増井真也 日記 blog

今日は栃木県鹿沼市にある高見林業さんに、埼玉県吉川市にて設計中のTさんの家に使う杉材を伐採するために、Tさんのご家族ともどもツアーに出かけた。

2025/09/27

今日は栃木県鹿沼市にある高見林業さんに、埼玉県吉川市にて設計中のTさんの家に使う杉材を伐採するために、Tさんのご家族ともどもツアーに出かけた。ますいいでは、自分の家に使う全ての構造材を高見林業さんの木でつくることができる仕組みがある。市場で買ってきた木と何がちがうの?のご質問が多いのでお答えする。
この家づくりでは、高見林業の斉藤さんたちが丁寧に育て上げた木を伐採し、それを日光の田村材木店の職人さんが、丁寧に仕分けして適材適所に使えるように製材して、それから加工をした後に実際の工事現場で上棟させるという流れにポイントがある。
通常の家づくりでは、僕たちはプレカット工場に材木を発注する。プレカット工場は、材木市場から安い木を大量に買い付けていて、注文に合わせて加工し、納材する。それに対し、この家づくりでは、高見林業の斉藤さんたちが丁寧に育て上げた木を伐採し、それを日光の田村材木店の職人さんが、丁寧に仕分けして適材適所に使えるように製材して、それから加工をした後に実際の工事現場で上棟させるという流れにポイントがある。お寿司やさんで言えば、漁師から直接仕入れて、丁寧に捌いて寿司を握るの感である。全ての工程の人の顔が見える。木は江戸時代から続く高見林業の斉藤親子が丁寧に育てたもので、それは戦後植林されたものだから、植えたのはすでに亡くなったお爺さんなのだ。人生に一度きりの家づくりだからこそ、こういう材料で作ってあげたいの思いで始めた山とつながるネットワークである。ぜひ皆さんも利用してほしい。

こちらは朝のミーティング。山の話を斉藤社長が直接説明してくれる。

いざ山に向かって歩き始める。

これは熊こまーるという商品だそうだ。木にマーキングをしようとすると爪が引っかかるそうだ。こちらは鹿よけ。ナイロンだけれど、自然に還る素材である。いよいよ伐採する木を決めた。チェーンソーで切っているのは、施主本人。経験者ということで、今回は最後までお施主さんにやっていただいた。通常は途中で木こりさんに交代する。最後に記念撮影である。今回はスタッフも皆、自分たちのお子様と一緒に体験した。田部井君も松原さんも良い家族サービスができたと思う。小さなお子様にとって、実際の山で木を伐るなど本当に貴重な体験だろう。協力者の皆様に心より感謝したい。

埼玉県蕨市にて工事中の古民家再生現場の上棟式を執り行った。

2025/09/17

今日は、埼玉県蕨市にて工事中の古民家再生現場の上棟式を執り行った。この現場は、築100年程度の古い古民家の再生工事である。多くの部材がシロアリなどの被害を受けて腐ってしまっているので、新しい部材と入れ替えるところがたくさんあって、この度だいたいの入れ替え工事が出来上がったところでの上棟式となった。

写真に写っている新しい柱には、森林認証材と書かれている。これはきちんと管理されている森林から、法律に則って適正に伐採し、製材された材料であることの証明である。この現場の構造材は、栃木県の鹿沼の森から切り出された桧と杉の丸太を、日光にある田村材木店さんで製材したものであるが、こんな風にどこどこの山の木を伐採して、製材して・・・と説明できる住宅が今の時代にどれだけあるだろうか。家づくりにはこういう物語がとても大切だと思う。市場で大量に売られている木は、どこで育ったかも、誰に切られたのかもわからない。柱に使う60年ものの檜は、60年前に今の山主のお爺さんが植えたものだ。代々大切に育ててきた木を、大切に製材し、最適な向きに建てられている(そういうことを考えているから、柱の刻印が全て玄関を向いている)柱だからこそ、なんか気持ちが良い、そんなことを感じる上棟式であった。

東京都文京区にて木造1棟貸家とオーナー住戸の工事を行なっている

2025/09/13

東京都文京区にて木造1棟貸家とオーナー住戸の工事を行なっている。古いご実家を壊しての建て替え。建築を残すことも考えたけれど、残せるほどの良好な状況でもない。とても良い立地条件なので、当然のことながらSハウスやS林業のアパートなどの計画もしたわけだけれど、世の中にこれだけたくさんの空き家が余っていて、退職年齢で数億円の借金をして、そんなものを作る気分にはなれない。それならば将来もしかしたらお嬢さんが住むかもしれない、そしてもしかしたら相続の時には分割して売却することもできて、それまでは家賃収入で生活を支えてくれる、そんな貸家を作って欲しいという計画であった。

建築は母屋も貸家も30坪ほどの木造2階建て住宅とした。アパートを建てて更なる住宅過密状態を作るのではなく、逆に、建物をすきとった結果の原っぱを生み出すことを心がけた。東京のど真ん中で、目の前に原っぱがあって、その原っぱを自分たちで整えていく暮らし方、山登りの仲間のKさんへの提案として僕が出した答えである。

