東京都新宿区にて進行中のNさんの家の現場では、左官の小沼充による大津磨きの施工が行われている。小沼充さんは、現代に生きる左官の名人、東の横綱である。亡くなった榎本新吉さんのお弟子さんで、磨きを得意とする。数々の講習会などで講師を務めている。Nさんは小沼さんのことを知り、小沼さんのファンになり、小沼さんに塗ってもらうためにますいいに家づくりを頼んでくれた。小沼さんにはそんなふうにファンになってしまう人がたまにいる。そして、僕もその一人である。だから小沼さんはますいいの壁を塗ってくれるようになったのだ。職人の世界にたまに出現する上手達人は建築の世界のヒーローである。それに憧れて、職人になろうとする人がいるくらいに人を惹きつける存在である。
写真は和室の入り口のR壁に、沖縄の赤土を塗りつけて、大津磨きに仕上げる様子である。小沼さんはこの沖縄の赤土が好きだ。ますいいのモデル茶室にも塗っている。土壁というと聚楽壁の侘び寂びが有名だけど、赤土の華やかさもまた良い。想像してみてほしい。大好きな左官に塗ってもらった家で毎日を過ごすことを。ふと小沼さんの左官の作業の様子を思い出すたびに、ニンマリとしてしまうほどに嬉しいことである。左官の壁とはそういうものなのだ。