埼玉県さいたま市にて進行中のOさんの家では、人造研ぎ出しという左官の技術を採用してキッチンを作った。これはセメントと砂および種石を混ぜて、砥石で研ぎ出すことによって種石の断面を表面に表して、まるで石のような美しい表情を作るというものである。もちろん左官の塗り材なので、一枚岩から削り出した石を貼るような大袈裟なことをする必要なく大きな塊を表現できるところが面白い。
このような表現を行う場合は必ずサンプルを作る。サンプルは30センチ角程度の型枠を作って、そこに何パターンもの配合を試してみる。研ぎ出しの作業は、荒い研ぎから目の細かいものまでいくつもの段階を経て行われるので、大体2時間はかかる。一つのサンプルを作るだけでも、型枠の準備から含めると3時間程度を要することになる。 (もちろん固まる時間は入れていない)研ぎ出しをしていると、一つ悲しいことに出会う。それは日本で昔から使われてきた種石の製造がすでに終わってしまっているということである。昔の小学校の洗面台に使われていた緑色の関東蛇紋はすでに廃業している。カナリア石という黄色い石はなんとか買うことができるが、それも風前の灯なのだ。今日本でこの研ぎ出しをやろうとすると、海外の石材と樹脂を混ぜる工法が主流となっているのだが、今回は昔ながらの日本の構法を採用した。