昨日解築学のコンペのことを書いた。これがどうも引っかかる。松村先生のコンペ趣旨には「昔は原っぱがあった・・・」と記載されていた。原っぱなんていう言葉を数年ぶりに聞いた。世の中にはたくさんの建築が溢れている。もうどうすることもできないくらいの量がある。壊してしまうと6倍にも上がってしまう固定資産税とか、相続しても壊すことができなかったりの理由で空き家も増え続ける。そんな中でも家づくりを行うものとして、何を考えるべきだろうかの疑問がこの解築学という言葉で、なんとなく晴れてくるような気がした。この原っぱは、ますいいと建築家の佐藤研吾とのコラボで設計を行なっている。完成がとても楽しみである。

東京大学博士後期課程の1次試験に合格した

2025/09/12

東京大学博士後期課程の1次試験に合格した。昨年よりものつくり大学で、住宅を作ることに欠かせない左官等の技能者や木材や漆喰等のさまざまな素材についての研究を行ってきた。これまで25年間工務店機能を兼ね備える設計事務所としての経営を継続してきて、昨年度よりものつくり大学の修士課程に進学した。この1年間で所属する三原研究室の教授や仲間からとても多くのことを学ばせていただいたし、それがますいいの家づくりにもとても良い形で反映されてきていると思う。

同じ研究室の僕の一年後輩の田子君は、昨年、技能オリンピックの造園競技で国内・金メダル、世界大会・銀メダルを獲得した青年である。世界二位の後輩はものつくりに対する情熱が迸るようで、一緒にいると本当に刺激になる。今、蕨の古民家再生の現場で大工体験をしている金城くんは、来年からの就職が決まっているけれど、卒業制作に大工の経験をまとめたいということでこの夏をますいいの現場で過ごしている。先日は大学で学んだ本漆喰のセルフビルドを行った。本漆喰というのは、小石灰と麻スサ、そして焚き糊を混煉した漆喰で、自分で配合から挑戦するのは人生初めての試みである。お客様のご家族と一緒に、大人から子供まで100%の自然素材を混ぜて作った漆喰を、大好きなお婆さんのためにセルフビルドで施工した。いつも塗っている袋入りの既製品の漆喰となんとなく違う、とても綺麗な漆喰が塗り上がった。

中有小零細企業の社長など、井の中の蛙に陥りやすく、だからこそ少しでも外に出て学ぶことが大切であると思う。この学びを継続するための受験をへて合格の通知をいただいた。受け入れていただく予定の権藤先生には心より感謝したい。そしてこれからも真剣に良い家の追求をしていきたいと思う。

昨日から、日本建築学会の全国大会に参加している

2025/09/11

昨日から、日本建築学会の全国大会に参加している。今年の大会は福岡である。九州大学伊都キャンパスは博多から1時間ほどの自然豊かな海の近くにあって、そのすぐ近くにあるホテルに宿をとり、今日で2日目の大会となった。12時過ぎに僕の発表を終え、午後は自由な時間が取れたので、太宰府天満宮の仮殿を見に行った。この仮殿は藤本壮介の設計によるもので本殿の改修工事中の仮のものである。屋根の上にはこんもりと緑が設られていて、その後ろにある工事の様子をうまく隠している。建築が、改修工事の間だけ自然に還ったような錯覚を感じるなんとも言えない表現である。

今日から3日間、日本建築学会の全国大会に参加する

2025/09/10

今日から3日間、日本建築学会の全国大会に参加する。昨年よりものつくり大学で修士課程に進学している関係での2回目の参加である。大学教授、ゼネコン研究所などの大集会といったところであろうか。僕が普段生きている工務店とは全く違う世界だけれど、最先端の技術があったり、はたまたこんなことを研究してどうするのというようなマニアックなものがあったりの楽しい世界である。今日は解築学なるコンペの公開審査に参加した。審査委員長は松村秀一先生、審査員の中には早稲田の中谷先生もいる。全国予選には200を超える案が出されたそうで、その中を勝ち抜いてきた10案が発表されて、その場で最優秀賞が選定された。解築学などという学問は今のところ存在しない。松村先生のお話を聞いていると、どうやら建築だらけの世の中で更なる建築をするためには壊さなければならないよね。壊して作るというプロセスに対して、なんでもいいから提案してみてくださいね。というのが今回のコンペの趣旨のようである。さまざまな案が出されたが、優勝案はバングラディシュの港町に廃船を解体した部品の倉庫と、その骨組みを使用した建築を作り、廃部品をめぐる新たなコミュニティーを計画するというものであった。偶然にも息子が通った早稲田大学の渡邊研究室の後輩ということで、嬉しい限りであった。

全体を通して感じたのは、この案以外はとても後ろ向きな建築家のあり方、つまりは作るのではなくどのように少しずつ壊していくか、建築の森を原野に戻していくかの提案が多いことであった。学生の案でこれはいかにの疑問が湧いたが、これもまた時代なのかもしれない。僕もたくさんの家を作ってきた。それも深く深く考えて、あるべき住宅の姿をお客様と話し合って作り上げてきた。でもそこまで深く考えて解体をしてきたかと言われるとそうではないような気もする。ただ壊す。安ければ良い。そんな気持ちで壊してきた。

