増井真也 日記 blog

ますいいのモデルハウスは自然素材だけで作り上げている

2023/03/28

ますいいのモデルハウスがオープンした。ますいいのモデルハウスは自然素材だけで作り上げている。奈良県吉野の檜と杉、栃木県八溝の杉、漆喰、土壁、・・・とても空気が綺麗な空間が出来上がった。漆喰とは石灰と麻の繊維を海藻ののりで混ぜたものをいう。海藻は言うまでもなく、石灰もその始まりは海に起因する。海のサンゴや貝が生成した貝殻が石化したものが海底から隆起して石灰石となり、山から掘り出されて石灰となる。自然の力で生み出された偶然の産物なのである。

漆喰

サンゴ
貝殻
石灰石
火と水で変幻したそれらの白い灰。
さらりとした麻と和紙
白い灰とすさを混ぜ
すきとおった海藻の糊で捏ねて生まれた漆喰は
風の中でゆっくりと白い貝殻に帰っていく
海の青から生まれた白
漆喰の白から風景は誕生した  (小林純夫)

 

火を囲みながら語り合う、外では寒いから一応の囲いを用意する、その囲いは最小限空間で良い、それが侘び茶の茶室なのだと思う。

2023/03/26

動物が集まる所の中心には水がある。アフリカの砂漠の中の僅かな水場に、ライオンもしまうまもカバも集まる様子はそれを如実に表す。水がなければ生きていけないのである。人間の場合、水の次が火である。火を起こし、その起こした日の周りに集い、野宿する。家はその後だ。僕たちがキャンプをするときも、家はないが火を起こし、雨露をしのぐためにテントをはる。色々揃えることができる状態になると住宅と呼ばれる建築が発生する。住宅の4要素は屋根、壁、火、床である。要するに周りを囲って、火を入れるということだ。

茶室は一つの小さな部屋の空間の中に火=炉を入れているがこれは利休の時代から始まったものだ。ちなみにそれ以前はどこか別の部屋からお茶を運んでいたらしい。畳敷の部屋の中に火を入れるなどはそれがなかった頃に初めて発想するとしたら、かなり大胆な型破りだったに違いない。侘び茶の成立ともに生まれたというが、なぜそうなったのだろうかの疑問に答える論を見たことがない。

侘び茶の時代以前は自分で茶を点てるのではなく誰か他に使用人がいたという。自分で客をもてなしながら茶を点てようとすると、他の部屋に火があったのでは客を一人にしてしまうことになる。だったら部屋の中にいろりのように湯を沸かす場所を作ってしまえ、ということなのかもしれない。

茶室で釜の湯を沸かすと、釜なりの音がする。松風とも言われるが、しゅーと音がする状態がちょうど良い湯加減だ。下は僕の茶室の炉で湯を沸かす様子である。薄暗い茶室の中で炭の燃える色は赤く輝き、松風は静寂のなかで唯一の音となる。これはなんとも言えない風情がある。薪ストーブも好きだが茶室の炉も良い。これには共通する良さがあるのだ。人が最も落ち着き、最も語り合うにふさわしい場をデザインしたとき、炭と釜の二つを取り入れるアイデアが生まれた、というのがおそらく本当のところだろう。火を囲みながら語り合う、外では寒いから一応の囲いを用意する、その囲いは最小限空間で良い、それが侘び茶の茶室なのだと思う。

東大寺鐘楼

2023/03/22

平安時代末期から鎌倉時代に生きた栄西は、茶を持ち帰り広めたことで知られているが、実は建築の世界にも大きな業績を残している。そのうちの一つが、写真の東大寺鐘楼である。もともと東大寺は重源という僧が勧進を行い建立したことで知られているが、重源の死後その後を継いだのが栄西であった。重源が中国式の木組みを日本の大工でもできるように合理的にアレンジしたのに対し、栄西はまるで素人のようにダイナミックな子供のような木組みをデザインした。転ばし根太が柱を貫通している様子などは合理的な木組からは程遠く、まるでギリシヤの神殿のごとき重厚感を木造で表現しようとしているかのような意思をも感じる。喫茶養生記があまりにも有名は栄西だが、実は法勝寺の九重塔の再建の時にも設計を行うなど建築家としても一流だったことをご紹介しよう。

