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増井真也日記

津田寛治様邸に関する手記②

2022/11/28

津田寛治様邸に関する手記②
「はじめての打ち合わせで、妻がこれまで依頼しようと考えていた他の設計事務所が書いた図面を見せて「これでお願いします」というようなことを言ってしまったときに、さすがに失礼だろって思ったのですが、増井さんが「わかりました」と言ったんですね。あの時の増井さんを見て、クライアントの要望を寛容に受け入れるところと、それでも自分を崩さないところを持っているなあと、つまりとても自然体だなと思いました」

「施主の思いを実現するという設計手法は、ともすると設計という行為に対してモチベーションが感じられなくなる場合もあると思います。でもそこをうまくバランスをとって、それを楽しんでくれる のがすごくよかったんです」

津田寛治さんは僕の印象では、芸能人と呼ばれる人が持つであろうとイメージされる派手さと か、傲慢さとかとは無縁の人である。むしろ普通の人よりも自然体かもしれない。乗っている車 は、ぼろぼろのワゴン車にニコちゃんマークのペイントを施しているような車だし、服装だって センスの良い普通の大学生のようなもの。とにかく見栄を張るような行為とは無縁の人だ。僕は当時、津田さんのことを知らなかった。もともとあまり芸能界に詳しいほうではない。だから僕も自然体でいられたのだろう。知っていたらもっと緊張していたと思う。

素朴な人だからであろうか。この工事では素材そのものを表現することを求められた。塗装等 で仕上げることは最小限にして、なるべく素材のままの表情を大切にしたいというのである。 例えば外壁では、本来は吹付下地として施工するモルタルを、そのままで仕上げてほしいという要望があった。普通では割れてしまうモルタル下地をどうしたら割れないようにできるか の苦悩の末に、ファイバーネットを敷きこんだりモルタルそのものに繊維を混ぜ込んだりの工 夫を施したりもした。この仕上げの取り組みは僕にとっても実験的な試みだった。ひびだらけになってしまうかもしれないとの不安を持ちながらの工事であった。今回、7年がたって現場に行ってみて、壁が割れていないことには正直驚いたが、何よりもそのモルタル仕上げの風合いが経年変化と共に さらに良い雰囲気になっていたことがうれしかった。そんな津田さんにとっての住宅とは、ど のようなものだったのかを聞いてみた。

俳優って特殊な仕事のように思われるけど、実は普通の仕事と変わらないんです。一部のス ターは違うかもしれないけれど、僕たちのような役者は現場に行って、衣装に着替えて、せりふをしゃべって、お疲れ様でしたと、まるで大工さんみたいに働いています。日本中のいろん な現場に行って、その現場の仕事をします。だから僕が家を建てる時も俳優だからと言って特別なことを考えていたのではなく、普通のお父さんと同じように、ただただそこで育つ子供の ことを考えていました」 「僕の中では子供たちがたくさん集まる児童館みたいな家にしたいと思っていたんです。決してファッショナブルなものではなく、どちらかというと暖かいもの」 「僕にとって家というものは、その場だけの完成作品ではありません。住んで、何十年もたっ て完成するものです。できた時はすごくきれいだけれど、 20 年たっていろいろなところが汚れ てきたらみすぼらしくなるものではなく、時間がたって使い込んだ時に魅力があるようなもの が良いと思います」

「この家ももう7年がたっていますが、先日も通りすがりの人が、この家を建てた人を紹介し てほしいと言ってきましたが、こういうのはうれしいですね」

「僕は特にこの家のモルタル仕上げの外壁面が大好きです。吹付とかしていないただのモルタ ル仕上げですがこのラフな感じがすごく良いと思います」

「ラフさって要求することがすごく難しいと思います。映画のカメラワークでもそうなのです が、映画監督がカメラマンさんにわざと揺らしてくれと言うと、すごくわざとらしくなってし まうんです。でもカメラマンが一生懸命とっていて、でもちょっとカメラが揺れてしまった時 はとてもかっこよく仕上がります」

「壁も一緒で、すごくきれいにして欲しくはないんだけれど、わざとムラムラをつけられると わざとらしすぎて嫌なんですよね。増井さんは僕がそんなことを行った時に「ようは吹付の仕 上げの下地程度にすればいいんでしょ」と言ってきましたね。結果とても好きは風合いに仕上 がりました」

「左官屋さんも大工さんも、左官の魅力とか木の魅力に取りつかれているんですね。そういう 人を見ると本当に幸せだと思う。大好きな仕事をして夢中になっていられるのは見ていて気持 ちが良いですね」

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