コンペの中で「拾痕」というテーマを発表していた学生がいた。全てを壊すのではなく、半分リノベ、古きものは利用する、そんな提案であった。今、埼玉県蕨市で古民家の再生を行なっている。ここでも全てを壊すのではなく、築100年の古民家の約半分を残した計画をした。この計画では、構造家の山辺先生のアドバイスのもと、現在の耐震基準を実現させて、さらに断熱性能などもしっかりと兼ね備えた再生を行なっている。黄色い壁は新たに付け加えた耐力壁で、緑の面は屋根に加わる地震力を耐力壁に伝えるための水平剛性である。ただ壊すのではなく、味がある古い建具などの使えるものは使い、新たな性能を加えていくという行為である。ちょうど今やっている工事の中に、なんだか解築学の答えがあるような気もするのである。

施工後に調査を行った結果、防音の性能はD45から50という結果を得ることができ、これは建築学会で推奨するレベルとなっている

2025/09/08

先日、三軒茶屋で作った長屋型の木造賃貸アパートでは、防音の工事を注意深く行うことで、D45から50程度の高い防音性能を確保することができた。設計には防音専門のコンサル会社にご協力いただき、下の図面のような仕様を採用している。界壁には、吸音材にロックウールを採用し、石膏ボード15mmを両面張り、アスファルト4mmを両面張り、石膏ボード12mmを両面張りして仕上げを行っている。施工後に調査を行った結果、防音の性能はD45から50という結果を得ることができ、これは建築学会で推奨するレベルとなっている。写真は、施工途中のもの。アスファルトはしっかりと目張りを行い、石膏ボードも目地をコーキングするなど入念に施工した。

賃貸投資物件ということで収支計算が合うようにコストを最小限に抑えなければならず、本体工事で坪単価を106万円で造っている

2025/09/05

最近は賃貸用の木造アパート建築を造ることが増えてきている。ビニルクロスにサイディングのハウスメーカーのアパート建築とは異なる特徴的な投資物件を作りたいという方が増えてきているからだと思うが、先日三軒茶屋に作った長屋もそのような賃貸物件である。木造2階建ての長屋建築は、住居部分と2層の長屋、そして1階と2階に分かれている賃貸の3つの区画から成り立つ。

賃貸投資物件ということで収支計算が合うようにコストを最小限に抑えなければならず、本体工事で坪単価を106万円で造っている。コストダウンの工夫としては、内装仕上げに土佐和紙を使用したりの手間を抑える仕上げを採用すること、長屋というシンプルな構造形式を採用することなどの工夫を施した。計画には住宅金融公庫の賃貸住宅建設融資制度を利用するなど、資金面でも工夫をした。ガルバリウムの外壁に洗い出しの土間、メーカー建築にはないテイストの賃貸住宅となったと思う。

埼玉県さいたま市にてアクセサリーショップ兼住宅を作った

2025/09/03

埼玉県さいたま市にてアクセサリーショップ兼住宅を作った。敷地の道路側にお店を配置し、住居部分は奥側に作った。お店のスペースは10畳ほど、その中に売り場と工房がある。工房は、木製のフレームで囲われていて、売り場とのコミュニケーションができるようにした。

展示のためのニッチは、実は断熱のための壁ふかしを利用して作られた。ショップの部分は床が低くて床下断熱ができないために、基礎断熱が施されている。そのためには断熱材の厚み分、壁の内側にふけるわけだが、その厚み分のニッチを壁に作ることで展示スペースとした。床はウォールナットで、この下にも断熱が施されている。

準防火地域で防火建具の規制がある中で、木製建具を使用するために、ここには防火シャッターを仕込んだ。木製の建具は、建物にお店の入り口としてふさわしい、人を迎え入れてくれる優しい表情を作り上げてくれる。外壁の目の通ったとても綺麗な羽目板ととてもよく合っている。

埼玉県さいたま市の浦和駅から徒歩20分ほどの住宅街に中庭のある家を造った

2025/09/01

埼玉県さいたま市の浦和駅から徒歩20分ほどの住宅街に中庭のある家を造った。1階にリビングとアクセサリーショップが配置されていて、その中間部分に中庭を配置している。奥に細長い敷地で敷地奥にリビングがある。写真は、リビングから中庭を見ている様子だ。中庭の土間には大谷石を敷き込んだ。リビングの床は日光杉の赤身の無垢フロアリングで、壁には、コバウというドイツ製の紙クロスを貼った後に、漆喰と鹿沼土を混ぜ込んだ土入り漆喰を塗っている。これは吹き抜けの揺れやすい壁でも、左官で仕上げた漆喰を破れにくくするための工夫である。

僕は細長い敷地の場合には中庭を採用することが多い。中庭はプライバシーを確保しながら外部に開くことができるとても魅力的な装置となる。人目を気にせず、バーベキューをしたりの利用もできる。このプランでは南側の中庭なので、豊かな光も差し込んでくれる。植栽の向こう側は玄関である。来訪者の視線を遮るように植栽を配置し、その気配を感じることができるように工夫した。

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