朝起きるとなんとなくお茶を点てたくなったので炉に炭をおこし、釜で湯を沸かしてみた。炉というのは畳の床に穴をあけ、そこに灰を入れて炭をおこすことができるように作られた茶道用の湯沸かし設備である。茶道では11月からこの炉を使用することが決められていて、この月のことを「炉開きを行い新茶が出る」ことから茶道の正月などと呼ぶことがある。11月1日は僕の誕生日でもあるのだけれど、茶道の世界でもこの日はなんとなく新しい年が始まるような日なのだ。
炉の中に炭を入れるとほのかに部屋が暖かくなってくる。当たり前のことだが暖房効果もある。梅のお香を焚いているのでその香りも充満する。炭の上に釜をかけてしばらくすると次第に湯が沸き、シューという音が聞こえ始める。この音を茶道では松風と呼ぶが、この音が良く鳴る釜は大変重宝がられるほどに茶人にとって大切な楽しみの一つである。花は山野草を用いるのだが、そんな用意があるはずもなく近所の公園に咲く名も無き花を一輪さす。黒漆喰の床の間を背景に花を飾ってみると意外と良いことに驚いたが、利休の茶も本来そういうものだったのかもしれない。
床に飾る軸は日日是好日。樹木希林さん主演の映画のタイトルになった禅語であるが、僕が最も好きな言葉の一つである。先行き不透明なコロナ中ではあるものの、それでも一日一日を大切にしっかりと生きていこう、そんな思いにさせてくれる言葉なのだ。


