さいたま市南区の住宅街に建つ木造2階建ての家です。鏝(こて)をすべらせて凹凸を出す「ひきずり仕上げ」の外壁の内側に、露地、四畳半と八畳の茶室、水屋、厨房をひそませた、お茶を楽しむためだけにつくられた家です。
敷地は約30坪。飛び石と蹲(つくばい)を置いた細長い茶庭から、すぐに屋内へ入れるような計画になっています。黄みがかった藁漆喰で塗られた露地を進むと、右側に四畳半の小間のにじり口があり、その先に八畳の広間の入り口があります。二つの茶室は壁で隔てられていますが、どちらも露地の反対側に造られた廊下に間口を開いています。
小間の前に水屋が、広間の前に厨房があり、使い勝手の良い配膳棚も造り付けています。限られたスペースにお茶に必要な機能が詰め込まれており、お茶事の際の動線もスムーズとなっています。
また、仕上げなどの素材細部にもこだわりを持って使用しています。骨組みは吉野杉、荒木田土に藁を混ぜた土壁で仕上げた広間(八畳)。床柱は北山杉、落とし掛けは栗材、床框(とこがまち)は鬼胡桃(おにくるみ)。熊本県産の天然い草の畳は、座ると藁床独特の柔らかさが伝わってくる一級品です。
『チルチンびと』2023年冬114号『火育と木の家』に掲載されました
https://www.fudosha.com/magazin/chilchinbito/2022/12/09/