今日は雑誌チルチンビトの撮影立ち合いを行った。取材したのは10年ほど前に作った二つの中庭の家である。この住宅はご両親を亡くした女性が一人で暮らすための住宅である。ご両親の不幸の直後という時だったので、神田日勝の後ろ足のない馬の絵の模写を持ってこられて「これが今の私です、でも家を作れば後ろ足が生えてくるかも」のご相談のように家づくりの打ち合わせが進んでいったことを記憶している。道路側にオープンの庭を作るようなプランも作ったが、最終的には二つの中庭が室内空間と並列して配置されている今の案に行き着いた。中庭は外部とは外壁で隔てられており、日常の生活の中で完全に暮らしと一体化して利用されている。家には数匹の猫がいて、中庭と外とを自由に行き来している。この中庭は外部でもなく内部でもない、ちょうど中間領域として存在しているのだ。
床には杉板を貼っている。天井はラワン合板の柿渋染である。柿渋を塗る作業はもちろんセルフビルドで行なった。キッチンはモルタルキッチンだ。ますいいの左官屋さんが丁寧にモルタルを塗って仕上げた。素材の質感を大切にして、人工的な色などは極力使わないで仕上げている。中庭との境界は木製建具を採用した。これも大工さんによる手作りである。木製建具はアルミサッシよりも柔らかいイメージで仕切ることができるので良い。
この住宅は何となく胎内空間のイメージで設計されている。そこにいることで心が安らぐ場所、何となく安心できる場所とするにはの工夫である。家というのは華美である必要はない。家は人がそこで生きるための場所なのだ。生きるための場所の形は人それぞれであるが、僕はこの住宅がMさんにとっての生きる場所になっていると思っている。そういう家を作ることができたことは何より嬉しいことだと思うのである。
この取材の様子はチルチンビトの9月号に掲載される予定である。竣工から約10年の渋い住宅を楽しみにしていて欲しい。

