにしようと思う。

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今日から仕事始め。

2022/01/06

今日から仕事始め。今年も賀詞交換会などの人が大勢集まる行事は控えられているので、毎年こういう行事でしかお会いすることがない人たちとかれこれ2年間会うことができなくなってしまっている。コロナは今のところまだ下火ではあるけれど、オミクロン株の猛威が迫っているようで、この先はとても不透明だ。そんな中で中国の不動産開発の暗雲やアメリカの利上げのニュースなどを見ていると、本当にだいじょうぶかの不安も感じざるを得ない。最近の新聞記事などでは、資本主義の再構築という内容をよく見かける。金融緩和による金余りの結果、行き過ぎの格差の出現、賃金が上がらない中での物価の上昇など現状の具合が良くないことは誰の目にも明らかだ。人が安心して暮らすことができる世の中を再構築するためには、やっぱり民主主義がきちんと機能する必要があるのだと思う。

パルテノン神殿は、紀元前447年に建設が始まり、15年の歳月を費やして完成したそうだ。そしてこの場所は民主主義の起源としても知られている。哲学、議論、・・・全ては人が幸福を追求するための道具であると思う。今、日本の国会議事堂は果たしてそのための場になっているだろうか。僕たち政治家ではない普通の人でもこういうことを議論する権利がある、あとはそれを実行するかどうかにかかっているのではないかと思うのである。

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障子の効用

2022/01/04

障子の効用

窓からの光はとても貴重だ。家づくりとはボリュームを定義することによる空間づくりと、その空間に外部とつながる窓を開けることがとても中心的な作業となる。障子というのはその窓からの光をちょっと和らげてくれる効果がある。それだけでなく窓の外の景色も無かったことにしてくれる。ちなみにこの窓は僕の家のリビングの窓なのだけれど、この向こう側にはファミリーマートのバックヤードがあって、いつもそこで決まった店員さんがタバコを吸っている。だからこの家に住んでからこの障子を開けたことはほとんどないのだけれど、でもこの窓のおかげで天気の良い日には朝日が入り込んでダイニングテーブルに彩りを与えてくれたりの効用があるわけで、ここにはやっぱり窓があって欲しいのである。

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今日は東京都の陣馬山から高尾山まで

2022/01/03

今日は東京都の陣馬山から高尾山まで16キロほどある低山ハイクに出かけた。標高は700mほど、冬でも安心して歩くことができる。昨日は親族の集まりで少々食べ過ぎてしまったので、ちょうど良いダイエットである。山を歩いていると常緑の針葉樹である檜と杉の木をとてもよく見る。日本の山はほとんどこの二つの木によって埋め尽くされてしまっているのだけれど意外とこの2種類の木の見分け方は知られていない。支那の写真の1枚目は杉。ツンツンととんがった形が特徴的だ。次の写真は檜、平べったい形が杉とは全く異なる。ちなみに檜の葉の裏側には3枚目の写真のようなY字形の文様がある。なんとも不思議な文様なのである。

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あけましておめでとうございます。

2022/01/01

あけましておめでとうございます。今年は茶室に蓬莱飾りを設てみました。昨年同様、柳も飾っております。軸は「月上青山玉一団」香合は運の良いことに2年連続、裏千家の先輩より手作りのお品を頂戴しました。いろいろな方にお知恵を拝借しての蓬莱飾り、どうしてもほんだわらが手に入りません。築地の乾物屋山に行っても無く、代わりにおせちを買ってしまう始末・・・。どなたか入手できる方おられましたら是非お譲りくださいませ。

兎にも角にも、本年が皆様にとって良い年になりますように。どうぞよろしくお願い申し上げます。

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窓辺のキッチン

2021/12/30

窓辺のキッチン

僕の自宅のキッチンは目の前に大きな窓がある。北向きだけれど、安定した光が入るし、その向こうにはちょっとした緑もあって季節ごとに変化を楽しむことができる。ふと気がつくと塀の上を猫が歩いていたりの驚きもある。キッチンのタイルはセルフビルドで貼った。素人の仕事なのでちょっと雑なところもあるけれどそれも味だ。ステンレスのバイブレーション仕上げの天板は傷も目立ちにくいしなかなか良い。写真の木の作業台の天板はタモである。全てをステンレスや人造大理石などで仕上げてしまうのではなく、こういうところに天然の木の仕上げがあるだけで豊かさが増すように思える。

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今日は埼玉県上尾市にて作ったHさんの家

2021/12/27

今日は埼玉県上尾市にて作ったHさんの家のチルチンビト撮影立ち会い。雑誌の撮影立ち会いはこれまでにも何度も行ってきたが、チルチンビトさんは生活感を撮る雑誌さんなのでクライアントにも登場して頂くことにした。撮影は朝の十時ごろスタート、まずは外観写真、そして内観へと移っていく。キッチンやリビングにある大きな階段の写真にはHさんご夫妻が実際にそこで過ごしている様子を撮影した。最後