カフェをやりたいというSさん来社。
2019/12/12
15時ごろ、埼玉県吉川市にてカフェをやりたいというSさん来社。現在はお勤めをしているそうだけれど、45坪くらいの建物を建てて、そのうちの20坪の1階部分を利用してカフェを営む暮らしに転向したいというご相談であった。うーん、これは誰かに似ている。そう、アスタリスクカフェのHさんである。
Hさんは当時2000万円ほどの早期退職金を使って、720万円の土地を購入し、残りのお金で建築を造ってほしいと、ますいいリビングカンパニーを訪れた。1200万円しかないという話を聞いて、到底無理であろうなあと思ったのだけれど、そこはローコスト住宅が得意なますいいリビングカンパニーの意地の見せ所である。断るのは誰でもできる。何とかならないかなあと思っていると、なんとHさんが自分で書いた理想像のスケッチを見せてくれたのだ。
そのスケッチは、僕たちが書くのと同じくらいか、ちょっと下手なくらいなかなかのものであった。ここまで理想を表現できる人ならば、ある程度の箱さえ造ってあげればその先は自分自身の手によって理想の空間を創り上げることが出来るのではないか、と思ったのである。予想は的中した。Hさんご夫妻は退職後に有り余る時間を建築の現場に注ぎ込み、いまではテレビなどに引っ張りだこの素晴らしいカフェを創り上げたのである。さてさて、Sさんのカフェもこんな風に出来れば最高だと思う。今の時代は社会の歯車になる時代ではない。個人のこだわりとか思いとかを大切に生き、そして誰かを喜ばせることをする、そんな生き方のお手伝いが出来ればと思うのである。
続いて、7年ほど前に家を建てたSさん来社。500万円ほどの土地を購入し、1000万円ほどの家を造って暮らしているSさん。今回はお隣の土地を購入し、増築をしたいなあのご相談であった。当時はこのプロジェクトを1000万円住宅プロジェクトと名付けた。Sさんは決してお金がないわけではない。普通に住宅ローンを組めばたぶん5000万円くらいの予算をすぐに作れる。だけど、家造りってそんなものではないよね、今の暮らしに必要十分な空間を1000万円くらいで手に入れて、豊かな暮らしを阻害しない範囲で家を造りたいのだ、そんな思いでスタートした計画であった。
今の日本の住宅は、住む人を住宅ローンでしばりつけてしまう傾向がある。豊かな暮らしのための住宅なのに、それによって全く余裕のない暮らしになってしまうのでは何のための家造りか。家賃を払うよりは住宅ローンのほうがいいよね、それくらいの範囲の中で収められる家づくりが良いと思う。Sさんはまさにそんな考えの持ち主なのである。
1000万円の家(7年前の手記)
このプロジェクトは1000万円で家を建てたいというSさんのためのものである。Sさんはなんといっても銀行さんに受けの良い地方公務員だから、普通に5000万円くらいの住宅ローンを組むことができるのだけれど、実際に使ったお金は土地代として450万円ほどと、住宅建築に1100万円ほどである。だから、合わせて1550万円で注文住宅を取得したわけだ。場所はJR京浜東北線の大宮駅から歩いて20分ほどのところである。もちろん土地の面積は20坪ほどととても小さい。でも、東京駅までほど近い埼玉県さいたま市のベッドタウンで起きた、建売よりも安い注文住宅取得の物語である。
Sさんは常々、人生で2回くらいは家を建ててみたいと話している。そして住宅ローンに縛られるくらいをするのは嫌だとも話している。この考え方は僕の考えととてもマッチしている。銀行さんが言うとおりにお金を借りていたら、一生そのローンを返すためだけに生きていかなければならない。どんなに広い住宅が手に入っても、どんなに駅に近い土地が手に入っても、おいしい物を食べたり、楽しい演劇を見たり、旅行に行ったり、お気に入りの洋服を買ったりの、暮らしを豊かにしてくれる余裕が全くないのでは意味がない。家はあくまでそれらと同等の物であり、人が生きるための箱以上のものではないのである。
この住宅を作るに当たって、僕は以下の設計のコンセプトをしっかりと持つことにした。
・家族3人が暮らすための最も合理的な形態の美しいプランを導き出す。
(同じ面積を創りだすのであれば正方形のプランが最も合理的である。そして断面的には総2階建てが最も安価となる。その基本を押さえつつ、敷地条件やその他の建築条件に合う美しい箱をデザインすることとした。)
・装飾・付属品は一切省くこと。
(装飾や家具工事などの付属工事は一切省くこととした。あくまで施主が暮らすために必要な、最低限の箱を作ることに限ることで、コストを抑えることとした。)
・構造を表しにすることで建築意匠の特徴を作る。
(もともと建築の構成に必要な構造を表とすることで、無駄のない意匠的な特徴とする。これはセルフビルドを所望する施主が今後工事をする際に、やりやすい状況を作ることにもつながる。)
・できる限りセルフビルドを取り入れること。
これらの設計方針は、川島町のカフェ兼住宅を作る際に確立したものである。(参照ページアドレス)それ以来、埼玉県幸手市のスタジオ兼住宅や間もなく工事を始めるさいたま市岩槻の接骨院兼住宅の現場で同様の方針を立てた。今回のプロジェクトはその中でも最も小さな、そして価格の安いものとなった。
プランは3間×3間のいわゆる9坪ハウスの2階建てである。9坪ハウスに特徴的な吹き抜けは無い。18坪すべてを有効な床としている。1階には将来二つに分けることができる個室・水回りを設けている。2階にはワンルーム型のLDKが配置されている。空間の広がりを作るために天井は屋根の形に合わせた勾配天井とした。内部の壁を構築する際には、仕上げを自然素材のタナクリームとした。床には杉板を張っている。外部に接する壁は外断熱工法とし、柱や間柱はすべて表しとなっている。構造を支える要素のタイベストウッドの裏面のMDFも表しとすることで、木の風合いの内壁を造り上げた。
この住宅の構造部材は西川材で作られている。柱には杉の無垢材を、土台には檜を使用した。建築の意匠の特徴としてあらわされる部分だからこそ、多少コストは上がるもののあえて使用したわけだが、これは建築の価値を高める手法として成功したと考えている。