入江長八を記念する伊豆長八美術館がある松崎町のシンボル的な存在であるなまこ壁通りを形作る二連の蔵を、その保存と再生のためにますいいリビングカンパニーでお引き受けした
2025/06/05
今日は静岡県松崎町でとても大きな出来事があった。というのも、入江長八を記念する伊豆長八美術館がある松崎町のシンボル的な存在であるなまこ壁通りを形作る二連の蔵を、その保存と再生のためにますいいリビングカンパニーでお引き受けしたのである。この蔵は、近藤邸という住宅に付属するもので、住宅部分と蔵の外壁がなまこ壁で仕上げられている。敷地には、近藤邸と二連の蔵、鈴木博之先生の設計による会所と名付けられた地区公民館、さらに観光協会として利用されていた木造2階建ての古い建物があり、中庭を取り囲むように建っている。
なまこ壁というのは日本中で見られる蔵の壁の仕上げであるが、瓦を土壁に貼り付け、その目地部分を漆喰でなまこのように盛り上げて補強した防火壁である。黒い瓦に白いなまこ部分がとても印象的で、地域の風土を彩るアクセントになるということで、町を挙げて保存活動を行ってきた。蔵づくり隊なる地域の町おこし隊を形成し、左官屋さんの力も借りて、街のブロック塀をなまこ壁にしたり、古いなまこ壁の補修をしたりの活動を行ってきたのである。
一方でこの活動は、地域で左官の技能を伝承するという取り組みでもある。なんでも合理化を目指し、手間のかかることはやらない方が良いという社会の中で、これまで日本の風土を形成してきた、魅力的な建築を生み出す担い手である左官工事業界は絶滅の危機を迎えている。左官技能者の数は1990年をピークにそれ以降減少している。2020年の国勢調査によると左官技能者の総数は58,610人であり、そのうち65歳以上は24,930人で41.6%を占める。75歳以上でその人数が急激に減少すること、また20歳から24歳の技能者数が1,920人、25歳から29歳の技能者数が2,090人であることから、新たな入職者の大幅な減少を見ることが出来る。
昭和の時代の左官技能者は、大量に建築されるビルの下地工事などを担う代表格であったし、それには多くの技能者が必要とされてきた。しかし現代のビル現場では、湿式の左官をなるべく減らし、乾式の工法に変更することを目指しているため、多くの技能者を必要としなくなってきている。代わりに町場の住宅や店舗などの現場では、建築の魅力を生み出す仕上げの担い手としての左官が、次第に重要性を増してきているように思える。そしてその場合の左官というのは、ただセメントモルタルの壁を塗ることができる技能者ではなく、伝統構法やデザイン論を学び、その建築にふさわしい左官とは何かを考え、提案し、施工までできる、そんな技能者だと思うのである。このプロジェクトには石山修武先生をはじめとして、とても多くの方の想いが詰まっている。そして、日本の町場の住宅をはじめとする建築産業の担い手の確保につながる答えがあるような気もするのである。秋には第1回目の左官ワークショップを開催させていただくつもりである。ぜひ皆様もご参加いただきたい。

