日本の風景を作ってきた大切な要素がまた一つ消えてしまうのである
2024/02/05
今日は日本左官業組合連合会の鈴木さんを訪問した。通称「日左連」は左官業者さんの集まりで、主にゼネコンの現場に入るような業者さんの集まりである。今日お会いした鈴木さんは、左官屋さんでありながら一級建築士で、この組合の技術顧問を務めているそうで、過去には博士論文まで書かれている70歳くらいの職人博士である。職人さんで博士、これはなかなか珍しい存在である。今回は僕が研究している貝灰を使用した左官工法についてのお話を伺うためにお時間をいただいた。
貝灰は貝殻から作られた消石灰である。ちなみに普通の消石灰は石灰岩から作られる。でも昔は貝殻や珊瑚を焼いて作る方が一般的だった。山を砕き、トラックで工場に運ぶなどということができなかった時代、暮らしの中で発生する貝殻や海に潜ればそこにあった珊瑚の方がより身近なものだったのだ。ちなみに今でも貝灰を焼いている人がいる。福岡県の有明湾にある干潟で田島さんはサルボウ貝を焼いている。サルボウガイは、赤貝を小ぶりにした殻長(かくちょう)4センチほどの貝である。有明海で大量に採れていたサルボウガイの漁獲量は九州農林水産統計年報によると、1990年に1万5千tあった漁獲量が、21年には28tと2桁に激減した。親貝があまり残っておらず、22年は漁を自粛した。21年の急減は19年、20年の豪雨の影響が大きい。陸からの雨水で有明海は塩分濃度が低下し、浸透圧の関係で二枚貝の体内に水が入り込み、死んでしまう現象が起きたのである。
貝灰は、純白ではなく薄い灰色で、粒度にばらつきがあるのが特徴である。これらと通常の消石灰を混ぜて使用することでテクスチャーが発生する。こうして天然素材でありながら、味わいのある壁として利用されている。またもともと屋根漆喰や外壁漆喰に用いられていたため、伝統建築物の補修工事の際の復元工事等にも利用されている。現在この貝灰を作っているのは田島さんただ一人になってしまった。無くなっても仕方がない・・・と諦めて仕舞えば無くなるし、それで困る人もいないだろう。でも、それでいいのか。日本の風景を作ってきた大切な要素がまた一つ消えてしまうのである。いいはずがない。(写真は大量の貝と田島さん・左、そして左官の原田さん・右である。)
左官は滅びゆく産業だ、という声も聞く。でも左官で仕上げられた壁は本当に魅力的でなんとも言えない風情がある。ビニルクロスの壁なんて仕上げじゃないと思うくらいに、左官のしっとりとした艶のある仕上げは美しい。そしてこういう仕上げを求めるお施主様は結構いる。だから左官は滅びないほうが良い。その価値をしっかりと伝えることで求められる機会は増え、そして活躍の場も増えることは間違いないのである。
午後、リビングデザインセンターオゾンさんよりご紹介いただいた板橋区のマンションリフォームの現地調査に。15時を過ぎた頃からだんだん雪が強くなり始めてきた。東京に久しぶりの冬がやってきた。寒いのは苦手だけれど、冬はやっぱり恋しいものだ。冬があるから春が来る、冬がなかったらなんかおかしいのだ。