翌朝、工務店のトーマスさんが迎えにきてくれた。冬はマイナス20度になる厳冬の環境の中で快適に過ごすために温熱環境に関しては格別の取組がある。基礎工事が終わったら、ベタ基礎の上に家中に行き渡るように床暖房の配管をする。この時に給水や給湯管も敷設する。それらの敷設が終わったら、全てをコンクリートで埋めてしまう。立ち上がりの基礎というものはないから、この床暖房のすぐ上に床が貼られることになる。これまでどのアパートに泊まっても建物全体が暖かかったわけがわかった。全館床暖房が夏でも機能しているのだ。そのベタ基礎の上に2×7であらかじめ作られている壁を建てていく。7インチだから壁厚は結構厚い。これも日本の付加断熱のように高い断熱性能を出すための厚さであろう。あらかじめ外壁まで貼ってあるものを自前の工場の中で作っているのだが、構造材だけはプレカットを使用しているそうだ。少し変わっているのは、建物の真ん中に電気給湯器を置くことである。日本でいうエコキュートのような給湯器を家の真ん中に置き、この一台で床暖房もシャワーもキッチンの給湯も行っている。ここで沸かしたお湯が家中を行き渡り、そしてシャワーやキッチンから排出する。日本でもエコキュートを床暖房やお風呂のお湯に利用する事例があるが、それほど普及はしていない。まあ、東京周辺では冬よりも暑すぎる夏をどうするかの方が大きな問題であるから、それも当然であるが、冬の間の快適性はこちらの方が断然良いように思えた。

家の価格は430㎡で16000000KR、つまりは坪185万円である。この価格にはキッチンや暖房システムも含まれている。少々高いが、この事例では先ほどのエコキュートではなく、地熱を利用する熱交換システムが含まれている。すべてのものの値段が日本の1.5倍程度だからまあこんなものだろう。大工さんは四人いるそうだ。設計は大きな家は外注で、小さな家は自分で設計するという。家づくりの仕組みは日本と似ている。CADソフトにBIMは使用していない。これもまたますいいと同じである。お土産に日本の左官屋さんが作ってくれた竈門をプレゼントしたのだが、とても喜んでくれた。こちらでも暖炉などを手作りで作る習慣は残っていて、その表面には漆喰のような素材が塗られている。僕が設計した茶室が掲載されている本にもとても興味を持ってくれたようだ。何か仕事でも交流ができれば良いと思う。
会社見学を終えて、トーマスのヨットに乗ってのセーリングを行った。スウェーデンのフィヨルドはまるで湖のように波がない。多少の風が吹いても日本の海とは全く違う。バーバーにはとても多くのヨットやボートが係留されている。しかもこちらでは日本のように高額の費用は必要ないそうだ。海ではちょうどディンキーのセーリング大会が開かれていた。たくさんの小さなヨットの間を縫うようにトーマスのヨットが出航し、一時間ほどかけて小さな島に着岸した。島に上陸し、散策、バーベキューを楽しんで穏やかなひと時を過ごした。ハーバーに戻ったのは夜の10時ほどであろうか。日本では考えられない時間であるが、あたりは少し暗くなったかなというくらい、さすがは北欧の夏だ。