春は花夏ほととぎす秋は月冬雪さえて冷しかりけり

2023/03/19

日曜日。今日は所属している裏千家青年部の総会に参加した。コロナの規制が解けて3年ぶりのリアル開催である。裏千家茶道というのは、現在の千宗室お家元を頂点とする立派だが、僕は縁あって35歳の時からこの流派で茶道を嗜んでいる。元々のきっかけは、鵬雲斎大宗匠の講演会を拝聴したことであった。自分が建築家として生きていく中で、日本人としての文化的なアイデンティティーを芯に据えた上で活動していきたいと感じたからである。元々そういう人間だったのかといえば全くそんなことはない。元々は49年生まれにありがちな暮らしぶり、ロックを聴き、英語の勉強はするけれど国語の勉強はしない、理系は好きだけれど歴史などは苦手・・・、そんなタイプだった。大学を卒業し、働き始め、35歳というのは文化との出会いとしてはちょうど良い時だったのかもしれない。僕は引き込まれるようにその世界に入ることができた。これまで目にしたことはあるけれどそいの用途が全くわからない、例えば棗とか建水などなどの道具についても知識を得ることができた。焼き物の数々も観れば窯元がどこかまで想像することができる位の目を養うこともできた。

今日の講演会は筑波大学の石塚先生をお招きしての講演会であった。石塚先生は国語の先生である。今日の講演のテーマは和歌。この僕が和歌である。これまで全く興味のなかった世界観だけれど、なぜだかスーッと入ってきた。そして面白いと感じることができた。短い言葉の中にある思いを封じ込める行為は実は無限大の広がりを持っているのかもしれない、言葉だけは何にも左右されずにどこまでも表現できるという感覚を覚えたのである。

・・・家に帰り石塚先生の本を手の取って読んでみた。「茶の湯ブンガク講座」その中に川端康成「うつくしい日本の私」という章がある。ちなみにこの題名はノーベル文学賞を受賞したときの受賞スピーチの題である。その章の中に

春は花夏ほととぎす秋は月冬雪さえて冷しかりけり

という道元の和歌が記載されている。四季の自然の情景をただ4つ並べただけの無造作な歌だけれどその中に自然を愛おしむ日本の良さがあるとのこと、これこそが茶の、というより人としてとても大切なことだと思うのだ。この短い言葉の中に世界を変える力があるかもしれないと思えるくらいに、何か響くものがあったのである。

・・・この章を読んで井上陽水「夢の中へ」の歌詞が浮かんできた。探し物はなんですか、見つけにくいものですか、・・・今日は楽しき仲間たちとの集いの時間を大切にできて本当によかったと思えた1日であった。

 

保育園の維持管理者がお客様でがあるけれど、あくまで子供達のことを考えて設計をしたいし、そうさせてくれたコマームの小松社長には心より感謝したい。

2023/03/16

今日は埼玉県川口市にて完成した本町診療所跡のコマームナーサリー完成立ち合いを行った。このプロジェクトは鉄筋コンクリート造のビルの2階と3階に保育所を作るというものだ。保育所に入る子供達にとっては、この場所は家よりも長く居るかもしれない場所だからこそ健康に配慮した設計を行うこととした。コンクリート造の建物は普通非常に機密性が高い。確かに換気扇はつけるけれど、それでも新築状態、つまり化学物質が大量に放散されるような環境に3年間も預けられたらその後の健康状態がとても心配だからである。

今回の設計では天井裏にびっしりと炭を敷き詰めた。この炭は空気中の化学物質を吸収してくれ、さらに外壁に開けた穴から放出してくれることで、室内空気環境を健康的に保つ効果がある。さらには天井の断熱効果も高め光熱費の節約にもつながる。床には檜のフロアリングを敷き詰めた。保育園に無垢材などは・・・という声もあるが、自分の子供をリノリウムの床にビニルクロスの保育園と檜の床に炭を敷き詰めた天井の保育園のどちらに入園させたいですか、というアンケートを二十人ほどのお母さんに聞いたところ全員が後者を選んだのである。保育園の維持管理者がお客様でがあるけれど、あくまで子供達のことを考えて設計をしたいし、そうさせてくれたコマームの小松社長には心より感謝したい。そしてスタッフの宍戸君にも心より感謝したいと思う。

 

 

埼玉県川口市にて進行中の古民家再生の打ち合わせ

2023/03/15

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)昨日から名古屋出張に来ている。埼玉県川口市にて進行中の古民家再生の打ち合わせのためである。

今日は朝のうちあわせを少々行い勇建工業さんを出発、恵那市にある木ポイントさんに出かけた。ここは岐阜の檜、いわゆる木曽檜の販売を手がけている組合さんである。色々な製材所の商品がたくさん並んでいて圧巻だ。木曽檜というのは岐阜県と長野県の間にある木曽谷に生える檜をいう。立地で言うと木曽谷の南の入り口が恵那市というところだろう。実際に木曽谷を入って行ったことはないが、長野県側の千畳敷カールから木曽駒ヶ岳には登ったことがある。よくよく地図を見てみると木曽谷がいかに山深いかということに驚く。普段見ている八ヶ岳や秩父とは比べ物にならない山深さだ。岐阜県というところはほとんどが山で構成されているからこそ、林業が今でも盛んなのだろうと思う。下はその一部の写真である。

現代社会というのは情報過多の中の情報不足

2023/03/13

浅草演芸ホールに行ってみた。ここは昭和39年に浅草フランス座に増築されて作られた落語のためのホールである。当時は古今亭志ん朝、立川談志といった若手がここで活躍したそうだ。午前午後の2部制でどちらか決めればいつ入っても良い。とても自由な雰囲気であるけれど、舞台の上の落語家さんたちは真剣そのもの、特に新人さんたちの落語を聞いているとその緊張感が伝わってきてこちらまで緊張してしまいそうになる。

なんで、今更落語なのと思われる方もいるだろう。僕も自分が落語を楽しいと思って聞くようになるとは全く予想していなかった。落語というのは江戸時代から始まったそうだが、生の人間が目の前にいる数十人に対して話をするというおよそ現代的ではない手法で、しかも昔から伝わる同じ話を自分流にアレンジして話をするという、情報過多の現代社会には全く反対をいく芸能である。しかし現代社会というのは情報過多の中の情報不足ということもできる。何が必要な情報なのかの区別もつきにくいくらいに振り回されているのが実情だ。そんな中で、古典落語をひたすらアレンジする姿勢はなんとなく心地よい。どこか親しみやすい伝統といっても良いようなものだからこそ惹かれるのかもしれない。

建築というものが人間を入れる容器を作る仕事だからだ

2023/03/12

僕は建築家になって良かったと思っている。なぜかというとこの仕事はすごくわかりやすく人の役に立っているなあという実感が湧くからだ。どんなことでもそうだけれど、自分が儲かりたいとかの欲得だけでできる仕事は歳をとってくると疲れてしまう。多くの投資家さんのような仕事をしている人は、お金を稼ぐということに十分な満足を得ると、決まって世のため人のためになるような慈善事業をやるものだが、それもきっと私利私欲には限界があるとうことなのだと思う。

建築の仕事は何歳くらいまでできるか?ますいいには松永さんという監督がいる。松永さんは70歳を超えているけれどとても頼りになる存在で、いなくてはならない人だ。

設計者ではそこまで高齢者はいないけれど、僕自身48歳になって、これまで作ってきたものとこれから作っていくものはやっぱり変わっていくんだろうなあという実感はある。そして当然だけれどこれから作っていくものの方が良い建築になるという気もしている。それは建築というものが人間を入れる容器を作る仕事だからだ。人間を知るにはそれなりに時間がかかる。自分が生きた分だけ、なんとなく人間がわかってくる。そうすると段々と良い家というものがわかってくるものなのだ。

 

安行桜

2023/03/10

朝、事務所に向かって歩いていると近所の公園にある安行桜が満開を迎えていた。もともと梅と桜の合間に咲くと言われている桜だからそろそろかなあと思っていたら、いつの間にやらの満開である。元々は昭和20年ごろに安行の沖田さんという方が早咲きの桜を増やしたことで広まったらしいので、沖田桜などと呼ぶこともあるそうである。

午前中はABC商会さんという建築金物を扱うメーカーさんと打ち合わせ。現在工事中の中庭のある家の防犯性を高めるためのルーバーについてのご提案をいただいた。昨今の物騒な事件はどうしても防犯への意識を高める。安心して暮らせる家づくりを目指してご提案をしたいと思う。

建築は建物を作るだけにあらず、そこに起こる「こと」を作るのが楽しいのである。

2023/03/09

今日は埼玉県川口市にて木造平屋建ての築50年ほどの古い住宅のリノベーションを行ったNさんのシェアハウスの引き渡し式に参加した。現場はますいいリビングカンパニーの川口本社から歩いて5分ほどの場所にある。この古い家には以前親族含めて暮らしていたことがあるそうで、壊してしまうのは忍びない、かといって古くなってきているので自分で利用することもない、さてどうするかというところでご相談いただいた次第である。シェアハウスという選択肢は実は僕自身実績がある。僕が2年ほど前まで住んでいた住宅が空き家となり、そこを簡易的にリノベーションしてシェアハウスとしたのだ。僕が運営しているシェアハウスは、大体五人程度を上限として、実際は四人くらいの人が暮らしている。床面積は50坪ほどあるのでかなりゆったりとした状態だ。川口駅まで徒歩10分程度の立地で、光熱費込みで6万円台、それで広いリビングや大きなお風呂が使えるという物理的な利点もあるけれど、女性専用ということで同棲の同年代の仲間がいるという安心感が良い。月に一度は私の妻の手作り料理を振る舞うというイベントもある。建築は建物を作るだけにあらず、そこに起こる「こと」を作るのが楽しいのである。(参加者左から、私、担当建築家宍戸君、現場監督松永さん、クライアントNさん、大工瀬野くん、私の妻)

白い外壁に差し込む青ガラスの光が美しかった

2023/03/05

埼玉県川口市にて工務店機能を兼ね備える建築家として、自然素材を大切にしたデザインで注文住宅・古民家再生を行っています。(分室 東京都町田市・群馬県高崎市)今日は東北小旅行。岩手県まで往復1000キロほどの道のりをのんびりドライブしながらの建築見学である。最初の目的地は宮城県気仙沼のリアスアーク美術館だ。この建築はますいいリビングカンパニーの生みの親である石山修武氏による設計で、屋根の上になんだか奇妙な形態の給水塔が浮かんでいる写真は建築に携わる人なら一度は見たことがあるだろう。鉄板を曲げてできる有機的な造形は気仙沼の船を作る技術を転用して製作しているのだが、建築の鉄骨に慣れている施工業者さんではなかなかやりたくはならないような3次元的な曲げの技術が多用されていて面白い。分厚い鉄板の外壁に穴を穿、その隙間に色ガラスを差し込む芸当はますいいの本社にも同じ収まりが存在する。当時、ますいいを担当してくれたスタッフの土屋さんが師匠の石山先生が設計したリアスアークを真似て設計したのだろうけれど、白い外壁に差し込む青ガラスの光が美しかった。

行きは常磐自動車道を利用したのだが、途中いわきを超えて双葉町のあたりまで来るとすれ違う車もまばらで、あの時以来時が止まってしまったかのような印象を受けた。SAも仮設のトイレが申し訳程度に整備されているだけである。きっともうここら辺に観光に来る人はいないのだろうし、そもそも暮らしていた人々の多くが帰還をしていないのだと思う。街一つが突然消えると言っても良いような現象である。今日は高速道路の上から眺めただけだが、次回はこの辺りの街を回ってみたいと思った。

人にとって気持ちが良いプライバシーの保たれている中庭は猫にとっても外敵の心配のいらない天国のような場所である

2023/03/02

10年ほど前に建てた二つの中庭のある家を見て、こんな家を建ててほしいというご連絡をいただいた。場所は横浜の郊外、竹林に面する敷地である。猫と暮らすご夫婦のための小さな住宅を建ててほしいということである。

猫と暮らす家、なぜか僕は猫や犬と暮らす家を設計することが多い。その理由は明確にはわからないけれど、使っている素材が猫も喜ぶ自然のものが多いからだと思う。猫と暮らすということで特別な何かをしようと思うことはないけれど、自分も気持ちが良いと思うもの、例えば杉無垢材の床板などは猫にとっても気持ちが良いものだし、人にとって気持ちが良いプライバシーの保たれている中庭は猫にとっても外敵の心配のいらない天国のような場所である。

二つの中庭の家では敷地の目の前にあるハローワークという施設からの目線を考えて、中庭を採用した。中庭というキーワードについては、敷地条件などによってその重要度が変わるので、あくまで今度の敷地に合わせて計画すれば良いと思うが、人が心地が良いと感じる素材については注意深く大切にしていきたいと思う。自然の素材で囲まれる空気感については今度作ったますいいのモデルハウスで体感することができる。興味のある方はぜひお越しいただきたい。

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